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ハミ太平記  作者: おしどりカラス
第一章
5/73

挙兵へと

 3338年4月、一大事件が起こり、城の中は大騒ぎとなった。

 内部に密偵が紛れ込んでいたというのである。

 クルエの前に密偵という男は連れてこられた。

 そしてカワデによって跪かせられた。

この時、クルエは18歳になっていた。

 クルエは彼を眺めた。

 ボロボロの服を着ており、みすぼらしい男だった。

 山城にいるハミ家の家臣達もみすぼらしいには違いないが、この者は一つ飛び抜けたみすぼらしさだった。

「この者が……密偵と?」

「はっ!」

 カワデが勢いよく頭を下げる。

「先君ご夫妻の墓を暴いておったのです」

 ワーズが男を一瞥し言う。

 クルエは顔が険しくなった。

「何故……?」

「恐れながら……」

 サカヒが一礼する。

「ダガールの差し向けし密偵やもしれませぬ」

「……ダガールが何故父上や母上の墓を暴く?」

 クルエは震えを隠しきれなかった。

「まず考えられるのは挑発・・次に姫様の出自の否定……ハミ一族だという証が無くば、姫様はただの人となりますから……」

 サカヒは淡々と言った。

 クルエは身を乗り出した。

「骨は取り戻せた?」

「……骨……?」

 サカヒが呟いた。

「ああ……」

 彼は思い出したように言った。

 いつも以上にわざとらしかった。

「姫様……先君ご夫妻の骨は元々、あの墓にはあり申さず。ダガールはハミ家一族郎党処刑した際、その御遺体を大きな穴に、無造作に放り込んでいったのです。そして石碑を立てただけでございました……」

 サカヒは頭を下げた。

 クルエは彼を睨みつけた。

 そして密偵という男の方を見る。

「あなた……誰の差し金?」

 男は顔を上げようとしない。

「カワデ。こ奴の顔を上げさせよ」

 クルエは男から目を離さず言った。

 カワデが男の首元に剣を当て、顔を上げさせた。

 クルエは男の顔をまじまじと眺めた。

 男は彼女から目線を逸らそうと必死だった。

「如何致します?」

 フクサマが怒り心頭な様子で口を開く。

「見せしめとして、首をはねるがよろしいかと……!」

「……ん……」

 クルエは頭を抱えて言った。

「見せしめと致すからには・・・それ相応のやり方で、行わなければ」

 ワーズが静かに話した。

「姫様、情けは無用にございます。人の上に立つ者はそれなりのけじめ、をつけなければなりません」

 クルエはばっと立ちあがった。

「この者が、墓を暴いたというのなら、まずは暴かれた跡を見るわ!」

 

 ぞろぞろと行くのも問題なので、数人を連れてクルエは両親の墓の前にやってきた。

 墓石は二つとも掘り出されて倒されていた。

クルエは共に連れられてきた墓荒らしを見る。

「これはあなたがやったの?」

 男は答えない。

「お言葉ながら!」

 サカヒが跪いて言った。

「姫様、厳しいお沙汰をお願い申し上げます!家臣に示しがつきませぬ!」

「このワーズも重ねて申し上げます!」

 ワーズも跪いた。

 クルエは非常に戸惑った。

 怒りはある。

 ただ、躊躇した。

「……まずは、この男を取り調べ、ダガールの手の者かをはっきりさせるべき。しかる後に、しかるべき処断を下す」

「ははっ」


 ダガールの手なら何か次に仕掛けてくるはずである。

 いったい何を仕掛けてくるのか。

 サカヒの言う通り挑発しているのか。

 クルエは茶をすすり机の上に置くと、椅子に寄りかかりながら考えた。

 自分の判断は正しかったのか。

 これまでも色々決めてきたが結局は他の者が出した意見を皆で妥協させ、賛同してきただけである。自分はその最終決定者に過ぎなかった。

 その場の雰囲気で皆が納得したものに自分も納得すればいいのである。

 考えてみれば自分で決断するのを迫られたのは初めてであった。

 クルエはあの時不安な気持ちに駆られた。

 あの男の命が自分の裁量一つに委ねられたのだ。

 実際、あの男が憎くてたまらない。

 両親のことは全く覚えていないのに、胸をかきむしられたような思いだった。

 もし、それだけでは飽き足らず、キロ村の墓まで荒らしていたなら自分はどうなっていたかは分からない。

 

「報告申し上げます」

「ん」

 ワーズは顔を上げる。

 クルエは部屋で一人机に手を置き寄りかかっていた。

 いつもならはしたないと言われる所だが。

「あっさり口を割りました」

 一晩もかからなかった。

「男は墓に宝が埋められているとの噂を聞き、ことに及んだと言っております」

「それは嘘じゃない?」

 クルエはワーズの方を向く。

「いえ、嘘とは思えませぬ……」

 クルエは立ちあがる。

「その男のところに行く」

 山城の地下室に向かう。

男は縄で大の字に引き上げられ、木の棒で打ちすえられた傷が身体のいたるところにあり、その痛みに呻いていた。

 クルエはその男を眺める。

 正直、目の前の男の様子に驚いたがそれ以上に冷めた心で男を見ている自分に気付いた。

「あなた……盗人としてこの城に侵入し、墓を荒らしたって言っているようだけど」

 男はうう、と呻きながら頷いた。

「……そ……そうだ!そうなんだよ!……許してくれ……!」

 クルエはじっと男を睨みつけた。

「如何致します?」

 ワーズが横で言った。

「先君ご夫妻の墓を荒らすなど許しがたき所業……!」

「分かってる。ただで返すわけにはいかないわ」

 クルエは静かに言った。

「お……お願いだ……助けて……」

「殺せば……どうなるかしら?」

 クルエはワーズに尋ねる。

「はっ家臣に示しがつきます」

「内々で処分するのも問題ね」

「と……言いますと?」

 ワーズはよく分からないといった様子で訊いてきた。

「この城の墓場に盗みに入った者がどうなるか外に示す必要があるわよね?」

 ワーズはぎょっとした様子だった。

「はっ、仰せのままに致します。何なりと」

 クルエは深呼吸をして、しばらくの沈黙の後言った。

「この者をもう少し痛めつけて外に放り出すように」

「……はっ……」

 ワーズは頭を下げた。


 男は相当痛めつけられた上、山の中に放り込まれた。

「これでよろしゅうございます」

 サカヒが言った。

「甘いと思ってない?」

 クルエは彼をじっと見る。

 ははは、と彼は笑った。

「寛大なお心の持ち主であらせられると思っておりまする」

 ふうとクルエはため息をついた。

「殺せ、と命じるかもしれなかった……」

「それでも構いませぬ」

「私は、そんな自分が恐ろしくなった」

「悩むのはよい心がけでございます」

「とりあえずはこれでいい?」

「よろしいと申し上げましたぞ?」

 クルエは椅子から立ちあがって上座から降りた。

「ダガールの挑発だったら手を打つ必要があるんじゃ?」

「まずは様子を見ましょう……」

 サカヒは頭を下げた。

「あなた、ダガール軍を打ち破れと言ったわね」

「はっ、ですが時期尚早だと心得まする。城内の兵はせいぜい二百、慎重に行かなければ」

 クルエはうんと頷いた。

「こちらから、挑発する?」

「とすれば、どんな?」

 サカヒはにやりと笑った。

「まず倒すべきはマサエド管轄の武官」

「左様でございます、まずはご先祖の地を取り戻すことが肝要」

 クルエは考え込んだ。

「まずは……この私を支持する民衆を増やさねば」

「民心を動かすので?」

「その通り、先の噂でハミ家の生き残りの話は民衆に広まっているから、さらなる噂を……」

 サカヒは顔をしかめた。

「民が立ちあがるのは古来より怒りによるものと決まっておりまする」

「怒りねえ……」

「如何致します?」

 サカヒは慎重に尋ねた。

 クルエは考え込んだ。

「合議を開きたい」

「姫様」

 サカヒがすかさず言った。

「民を怒らせるは難儀にあらず、されど民を蜂起せしむるは古来より非常に難しきこと。人の及ぶところにあらず、神のみぞ知るものなり」

「うん……」

「民は上に立つ者が何者であろうと、暮らしが良ければ誰でも良いのでござります」


 マサエドを担当する武官ボーザ・デギは、策の上手く行き具合を確かめたかった。

 山城を落とすのは骨が折れる。

 ならば自ら城の外へ出兵していたところを叩くのが上策である。

 これからも挑発行為を繰り返して行くつもりだ。

「ボーザ様。墓を荒らしに入った男が血まみれになって外に放り出されたとか」

 コエンキ隊長が跪いて言った。

「そうか。これはトクワ陛下のご意向であるから、このまま様子見だ」

「はっ」

 ボーザはトクワからの命令でハミの山城を落とす時は野戦に持ち込むことになっていた。

 トクワ陛下はそうおっしゃるが。

 彼は思った。

 たかだか数百の手勢しかいない城ではないか。

 城を取り囲んでじり貧にさせ、そのまま落とすのもよし。城から打って出てくれば滅ぼせばよし。

 ボーザはため息をついた。

 彼は手柄が欲しかった。

 ボーザはトクワの遠縁の者である為優遇されており、おかげでマサエド管轄の武官として着任した。

 故に彼は焦っていた。

 トクワ陛下の期待に答えなければと思っていた。

 陛下の言う通り、城から出てきた敵を討ち滅ぼせば派手な戦果だ。

 大義名分も立派に立つ。

 ボーザは早く手柄が欲しいのだ。

 相手が城から出てきたところを討つなんて悠長なやり方は我慢ならなかった。

 だからこそハミ家の姫を探すために村々を撫で斬りにするという手っ取り早い方法をとったのだ。

 村人が隠し通すのもそれならば不可能だし、それよりも姫をかくまっている村がそれに恐れおののき姫を差し出すのではと思ったのだ。

 だが結局ハミの姫はマサエド北部の山城にいた。

 恐らく追っ手の兵から逃げおおせたのだろう。

 山城に籠る逆賊と、その首領である姫を一片に討てるのだから好都合だが。

 ボーザは決意した。

 軍を動かす準備は整いつつある。

 それを急がして一気に城を叩く。

 ダガールの威容を示す機会だ。


 その頃。

 クルエは機会を待っていた。

 城にこもっている兵士たちは暇さえあれば剣を振り回している。

 クルエも剣を握り、何度も振り下ろした。

「ねえ、あなた達、戦うことになったら勝つにはどうすればいいと思う?」

 ワーズが剣を降ろして答えた。

「優れた作戦と、士気の高さが不可欠でしょう」

「優れた作戦といっても皆が団結して事に当たらなければ成功しないでしょう?」

「ええ……」

 クルエは息荒く、呼吸を整えてから言った。

「でも……皆が上の命令だけ聞いていれば勝てるものなのかしら?」

 ワーズはああ、とうなった。

「現場の指揮に任せた方が良い場合もあります。武勇に優れた百戦錬磨の兵ならば、優れた作戦を出す将軍よりも臨機応変でその場に則した作戦を行うことがあります」

「ならば、この城に百戦錬磨の兵はいる?」

「…………」

 ワーズは下を向いた。

「サカヒ殿は間違いなく、あとタダキ、フクサマ、カワデ……この辺りかと」

「あなたは?」

「私は彼らには及びませぬ……」

「ははは、そうなの?」

 クルエは面白そうに言った。

 ワーズは苦い顔をした。

「敵は大勢の兵を率いることが出来、こちらは少数……まともにぶつかれば勝ち目は無し……」

 クルエはため息をついた。

「民を扇動し、ダガールに矛先を向かわせしめ、一気に討ち滅ぼすことも考えた……」

「……!そうでございまするか?」

 ワーズが驚いたように言った。

「さすれば、こちらにも大義名分が立ち、ためらうことなくダガールを倒せる」

 クルエはにっこり笑った。

「でも…………」

 口ごもった。

 そして懇願するように言った。

「ダガールと敵対するのは危険……じゃないしら」

「姫様?」

 ワーズは妙だと言わんばかりであった。

「ダガールと戦っても勝てるとは思えないし、それよりも……!」

「姫様!」

 ワーズが怒鳴った。

「ダガールは姫様のお父上とお母上とご兄弟を無残にも皆殺しにし、キロ村を撫で斬りにしたのですぞ!」

「そ……そうだけど……」

「姫様!」 

 ワーズはきりりと怒鳴りつけた。

 クルエはぎゅっと唇を噛みしめる。

「……いや……ええと……」

 ワーズはじっとクルエを見つめていた。

 本当のところは。

 恨みこそあるが。

 それ以上に復讐を思うのは辛かった。

 正直、もやもやがあった。

 親兄弟、キロ村の仲間を皆殺しにしたダガールも憎い。それと同じくらい自分が憎かったのだ。

 自分という存在が。

 村人皆が犠牲になるほどの価値があるのだろうか。

 周りがダガールへの復讐を口にする度に、自分も責められているような気がして、胸がきりきり傷んだのだ。

「姫様!姫様を探し出すために村々を滅ぼしたダガールの非道を……お忘れか!」

ワーズがいきり立ちそのうえで諌めるように言った。

その言葉にクルエの中で何かが弾けた。

「分かってる!」

 彼女は剣を地面に叩きつけた。

「しかし!ハミ家の再興さえなれば、お家の為にもダガールと敵対するのは得策ではない時も来るというだけじゃないの!

 ワーズ!」

 クルエはワーズを指さした。

「私は、あなたがわざと……!キロ村を見殺しにしたと思わせたいの!?」

 ワーズは口をぱくぱくとさせ、後ずさりした。

 クルエは彼をきっと睨みつけている。

「そ……そんな事は……馬鹿な…………姫様……?」

「あなたは!、私をわざと・・!放っておいて、ダガール兵が村を滅ぼした後に現れた!」

 ワーズは跪く。

「そんなことは……!」

「……ワーズ。ハミ家再興は……このクルエだけの悲願にあらず!ハミ家の家臣皆皆の悲願なり。この意味は分かる?」

「分かりまする……」

 ワーズはやっとのことで答える。

「ハミ家の生き残りは、私しかいない。無力な私が、ハミ家の再興を図るには皆の協力が必要なのよ。

 裏を返せば、ハミ家の再興は家臣皆が望むところ。だから私に協力する」

「姫様……我々は姫様の忠誠心なればこそ……」

「私がダガールと戦うことも皆が望んでいる……。だから私がダガールを憎むように仕向けたと、疑う心もあるのよ?」

「姫様……」

 クルエはぜえぜえと息荒い。

「あ……」

 彼女は気まずい顔をした。

「ごめん……」

 ワーズは跪いた。

「いえ……こちらこそご無礼をば……。しかしこれだけは……私は決してキロ村を見捨てたわけではございません……。ダガールの強硬策に驚き慌てて駆け付けたところだったのです・・」

「うん……私がダガール兵にもし殺されでもしていたら意味ないしね。だって本当に死にかけたんだもの」

 クルエはため息交じりに笑った。


「さて、戦の準備に先立ち、備蓄を買い占めなければなりませぬ」

 サカヒが進言した。

 クルエは椅子に寄りかかり、上座で答えた。

「籠城するにしても、しのげるだろうか?」

「長期戦は向きませぬ。この城はそこまで大きくござり申さず。しかし敵は多勢で来るとすればこれ厄介なり」

「如何致す」

 クルエはため息をついた。

「先に仕掛けるのが寛容かと心得まする」

「ん」

 他の家臣たちはざわざわとし始めた。

「結構結構!」

 フクサマが声を上げた。

「敵に先んじて敵を討ち滅ぼすべし!」

 そうだそうだ、と声が上がる。

「姫様、事は急いで行わなければ」

 ワーズが言う。

「備蓄を買い占めるのね?」

「はっ。城の隠し金を使うのをお許しいただきたく……」

 クルエはにっこり笑った。

「心得た!」

 そしてひじ掛けをどんと叩く。

「存分に使いなさい!」

 このクルエとワーズのやり取りは実は芝居で、あらかじめ内容は決まったものだった。

 これまで城の金はサカヒが貯めたものの他に家臣たちが貯めたものがあった。それを一手に使う権限があるのはクルエだと暗に示そうとしているのだ。

「皆の者、ハミ家の夜明けは近い!私と共に!」

 クルエは立ち上がる。

 すると皆立ち上がり歓声を上げた。

 士気は充分に思われた。

「いざ、ダガールを打ち破らん!」

 フクサマが煌々と声を上げた。


 兵糧は次々と運び込まれた。

 あらゆる食料品店で一斉に買い占めたため、食料品の価格は高騰した。

「準備は整いつつあります。備蓄も増え、戦に備えて士気は高ぶるばかり・・」

 ワーズが恭しく言った。

「そうね。民は不満に思っているかしら?」

「はあ、食べ物が得られないとなると……」

「ダガールについてしまいはしないだろうか?」

「そんなはずがございません!」

 ワーズは強く否定した。

「その昔よりマサエドはハミ家の治めし地、その民がどうしてハミの者に敵対するでしょうか!?」

 クルエはうーんとうなった。

「民を味方につけたい」 

「実利を以てでございまするか?」

「うーん、実利に関してはダガール以上の物を与えられない」

「しかし、ダガールは民から搾取すること著しく」

 サカヒがやってきた。

「民の力を借りるのもほどほどにしなければなりませぬ」

 クルエは彼の方を見た。

「というと?」

「姫様のおかげで勝ったということにしなければ。決して他の有力者に手柄を奪われてはなりません。

 ハミ家再興の為には姫様に実権を集中させるのが第一でございます」

「ふむ、では策はあるのか?」

「はっ」

 サカヒは恭しく頭を下げた。

「敵は野戦を以て雌雄を決しようとしてくるでしょう。ですから先君夫妻の墓を荒らすなどの挑発を行ったのです。我々が打って出るのを待っているのでしょう。それに先にこちらが兵を出せば倒す大義名分が立ちますから。

 我々とて、同じでございます。

 マサエドの地で野戦において敵を打ち破るのです。

 城に籠っていては数に勝る敵に勝つことままならず。我々は攻めてきた敵を撃退するにあらず、敵をせん滅するのがハミ家再興への道なり」

「しかし、サカヒ殿」

 ワーズが言う。

「城に籠り戦いしはこちらに有利と心得る。まずは敵を撃退せしめ、まずは姫様の確実な勝利を得て、さすれば周辺の小豪族もこぞって呼応するものと……」

「姫様、如何」

 サカヒは静かに言った。

 クルエは考え込む。

「敵の兵数はいくら?」

「は、せいぜい一千程かと」

 とワーズ。

「一千?」

「は」

「やけに少ないわね」

「いえいえ、我らは二百でございまするぞ」

 サカヒは笑った。

「しかし、一千程度ならば、なんとか……」

「野戦か……籠城戦か……」

「籠城戦は援軍頼みの戦法にございます」

「そうなの?」

 サカヒは頷いた。

「しかし、野戦では姫様が誤って討ち死になさる恐れも……」

 とワーズ。

「姫様」

 サカヒとワーズがクルエの方を向いた。

 クルエは、はは、と苦笑いした。

「どっちがいいかな……」

 クルエは考え込んで頭を上げた。

「ハミ家の再興を望むは、皆同じ。だが、運命を共にする覚悟も出来ている。ならば皆がどうしたいか訊いてみたい」

 クルエは二人のところから離れて、剣を振り始めた。

 サカヒとワーズは含み笑いをしてその場を去った。


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