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ハミ太平記  作者: おしどりカラス
第一章
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新たな軋轢

 翌日ロダ城ではハミ家家臣が前列に並び、豪族連合もずらりと並んだ。

「マサエド領主殿ご入来!」

 控えの兵が声を上げる。

 豪族たちは身構えた。

 まだクルエを見たことも無い者もいるのだ。自分達が従おうとしている人物がいかなる人物か、見極めようとしている。

 クルエは堂々とした足取りで椅子に座った。

「クルエ姫万歳!」

 一部から歓声が上がった。

「皆のもの、この度は力を貸していただき感激の至り。ハミ家とはこれからも懇意にして頂きたい。マサエドを取り戻したもののまだダガールは健在である」

 クルエは豪族たち一人ひとりと引見した。

「マサエド領主の名において、ハミの名において、領地は保証する」

 クルエは正式な所領保証をする前に、明言だけはしておいた。 


 夜、休む暇もなく、クルエは各豪族達の功績に応じた所領分配を話し合った。

「とりあえずは元ある所領は保証せねばの」

 サカヒが口を開いた。

「しかし、最後まで協力しなかった豪族にはそれ相応に。所領を没収し分配するとかの」

「サカヒ殿の考えに一理あり」

 ワーズは頷いた。

「戦か」

 とフクサマが身を乗り出す。

「しばらくは勘弁して欲しいものだ」

 横にいるカワデが苦笑いする。

「それをすれば、その豪族はダガールに寝返るかもしれない」

 クルエが口を開く。

「構わないではございませぬか。ここにきてハミに与せぬなど元々ダガール側であったのでしょう」

 とワーズ。

 

 この戦で自分を倒せなかったことより、ダガーレン・ヤイルの死の方が打撃は大きいだろう。せっかく勢力を伸ばし国力をつけたのに、後継ぎの死であっさりと水泡と帰してしまうこともあるのか。

 もし自分がダガーレン・トクワと同じ目に遭ったらどうなるだろうか。

(私の生きる目的はハミ家再興。仮に私に後継ぎができて、そしてその後継ぎが私の眼の黒いうちに死んでしまったら……)

 クルエはばかばかしいと考えを振り払う。

 夜の空を見上げようと窓のほうへ向かう。

 星の輝きは永遠に見える。

 実際そうなのだろうか。

 クルエは天文学の素養がないから何も分からない。

 


 数日後、いくらかの豪族が引見を求めてきた。

 彼らはこの戦いに結局加わらず、終わってからやってきた。

 跪いたように顔を上げない。

「お許しくださいませ!此度の戦いで領地乱れその収拾に汲々したため、参陣遭い叶わずかような仕儀と相成りました……」

 震えるような声で言った。

 オイゲントという豪族である。

「オイゲント殿はこう申しておるが、他の者は?」

 クルエは豪族達を見回す。

「オイゲント殿と同じでございまする……」

 皆口々に言った。

「そうは言うが、形だけでも兵を送るべきではなかったか?」

 サカヒが口を開く、嫌味を含んでいた。

「お許しくださいませえ!」

「どちらにつくか旗色を見ておったのではないか!?」

 サカヒが一喝する。

「滅相もありませぬ!」

 オイゲントがさらに跪く。

「雌雄を決する大戦に旗色を伺うなど正気の沙汰とは思われませぬ!勝ったほうから誅罰を受けるは必至。これはただの地方の一戦ではありませぬ。小競り合いなら高みの見物でもいくらでも出来ましょう。しかしながら!此度のはハミ家とダガーレン家の天下分け目の大戦なのでございまする!故に領地穏やかなれば参陣致した事疑いようがございませぬ!」

 そして顔を上げる。

「どちらに?」

 クルエは言った。

「無論マサエド領主様、いえ、ハミ国女王となられる貴女様にです」


「何だあいつは!?」

 フクサマが怒りで声を荒げた。

「厚顔とは奴のことを言うのであろうな」

 カワデが頷く。

「しかし何故姫様は許されたのだ」

「タカラのような腐れ腹を許された姫様なのだ。あのような奴はタカラに比ぶれば小物も小物。許さぬ道理はない」


 ハミ家と豪族達の議論は紛糾した。

「シュトラ殿や我らがいなければハミ家も危うかった!無論姫様に罪などなく、ひとえに力不足の家臣のせいでありましょう!」

「なんだと!」

 とフクサマ。

「少なくとも此度は我らの助力がなければ勝てぬ戦であった」

 豪族達は口々にそう言った。

「それはまことではある。だが我ら家臣とてハミ家を、姫様を中心に戦った。その奮戦あってこそお主らの行いも意味があったというもの」 

 サカヒが言う。

「第一の功はシュトラ殿!」

「シュトラ殿!」

 豪族達が次々に声を上げる。

 ワーズは驚愕した。

 この空気は非常にまずい。

「第一とははっきり言えぬがかなりの功なのは間違いなかろう」

 クルエがはっきりとそう言った。

「ならばシュトラ殿を遇すべし!この身が言えた口ではないがな」

 オイゲントが腕を高く振り上げた。

 シュトラが困ったような顔をしている。

「わたくしは功を誇る気などありません。ただマサエドの平和の為を思ったまで」

「姫様!」

 フクサマが声を上げる。

 だが言うべき言葉が見つからないのだろう。

 それ以降何も言わない。

 カワデとサカヒは黙っている。

「ロダ殿……」

「わしには何も申せませぬ……もはや……」

 淡々と呟く。

「わしの功は姫様も認めるところ。それで満足なのです。今シュトラ殿と波風は立てとうない」

 このままではハミ家マサエド豪族連合もすぐに崩壊してしまうのではないか。ワーズには危機感が募った。

 ダガールとてトクワは健在なのだ。

 姫様をもとに一つになるべきはずだった。

 非常にまずい勝ち方をした。

 豪族の力に頼りすぎた。 

「我が家臣はこの私への忠義を以て懸命に戦ってくれた。このクルエ、それを無碍には出来ん。シュトラ殿には相応の、お主ら豪族連合にも同様に、働きに報いよう。だがここですぐにという訳にもいくまい。今日はここまでである」

 クルエはそう言うとそそくさと立ち上がり去って行った。

 誰も止めるものはなかった。


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