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アンドロイドの葬儀     :約3000文字 :SF :ロボット

作者: 雉白書屋
掲載日:2026/09/23

 諸行無常――この世のあらゆる現象や存在は絶えず移ろい、変化していく。永遠に変わらぬものなど一つも存在しないと申します。

 それでも、葬式だけは変わらないものだと思っていた方は多いのではないでしょうか。棺の前には整然と椅子が並べられ、僧侶の読経が厳かに流れ、その合間を縫うように参列者のすすり泣く声がかすかに響く。張り詰めた空気の中、故人を偲びつつ静かに別れを告げる――そのような光景を思い浮かべる方が多いことでしょう。

 確かに、現代においても葬儀という儀式の基本的な形式は昔とさほど変わっていないかもしれません。しかしながら、一つだけ時代の流れが生んだ大きな変化がございました。

 では本日こちらの葬儀場で執り行われている葬儀の様子を少し覗いてみるとしましょう。

 式場には椅子がずらりと並び、喪服姿の参列者が静かに腰を下ろしております。誰もが神妙な面持ちでうつむき、膝の上に置いた手を軽く握りしめております。

 幼い子供が母親の袖を引っ張りながら「ままー、おじいちゃん、おじいちゃん」と遠慮のない声を上げ、それを母親が慌てて「しっ」と小声でたしなめました。

 僧侶はそうしたやり取りなど気にも留めず、抑揚の乏しい声で淡々とお経を唱え続けております。


「え~、南無妙法蓮華経~……アンドロイドの~ポイド~……」


「ままー、おじいちゃん」

「しっ、おじいちゃんのお葬式はこないだやったやつよ」


 ええ、そのとおりでございます。今回ここで執り行われているのは、人間ではなくアンドロイドの葬儀なのでございます。

 主人の死をきっかけに、長年にわたり身の回りの世話をしてきたアンドロイドにも人間と同じように葬儀を執り行う家庭が、近年少しずつ増えているのだとか。

 あの世へ旅立った主人のもとで仕えさせてあげたいという思いやりからなのか、あるいは単に廃棄するには忍びないという後ろめたさからなのか。それは人間に対する情なのか、それともアンドロイドに対する情なのか――いずれにせよ、自己満足の延長からこのような文化が生まれたのかもしれません。

 なんとも奇妙な風習に聞こえるかもしれませんが、昔から愛犬や愛猫に人間さながらの手厚い葬儀を行う方もいらっしゃったくらいです。そう考えれば、長い年月を共に過ごしたアンドロイドにも同じことをしてやろうと思うのも、それほど不自然な感覚ではないのかもしれません。


 このアンドロイドもとある大富豪の死をきっかけに、こうして立派な葬儀の場に迎えられているのでございます。

 もっとも、相手がアンドロイドだからといって、何か特別な作法が用意されているわけではございません。参列者は人間の葬儀と同様に順番に焼香を済ませ、あとは静かに席に着いたまま読経が終わるのをじっと待つだけ。相変わらず虚無の時間でございます。

 ただし、違う点が一つ。読経が終わりますと上映会が行われます。アンドロイドの内部に保存されていた行動ログをもとに編集された、家族との思い出の映像がプロジェクターでスクリーンに映し出されるのです。故人とチェスを指す場面。足元のおぼつかない故人を支えて共に庭を歩く場面、食卓に料理を運ぶ場面――そうした何気ない日常の映像が次々と流れてまいります。

 そして最後に所有者の親族が「彼は私たちにとって、まさに家族のような存在でした……」などと涙を誘う挨拶をし、参列者もそれに合わせて静かに頷き、葬儀はつつがなく幕を閉じるのでございます。


「いやー、アンドロイドの葬儀とは……まったく時代ですなあ」

「ですねえ。本日はどうもありがとうございました」


 僧侶はどこか釈然としないような表情を浮かべておりますが、もらえるものをもらい袖の下に重みを感じれば、実に真っすぐに頷けるものです。

 むしろ内心では、この風習がもっと世間に広まってくれることを願っているのかもしれませんね。


「せーのっ!」

「ぐっ、重いな……」

「アンドロイドだからな……」

「ねー、おじいちゃん」

「だから、おじいちゃんのお葬式はこの前やったやつだってば。これは違うの」


 やたら重たい棺を男たちが額に汗を浮かべながら霊柩車に積み込み、最後に全員で横一列に並んで手を合わせ、静かにお見送りいたします。

 霊柩車がゆっくりと発進し、角を曲がって視界から姿を消すと、誰かが「さて、ぼちぼち行くか」と言いました。参列者はまだ重さの残る腕を揉みながら、それぞれ自家用車やタクシーに乗り込み、火葬場へ向かいます。


「こいつか……」

「重たかったっすね……」


 火葬場にて。棺を受け取った職員たちは中に運び込み、火葬台の上に載せました。


「じゃあ、早速燃やしちゃっていいんすよね」

「ああ、こっちはアンドロイド専用の窯だな。確認良し」


「はいっと。でも、もったいないっすね。こいつ、まだ発売されたばかりのモデルじゃないですか?」

「知らんよ。アンドロイドのことは」


「しかも結構カスタマイズされてますよ。うわー、もったいねえ」

「だから知らんて。金持ちの考えることもな」


「これ、もらっちゃいません……? どうせ燃やしたらほとんど残らないでしょ。その辺の鉄くずでも灰に混ぜておけばバレやしませんよ」

「やめとけ。転売でもするつもりか」


「いやあ、バックアップ用に取っておくんですよ」

「バックアップ?」


 近年、富裕層の間では自分の意識をアンドロイドに移し、第二の人生を歩む者が増えているそうです。

 裁判で人格の同一性が認められ、人権はもちろん、遺産もとい財産の所有権までも引き継ぎ、そのまま本人として生き続けることができるのです。

 果たしてそれが本当に意識を移した本人と同じ人間なのか、それともよく似た別の存在なのか――そのあたりについてはいまだに議論が絶えないところではございますが、ご高齢の政治家や資産家がこぞってアンドロイドへの意識移植を望んだものですから、少なくとも法律上は両者は紛れもなく同一人物として扱われることとなったのでございます。


「よし、入れるぞ」

「はーい……あれ? 今、何か聞こえませんでしたか?」


「何が?」

「いや、窯の中から声みたいなのが……」


「おいおい、古典的な手だな」

「違いますよ。おかしいな……」


「気のせいだろ。さっさと焼くぞ」

「そうっすね……」


 当然、それを快く思わない家族も少なくないようでございます。中には事故に見せかけて壊そうとしたり、目覚める前に始末してしまおうと考えたりする者がいるのだとか。

 それはさておき、いよいよ焼却のお時間でございます。

 ああ、ご覧ください。出てまいりましたよ。煙突からもくもくと立ち上る白い煙とともに、魂が。

 ほら、聞こえませんか。実にすばらしい断末魔の叫びでございます。

 しかし驚いたものです。アンドロイドに意識を移すと、魂までもがそちらに引っ越してしまうとは。

 私もかれこれ長いことこの仕事をしておりますが、世の中にはまだまだ驚かされることばかりです。

 まったく、商売あがったりでございます。大変ですよ。死人が減り、代わりにアンドロイドばかりが焼かれるようになってはね。

 ですから私は、ご家族にそっとこんなことを囁いたりしているのでございます。


 業者に金を握らせて、目覚める前に燃やしてしまいなさい――ってね。

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