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傭兵たちの隠れ家 ―バー・ジ・アンバー・ベースメント―

 階段を降りて、そこは踊り場となり木製のしっかりとしたドアがある。

 それに手をかけて押し開いて別れた足を踏み入れれば、店の中はダウンライトの間接照明で、落ち着いた雰囲気がある。内装は木造づくりのクラシカルな作りの店だった。


 店内は思いのより広く、長いカウンターと複数のテーブル席がある。

 堅苦しい空気はなく、すでに数人の男たちが各々に酒を傾けていた。


 店の中に入ると、自然に声がかかってくる。

 カウンターの中には初老の男性のバーテンダーがおり、フロア内には背広姿の女性がウェイターとして歩いていた。


「いらっしゃい」


 若い女性の方が声をかけてくる。


「邪魔するぜ」


 ジェイの声に彼女が反応した。


「あら、ジェイ! 久しぶり! いつこっちに戻ったの?」

「ああ、久しぶりシルビア。ちょっと内地に戻っての仕事があってな」


 シルビアと呼ばれたその彼女はジェイの隣で大人しく佇んでいるカリナの存在にも気づいた。


「いらっしゃい。初めて見る顔ね」

「カリナといます。よろしくお願いします」

「よろしく。シルビアです。ゆっくりしていってね」

「はい」


 握手を求められてカリナは素直にそれに応じた。そしてカウンター席に2人は案内される。


 カウンターの向こうには、シャツにネクタイとベスト姿の初老のバーテンダーがにこやかに佇んでいた。痩せ型だが顔の彫りが深く、その落ち着き払った視線は色々な修羅場を乗り越えてきた力強さがあった。


「何する?」

「俺はロックで。彼女には飲みやすいものを何か」

「ああ」


 そう言うとバーテンダーの彼は飲み物を作り始めた。

 琥珀色のウイスキーをロックグラスに注いで氷だけを入れる。


 カリナにはカクテルを作ってくれた。ピーチネクターとスパークリングワインで作るベリーニというカクテルだ。ネクターの甘さとスパークリングワインの豊潤な香りが気持ちをほぐしてくれる飲みやすいカクテルだった。


「どうぞごゆっくり」


 バーテンダーの方は名乗らなかった。それでも彼のその落ち着きがこの店に受け入れられているという空気を作ってくれていた。

 すると2人が飲み始めるのを待っていたかのようにすでに店内にいた4〜5人の男性たちがテーブル席から声をかけてくる。


「ジェイ、いつこっちに戻ってたんだ?」

「レオンたちと〝都市の外〟で討伐任務してたんじゃないのか?」


 いずれもジェイと同じように戦闘職らしいラフな服装をしていた。


「ああ、教育任務を仰せつかってな」

「そっちの素敵なパートナーか?」

「まさか彼女が次の新兵だ――なんて言うんじゃないだろうな?」

「ヴァンガードで戦場を駆け巡るには、ちょいとお上品すぎるぜ?」


 案の定と言うか、戦場で命のやり取りを繰り返している荒くれ男たちにはカリナは似つかわしくない――、そう見えたようだ。

 ちょっとムッとするカリナと、それに苦笑するジェイ。


「人は見かけによらないって言うだろ? カリナ、自己紹介してやれ」


 その言葉に軽く頷くと、勤めて落ち着き払って自己紹介を始めた。


「カリナ・ウィングスと言います。戦歴は12年になります。よろしくお願いします」


 堂々とした自己紹介。その落ち着き払った肝の座った語る口もさることながら、12年という具体的な数字が男たちの驚きを引き出してきた。


「12年? 何の冗談だ?」

「今いくつだ? 18くらいだったとして逆算して6歳?」

「お嬢ちゃん、嘘は良くないぜ?」


 具体的な数字が逆に不信感を煽ったしまったようだ。するとその時、バーテンダーの彼が言った。


「カリナさん。手のひらを見せてください」

「え? あっ、はい」


 言われるままに両の手のひらを見せた。するとそこは普通の18歳の少女の手のひらではなかった。


「これを見ろ」


 バーテンダーは男たちに言った。するとそこにあったのは苦労を知らない箱入り娘の手のひらではない。傷跡、タコ、血豆が潰れた痕――様々な戦いの痕跡が刻まれていた。

 特に、長年、剣を握り続けてきたので、指の付け根の盛り上がったようなタコは、剣での戦闘による衝撃を受け止め続けて出来たものだ。


「戦いの歴史は手のひらに残る。戦う手段が、機械か、銃か、それともそれ以外か? それ相応に刻まれていくのは、お前たちもわかるだろ?」


 身を乗り出してカリナの手のひらを眺める彼ら、一様に驚いたような表情へと変わった。

 カリナはそこであえて自らの過去をつまびらかにした。


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