結末のない物語
強すぎる魔王がいた。
配下の中でも武闘派の魔族達が束になっても敵わない。
女神の祝福を受けた勇者が挑んでも傷一つつけられなかった。
魔王は戯れに命を奪った。
たちの悪い事にそれは人間に限らない。
同族である魔族さえもその中に含まれていた。
魔王は王だった。
魔王は死だった。
形のある死だった。
そうであるにも関わらず、魔王自身には寿命はなく不老だった。
故に魔王は言った。
口を憚ることもなく。
「俺は神だ」
誰がその言葉を否定出来るのだろうか。
そんな折。
魔王はある村を襲った。
人と魔族が身を寄せ合って魔王から隠れて暮らす村だった。
魔王は単騎だった。
しかし、彼に挑む者なんてただ一人もいなかった。
彼は順繰りに命を奪っていき、最後の最後に二人の子供の前に立つ。
人の子と魔族の子。
共に震えながら抱き合い、それでも魔王を睨む。
少しでも心というものがあるならば、この二人こそがこの村の、この世界の体現であると感じただろう。
しかし、魔王には心はない。
無感情に二人の命を奪おうとした際に、人間の子供が魔王に問う。
「何故、こんなことをするのですか」
「暇つぶしだ」
あっさりと答えられた言葉。
それを聞き人間の子供は絶望したが、魔族の子供は震えながらも言った。
「では魔王様は神様ではないのですね」
「意味の分からないことを」
魔王の言葉を受けて魔族の子供は悲鳴をあげて人間の子供に抱き着く。
「死ぬ前に答えろ。今の言葉の意味を」
魔族の子供は答えられない。
恐怖で言葉を失ったからだ。
だからこそ、人間の子供が答える。
常日頃から二人で話をしていたことを。
「全能でないから暇に苦しむ。そういうことです」
固まる魔王に魔族の子供は勇気を振り絞り声を出した。
「あなたがもし全能であったなら。暇に苦しむこともなかったでしょう」
*
苦しみは認識した時から傷となる。
傷は癒えるまでは痛みを伴う。
そして、心の傷は一人では癒せない。
屈辱と言う心の傷を魔王は癒せなかった。
そして、癒すことの出来る者は最早どこにもいなかった。
魔王は死の体現者であったから。
痛みを紛らわせるために魔王はこれまで以上に命を奪った。
積極的に命を奪い続けた。
もう奪えなくなるまで。
世界には最早魔王の命しかなかった。
だからもう、この物語はおしまい。
結末のない物語は無理矢理にでも閉じるしかないのだから。
結末のない物語の主人公の末路なんて、誰も知りたくないし、誰も知ろうとしない。
誰が知りたいというのだろうか。
永遠に終わらない命を持ったまま孤独に永久を過ごす者の退屈な日常なんて。




