シャチ娘、ギャルの下着盗撮の疑いで身柄確保!?
敵地へ急ごうと泳ぐシャチ娘の前に、八つ目のウナギ──の力を宿した少女が立ちはだかった。
抵抗する間もなく、シャチ娘はその腕にがっちりと捕まる。
元々パワー型のヤツメウナギが人間サイズになり、手足まで得たのだ。まともに勝てる相手ではない。
彼女は水面へと引きずり上げられ、派手な水しぶきとともに顔を出した。
「おいコラ変態シャチ娘! 今、あぁしのパンツ盗撮しようとしただろ!」
ヤツメ娘が勢いよく怒鳴る。海中の超音波ではなく、素の声だ。
「そんなつもりないよ。私はここに用事があって──」
必死の弁明も、相手の怒りには届かない。
「あー最悪。用事って盗撮のこと? 〈アレさえ撮れれば〉って言ってたの、聞こえてんだよ!」
「違う! それはそこのマン──」
タワーマンションを指そうとして、シャチ娘は慌てて口をつぐむ。
“マン”で言葉を切ったのは最悪だった。
「あ? そこのマンって何だよ!? あぁしのカラダがそんなに恋しいわけ?」
確かに、ヤツメ娘は目を引く存在だった。
ギャルらしい派手なメイク、銀色のツインテール、ミニスカート。
黒のセーラー服とグレーのセーターは、まるでヤツメウナギの配色そのもの。
そして、左右に七つずつ並んだ髪飾りが、不思議なほど自然に馴染んでいた。
ヤツメ娘はシャチ娘のスマホを奪い取り、画面を突きつける。
「ほら見ろよ! バッチリ撮れてんじゃん!」
映っていたのは、黄色い三角形にビックリマーク──標識のような模様。
「あれ? 標識……?」
「あーめんどくさ。これ、あぁしのパンツの柄!」
「へぇ、変わったデザイン」
シャチ娘は状況を忘れたように感想を漏らす。
ヤツメ娘はそのペースに飲まれかけ──
「でしょ……って、話逸らしてんじゃねぇ!」
寸前でノリツッコミに切り替えた。
「とにかく、私は盗撮なんてしてない。帰って」
「あんたみたいな“女の敵”を野放しにできるかよ。せっかく女だけの世界になったのに、なんでこんな目に遭わなきゃなんねぇんだ」
その言葉に、シャチ娘の表情が陰る。
「私は……そういう“敵”と戦うために来たの。今だって──」
言いかけて、飲み込む。
ここで明かすには重すぎる真実だった。
「意味わかんねーし」
ヤツメ娘はそっぽを向く。
「ねえ、話だけでも聞いて──」
その瞬間、シャチ娘は忘れていた。
ここが“敵地”であることを。
太陽の光がふっと遮られ、ヤツメ娘の顔色が変わる。
「ちょっ……なんでオトコが生き残ってんだよ!?」
彼女の視線の先には、ありえない存在──
滅んだはずの“旧人類の男”。
男はシャチ娘の背後に影のように迫り、低く濁った声を漏らした。
「……見ぃつけた」
その声は、海底の泥を思わせる不気味さだった。




