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僕はスライムとラブラブなハーレム生活を送れるかもしれない。  作者: 最条真
一章

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08 初めは片想い



 山奥にそびえ立つ、理事長の道楽としか思えない豪華なホテルに到着し、部屋割りの鍵を受け取り――当然のように同室となった僕と宇都宮は、悪びれもせずベッドにダイブした。

 

「お、このベッド気持ちいいぞ。月野もダイブしてみろよ」


 ここまでで文句の一つでも言ってやろうと思っていたのだが、その無邪気さを見ていると、なんだか怒っている自分が馬鹿みたいだ。

 

 ――そもそも、大した問題にはならなかったし。

 

 何かと多様性と騒がれる昨今に感謝することになるとは思わなかった。テレビをつければ《LGBTQ》特集、雑誌を開けばジェンダーレス男子。SNSはポリコレポリコレうるさいし。

 それに、学校の道徳でも《愛の形は人それぞれ》と、耳にタコができるほど刷り込まれるし、女子生徒の制服にスラックスが採用されるのは、もはや当たり前の光景だし。

 最近になって、メンズコスメの市場は右肩上がりで、日傘を差す男子や、ジェンダーレスなファッションに身を包む若者も街中で珍しくない。

 企業はこぞって虹色の旗を掲げ、コンプライアンス研修では《そういう偏見》を排除しようと躍起になっている。

 性別の垣根は取り払われ、誰が誰を愛そうと、どんな振る舞いをしようと、それは《個人の尊重》という絶対的な正義の下に守られる。 昭和や平成であればどんな扱いを受けていたかは知らないが、今は令和だ。今他人のプライバシーは不可侵領域として扱われ、誰も深く干渉しないし、できないのだ、そういう時代に変貌しつつあるのだ。

 それも利口な奴なら、尚のこと。

 流石に県内一の進学校だけあって、そこまで馬鹿で、野暮な奴もいなかった。あのキスを目撃した瞬間に、

『ああ、なるほどな』と察した彼らは、

 しばしの沈黙の後、

『……そういうのもあるよねー』と、天気の話でもするようなフラットなトーンで僕と宇都宮の関係性の話について流していった。

 話題にするべきではないと踏んだのだろう。

 それは正しい。これは話題にすれば話題にするほど面倒だからだ。面倒事を避けまくる優等生様々である。

 ……お陰で、というか。学校側の配慮? なのか。

『どうせ部屋なら余ってるんだから貸してやろう』と言う粋な計らいなのか、僕たちには《特別に》二人部屋があてがわれたし。

 

 ……優遇することも、また差別だと思うんだが。いや、優遇じゃなくて、こういう事態にも対応できます、という実績が欲しいのかもな。『同性愛者が入学した際にも、我々は配慮を以て接します!』

 ってか?

 なんだそりゃ。

 くだらない……が、ありがたい。どうせ宇都宮以外に仲のいい奴なんていないし。

「仲が良いって思ってくれてるのか!?」

「お前、それ今更だろ……」

 白昼堂々キスをしておいて何を言っているんだこいつは。あ、そういえば頭の中に仕掛けられた《爆弾》の影響で、今、宇都宮は僕の心が読めるんだった。試しにあの胸の感触を思い出すと、枕に顔をうずめた。可愛いと思うと、足をバタバタとさせた。心を読むな、と念じてみると静かになった。

「読むのやめたのか?」

「うん。……恥ずか死する……」

「なんだそりゃ」

 僕が笑い飛ばすと、真剣なんだぞ、と頬を赤くした宇都宮が非難するような目で僕を見てきた。

「真剣なんだよ。……乙女だから」

「男だと思われてるわけだが」

「それはちょっと面白いよな。もう女になっちゃったのにさ」

 枕を両腕で抱きながら、宇都宮ははにかむように、にへへ、と笑った。てか、今は荷物を置く時間だーっつの。

「そろそろ会場にいかないとめんどいぞ」

「んぇー。グダグダラブラブしたいんだがぁー?」

「夏期講習だっつーの、馬鹿」

「んなことしなくても俺とお前って頭いいじゃん。そもそもなんで来たし?」

 純粋な目に、そんなことを問いかけられる。

「……友達が欲しくって」

「あん?」

 宇都宮が、意味が分からないという顔をする。

 そりゃあ、お前には分からないだろう。

 僕が夏休みに至るまでに味わってきた高校時代の孤独と、その苦しみを。孤立していたのは一時期宇都宮を邪険にしていた僕のせいで、それを認めているからこそ、その遅れを、過ちを、なかったことにしようとしていた。

 この夏期講習を、灰色から青色の高校生活を塗り替える転機にするつもりだった。

 同じ釜の飯を食い、共に勉強に励むことで生まれる連帯感。

 夜の自販機前でばったり会ったクラスメイトと語り合う、他愛のない会話。そういったベタで、王道で、いじらしい青春の一ページを経験し、あわよくば普通の友人を作る。

 それが当初の計画だった。

 だが、現状はどうだ。普通の友人が出来そうな雰囲気か? これが。優遇(差別ともいえる)部屋分け。周知されている関係性は、

『天才×秀才』同士のBLと言う腐女子待望のもので、女子はそれを崩すまいと動くだろうし、男子だって、触れまいと動くだろう。


 うん。終わりだ。

 僕の計画はとっくに頓挫していたし、そもそも今回の夏期講習に参加している人間も、思ったより多くなかったし。 

 

 ――今回の合宿に参加しているのは、一年から三年までの《特別勉強に意欲のある》約百二十名。

 これから行われる実力テストによって各々の実力が測られ、学年の壁を越えて実力だけで再編成された五つのクラスで、この閉鎖空間での三泊四日のすし詰め講義を受けることになる。(例外は除く)

 

 目的だとか、難しいことを、深く考えるのは、よそう。

 今はとりあえず一番上のSクラスに入ることを目標にした方がいい。 S・A・B・C・Dとの区分があるのだが、Sはやはり、スペシャルのSだ。《特別に実力がある》と判断された生徒は、講義だとかめんどくさいものをスルーして、自由に動き回ることが出来る。

 

 ――自由は強者の特権で、強制は弱者の戒律だ。 

 

 自由を使いこなすには強さが要る、と言う話。弱者に自由は使いこなせない、そういう判断で、Aクラス以下には、勉強が強制される。


 Aクラス以下に用意されているのは、ホテルの会議場を貸切っての講義だ。ふかふかの絨毯とシャンデリアの下、空調の効いた快適な空間で、それぞれのレベル帯にあったテストを解かされる。

 特別に招聘された講師によって、解法は教えられるのではなく、思考のプロセスを問いかけ、議論をさせるアカデミックな形式が主要。

 まぁ、そこまで悪いものでもないけれど、どうせなら自由を堪能したいじゃないか。

 

 ――自由を謳歌する強者であることを証明してやれ。


「筆記用具は持ったな? いくぞ、テスト会場に」

「まぁ時間もあれだしな。……やるからにはS以外あり得ないからな」「誰に口を利いてんだよ」

 僕は笑った。

 

 こちとら、常に《二番目》の男。天才であるお前に負け続け、自己研鑽を続けて尚も勝てない敗北の化身――だが、凡人に負けるような勉強の仕方はしていない。

 僕たちは、それから自信満々に会場に赴き、当然のようにS評価を獲得した。100点と99点…………

 

 

 ……に次ぐ、96点が、僕の点数だった。

 

 

 僕たち一学年のS獲得者(90点以上得点した者)は、三人だった。

 三人だった。三番手だった。僕は二番手ですらなかった。

 99点を取ったのは、さっきバスで話した宮子とかいうやつだった。

 

 論述問題を落としたのがマズかった!

 後から宮古に話を聞いてみれば奴はただの英語のスペルミスだと言うし、ああもうやらかした! 国・数・英・理・社を一つのテストで組み合わせてくるんじゃねぇよ! 

 僕は国語の模範的回答が一番苦手なんだよ! ああでもどうせこれだろって見返さなかった! 

 他の奴らは正答率は高い箇所だったのに!

 

 ……クソッ。

 

 負けた負けた負けた負けた負けた!

 宇都宮以外に負けた!

 僕が甘かった、油断していた、傲慢だった……!

 

 調子に乗っていた……!

 

「おい、せっかくのSクラスなんだから、遊ぼうぜ?」

 無邪気に宇都宮が誘ってくるが、悪い。

「僕は勉強をする」

 僕は教えを請いに行く。

 Sクラスだと決まり、一つの教室に集められた際に手渡された一枚のカードキー。それは、ホテルに特別に用意された《特別自習室》へと入場するためのものだ。Aクラスの連中もこれからの成長次第では手に入れる可能性があるとかなんとか、いまはどうでもいい。

《特別自習室》には、テストを受けるまでもなく結果が分かり切っているとかいう、《特待生》どもがいると聞いた。

 そいつらに話を聞きに行く。僕がするべきは、正しくは勉強ではなく、テストを受ける際のマインドセット。油断せず、慢心せず、真剣にテストに臨むためには――いや、もっと確度の高い集中力を手に入れるためには何をしているのか、《天才》どもに聞きに行くのだ。

 油断大敵。僕は大敵を倒しに行く。

 なんだ、しっかり目標が出来たじゃないか。

 

「えー……」


 大して、ベッドの上に寝転がる宇都宮は、つまらなそうだ。

 悪いと思う気持ちは、ちゃんとある。 

 だけどな。

「僕は二番目じゃないと収まりが悪いんだよ」

「とっくに俺の一番なのに?」

 聞き返されて、当惑した。その通りだったからだ。確かに、僕はこいつの一番だ。こいつが、一番執着してやまない存在だ。永遠の二番手、ところじゃない。僕はこいつの《一番》として、こいつの心に収まり続けるのだ。じゃあ、何故?

 何故僕は二番手にこだわった?

 一番手にこだわってもいいはずだ。

 どうせなら一番がいいだろ。一番が……!

 

 そこで僕は、別に順位の問題ではないことに気が付いた。

「お前との関係に水を差されたんだよ……!」

「ん?」

「分からないか!? 僕とお前のライバル関係が、間に入った宮古とか言う女に邪魔されてるんだよ!」

「お、……おう?」

「しかも原因は僕の油断と来た! あの女のせいじゃない! だから、僕は、油断とか言う大敵を倒しに行くんだよ、今から! 分かったか! その後でなら存分に遊んでやるから――!」

「……お前ってさ」

「あん?」

「俺のこと、大概大好きだよなー……」

 いつの間にか姿勢を正し、女の子座りをしていた宇都宮は、照れたように頬を掻いた。

「……?」

 大好き?

 僕が?

 お前を?

 初めに屈辱と辛酸の経験を味合わせた、かつて天才だと自負していたプライドを粉砕した、本物の天才である、宇都宮を?

 大好きだって?

 僕が?

 今振り返れば中学からか? 中学二年に唐突に転校してきた宇都宮に僕の輝かしい記録の上にこいつが立つようになってから、それ以降か?

 大好き?

 僕は宇都宮を大好きだったのか?

 憎くもあり、愛もあったのか?

 愛憎があったのか?

 僕が、宇都宮に?

 

 確かに、宇都宮は、僕の華々しい人生において、成功を約束されたようなエリート家系に生まれたこの僕にとって、余裕をぶっこいていたこの僕にとって、唯一の目標であり、指針であり、好敵手であったのかもしれない。ライバルだとは認めている。だが、そこに憎しみだけではなく最初から愛情もあったのか?

 こいつが僕を好きになったんじゃなくて、僕がはじめっからこいつのことを大好きだったのか? 

 ようやく振り向いてもらえた状況って訳か?

 この僕が?

 この、僕が……?

「めちゃくちゃ好きじゃんお前俺のこと……」

「プライバシーを侵害するな!」

 柄にもなく叫んだ。いや、なんだかんだ最近叫びまくってる気がするけれど、それはこいつのせいで、普段の僕は、冷静沈着なエリートなのだ。孤高の一匹狼なんだ。

「お前のその自認ってさ、厨二びょ――」

「黙れ黙れ黙れ!」

 僕は続きの言葉をかき消すように叫んだ。

 ふぅ、と落ち着くために一息ついてから。

「とりあえず、今日のところは、僕は勉強してくる。お前は……好きにしてろよ」

「じゃあ月野をおかずにオナニーしてるな」

「なんでお前はそういうことを言うんだ馬鹿か馬鹿なんだな馬鹿だったなそうだったな!」

 馬鹿と天才は紙一重と言う。

 こいつは馬鹿であり天才だ、中学校の頃、あの銃撃戦のゲームを主宰したように、しっかり馬鹿なんだ、こいつは。

 はぁ、はぁ、叫び疲れた。

 この馬鹿を一晩中相手にしてると気が狂いそうだ。

「……もっと賢くなった方がいいか?」

「はぁ? お前はお前のままでいいんだよ」

 僕はそう言うと、宇都宮は幸せそうに笑った。

「やっぱりお前、俺のこと大好きだな!」


 ――そんなわけない、とは、流石に言えなかった。

 


 で。結果として、僕が《特別自習室》に行く判断は、正しかったと言える。おかげで、対面を果たすことが出来たのだ。

 白雪結姫乃(ゆきの)という一学年上の天才と。

 宇都宮と似たような、化け物と。

 

 そこで会話を交わし、学びを得ていなかったら――

 

 

 おそらく僕は死んでいた。


 

 

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