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僕は何にでも変身できるスライムとラブラブなハーレム生活を送れるかもしれない。  作者: 最条真
三章

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54『星の贔屓』


 

 剣の軌道に合わせて虹が舞う。大男――ダリウスが握る両手剣は、『シルバーバレット』とは一線を画する特級装備。剣圧、というものを僕は初めて感じだ。強者が刀剣を握った時に露出する迫力。目を逸らせば死ぬ、そういう直感。

 

 右、左、真後ろ、斜め右、上。斬撃は常に置かれている。虹色に輝く不可思議な剣は、常に僕の手をいなしていく。僕の強みは手数だ。複数展開可能な触手を駆使して“数”で相手を攻め立てる。


 地を這い、背後を狙い、左右から挟み込み、上から叩き潰す――


 対する相手の強みは明確で、数をねじ伏せる“個の強さ”だった。


「《雷轟》」


 短い詠唱と共に、大剣の刀身が爆発的な光を放つ。

 回転斬りの要領で空間めがけて剣を振るうと、極彩色の虹を孕んだ雷光が、暴風のように全方位へと迸った。

 空間を埋め尽くしていた触手たちが、ただ閃光に飲み込まれていく。

 圧倒的な高熱と物理的な衝撃。

 多角的に迫っていたはずの五つの刃が、一瞬にして炭化し、崩れ落ちた。


「――《蘇れ》」


 通常の再生速度では間に合わないと判断――当たり。《スキル》の効果によって通常の倍近い速度で再生した触手たちは、大男、ダリウスが僕の間合いに入ってくるのを防いだ。

“近づかせてはいけない”。直感的に思う。間合いに入られたら――それだけで死ぬ。

 想像以上にこの男――


「もういっちょ、《雷轟》」


 ――強い!!


 男が思いっきり大剣を前方に――僕のいる方角めがけて、振るう。

 

 《雷轟》――それは大剣に蓄積されたエネルギーを極彩色の雷霆へと変換し、暴風のように撒き散らす面制圧のスキル。放電と言える可愛げはない。振るわれた剣の軌道――そこに光が軌跡を残したかと思うと、裂け、中から怪獣の叫び声とも思えるほどの爆音を轟かせ、破壊をもたらす。


 ――要は、剣の軌道上に存在する空間に雷撃を発生させるスキル。


 刃の軌跡から連鎖的に爆ぜる熱波が、周囲の酸素を焼き尽くしながら壁となって押し寄せてくる。


「くそあちぃ……!」


 近づけさせないために展開した触手の防壁が、またしても紙切れのように消し飛ばされていく。

 

「まだまだいくぜぇ?」

「クソが……!」


 余裕綽々。そう言わんばかりの笑みを浮かべた男は、軽々大剣を振るい、雷撃を生み出していく。

 雷と熱に圧されていく。


 まさかとは思うが――これは――。



「ハハッ、こんなもんかァ!?」



 ――読み合い以前の問題だ!


 ギリ、と奥歯を噛みしめる。

 本能が相手の力量を認めていた。


 

「《四ツ星》――!」



《星戦》の影響下にある僕(三ツ星相当)が防戦一方という時点で察せられる。僕より高次元――次のステージに至った敵。……正面戦闘で僕が勝つのは、不可能に等しい。おまけに非番の僕はシルバーバレットも持っちゃいない。あるのは身一つ。スキル枠は三つ。


 僕の勝利条件は――決まっている。

 結姫乃を無事に連れて帰る。

 結姫乃を無事に――!


《雷轟》――来るのは分かっていた。

 防御に使う触手は二つ。残りの四つはすべて、僕の右腕に纏わせる。


「《溜めろ》」


 触手が右腕に螺旋を描きながら幾重にも巻き付き、極限まで圧縮されていく。ギチ……ギチギチッ……! と、巨大な鋼のバネが限界まで軋むような不吉な音が響いた。

黒い繊維が弾け飛ぶ寸前まで引き絞られ、莫大な運動エネルギーと殺意を強引に内部へと封じ込めて脈打つ。

 

 防ぎぎれない閃光と熱波――覚悟の上だ。

 

 この熱を返す。この拳で。

 

「《解放(リリース)》」


 それから、僕は右腕に溜め込んだ全エネルギーを限界突破で解き放った。音速を超えた圧倒的なソニックブームが、周囲の空気を爆発的に押し裂く。放たれた強烈な風圧の壁は、容赦なく迫りくる極彩色の熱波そのものを捻じ伏せ、そのまま真っ二つに引き裂いて押し返した。


 風に押されるように僕は前に出る。

 駆けていた。

 一発殴ると決めていた。


 ――全身全霊にかけて。


 熱にひるんだその隙に、肉薄して見せた僕はただの拳に全てを込める。


「《超新星(超・右ストレート)》」


 星戦のすべてを凝縮したこの一撃だけは、唯一奴に届きうる。

 そう、全てはインパクトの瞬間に分かっていた。拳と体の間に、剣を割り込まれた。

 

 分厚い鋼鉄の壁に、装甲車を激突させたような壮絶な衝撃だった。

 拳を覆う黒が限界を告げるように軋み、刀身から迸る極彩色の雷電が腕を伝って全身を痺れさせる。だが、僕の殺意は、力ずくだ。


「ふっ……ははははははッ!?」


 防御姿勢のまま、ダリウスの巨体が砲弾のように弾き飛ばされる。二メートルに迫る質量がヘリポートのコンクリートを無惨に削り飛ばし、粉塵を巻き上げながら十数メートル先まで吹き飛んだ。


「おいおいおいおい、思い切りがいいね」


 とても、僕の目算が上手くいったとは言えない。吹き飛ぶ最中、男は空中で身を捻ると、巨大な魔剣を眼下のコンクリートへ深々と突き立てた。

 ――ギャリィィィッ! と強烈に鼓膜を劈く摩擦音と火花を散らし、分厚い床を何メートルも引き裂きながら、強引に後退の勢いを殺してみせたのだった。


 全く、微塵も、致命傷ではない様子だった。


《超新星》を見舞ったはずの剣の刀身には、蜘蛛の巣のような深い亀裂が走っている。

 しかし砕けない。むしろ再生している。

 亀裂の奥から虹色の光が脈打ち、血を送り出す心臓のように鼓動し、そう、滞りなく血液が運ばれ――剣の再生が始まっている。


「報告通り、流石に強いな。……二ヶ月で《三ツ星》に至っただけはある」


 興味深そうに剣の亀裂を眺めながら、男は呟く。犬歯を剥き出しに、滾る暴力を押し付けていた男の面影はそこにはない。何か、スイッチが切り替わったようだった。

 そちらから攻めてこないなら好都合で、僕にはまだ《極点》が残されている。

 

「【極点α】:――」

「良い度胸だが推奨できない」


 男は大きな手のひらをこちらに向けて言う。


「別に俺は、お前が戦闘のスケールを広げるのに付き合ってやってもいい。だが、これ以上の規模で破壊力を高め合うってんなら、そこのお姫様は死ぬね」


 そう言って、ダリウスは自分の右側に、縄で柵に縛られている結姫乃を指さした。

 

 皮肉気に笑い、


「それとも、戦いのためなら彼女の命なんてどうでもいい? それはそれで俺好みだけどさ」

「…………」

「良い子だ」


 嗤っていた。

 確かに許容できない。

 彼女の命が喪われるという事態は、絶対に。


 吹っ飛ばす目算だった。少なくとも簡単には帰ってこれないところまで。

 想像以上に奴の巨体は持ちこたえた。



「俺も遊んでばっかりだと怒られるしな。ま、最初からこう要求することもできたんだが、星の機嫌を損ねるのはどうにも、よくねぇと思っていたんだが……」


 ダリウスは僕を見て目を細めた。


「果たし合いでケリを付けようとしたら、どうにも俺の技量に疑問が残る。正々堂々勝負だなんて、俺の柄じゃないや」

「何を言って……」

「所詮、借り物の力って訳だわな」


 吐き捨てるように言う。その表情は、何かが出来ると期待していて、結局何もできやしないと悟った中年のそれだった。


「大人しく、一太刀受けて死んでくれるか?」


 ひどく億劫そうに、太い首をゴキリと鳴らした。先程までのギラギラとした闘争心は完全に鳴りを潜め、ただ淡々と業務をこなすだけの冷めた目になっている。

 軋むような重い音を立てて、コンクリートから魔剣が引き抜かれた。自己修復を終え、再び不吉な虹光を脈打たせる巨大な刀身を、ダリウスは一切の気負いもなく無造作に構えた。


 戦っちゃダメな相手だっている――。

 誰かにそう言われていた気がした。


「僕の命はどうなってもいい。その代わり、結姫乃を開放しろ」

「へぇ、やっぱり」


 男は笑った。


「自分の命より他人の命。――なるほどね、よく分かったよ。

 もちろん、構わない。そこのお姫様の生死は仕事に関係ないし。“星に誓って”もいい。お前が死んでくれるなら、お姫様は無事に解放すると約束する」


 ……まさか、そいつの言い分を信用した、なんてことはない。所詮口約束、僕が死んだ後で幾らでも反故にできる。直感は信用できるといっているが、ダメだ。僕の根拠のない直感に、自分の命はまだしも、彼女の命なんて賭けられない。


 だから、そう。

 僕がダリウスに向かって歩む。

 両手を挙げて、無抵抗を示したように。

  

 そう、視線を僕に向けろ。僕だけに向けろ。

 僕に集中して、それ以外見るな。


 やっぱり僕は、お前に勝たなきゃダメなんだ――!


《溜めろ》――自分の身体自身に。星塊を。

 凝縮する。スキルの拡大解釈。触手を溜めて――放つのと同様に。

 傍から見ればそれは、萎んだようにも見えるだろう。無抵抗を意味するように、小さく、縮む。

《溜めろ》――無詠唱。出力は半減。悟られない。

 こいつは許せないことをした。僕の命は勝手にすればいい。それは構わない。

 問題は僕の大切な彼女に手を出したことだ。

《溜めろ》――唯一と言ってもいいほどの、僕の逆鱗だ。

 大切な宝物だ。大切な、大切な。――世界で一番大切な。

 目にもの見せてやる。


「――《解放(リリー――)》」

「そういう奴だと思ってたよ」



 男は笑って、それから、一振り。

 血が舞った。


 自分の血を見るのは、久しぶりの事だった。 



 



 ――――――――――――☆―――――――――――― 

 





 月明かりが差していた。何者かに呼ばれた気がして、彼女は静かに目を覚ます。

 血が見えた。たった今。恋人が、何物にも代えがたい月野初が、確かに、斬られていた。


 身体が暑い。地獄の空気を浴びてるようだ。

 灼熱。痛痒。自分の中の冷たい芯が、丸ごと、焦げていくのが分かる。


 ――私が。私が、私が、……私のせいで。


 燃え滾るほどの激情が、魂の悔恨が、失意の感情が。

 夜空の星々を輝かせ、結姫乃に機会を与えていた。


 ――私は、どうなっても構わない。

 ――だけど、彼だけは。

 ――月野初だけは。


 ダメなの。絶対にこの世から失われちゃいけない。

 彼が好きなの。だから私は。



「――これから先の白紙の未来を、私の全てで描いて見せる」

 





 



 ――――――――――――☆―――――――――――― 

 






 目が覚めるほどの冷気が、ダリウスを襲った。

 本能に突き動かされるがままに正体の方向に目をやれば、明白で、拘束を破壊した白雪結姫乃が、月光を携えて立っていた。脚光を浴びていた。男には自信があった。めっぽう、ツキには見放されている、という確信が。そもそも損な役回り。貧乏くじを引くのは、いつだって自分だ。


「死んだら恨むぞ畜生……!」


“依頼主”の顔を頭に思い浮かべながら、ただの剣を携える。

――ダリウスの《星戦》は、既に終了している。

 自分を一時的に、“次のステージ”に連れて行ってくれる規格外の力も今はない。

 今は、ただの一介の傭兵、人呼んで『その場凌ぎ』のダリウス――!


「――《冬の監獄(フロスト・ジェイル)》」


 吹雪の中から声が聞こえた。

 冬の頂点を思わせるほど、冷たく、底冷えする声だった。


 ――ありえない。


 氷によって拘束されていく四肢を眺めながら、ダリウスは一人ごちる。



「月が見えてるのが、良くなかったかな」



 それにしてもあり得ないことだが。

“アレ”が一個人を贔屓するなんて、全く、自分はツイてない。

 抵抗できなくもないが――十分、依頼は達成しただろうと判断して、男は瞠目した。


「殺しはしないわ。あなたには、喋ってもらわないといけないことがたくさんあるもの」


 そりゃそうだろうね、と男は薄ら笑いをした。


 それにしても、まったく、星の贔屓もひどいものだ!












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