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僕は何にでも変身できるスライムとラブラブなハーレム生活を送れるかもしれない。  作者: 最条真
三章

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52『ポジションの違い』




 決して歯ごたえのない日常を送っているわけではないが、歯ごたえのないバトルは常在する。三ツ星になって早一ヶ月、バトルと言うバトル……宇都宮や結姫乃と果たしたような“名勝負”のようなものがない、というのは空で閲覧している星たちも察しているところがあるように思う。事情はシンプルだった。


 命のやり取りがない。


 戦いの最中に嘆息してしまうほどに、大抵の戦闘は味気なく、実力が伯仲するようなことなんて滅多にないのである。や、普通の人は戦いなんて優しい方がいい、と思うだろう、その気持ちは分かる、だけど“これじゃない”と、僕の心は叫んでいた。


 基本的に、僕たちの目に見える範囲の異星体というのは、主に《共生派》――つまり、戦うことを良しとしない、言ってしまえば戦うことから“逃げた”連中。

 そいつらが再び、いつか台頭する《侵略派》に“逃げ”、余計に勢力を増さないための間引きの作業なのだ、言ってしまえば、星狩りの主な仕事と言えば。異星体が見つかるかはその日によりけり、とはいえ見つけたって、心躍ることは滅多にない。


 滅多にない、のだが。


「お前は強かったな」


 戦場は異星体の《ナワバリ》――事前に異星体が《星戦》を宣言することによって形成された領域――再現された洞窟に存在した二足歩行のトカゲ(真白曰く、【竜人(リザードマン)】という異星体)は120%の潜在能力を発揮して侵入者に襲い掛かり――。

 はっきりと、今まで戦ってきた異星体の中で、一番強かった。


 竜の中の戦士、とでも呼べばいいのか。鎧と盾と剣を携え、闘気を燃やして果敢に攻める勇姿は、敵ながらあっぱれと言えるものだった。宙を舞う“星屑”に、贈った賞賛の言葉が通じないのが残念でならない。


「……やっと終わりましたか」


 遅いんですよ、と暗に告げる言葉に振り返ると、そこには頭に狼耳を生やした真白が立っていた。ぴょこん、と耳が立っていた。驚くほどクオリティの高いケモミミだった。ついでのようで悪いが、尻尾も生えている。白髪の狼少女。端的に今の真白を表現するなら、そういうことになる。


「なんですかその目は。別に、初めて見るって訳じゃないでしょう。慣れてください」

「ケモミミに慣れろって言われてもな……」


 それは、少し難しいものがあるのではないだろうか。だって生のケモミミだぞ。猫耳や犬耳カチューシャと言った“偽”のケモミミではない。マジモン、人間の頭に直接生えた本物の狼耳だ。僕が興味を惹かれるのも無理はないだろう。一体触ったらどんな感触がするのだろう、と。


「なぁ真白、その耳って」

「触らせませんよ」

「まだ何も言ってな」

「触らせませんからね!」


 真白は僕の視線に危険を察知したのか、バッと両手を頭に持ち上げ、白の毛並みを持つ狼耳を手のひらでぴたりと塞いだ。その拍子に、背後で揺れていたふさふさの尻尾までが警戒するようにピンと逆立つ。まぁ、以前の彼女なら、僕の不躾な視線に気づいた瞬間、無言で腰の刀――特注のシルバーバレット――の柄に手をかけていたはずなので、照れ隠しを発揮する程度には仲良くなった……と考えてもいいのだろうか。

 残念なことに、そうこうしているうちに真白はケモミミを仕舞ってしまった。

 名残惜しい。そんな僕を一笑にふすように、真白はまた息を吐いた。


「それよりも……。大丈夫ですか? 怪我は?」

「まぁ、そこそこ強かったけど。怪我みたいなものは特に」


 僕が伝え終わると、真白は耳を塞いでいた両手をゆっくりと下ろし、ふっと溜息をこぼした。


「そうですか。ま、せいぜい《二ツ星》・上位を相手に怪我されても困りますけどね」

「真白の方も大丈夫か? 怪我とか」

「誰にモノを言ってるんですか」

 

 乱戦となった今回の星戦において、僕たちは互いの死角を完全に潰すため、自然と背中合わせの陣形を組んで戦っていた。正確に状況を把握する余裕はなかったが、真白は押し寄せる十数体――僕の二倍の竜人(リザードマン)を相手取っていたのは確かだ。しかし、流石に四ツ星。汗一つ、息切れ一つもない。


「さすがだな」

「ふふん。西日本に比べればぬる過ぎるくらいですよ」

「前も言ってたな。東に比べて西の方が強いとか」

「ええ。……あっちの方が『蓋然性』が緩いので、強い異星体が降臨しやすいんですよ」

 蓋然性。いわば、ある物事や事象が実現する可能性を指す言葉。要は、リアリティの話だ。“異星体が存在するのが尤もらしいか、否か”と言った……現実性を判断する機構が蓋然性。

 そして、曰く、“現実性”は人口が少ないほど低下し、異星体といった“幻想上”の存在が介入する余地が生まれてしまう。


 つまり、田舎や地方、果ては人が存在しない“空白地帯”なんかは、強い異星体が存在しやすいのだ。


「“西日本”かぁ。いつか行ってみたいな」

「ロクな場所じゃありませんよ。異星体の質が違い過ぎますし……何より、星狩りが存在する意義が、東と西では違いますから。……空気間が合わないんじゃないですか?」

「どう違うんだ?」

「東の星狩りの役割は、“治安維持”。西での役割は、“奪還”ですから。星団の垣根を超えて組織される『臨時部隊』の雰囲気は軍隊じみていて、お世辞にも良いとは言えませんし」

「でも、……奪還とかいう割に、西にも人は住んでるよな?」

「多くの異星体の目的は“虐殺”ではありませんから。……はぁ、それよりも、そろそろ《星戦》が崩れますよ」


 真白の言葉を合図にするように、空気がピキリと甲高い音を立てた。

 見上げれば、頭上を覆っていた薄暗い岩肌の天井に、まるでガラス細工のような無数の亀裂が走っている。竜人たちのための《星戦》の結界が、真に主を失って崩壊を始めたのだ。亀裂の奥から射し込んだ眩い光が、淀んだ沼地を次々と白く侵食していく。

 幻想の空間がパラパラと銀色の粒子になって剥がれ落ちる。


 異星体という異物が排除され、現実性が担保される。

 幻想と現実、どちらが真実であるか決定され――洞窟のテクスチャが世界から剥がれ落ちる。むき出しの鉄骨と、ひんやりとしたコンクリートの匂い。


 郊外の廃倉庫――現実へと戻ってきた。


「ほら、帰りますよ」


 言葉少なに背を向けた真白は、そのまま廃倉庫の入り口へと向かって歩き出した。埃っぽいコンクリートの床に、硬質な足音が三つだけ響き、そしてふつりと止む。それから、スニーカーのかかとをそろえた。トントン、と。

 それが、足並みをそろえる合図みたいで、少し小気味よくて、僕もまた歩み寄った。



 


 

 ――――――――――――☆―――――――――――― 


 




 満員電車というものは天敵だ。

 今回の任務は、僕たちの拠点から随分と離れた郊外が現場だった。都心を回る環状線を抜け出し、さらに遠くへと延びる放射線の路線をいくつも乗り継いで、ようやく辿り着くような場所だ。

 わざわざ遠方の僕たちが派遣されたのには理由がある。


 異星体が形成する《ナワバリ》は、流動性が極端に低い。


 あちこち移動する個体とは違い、掃討までに時間的な猶予が生まれやすいのだ。だからこそ、近場の星団で対処しきれないと判断された場合、多少距離があっても確実に処理できる腕利きの星狩り――四ツ星の真白や、三ツ星の僕など――を呼び寄せる余裕ができる。それは審査期間中でもおかまいなし――いや、星座に認定されるかどうかの背戸際であるからこそ、難度の高い任務を任されるわけで。


 理屈はわかる。組織の判断は合理的だ。だが、命懸けの任務を終えた後の長距離移動はひどく骨が折れる。おまけに夕方の帰宅ラッシュと運悪く重なってしまった車内は、とんでもない人口密度で、鍛えてなければ押しつぶされてしまいそうだ。


 それは高校生にはひどく堪える。将来、満員電車に乗り込んで職場に向かう未来が存在するなんて考えたくないほどに。ともかく、男の僕ですらそこそこ辛いというのに、女の子の場合は痴漢とかいう下種の行いにも怯えなければいけない。恐怖がある訳だ。いや、天下の聖真白サマが男におびえる姿なんて想像もつかないが、まぁ男として、友人候補の少女のための“壁”になる、くらいの義務は生じる訳だった。


「……」


 じっ、と眼下から見つめられている。いや、傍から見れば壁ドンのような様相になっているのは重々承知だ。だが許してほしい。僕の背中は、仕事終わりのサラリーマン×10人分くらいの重量を背負っているのだ。どうしろと。姿勢に配慮する余裕はないというか、壁になるなら当然、この姿勢になってしまうのではないだろうか。


「(こんな姿勢になってごめん……)」

「(いえ、別に……)」


 僕が小声で謝罪を落とすと、真白は居心地が悪そうに長い睫毛を伏せ、すっと視線を僕の胸元へと逃がした。逃げ場を失った彼女の白く細い指先が、そっと僕の胸元に触れる。

「(ほんと、便利な人ですね)」

「(それって褒めてる?)」

「(…………)」


 真白は僕の問いには答えず、ただ沈黙を返した。


 ――その時。


 足元から車輪が軋むような鋭い音が鳴り響き、電車が急カーブへと差し掛かった。車体が大きく傾き、背後から乗客たちの体重が一斉に僕の背中へと雪崩れ込んでくる。


「げ……!」

 

 真白を押し潰さないよう咄嗟に両腕に力を込めて壁を支えたが、容赦なく乗員た

ちの重量が僕の背中に押しかかり――ドン、と互いの身体がぶつかり合ってしまう。

 胸に押し当てられた彼女の柔らかな膨らみと、鼻先を掠める甘い香り。僕は小さく悲鳴を上げそうになったが、状況的に悲鳴を上げたいのは彼女の方である。


 僕は奥歯を強く噛み締め、背中にのしかかる理不尽な質量に対して両足を踏ん張った。ここで僕が崩れれば、彼女を完全に押し潰してしまう。


「うらぁぁぁぁぁああぁあ……!」


 壁についた両腕の筋肉を軋ませ、背後の乗客たちごと力ずくで押し返す。強引に空間を作り出し、僕は彼女たちの名前を念仏のように頭の中で唱えながら、嵐が過ぎ去るのを待った。僕の必至な形相を、真白はただ、不可解そうに見つめていた。


 

「――あなたを見ていると、時々、無性に、苛立つんです」



 無言の真白と共に改札を抜け、駅前広場へ足を踏み出す――起き抜けの言葉がそれだった。たった今、心情が整理できたとでも言わんばかりに、決意を宿した眼差しで、僕に向き直る。


 世界が決意に負けたように静まり返る。

 オレンジ色の夕焼けが、ただ僕たちだけを照らした。


 眼差しは告げる。


「私は、弱くない」


 その通りだ。


「弱い生き様がどれほど罪深いか、私は知っている……!」


 ……惨めだよな。


「私は傍であなたを見て、“審査”しなければいけないんです。……それが役目ってだけで、私はあなたに心を許してなんかない。だから、私に優しくしても、弱さに付け込もうとしても――無駄ですから」


 言い放つ彼女の青い瞳が、僕を真っ直ぐに射抜いていた。いつか公園で見たような、絶対零度の冷たさとは違う。切実だった。どこか必死で、探せばほつれが見つかる糸のような、脆さを孕んだ眼光だった。


「私が女で、小さくて脆くて柔らかいからって忖度するな! 少なくともっ、対等でありたいと望むならっ……! 私の“弱さ”に憐憫を垂れるな……!」

 

 この問答を間違えれば。

 一生、恨まれることになるだろうな。

 そう直感した。


「僕は――お前が“弱い”と思ったことなんて、一度もないよ。


 ただ、“違い”だけがある。……これは責任の話なんだよ。戦場で背中を任されたら、守り抜くような当然の防衛関係。僕とお前じゃ、ポジションが違うだけの話だ。


 弱いわけないだろ、お前が。――弱いわけないよ。ただ、これは、戦場でお前が多くの敵を引き受けてくれたみたいに自然な話だ。お互いに役割があって、それを果たしあってるだけ。肩を寄せ合って多くのことに対応する人間じみた話さ」


 と、結びを付けた。


「……じゃあ、なんですか。私が、単に、自意識過剰だった、って話ですか?」

「違うよ。お前がもっと僕を頼ってくれればいいって話。……これは僕の想像でしかないけど、お前はきっと、厳しい環境にいたんだと思う。一人で何もかも学ぶ必要があって、その辛さは僕には想像もできないけれど――やっぱり、全部自分でやる必要はないと思うから。たまには“任せて”みてよ」


 真白は目を見開いて、ただ僕の顔を見ていた。


「ずっと一人で気を張って生きる必要なんてないんだから」

「……! ~~~ッ!! ~~~~!!♡ ――ッ!?!?」


 彼女はバッと両手で顔を隠した。


「……っざけっ、ふざけっ、ざっけッ~~~ッ~~~~!」


 彼女は指の隙間から僕をにらみつけて言う。


「……あなた、本当にそういうところですからね!? そんな言動を続けてたら女に刺されて死にますよ!」

「別に口説いてるわけじゃ」

「客観的に見たときにそういう認識が生まれるならなおさら問題ですね!?」


 顔を隠すのが馬鹿馬鹿しくなったのか。真白は僕の肩をがっしりと掴んできた。


「星座以前に人間として落第したくなければ、もっと言動に気を使いなさい!」

「……悪い」

「別に謝ってほしいわけじゃ――! そういうところも美点の一つ――かもしれませんが、時に凶器になり得るんです。……。ああ、だから……なるほど。“ポジションの違い”って本当に大切なんですね……」


 真白はじとっとした目で僕を見ながら告げる。


「……今後は、私があなたを叱りますから。あなたは私とは逆で、彼女たちに甘やかされ過ぎなんですよ」

「おっしゃる通りで」

「でも別に、あなたの言動がひとえに“悪い”というものでもありませんから。勘違いしないでくださいよ。私は――」


 …………ちょっとは感謝してます。


 そう言って、真白は広場から歩き出し、散歩歩いたところで例によって立ち止まって、僕が隣に立つのを待っていた。

 


マジでここの対応ミスったらバッドエンドがあった模様。怖いよ真白さん。



真白ちゃんの星座はおおいぬ座。わんこです。戦闘になると呪いと刀のスキルに加えて狼特有の身体能力を使って戦います。強いです。


おおいぬ座の属性・性質は『呪い』/『捕食』

五ツ星相当の後見星です。ママと同格。強い。



そんな真白さんは強いけど日常生活じゃポジションが違います。真白ちゃんは女の子である非力さにコンプレックスがありました。一人で何でもこなせるプライドがありました。強さの裏にはたくさんのコンプレックスがあって、日々劣等感にさいなまれています。


人より小柄な体格とか、背は伸びない癖に膨らみ続ける胸とか、知らない家族のぬくもりとか、そんなものです。内面は脆いのではなくグチャグチャです。世界に対する呪詛をため込んでいる女の子。




――がド天然クソボケ女たらし光属性ハーレム野郎に遭遇したらどうなるんですか?



続きを待て。



と言いつつ、そろそろ虚木とミヤの話をしなければいけない……。ミヤは虚木に人生相談してたりするよ。

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