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僕はスライムとラブラブなハーレム生活を送れるかもしれない。  作者: 最条真
一章

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06 上には上がいる



 調子に乗った。僕は頭の中にある《爆弾》に想いを馳せる。頭の中を試しに、トントン、と叩く。そこからはいつも通り空虚な僕の頭の反発音が聞こえるだけで、微塵も、爆弾の気配は感じない。

 だが、《ある》のだ。宇都宮有の遺伝子の欠片、微かな細胞、僕の脳漿をいつでも炸裂させるのことのできる、時限式の爆弾が――。

「すー……」

 可愛らしい寝息を立てる、金髪の美少女は、もはや宇都宮ではなく、有。少女の有、宇都宮と言う、僕の憧れであり憎き敵であり戦友であり生涯のライバルであり――先日、殺した相手の代名詞。

 宇都宮と言う男は、僕の心の中で、思い出として保管していく。

 

 宇都宮と言う少年は死んで、これからは有と言う少女が僕と一緒に生きていく。だから、有だ。行為の最中《有》と呼んでみて、歓喜の表情を浮かべたのだから、こいつは、紛れもなく、有なのである。

「有」

 ふと、名前を呼ぶと、即座に有は覚醒する。

「……どうした?」

 先ほどまでの眠りが嘘のように、真摯に僕を見つめてきた。

 お前は僕の何だ。

 そう聞くと、有は、官能的な笑みを浮かべて答える。

「オレはお前のものだ……♡」

「よく分かってるな」

 と、有の頭を撫でると「えへへへへへ♡」とはにかんだ。

 可愛い。僕だってかわいいと感じる感情はある。好きかどうかは分からないが、とりあえずこの化け物と一生添い遂げるだけの愛着はあった。だって可愛いんだもの。

「キスしろ」

 そう命令すると、宇都宮は頷いて、僕の唇に顔を近づけてくる。

「ちゅぅ♡ むーっ♡ んーっ♡ ンフーッ♡」

 よくやったと言わんばかりに尻を揉むと、有は蕩けた笑みを浮かべる。ああ、マジかこれ。マジか、マジか……。

 

 現実か?

 

 都合のいい夢だったり――そんなことを考えているうちに、尻を揉む腕に力が籠り、「またか……♡」と期待を込めた瞳で僕を見てくる。「可愛いな、有は」

「えへ、えへへへへへ♡」

 ちょろいとも言う。他の男に誑し込まれないか心配だ――。

「オレがお前以外のモノになるわけないだろ」

 ハイライトの消えた瞳で、有ににらまれる。

 心を読まれていた。と言うのも、今、僕の頭には、繰り返す。

《有の細胞の一部》が埋め込まれているのだ。それは好きな男が何を考えているのか知りたいという乙女心の表れであり、浮気は絶対に許さないという執着心の表れだった。

 一筋縄ではいかないのが人生であり――僕の予定通りに物事は進まなかった。こいつは、確かに屈服した。所有されることを認めた。支配されることを認めた。

 全てを捧げることを選んだ――とはいえ、僕の関心が他の女に向くのは許せないらしい。これは、僕が行為に疲れ果て、寝ている間につけられた、一種の爆弾だった。

 

「オレ以外の女とセックスした瞬間細胞を炸裂させて殺す」

 時限爆弾の存在を暴露されたとき、もろもろの説明とともにそう告げられたことを思い出す。

 ――昨晩のことだ。

 まぁ、有以外の女とセックスすることはあり得ないので、それは大したことではなく――。

 

「あと、オレ以外の女をエッチな目で見た瞬間、俺はそいつを乗っ取ってそいつそのものになる」


 それが問題だった。

 こいつは当然の如く――人体に自分の一部を取り込ませることで、身体そのものを奪うことが出来る。

 例えば、オレがほかの女をエロい目で見たとしても、その女自身が有自身になれば解決、という寸法だ。いやマズいだろ?

 

「ちなみにグラビアアイドルとかをエッチな目で見たらどうなる?」

「そいつを乗っ取りに行く」

「どうしても?」

「浮気は駄目なことだろ?」

「それはそうだな」

「というか安心しろよ。乗っ取ったとしても、人格が死ぬというより、脳みそがオレの一部に侵食されるだけだって」

「そうするとどうなる?」

「お前を愛さずにはいられない身体になるかな♡」

 豊満な胸を僕の脇腹に押し付けて、有は笑った。

 

「そもそも、オレだけを愛してくれればいいだろ?」

「それはそうだけどさぁ……」

「めんどくさい女は嫌いか?」

 裸の有が、僕の身体にしな垂れかかってくる。

「いや……」

 他人の人生を奪うことは避けたいが、それはそれとしてこいつは可愛い。いや、洗脳されてるとかじゃなくてマジでかわいい。どうしたもんか。

「えへへへへへ♡」

 有は笑う。

 まぁ、毎晩のように有に絞られ続ければいいだけか――。

 

 と、連日のように行為をせがまれて、三日目になって。

 賢者タイムの僕は思老しだしたわけだ。

 ふと、ついに二日後に差し迫った――、

 

 ――三泊四日の夏期講習、どうしよう。

 

「そういえば、お前も参加するんだよな?」

「うん、オレの分身を派遣する。あ、普段は男だけど、しっかり女にも変身できるから、性処理は任せ、」

「お前自身は来ないのか?」

 そう聞くと、有は目を逸らした。

「むずかしい、かもしんない……」

 僕の命令なら、《現実的に不可能》でない限り、大体こなすのが有だ。具体的には愛情のこもったオムライスを作ってくれたり、一緒にお風呂に入ってくれたりする――で、話を戻すが、本体がついてこれない、現実的な問題があるということ。

 

「……四ツ星の奴が、この街に来る」


 四ツ星。★★★★(四つ星)。有の等級より、一つ上の化け物。単純換算で自衛隊八十人。有の二倍近く強い化け物が、この街に来ると言うのだ。

「どうしてこのタイミングで……?」

「視察、だと思う。自分の縄張りを広げるのに適しているのか。県ごとに、大体その中枢都市を統べる《異星体》――ボスがいるんだよ。ここは宇都宮(うつのみや)――つまり栃木だが、やってくるのは郡山市、福島の奴だ」

「福島のボスは、四ツ星なのか……」

「そうだ。普通にやりあったら、オレが負ける」

 その事実に、背筋を冷たい指でなぞられたような悪寒が走る。

目の前の有は三ツ星。四十人規模の一個小隊を単独で壊滅させる、僕にとっての最強の生物だ。その彼女が、一切の冗談も交えず『負ける』と断言した事実が、遅れて効いてくる。

 自衛隊八十名相当。

 ただの数字じゃない。それは、僕たちの日常を、この関係性を、指先一つで磨り潰せる圧倒的な暴力の化身だ。

 

「大丈夫だよ、オレは死なない」

 

 そうだった、僕の心は読まれているんだった。

 裸の有に、抱きしめられる。彼女の鼓動はトクトクと、落ち着きながら動いていて、それがだんだんと、僕にも浸透していく。少しずつ、ゆっくりと、僕だって落ち着いてきた。

「そもそも、オレには《ママ》がついてるから大丈夫だよ」

「ママ?」

 僕は即座に聞き返した。有は、自信満々と言う笑みを浮かべた。

「あー、説明してなかったか」

 思い出したように、有はポンと手を叩く。

 

「なぁ、月野。オレたちのような異星体は、《何》から生まれるか知ってるか?」

 別の星からやって来たから、《異星体》。こいつらは僕たちにとって宇宙人のような存在な訳だが、そもそもの疑問。宇宙人は、どうやって増える? 僕たちのように、セックスで増えるのか? 生殖行為で増えるのか? それとも? 単為生殖? ……有が、自分の分身を作り出すように――自分一人で、増えることが出来るんじゃないか?

 

「ピンポーン!」


 有が、僕のたどり着いた結論を肯定するように笑った。

「そう。異星体は、基本的には単為生殖が基本だ。ある程度まで育った強い個体――《母体》が、自分の肉体と情報を再構築して、ぽろっと新しい命を産み落とす。クローンとも少し違う、植物の株分けに近い感覚だな」

 有は僕の胸板に指先で『の』の字を書きながら、続ける。

「オレを生んだのが、ちょっと遠くの故郷に住んでるママだ。ママは桁違いだぞ? なんたって《五ツ星》だからな」

「お前が都市伝説レベルって言ってたやつ……」

 有は頷く。

  

「直接会ったことはないけどな、オレたちは確かにつながってる。強ければ強いほど、《母体》との結びつきが強い。オレを殺したら、間違いなくママは怒るだろうな。オレを殺すってことは、ママへの宣戦布告と同じ――馬鹿は、そんなことしない」

「相手が馬鹿だったらどうするんだ」

「オレを心配してくれてるのか?」

 有は、心底幸せそうに微笑んだ。

「安心しろ。相手は、とある異星体の《母体》だ。母体こそ、慎重に動くもんだ。だって、母体が死んだら、その母体によって生み出された全ての《異星体》が消滅するんだから」

 消滅――大元を経てば、それによって生み出された生物は、消え去ってしまうということ。他の異星体と比べて、《母体》は特に命が重いのだ。なんだか、納得がいく。というか、この世界は思ったより、無秩序ではない。しっかりとした秩序と、論理が存在している。

 ……意外だった。化け物は、ただの化け物だと思っていたのだが。化け物にも、いろいろな事情があるのだ。

「というか、その情報はどこで?」

「意外かもしれないけど、俺にも友達がいるんだよ。あ、嫉妬するなよ、ちゃんと性自認は女の奴だから」

「嫉妬なんてしないって」

「それはそれなんかなー」

 と、有はぎゅーっと僕のことを抱きしめてきた。そういう時は不安のサインなので、ポンポンと頭を叩く。

「えへへ……♪」

 と、喜ぶ。可愛い。本当に一生傍においてやろう。まぁ、爆弾は不本意な訳だが。

「うっ、……それについてはごめんな? でもあれだ、爆弾としての役割だけじゃないんだ! 月野がどこにいるかとかがすぐに分かるし、万が一があったら駆け付けられるし!」

「分かってるよ」

 そういうと、有はオタク趣味に理解を得られた男のように、ほっと胸を撫で下ろした。

「ま、お前が留守の間は絶対にこの土地を守るから安心しろよ。今回も、平和的な話し合いで解決するつもりだしな」

 だから、と彼女は僕の耳元に口を近づけて、呟く。

 

「夏期講習中に、浮気するなよ」


 そんなこと、するわけないだろ。

 僕は本心から、そう答えたのだが。

 

 

 ああ――夏期講習を終えた僕が弁明させてもらう。別に浮気をしたわけじゃない。ただ異性との絡みがあった。それは必要な行為だったし、仕方のない対立だった。僕は当然のように巻き込まれるし、これから巻き込まれ続けることになる。

 男の宇都宮と、僕との共同戦線で、

 

「――あなたの存在は、《星狩り》として看過できないわ」


 水色のロングヘア―、氷を具現化したような氷の精霊・そして美少女、白雪結姫乃(ゆきの)

 氷の星の信奉者、氷の属性を司り、僕たちのような《異星》を狩ろうとする、正当な《星の一族》であり、本物の《星狩り》。

 一ツ星を倒した直後だというのに、二ツ星の星狩り、それも人間と――またまた死闘を繰り広げることになるとは、この時の僕には想像する余地もなかったのである。

ママは強い。母体はその種の代表です。マジで強い。

母体を倒したら該当の『異星体』は駆逐することが出来ます。人類的にも、何体か駆逐したことがある。種の根絶を目標として掲げてる団体もいますが、この話もまた今度。

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