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なんにでも変身できるスライムみたいな化け物と僕はラブラブなハーレム生活を送れるかもしれない。  作者: 最条真


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05 雌雄は決した

ちょっとエッチ。



 鼻腔を鳴らすような、湿った音が鼓膜を震わせた。

 スー、ハー。

 息を吸っては吐くこの動作は、眼下の美少女――宇都宮によって為されていた。宇都宮の部屋。無機質で生活感の希薄な空間で、僕は今、捕食される寸前のような体勢で拘束されていた。  

 抱きしめられている、という表現は生温い。彼女のハグは並大抵の力じゃなく、最初、力加減を誤った宇都宮によって骨が軋む音が聞こえるほどだった。今でこそ、《多少、力が強い程度》に抑えられているものの、それは宇都宮が力の加減を調整したからであり、結局、僕がこの化け物に命を握られている、と言う状況に違いはないのであった。 

「すー……、はぁ……。すーっ――♡」

 しかし、だ。熱心に僕の匂いを吸い込む美少女が、害意を持つとも思えない。僕の間近で広がるのは、金髪。窓から差し込む陽光を溶かし込んだような、煌びやかな金髪だ。西洋の人間、いや、ファンタジーに片足を突っ込んでいる程、色鮮やかな髪の色。

(髪からは、女の子の匂いが漂ってきて、僕もひそかにそれを楽しんでいるというのは内緒だ)

 それに、透き通るような白い肌に、宝石を埋め込んだような翡翠色の瞳まで併せ持つと来た。本来ならアイドル界の超新星として現れるべき美少女が、今、僕の匂いを熱心に嗅いでいるのである。

 今は僕の首筋に顔を埋め、スンスンと、野生動物のように鼻をひくつかせている。

「んん……っ、いい匂い……♡ オレ、好きだ、この匂い……♡」

《俺》という一人称が少し弱弱しくなったのは僕の勘違いだろうか?

なんというか、甘ったるい《オレ》だった。いや、純然たるオレっ娘というカテゴライズは変わらないのだが、その一人称が本来持つ荒々しさ、オスらしさというのは、宇都宮から消失してしまったように思えた。俺→オレへの変遷。

 これは僅かな変化に見えるが、それは人類にとって大きな進歩ではないのだろうか。……よく知らないジャンルではあるのだが、これってもしかしてメス堕ちってやつではないのだろうか?

 いや、ごめんよく知らないんだけど。雄であることを放棄した雌そのものがいるから、漠然とそう思っただけなのだけど。


「月野……つきの、つきの、……つきのぉ……♡」


 甘くとろけた声。普段の優し気で端整な顔立ちからは想像もできない、恍惚とした表情。ゆるふわ、と形容される柔らかそうな雰囲気とは裏腹に、その行動は執拗だ。

 彼女は僕の鎖骨あたりに唇を寄せると、まるで砂漠でオアシスを見つけた遭難者のように、貪るように肺を満たしていく。


 ちゅー♡

 

 またキスだった。次は首元。今日の宇都宮は口元に薄くリップを縫っているから、たぶん赤い跡が残る。ちゅっちゅっちゅっちゅっと降り注ぐ。別に不快ではないのだが困ったところで、ここまでの求愛行動はいっそ清々しいというか、愛おしさすら感じるのだ。

 可愛いという感情を、宇都宮に抱いてしまう。

 あの死闘を制してから、三日間が経った。その三日で、宇都宮有と言う人間――いや、《その個体》は大きな変遷を遂げていた。

「美少女姿のお前と、普通に遊びたいんだけど」

 そう言ったのが、今思えば転機であったかもしれない。僕が改めて理想の美少女を造形するよう宇都宮に頼むまでもなく、彼女――もう彼とは呼べないので、そう統一する――は、喜ぶように頷いた。映画館、ショッピングモール、駅前のカフェ、なんて、どこにでもありふれた出来立てほやほやのカップルみたいなデート。

 でも、僕はチョコレートのような糖度と言うより、気の合う友人と楽しむ鮮度の高い一日の方を愛してしまっていた。デートの一日は今でも鮮明で、克明、昨日のことのように思い出せる、

 

 ――三日前の出来事。

 別れ際、夕日差す駅前で、

「今日は楽しかった」と宇都宮に告げた。

 僕は、本当に、満面の笑みで告げた。

「本当に友達が出来たみたいでさぁ、楽しかったよ!」

「友達……」

 その時の宇都宮の表情は、初めて見る類の感情で、不満と言うより、不安。いつもの宇都宮なら絶対に見せないような《揺らぎ》が瞳の奥に合って、僕は即座にそれに気づいたのだけれど、すぐには察せれなかった。宇都宮はいったい、どんな気持ちでこのデートに臨んでいたのか。僕と言う人間に何を望んで、または何に臨むつもりだったのか。(のぞ)みを断ち切られた迷子の子供のような顔をして、宇都宮は問いかけたのだ。

「やっぱり、《俺》じゃ、ダメかな……」

 文脈がよくわからずに沈黙していると、宇都宮が唇を動かす。

 

「一人称は私が普通か? 俺なんて気持ち悪いよな……女のくせに」

 

 なんてかわいい悩みを持っているんだこの化け物は。乙女か、いや乙女化? とにかく乙女じみた悩みを持つこいつは、自分の一人称に悩んでいるようだった。

「やっぱり私か? 普通ってそうだよな? 普通の女の子って、私って言うよな? そうだよな?」

 しきりに確認を取ってくる様子から、こいつが不安で不安で仕方ないのは、すぐに分かった。元をただせば僕の発言や数々の行動が原因で、《恋人》のつもりでデートに臨んできた宇都宮に対し、僕はあまりにも友人のように接しすぎたのだった。振り返ってみれば、申し訳がなかった。これはデートだった。僕は宇都宮の期待のこと如くを、裏切って来たのだ。そういえば、しきりに身体を寄せてきたと思ったが、あれは――。あー、あー……。

 なんだ、こいつ。かわいいか?

 こいつの分身と、つい先日殺し合った仲で、急に惚れられて翌日のデートに巻き込まれたという急行列車のような関係なのだけれど。なんというか、素直に可愛いと思えた。でも、僕が台無しにしてしまったデートの話。僕が題無しにする夜の予定まで含めて、全ての罪をここで清算しよう。そんなあくどい考えがったことは否定しないけど、これからの言葉は紛れもない本心だ。

 

「宇都宮、僕のために自分を曲げるなよ」

 僕の話を聞いて、宇都宮はきょとんとした顔を作る。

「なんでだ? 好きな男に合わせるのが普通じゃないのか?」

「普通ってなんだよ」

「社会の一般的なロールモデル」

 即座に回答を示した宇都宮に、嘆息する。 

「それはそうだな。でもさぁ、僕たちが普通だと思うか?」

 宇都宮有は何にでも《変身》できる化け物で、僕はひょんなことからその化け物に惚れられた逸般人。どちらも当然普通じゃない。普通じゃないのに、この関係に普通を適応するのか?

 

「ここにあるのは月野(はじめ)宇都宮有(うとみやゆう)と言う二人の特別な関係。――なのに、自分から普通に落ちぶれてどうするんだよ。普通じゃないから、僕たちは面白い。僕たちは僕たちのままでいい」


 少し冗談めかして笑って、僕は悪戯心から、宇都宮の顎をクイっと持ち上げた。こいつの方がずっと僕より強い筈なのに、赤面して、ただ僕の言葉か行動を待っているのが面白くて、可愛くて、また笑みを深めた。

「最後まで自分を貫き通そうぜ。そもそも、個性を捨てるのは勿体ないよ」

 宇都宮はしばしの沈黙ののち、尋ねる。

「……俺は、俺のままで、いいのか……?」

「むしろ大歓迎だ。僕は、特別で、面白いものが好きだ。そういう人間だ。だから、わざわざ自分の価値を貶めるなよ?」

 なんて、言葉回し、いったいどこのマンガから引用したのだろうか? ああ、今、振り返ってみれば、なんてことを。熱に浮かれていたとはいえ、楽しかったとはいえ、ああ、そうだ、あの時格好つけたせいで――。

 

「月野♪ オレさ、オレさぁ、お前のこと、大好きだ♡」

 首元にキスを落とし続ける純情な少女が、《完成》してしまったのである。何がクリティカルだったのだろうか。よくわかっていないのだが、どうにも、あの発言は宇都宮の琴線に触れたらしい。 

 ちゅっちゅっちゅっちゅっと、まるでひな鳥が餌を啄むような速度でのマーキング。これはオレのものだと示すための行為。絶対に、他の《異星体》に手を出されないようにするための――匂い付け。

 

 そう、宇都宮は一つの可能性を危惧していた。それは、この街に複数いるらしい《異星体》の被害に、僕が遭うことだ。先日、僕は一ツ星相当の奴を倒したものの、アレは宇都宮の油断とシルバーバレットとかいうチート武器ありきの戦果だ。つまり、ごくありふれているらしき一ツ星の化け物と相対するだけで、僕はあっけなく死んでしまう。その為の、マーキング行為。デートの後から始まったこの行為は、今日にいたるまで続けられている。

 

『オレのモノだって分かるようにしといたら、よっぽどのことがない限り手は出されない』

 らしい。どうにも、宇都宮はこの地域の縄張りの主、かなりの大物であるらしく(三ツ星とはそういうレベルだそうだ)、この地域にいる《異星体》は、宇都宮のモノに手を出したら自分がどんな惨たらしい末路を辿るのかを察するらしい。とはいえ、やりすぎだとは思うが、しかし、一々宇都宮の家まで出向き、通い妻ならぬ通い夫をし始めている現状に、悪い気はしなかった。

 これが男の難しいところで美少女に好意を持たれている、ということがとんでもなく嬉しいのである。

「すぅー……、はぁ……っ。ンっ、すーっ――♡」 

 日を経るごとに宇都宮の興奮度合いが上がっていたとしても、やはり、男としては、嬉しいのであった。


「なぁ月野、キス、キスぅ……♡」


 せがむような上目遣いで、媚びるように僕を見つめる。

 唇をよこせ、と言っていた。僕には、それを今更、断る気にはなれなかった。断じて、僕が宇都宮に惚れているわけではない。今これは好きと言う感情ではなく、単なる好奇心に近い。

 

「んッ、ちゅるっ♡ ちゅむっ♡ むーっ♡」

 恍惚の表情を浮かべる宇都宮。

 僕はそっとその髪をなでると、えへへ、とはにかんだ。

「愛してる……♡」

 そう言って、再び宇都宮は、僕の唇を奪ってきた。先ほどより熾烈に、猛烈に、熱烈に、舌を絡めてきた。 

 さて、この化け物に愛されることによって僕はどう変わっていくのだろうか? 

 そうだ、あの死闘以降、僕は不思議なことに――自分の限界を試してみたくてたまらないという、一種の病に罹患していた。死線を潜り抜けた経験が、新たな性癖を開発したのだろうか。

 僕は気になって気になって、しょうがない。

 自分自身に対する好奇心、それが止まらない。

 だから、こうなるのも当然の帰結だったのだろう。

 

「なぁ、月野、いいだろ……?」

 唇が離れると、銀色の糸が引いた。宇都宮の瞳は、情欲と本能でとろとろに蕩けていた。

 彼女は僕のシャツを掴むと、懇願するように、あるいは獲物を誘い込む食虫植物のように、その肢体を擦り付けてくる。柔らかい胸の感触、上気した肌の熱、甘い匂い。それら全てが、理性を焼き切ろうと迫ってくる。

「なぁ、月野。キスだけじゃ、足りない……」

 潤んだ瞳が、僕を見上げる。

「わかるだろ……♡」

 言葉少なく、宇都宮は僕の股間をまさぐって来た。

繊細な指先が、ズボン越しに僕の膨張した熱源を捉えた。

 否定しようのなく、僕は勃起していた。

 健全な男子高校生が、絶世の美少女にこれほど情熱的に迫られて、反応しないわけがない。理性でどれだけ冷静さを保とうと、下半身は正直に白旗を揚げている。指先でその硬度と熱を確かめた瞬間、宇都宮の表情が一変した。

 とろり、と。

 蜂蜜を煮詰めたような、どこまでも甘く、蕩けるようで、そして卑猥な笑みを浮かべる。

「……ふふっ、すごい。こんなに、硬いのか……♡」

 どこまでも雌の顔を浮かべていた。雌雄はとっくに決していた。宇都宮有は、既にメスで、女だ。それを僕のモノにするのか、という選択肢が委ねられている。細い腰を掴むと、「あん」とわざとらしい嬌声を上げた。宇都宮は目を細めて、笑って、僕に向かって舌を伸ばす。それを認めると、《彼女》は心の底からの愉悦を浮かべた。

 

「ああ、オレ、お前のものになれるんだな……♡」

 

 そのまま抱きかかえて、雰囲気に合わせてお姫様抱っこをすると、彼女は何も言わず、ただ、コクンと頷いた。

  

「初めてだから、優しくしてくれよ……♡」


 優しくする努力はする、それは当然だ。

 だが、これは単なる性欲ではない。これは、確認であり、征服の総仕上げだ。かつて僕を見下していた最強の存在が、今、完全に無防備になり、僕を受け入れようとしている。その事実が、脳髄を痺れさせるほどの優越感をもたらしていた。

 それに、抑えられないのだ。知的好奇心が。

 

 僕はどこまでいける?

 

 この化け物を屈服させることが出来たら、この狂った世界で、僕は何者になれる?

 僕たちの関係は特別だ。

 普通なんかに貶めない。

 特別なものにする。どちらが上でどちらが下か、こいつの体に刻み付ける。少女をベッドに押し倒せば、その顔は歓喜の色で染まった。

 

「ッ――♡ よろしく、お願いします……♡」


 そして、その日、宇都宮有は僕の女になった。

この狂った世界で、何者になれるのか――退屈な世界を変えるコツ、というのがテーマです。


雄の宇都宮がログアウトしました。

雌の宇都宮がログインし、その日のうちにアカウントをハックされました。どんまい。

メス堕ち宮。


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