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僕はスライムとラブラブなハーレム生活を送れるかもしれない。  作者: 最条真
二章

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34『殺せば何かになれる気がした』




 腕のスマートウォッチが短く震えた。

 ちょうど一時間。逐次更新の得点票が、青白い画面に浮かび上がる。


【一位 スタープロモーションBチーム 47点】

(★★★:四体・★★:十一体・★:七体)

☆『星狩り討伐数』:三(六点)


【二位 渡辺探偵事務所Aチーム 34点】

(★★;八体・★:十八体)


【三位 スタープロモーションAチーム 28点】

(★★★:二体・★★:七体・★:五体)


【四位 渡辺探偵事務所Bチーム 27点】

(★★:六体・★:十五体)


            ・

            ・

            ・ 

 

 第二縮小が終了した。

 交流戦開始から二時間と十分が経過し、フィールドの半径は300メートル。


 ――その時点での得点。


 やはり『三宮(さんぐう)診療所』のAチームを壊滅させ、かつ三ツ星の討伐にも成功している【スタープロモーションBチーム】が群を抜いている。


 僕たちは、序盤の時点で、一位であるべきだった。

 序盤は、まだ戦場が広い。敵も味方も散っていて、他チームと正面からぶつかる危険が低いぶん、結姫乃の氷路で高速移動し、五十鈴先輩たちの索敵で異星体だけを効率よく討伐できる。

 広い盤面を“安全に高速周回できる時間”こそ、僕たちの独壇場だった。

 縮小が進めば遭遇戦が増え、機動力の優位は相対的に薄れる。

 だから、本当なら一位は序盤で掴んでおくべきだった。


 掴めなかった――。機動力の利点はうまく活かせていた。索敵力だって劣っているわけじゃない。『人に擬態していない異星体』の反応を見逃すほど、先輩たちはヤワじゃない。だというのに、この交流戦中、『三ツ星』の異星体を一回も見かけていない。

 

 異常なほど索敵に優れた何かと、圧倒的な速度で異星体を狩る化け物がいる。


『一緒に任務に赴かない限り、他の星団の情報が開示されることはない』と以前、結姫乃が言っていた。だけどこの異常な得点分布を――三つ星を独占している唯一のチームを見れば、この異変が誰によって引き起こされたものなのか分かる。

 後者については言うまでもないが、前者も同じ星団に所属しているとは。


 むしろ僕たちが二位を死守しているのが奇跡的なくらいだ。


 だが、この二位もこのままいけばこれまでだろう。

 序盤から中盤に移行し――僕たちの戦術的な優位は消え去ったといって良い。移動速度は徐々に求められなくなっていく。――中盤からは、『質』だ。


 不意に、森の明るさが切り替わった気配がして、僕は反射的に空を見上げた。


 木々の隙間、そのずっと上。曇天みたいに薄く濁った空に、不自然な影が浮かんでいる。落ちてきている。ゆっくり、けれど確実に、こちらへ近づいてきている。


 星だ。


 だが幸いにも以前見たときと大きさはそこまで変わらない。あの星の中には大量の異星体が詰まっていて、この地に落ちることで異星体が”孵る”。あの中には大量の得点源が詰まっている。


 劣勢に追いやられて、ふと僕は思った。



 ――あの星って、堕とせないのかな?




 僕は息を吸い、うなじのあたりへ意識を集中させた。


「《征服欲求(黒い触手)》」


 ぞわり、と黒い触手が二本、滲み出るみたいに伸びる。右肢と左肢――僕のもう一つの腕だ。僕は改めて空を見上げ、結姫乃の方を見た。


「……本当にやるのね?」


 僕が頷くと、結姫乃が小さく目を細めた。

 次の一拍で、足元から氷の道が唸るように立ち上がる。

 

 白く透き通った氷は坂を描き、枝を避け、幹を掠め、まるで天へ続く階段みたいに空中へ伸びていった。


 僕は走り出し、昇る。

 勢いをつけて、駆ける。


 笑みを浮かべて、宣言する。


「【極点α:(にら)がる怨恨渾歌(えんこんこんか)


 僕の燃え上がる鼓動が触手自身に伝わるように、メラメラと燃え盛る――挑戦に夢中な僕の気持ちを火種に、着火する。

 煌々と輝き、滾々(こんこん)と湧きあがり、――構想をすべて破壊する。


 紫色の炎は、僕の背に。羽のように。


 

 飛べる気がした。



 結姫乃の階段の生成スピードを超えて、僕は走っていた。

 まるで光になったみたいだ。いや、今の僕は炎か。

 高揚感を感じる。熱が全身を駆け巡っている!


 ああ、思えば退屈だった!


 お行儀よくルールを聞かなきゃいけないのも正直かったるかったし、頑張らなきゃ死ぬとか、ふざけんなよって話だ! チーム戦だってそうだよ、なんでチマチマ雑魚を倒さなきゃいけないんだ!? もっと胸躍るバトルは? 戦いは? 僕の見せ場は?

 

 ああ、ここだっけ。



『あなたは馬鹿ね。どれくらい馬鹿かと言うと、例えようがないくらい馬鹿ね。馬鹿に付ける薬はないとはこの事だわ』


 続く階段はないというのに、僕は頂点部分から飛んでみた。その言葉を思い出したのは、単に僕自身が僕のことを馬鹿だと思ったからだ。地上から何百メートル離れてると思ってる? 落ちたら即死・即退場――でも結姫乃が遅いからさぁ。


 飛んだ方が早く”アレ”に届く。

 

 異星体を孕む星。

 間近に迫る星。

 当たっても即死だ。

 


 じゃあ砕けばいい。



 やれるはずだ。

 怖がった時点でお前の負け。

 星のことを殺してみよう。


 高揚を力に変えろ。

 感情を種に、この紫紺の焔は昇華する。


 もっと上へ。激情を世界に轟かせろ。


 楽しめ! 


 楽しめ!!


 楽しめ!!!



「――《やろうぜ、宇都宮》」



 スキルの宣言として、正しかったのだろうか、それは。今、僕の中で《融和》している宇都宮に対して呼びかけただけ。《極点》《融和》――僕の持てる手札は全て尽くして、最後に呼ぶのが彼女の名前と言うのが、なんというか、僕らしい。名前を呼ばれるだけでうれしそうにするのも、お前らしいよ。


「――うははははははは!」


 僕は笑って、星に向かって触手を振りかざした。




■ 


 あの星を砕く、眩しく鮮烈で禍々しい紫紺の炎を目にした。空から飛来する星に、真正面から破壊しようとする馬鹿がいた。それだけで虚木の心は歓喜に満たされたというのに――壊しやがった!

 

 まったく、とんでもない奴がいたもんだ!


 どんな頭の構造をしていたらそんな発想が出るのか、一度問いただしてみたい。星を破壊しようなんて、虚木ですら試そうと思わない!


 やってやれないこともある。その例があれだ。星団全てが、あの星に近づくのはむしろ避けていたくらいだ。地上との衝突の瞬間に発生する爆発は相当な威力だ。空から飛来する星は避けなければいけない――交流戦の隠れルール。それをあれは、月野は破壊したのだ! 遠目からはあの炎しか見えない。誰か、なんて分かりっこない。


 だけと虚木は直感していた。あれは間違いなく月野だ。


 期待期待期待期待期待――期待大!


 彼と戦ったら、めちゃくちゃに楽しそうじゃないか。

 

 知らない、分からない、ただ、楽しそう。


 ――天国に行きたいし地獄に落ちたくないのもホントだよ? でも人生は楽しまないと損じゃん?


 わかってる。

 走り出したこの足が、指揮を無視するこの頭が、うすっぺらで、馬鹿で、何も考えていない人間の、”欲深い”行動であることを。


 みんなあるだろ。

 欲の一つや二つ。

 食欲性欲睡眠欲に始まり――所有したい、負けたくない、満たされたい。

 いろいろな欲、自分自身の熱が。



 素直に欲に従うオレって、意外と純粋なのかも。

 


 今この瞬間以外要らない。オレは昔から熱しやすく冷めやすかった。その瞬間は本気だったはずなのに、振り返った時には何も残らないから本当に馬鹿みたいだなって昔から思ってる。彼女も二人いたよ、もう声も名前も忘れたけど。だってその時は本気で好きだったわけだし、そもそも相手からフッたんだから一々オレが感傷に浸る必要なくない?

 満点の人生は送れてないよ。反省はあるけど後悔は一切してない。オレはさ、ただ生きたいわけじゃないんだよね。


 人生って大抵のことは何とかなるじゃん。

 人に頼ればいろいろ削れば生きてはいける。


 でもそれって、ただ生きてるだけ。

 何かしようとしてないじゃん。


 オレはさ、何かしたいの。

 すげぇ偉大な何かになりたい。

 世界一の男になりたい。


 頭のいい奴とかはすぐ現実見ろってうるさいよ。

 でもやってみなきゃわかんねぇだろ。

 無理だって言われて一々諦めてたら、誰も何もできねぇだろうが。

 

 子供が夢見ずに誰が夢見るんだよ。


 オレは、何かになる。

 何かにならないと、退屈で生きていけない。


 だから。



「は、ははは、」



 辿り着いて、尚も燃えている紫色の炎を見て、笑みがこぼれて。

 


「いいね、なんだよ、その炎――!」


 

 銃を構えた。



 お前を倒したら――オレも何かになれる気がしたんだ。



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