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僕はスライムとラブラブなハーレム生活を送れるかもしれない。  作者: 最条真
二章

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32 無心VS野心(予兆)

 甘く温かい日向の匂いが、唐突に冷たい消毒液のそれに切り替わったような。

 重い瞼を開けると、視界を覆っていた青髪の代わりに、無機質な白い天井が目に飛び込んできた。

 病室で、白い患者福。僕が眠っている間に、医療の世話になっていたのだろう、と言うことは容易に想像できた。それを裏付けるように傍らのパイプ椅子に座っていたのは――

「よう、起きたか」

「どうも。……アザミさん」


 白衣を着た紫髪の美女。アザミさんが睨みつけるような表情でそこに座っていた。腕を組み足を組み、何から何まで態度が悪いこの人ではあるが――確か『星見科学研究所』の副所長と言う話で――……僕は医療と言うより、マッドサイエンティストのお世話になったのかもしれなかった。

「体調はどうだ?」

「……。普通、ですね。たぶん。……なんともないです」

 僕が眠っている間にどんな処置をされたのかは分からないが――電流が増幅した気配は感じる。ただし、痛みは感じない。そういう状態になっていた。

「へぇ、副作用もなしか。意味わかんねぇな、お前」

 アザミさんは口を三日月に歪めてケラケラと笑った。

「副作用と言うと……?」

「肉体に電流の耐性を持たせるために薬剤を投与したんだよ。……ほら、これ」

 アザミさんが懐から取り出したのは、白い袋に収められた一つのカプセル。一目見て、不自然に”赤い”と、そう思った。


「これは私らの間で『R(レッド)』と呼ばれる薬だ。『R』は肉体強化の薬。反対に『W(ホワイト)』ってのもあって、そっちは精神強化の薬。『B(ブラック)』は――今はいいか。ともかく、私らは『液体に濃縮したR』を適切量投与した」

 

 手をぐーぱーと開く。一切違和感がない。薬が投与されたという事実も、あまり感じない。むしろ伝達速度が速まった分、前よりもずっと自由で、ある種、枷から解放されたような気さえする。薬ってのは人間に不自由を強制するものだと思っていたけれど。


「普通は、副作用があるような薬なんですか?」

「ああ。肉体を強化した分、精神が脆弱になる。逆もまた然りだ。原則的には等価交換。飲めば飲むほど強くなる素敵な薬なんかじゃねー。別の所から能力を補完するだけ。……で、――《何か感じないか?》」

「いえ、特に……?」


 アザミさんは半目になって僕をにらみつけた。


「……マジで?」

 

 質問に対し、頷いた。のだけど、アザミさんは顎に手を当てて何かを思索するばかりだった。……何か問題があったのだろうか。


「私の時と同じだな」

「アザミさんと?」


 彼女は頷き、野暮ったく跳ねまわった髪の毛を掻きむしった。それから、しばらくして、はぁ、と深い溜息を吐く。


「後見星が、代わりに代償を払ったんだ」


 ……僕の場合――エルが?


「稀にあることだ。別に、等価交換の原則はぶち壊れちゃいない。バックについてる後見星が、人間の代わりに代償を支払う――だが、それだけの余裕があるのは”神格”だけだ。……お前、後見星の『格』は?」

「……五ツ星」

「道理で」

 

 アザミさんは納得したように立ち上がった。


「おい、会場に戻るぞ。この扉をあければ、応接室につながってる」

「……ここって、コテージ内の部屋じゃありませんよね?」

 

 ましてや、応接室につながる扉は廊下にあったはずで。



「うちの所長の能力だよ。深いことは考えなくていい。戻るぞ。あっちにお前の着替えもある」




 交流戦最終日・午前十時。着替えを終えた僕は、各星団ごとの『会議』タイムとのことで、コテージ内の小会議室へと集められていた。当然のように僕の隣には人型の宇都宮もいて――さも当然かのように結姫乃も座っていた。


「……愛理知ってるのです。あれは、『両手に薔薇』ってやつなのです」

「あたしは思うんだけど、あれは両手に花ってやつじゃないかなぁ」

「いいえ、ミヤビちゃん。二人ともやべーくらい美人ですけれど、誰もが近寄りがたいオーラがあるのです。刺々しい奴なのです。スイカ割りもキャンプファイアーの時も超超超怖かったのです!」

「何それ僕知らない」

「だって初くん寝てたじゃないですか」

 愛理は真ん丸な瞳をこちらに向けて、あっけらかんと言った。

「僕だって寝たくて寝てたわけじゃないぞ?」

「でもそのせいで大変だったのです。結姫乃ちゃんはずーっと冷気を放つしミヤちゃんは時折お腹を撫でたら心ここにあらずと言わんばかりに虚空を眺めて……ホラーだったのですホラー! 愛理たちの所だけサスペンスが始まるところだったのですよ!」

「お、おう……」

 机をトンと可愛らしく叩いて力説する愛理。一体僕がいない間に何があったんだ、と顔を振って両者の様子を観察しようとすると、結姫乃は目が合った瞬間にそっぽを向き、宇都宮はじーっと僕の瞳を見つめてきて、気恥ずかしくなって僕の方から視線を逸らした

「ハーレムだねぇ月野くん。羨ましぃ」

「変わるか?」

「あたしはごめんかも。これは目の保養になるなって意味なのっ。…………いいよね、一人の男を取り合う女の子ってぇ……♡」

 恍惚に頬を染めて、感激したように灰色の瞳を輝かせるミヤビ。知らない類の性癖だ。ちょっと怖くなって目を逸らした先には、やっぱり愛理しかいない。


「お前が星団内唯一の良心か……」

「えへ、光栄なのです。やはり人間って、長く生きると穢れを知ってしまうのですね!」 周囲の女性陣を見回して面白そうに笑う愛理。

 結姫乃がじっと愛理を見たが、愛理はこてんと首をかしげるだけだった。


 ……肝座ってんな。大成するぞお前は……。

 

「そういや、五十鈴先輩と渡辺さんは?」

「五十鈴先輩と所長は事前打ち合わせでしょうね。主に交流戦のルール制定……かしら。会議を直接見聞きしたわけじゃないから詳細は分からないけれど……」

「また扉に耳を当てて全力で耳を澄ませればいいんじゃないか?」

 冗談めかして僕は笑った。

「前に試したけれど意味はなかったわ。シンプルに会議室の扉が厚いのよね」

 もうやってたのかよ。前から思ってたけど……意外と奔放だなこいつ。なんというか、普段は優等生のくせに、いざとなればルールを破りかねない怖さがある。

「結姫乃ちゃんって意外と不良なのです」

「愛理。あなたも時が来れば分かるわ。有意義な危険を冒すことの重要性をね」

「あと厨二病の気配もあると思うのです」

 図星なのかなんなのか、室内の温度が体感一度低下した。

「愛理ちゃん黙ろう! あたしっ、これ以上室内温度を下げたくないっ!」

「むぅ。……どうぞ話をお続けください、なのです」

 いつの間にか握られていた会話の主導権を返却され、結姫乃は『やれやれ』とでも言いたげに溜息を吐いた。それから、コホンと咳ばらいを一つしてから続ける。



「まぁ……。もう言ったような気がするけれど、おかえりなさい、月野くん。休養は十分取ったわね? 当然だけれど、――ここからが本番よ」

 

 分かった、と僕は頷いたのだけど――恍惚とした顔でずっと僕の腕に抱き着いてくる宇都宮のせいで、絶妙に締まらないな、と我ながら思うのだった。


 


「――さて、交流戦のルールを説明する」

 

 ほどなくして帰還した渡辺さんと五十鈴先輩がホワイトボードに立つ。水性ペンを持った五十鈴先輩が、ホワイトボードに『交流戦・ルール説明』と可愛らしい字で書き記す。それから、相変わらずの黒スーツを着こなした渡辺さんは話し始める。


「まぁ、一言で言ってしまえば『変則型バトルロイヤル』だ。まず参加人数の話。


『①星団内から、三人一組のチームを”二つ”選出する』


 星団内で参加できるのは、最大六人。ぶっちゃけこれは、アタシたちの人数に合わせるためのルールだな。他の所は誰が参加するかで会議時間を費やすと思うが、うちは当然、全員参加な。質問はルールを説明し終えてから受け付ける。そんなに長くないから一瞬だけ集中しろ。


 次。交流戦の会場について。

 月野はいなかったが――二日目に全員で偵察した『森』が会場だ。

 マップは後でスマートウォッチの方に送付する。


 森の具体的な広さと、安全地帯の縮小の話をするぞ。


『②交流戦の会場となる”森”は、開始時半径500mの広大な広さを誇っているが、開始から”一時間”が経過することに”星魂を削る霧”が現れ、フィールドの縮小を余儀なくされる。


 午後一時:半径500m(開始時)

 午後二時:半径400m

 午後三時:半径300m

 午後四時:半径200m

 午後五時:半径100m


 一時間ごとに百メートル減だ。……霧に長い間滞在するのはご法度だぞ。アタシですら、五分滞在すれば星魂が尽きるほどの霧だからな。付随するように説明するが、


『③星魂がゼロになった時点で”強制退場”』だ」



☆ここまでのまとめ


『①【参加人数について】

 

 星団内から、三人一組のチームを”二つ”選出する。(計6人)』


『②【会場/縮小について】


  交流戦の会場となる”森”は、開始時半径500mの広大な広さを誇っているが、開始から”一時間”が経過することに”星魂を削る霧”が現れ、フィールドの縮小を余儀なくされる。


 午後一時;半径500m(開始時)

 午後二時:半径400m

 午後三時:半径300m

 午後四時:半径200m

 午後五時:半径100m(最終時)』


『③【退場要件・1】


 星魂がゼロになった時点で”退場”』


 

 おお……五十鈴先輩がホワイトボードにまとめてくれてるお陰で、視覚的にわかりやすい。だが、まだ説明も序盤と言うことなのだろう。

 何をしたら勝利なのか、見えてこないな。チーム戦なのはなんとなくわかるが……。


「説明を続ける。『勝利条件』についてだ。森の中には各星団二チーム・計八チーム、合計で二十四人の星狩りが一堂に会するわけだが――お前らに競ってもらうのは、異星体を狩る”速度(スピード)”と”(クオリティ)”だ」


「よくわかんねーのですルカさん!」

 

 愛理が手を挙げながら起立し、勢い任せに質問した。

 それに対し、渡辺さんはくしゃっと人懐っこい笑身を浮かべながら説明を続ける。


「愛理でもわかるようにルカさんが分かりやすく説明してやるから安心しろ? まず、森には、『星座』の協力のもと、複数の異星体が”降って”くる。等級は《一ツ星》~《三ツ星》の間だ。そして、そいつらを倒すたびに『得点』が付与される。得点は『等級』と同じだ」


(例:一つ星=1点、三つ星=3点、など)


 五十鈴先輩が注釈を加えながら書き足していく。


『④【会場/異星体について】


 会場となる”森”には、『星座』の協力のもと、複数の異星体が降ってくる。等級は★~★★★の間。異星体が保有する星の数だけ、倒した際、『チームの得点』として加算される。原則的に、降下してくる異星体は《怪獣型》である』


 ん? 怪獣型って――……。


「《怪獣型》ってなんですかルカさん!」


 すげぇ、僕の代わりに質問してくれる。

 さすが愛理。略してさす愛。やっぱり買うプリンの数は四個にしてやろうか。


「そっか。愛理ちゃんは実戦経験がほぼないもんね。これは私のミスだなぁ。いい機会だから、ここで覚えちゃおっか!」

「わかったのです!」

 

 愛理が満面の笑みでピースサインをした。

 それを見て、五十鈴先輩は満足げに微笑む。


「《怪獣型》っていうのは、パッと見て『モンスター』だ! ってなるものだよ。”地球上に存在せず、星たちの世界に存在する人間以外の動物”がこの定義に当てはまるかな」「化け物ってことなのです?」

「化け物ってことなの! よくわかったね愛理ちゃん偉い!」

「ふふん、なのです」

 

 腰に手を当て満足げに頷く愛理は、ふと、今自分が立ちっぱなしなのを思い出したらしく、椅子に座った。どうやら満足したようだ。

 頃合いを見計らって、渡辺さんが続きを喋る。


「異星体を倒した際の得点は『等級』と同じと言う話はしたが、これはお前たち、《星狩り》にも同様に適応される」

「ん?」

 ミヤビが疑問を漏らす。

「簡単な話だ。《異星体》以外を倒してもポイントが入る。例えば、――敵チームの星狩りとかな」

「……。殺し合いってこと?」

 ミヤビが尋ねると、『まさか』と言わんばかりに渡辺さんが首を振った。


「お前らの安全は担保される。参加者は全員、《星の装甲(アストラルガード)》をかけられ、等級に比例した『装甲』を手にする。また、星座たちの助力によって、装甲を超過したダメージは”無効化”されるが――装甲がゼロになった時点でゲームオーバーだ。お前ら星狩りの退場要件は基本的に二つ。星魂か装甲がゼロになるか、だ。ちなみに退場した時点で、星座の力によって”森の外”にワープさせられるからな」


『⑤【星狩り/装甲の仕組み/倒した際の扱いについて】


 星狩りを倒しても得点は加算される。異星体と同様、加算される得点は星狩りが有す星の数である。また、星狩りは事前に『装甲』を付与される。倒す=装甲をゼロにする。星魂をゼロにする他、装甲がゼロになっても”退場”する」


「次で最後だ。まとめていくぞ」



『⑥【得点の集計と順位付け・勝利条件について】


 会場内にいる「各星団2チーム(計6名)」が獲得したポイントは、最終的に『星団ごとの総合計点』として合算される。タイムアップ(五時十分・最終エリアでの十分間の生存)を迎えた時点で、この合計点が高い星団から順に『第一位~第四位』の順位付けが行われる。※チームが全滅したとしても、それまでに獲得した得点を計上する。


 本交流戦は、以下のいずれかの条件を満たした時点で終了となる。


条件A(得点勝利): タイムアップ時(五時十分)に最も多くのポイントを保有していること。


条件B(全滅勝利): 制限時間やポイント数に関わらず、『自分たち以外の3つの星団を全滅させた場合』、その時点で生き残った唯一の星団の『第一位』が確定し、その他は倒された順に順位が付けられる』




 ――以上六点。

 これからは質疑応答を受け付ける……が、疲れた奴は席を立って休憩してもいい。十分後には戦術の説明に移るから戻ってくること。よし、じゃあ結姫乃から――――。 



 



「よう、月野クン」


 森の前の集合した星狩りたち。交流戦に参加を表明したチームは、腕に腕章をつけることになっていた。僕の腕章には、『渡辺探偵事務所Aチーム』と表記されていた。

 虚木先輩は『スタープロモーションBチーム』。

 そして、《星狩り》のための制服の着用も義務付けられている。

 普段、『仕事』の時に使うような――制服は、濃紺を基調とした、ブレザータイプの戦闘服と言われているのだけど、――一見して学生服。この制服につられて周辺地域から人気が出そうな――洒落な学生服すら、星たちを喜ばせる演出の一環。

 十八歳以下は、ほとんど制服の着用が義務付けられうのが常だ。十八歳以下は、この制服を着用するだけで経験値ブーストがかかる。しかも、暑いときはブレザーを脱いでワイシャツ姿で活動してもいいという寛大っぷり。だから、僕含めて半袖ワイシャツ姿の星狩りたちの姿が散見された。

 ――のだけど。


「熱くないんですが、虚木先輩」


 虚木先輩は全然ブレザー姿だった。

 尋ねると、先輩はあっけらかんと笑った。

 

「まぁ、ファンサってやつだよ。ほら、半袖姿の奴らが増える分、ブレザーのオレが映えるじゃん?」

「なるほど……」


 僕は暑いし絶対にごめんだけれど。

 そんなところまでこだわるのか、流石三ツ星……。

 そういえば、僕も一応、三ツ星らしいのだけど……。


「オレ、今回の交流戦はマジで楽しみにしてるんだぜ」


 虚木先輩は笑うと、僕の肩に手を置いてきた。


「オレを楽しませてくれよ、《三ツ星》の月野クン」

「まさか、僕と戦いたいんですか? ルール上、得でもありませんよ?」

「それもいいねぇ。サシでやりあうってのも面白そうだ」


 僕は微笑む。『面白そう』――この交流戦におけるジョーカーからその言葉を引き出せたのが嬉しかったし光栄だった。でも、同時に、この人は、チームの事を何も考えていないんだな、とも思った。刹那的で個人主義。ただ自分の”興”のために交流戦を使い潰そうとする精神性は、上から眺めている”星々”と似通っているとすら思う。


 軽薄だ。


「良い試合にしましょう」


 僕は彼に向かって手を差し出した。笑顔を浮かべて、虚木先輩もそれに応じた。


 ………………対して強く握らないんだな。



 ――僕はアンタに、勝つ気満々だって言うのに。



 空を見上げれば星は輝いている。


 見せてやるよ。

 

 三ツ星になってからのデビュー戦。

 そして、初めての集団戦。仲間と協調して強大な敵を倒す楽しさと――相反する、突出した個の実力と言うやつを、同時に見せてやる。


 絶対に目を留めてやる。

 

 それから――僕はAチームの皆と集まって、森への転送を待った。

 ふわ、とした浮遊感。


 転送が始まり――――




 ――交流戦が始まる。





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