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僕はスライムとラブラブなハーレム生活を送れるかもしれない。  作者: 最条真
二章

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29 内側の熱



 ヒーローとは、英雄のことと、神話や物語などの主人公のこと。

 普通の人を超える力を持ち、社会にとって有益とされる行為、救世主としての行為を行う。





「あなたは馬鹿ね。どれくらい馬鹿かと言うと、例えようがないくらい馬鹿ね。馬鹿に付ける薬はないとはこの事だわ」


 応接室を出た矢先──『話があるわ』と強引に手を引かれ連れられたのは、結姫乃の為に用意された個室。お姫様が住んでいそうな天蓋付きのクイーンサイズベッドが中央に鎮座する豪奢なスイートルーム──にて。僕はベッドに寝転がるなんてことは許されず、有無を言わさず怖い顔をした結姫乃に正座をさせられていた。理由は分かっている。


「あなたが《星座審査》にかけられても構わないなんて、どういう了見かしら」

「……宇都宮を推薦してもらうために、必要なことだと思って」

「別の人間に推薦を頼めばいいだけでしょう。上辺を取り繕うのはよしなさい。そんなことは、あなたなら気づいていたはずよ」

「と言うか、なんで部屋の中のことを知って──」

「扉に耳を当てて全力で耳を澄ませていたわ」

「怖い!!」

「あなたを思っての行動だというのに、心外ね」

「僕だって心外だよ!! なんで正座をさせられてるんだ!!」

「あなたが自分の命を粗末にしようとしているからでしょう」

 ふわり、と沈み込むような最高級のマットレスの縁に腰掛け、結姫乃はすらりとした白い脚を優雅に組み替える。水着の上に羽織った薄手のパーカーからは、先ほどのビーチバレーの余韻なのか、ほんのりと甘い匂いが漂っていた。なんとなく、優しい匂いがした、気がする。


「……僕だって自分の命は惜しいよ」

「『惜しい』だけでしょう。いざとなればあなたは、自分の命を(なげう)つでしょうね。ここで死んでも惜しくない、そう思ったタイミングで」


 その言葉は、氷の刃のように僕の胸の奥深くを貫いた。

 反論しようとして、喉の奥で声が張り付く。僕だって自分の命は惜しい。死にたくないから、渡辺さんたちに自分の有用性を説いて交渉したはずだった。

 だが、結姫乃の透き通るようなアイスブルーの瞳に見下ろされていると、自分でも目を背けていた本性を白日の下に晒されたような錯覚に陥る。

 ──本当にそうか? 

 もし『大震災』を防ぐ決定的な盤面で、僕の命一つをチップにすれば全てがひっくり返るとしたら。僕は躊躇うか。

 いいや、躊躇わない。間違いなく僕は決死の判断をする。


 いざとなれば死ねてしまう。

 かつて話した気がするが、小さい頃の僕の将来の夢は仮面ライダーだった。普段冴えない男が『変身』して、誰かを助けるギャップ――それは家ではだらしないけれど、毎年患者から感謝の手紙をもらう僕の父親のようで――分かりやすく、僕はそれを目標にした。マントを羽織って町中を駆け回って、ジャングルジムで立体的な動きを練習して、いじめは絶対に許さない。馬鹿みたいで幼稚で、無邪気な善性に満ち溢れていたあの頃と――今の僕は、そう変わりはないのかもしれない。

 理想の自分であるためだったら――僕は――、


「確かに、死ねるだろうな」

「でしょう? 私を未亡人にするつもり?」

「気が早ぇよ!」

「今から考えて遅い問題でもないでしょう? あなたの自己犠牲の精神について」

「自己犠牲……んなつもりはないんだけどな」

 結姫乃は小さく顎に手を当て、美しいアイスブルーの瞳を伏せた。

 彼女は思考の海に沈み、やがて、氷が解けるような小さな吐息とともに、再び僕の瞳を射抜いた。

「そうね。私も言っていてしっくりこなかった。――自己実現。あなたは自己実現の手段として、自分の『死』を肯定している」


 その言葉が、やけにしっくりと来た。そうだ、僕は何かを犠牲にしているわけじゃない。自分の命をチップに、より良いものを得ようとしているだけなのだ。


「お前、そんなことよく分かるな……」


 素直に結姫乃の分析力に驚嘆する。特別自習室で出会った時から思っていたことだが、こいつは物事を多面的な側面から分析するのが上手い。賢さにも種類があると思うが、こいつは完全に分析力が秀でているタイプだ。将来は探偵とか向いてるんじゃないだろうか。


「……まぁ、あなたの妻になる女だもの。夫のことは深く理解しておかないとね」

「気が早ぇ……」

「あら、完全に否定しなくていいのかしら? 付け上がるわよ、私は」


 結姫乃はそう言って、水着の上に羽織った薄手のパーカーの上から、ぎゅっと腕を組んでみせた。

 その何気ない動作によって、彼女の豊満な胸部が下から無防備に持ち上げられる。パーカーの隙間から覗くたわわな双丘が、自己主張を始めているわけだ。

 それに加えて絶対的な美貌。『白雪』が似合う白磁の肌を、僕が朱に染めているという事実が、奇妙なほどに心地が良くて。

 僕はほとんど無意識的彼女との未来を許容してしまう

 それが余程嬉しいらしい。

 透き通るアイスブルーの瞳を細め、形の良い唇が笑い、ひどく甘くて嬉しそうな微笑みが僕の瞳に映し出された。


 綺麗だな。

  

 そんなことを思ってしまう時点で、僕は既に絆されている。


「意外と脈ありなのね」

「脈がなかったら死んでるよ」

「確かに、脈がなかったら殺してるわね」

「物騒だな!」

「お茶目なジョークよ」


 結姫乃はにっこりと笑った。

 ジョークならもっとわかりやすくしてほしい……。


「ともかく、私はあなたに死んでほしくないのよ。いざとなれば殺せる程に好きだから」

「……ジョークなんだよな?」

「ここではジョークと言うことにしておくわ」

 やべぇメンヘラ女なのかもしれない。

「……究極的には、自己実現の手段として自分の『死』を用いないでほしいのだけど、それは難しそうね。あなた、バカだし自我が強いし頑固だしひねくれものだもの」

「すげぇ悪口言ったな!」

「でも、男なんて、そもそも悪い生き物なのよ。だから、無理に変わらなくていいわ。というか、私が支えればいいという純粋な事実に気付いたもの」

 結姫乃は、まるで妥協するように溜息を吐いた。


「私があなたを死なせない。それくらい、強くなればいいというだけの話ね。話していて思考の整理がついたわ。もういいわよ正座はやめて。すっきりした」

 

 結姫乃は、憑き物が落ちたように晴れやかな顔つきになっていた。

「ほら、足が痺れる前に崩しなさい」

 ふわりとパーカーの裾を揺らしながら、結姫乃は軽やかな足取りで僕のそばに歩み寄る。そして、正座で固まっている僕の肩にポンと優しく手を置いた。

「言われなくても」

 僕は足を崩した。

「あ、でも。……怒っていないわけじゃないのよ、私。あなたの独断で《審査》に挑むなんて言ったこと。危険すぎるもの」

 至近距離で覗き込んでくる彼女の瞳には、こちらを咎めるような強さがあった。

「それは、……ごめん」

「はぁ。素直なのよね、あなたって。なんで可愛げがあるのかしら、腹正しい」

「可愛いことは罪なのか!?」

「時に罪になりうるわね。ちなみにカッコいいことも罪になるらしいから気をつけなさい。私の内側でミヤが悶えてるんだから」

 そう言って、結姫乃は自身の首を指さした。部屋に戻り、一目散に結姫乃の中に退散した宇都宮はどうやら彼女の中で悶えているらしい。……何故なのか。


「ミヤ曰く、『自分のものであると”証”を付けて欲しくなった』らしいから、気を付けることね。あなた、異星体を興奮させるフェロモンをまき散らしてると思うわよ」

「んなアホな……」

「ちなみに、どうにも……内側の異星体と、『感情』がリンクするらしいわね」

「へ?」

 

 間の抜けた声を漏らす僕の首筋へ、結姫乃は艶やかな吐息と共に顔を近づけた。

 普段の理知的なアイスブルーの瞳は、今はひどく熱を帯び、とろりとした湿度を含んでいる。パーカーの奥から漂う甘い香りと熱気が、僕の脳髄を直接痺れさせた。

「つまり、今の私がどれだけあなたを渇望しているか……ということよ」

 ぞくりとするほど甘い声。形の良い唇が弧を描き、僕を逃がさないとばかりに歪む。

「犯されたいわ」

 ひどく甘く、けれど逃げ場のない熱を帯びた声が鼓膜を撫でた。

 結姫乃は細い指先で、羽織っていたパーカーを無造作に肩から滑り落とす。布が床に落ちる微かな音すら、密室では異様に大きく響いた。そのまま彼女の手は、迷いなく首元のホルターネックへと伸びる。

 躊躇いなど一切なかった。細い紐が解かれ、彼女を縛っていた薄い水着がふつりと剥がれ落ちる。

 露わになったのは、暴力的なまでに豊満なおっぱいだった。


 おっぱいを見たことはある、が、見慣れている訳ではない。そもそも、有や宇都宮ならまだ、ともかく、結姫乃のは、完全に初見だ。

 目を覆うこともなく、直視。

 驚きもあったが、それ以上に欲望が勝ってしまった。

「ふふ……♡」

 どこか卑猥にほほ笑んだ彼女は、『運動』になることを察したのか、ビーチバレーの時と同じように、長い髪を一束にまとめ始めた。

 その最中、彼女は僕の一点を見つめて、ほほ笑んだ。

「良かった。お盛んなのね」

「僕はそうだけど……お前は後悔しないのか」

「愚問ね。好きな男に抱かれて嬉しくない女なんていないわよ」

「一時の過ちだったり……」

「当然ながらないわね。昂っている自覚はあるけれど……♡」

 言葉を紡ぐと同時、結姫乃は僕の太腿を跨ぐようにして、ゆっくりと膝を下ろした。

 いわゆる対面座位――完全に僕を組み敷くような、密着した体勢だ。あらわになった肌が僕の身体に直接触れ、彼女の柔らかな重みが下腹部にずしりと乗しかかる。剥き出しの豊満な双丘が、呼吸をするたびに僕の胸板へと押し付けられ、形を変えて淫らに擦れ合った。

「これで、もう逃げられないわよ」

 至近距離で見つめてくるアイスブルーの瞳は、理性を溶かし切った雌の熱を帯びてとろけている。僕の首に絡みつく細い腕と、肌から伝わる熱すぎる体温、

 そして鼻腔を満たす甘い香りが、僕の理性を退路ごと完全に塞いでしまった。


「逃がさないんだよ」


 僕は彼女の言葉をそっくりそのまま返し、無防備に晒された細い腰へと両手を回した

 そして、躊躇うことなく強く引き寄せる。

「んっ……♡」

 結姫乃の口から、微かな甘い吐息が漏れた。密着していたはずの身体がさらに隙間なく押し付けられる。

 逃げ道がないのはお互い様だ。僕の腕の中にすっぽりと収まった彼女の体温は驚くほど熱く、指先から伝わる滑らかな肌の感触が、僕の中に眠っていた雄の本能を完全に目覚めさせていた。


「最終確認だ。――いいんだな?」

 

 確認をすると、彼女は無言で、こくりと頷いたから――


 僕は彼女の唇を思いっきり奪った。

 口づけは冷たく、しかし内側は熱かった。






 


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