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僕はスライムとラブラブなハーレム生活を送れるかもしれない。  作者: 最条真
二章

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28 魔力



 重厚な応接室の扉が閉まり、アザミは糸の切れた操り人形のように、ソファーへと深く背中を沈み込ませた。

「……なんなんだよ、あのガキは」

 深い溜息と共に吐き出されたその声は、予想外のタスクに悩殺され、疲労困憊した女のそれだ。

「『傑作』だって言っただろ」

 対面で、渡辺が愉快そうにタバコを取り出す。指先に小さな炎を灯し、点火。

 紫煙をひんやりとした空調の風に溶かした。

「……どこで見つけてきた」

「拾ってきたんだよ。うちの優秀な職員が勝手にな」

「身辺調査はしたのか」

「一応な」

「結果は?」

「まぁそこそこのエリート家系の出身だったよ。道理であいつ、頭が回るわけだ」

 アザミは目を閉じ、先ほどの少年――月野初の立ち回りを脳内で反芻した。

 ただ感情任せに吠えるだけの子供なら、いくらでも見てきた。

 だが、あいつは違った。圧倒的強者である渡辺の暴力を前にしても萎縮するどころか笑い、即座に盤面の状況を把握し、自らの命すら交渉材料として躊躇なくテーブルに叩きつけた。――《星座審査》を、自分も受けるなんて、イカれてる。

 あまりにも前例がないことだ。

 だが、彼が初めての前例になりうる。


 奴の瞳の奥底には――《五ツ星》の星狩りが共通して持つ、強烈な熱を放つ星が棲んでいた。目を凝らせば凝らすほどに眩しく、引き込まれる魔性だ。眼力がある、とも言う。強者だけが持つ、『“目”で訴えかける“力”』が備わっていた。


 それは、『星の加護』の集大成だ。一定以上の加護を受けた人間が持つ、魔力。

 彼はその扉を開きかけていた。どれだけ《星間放送(スターストリーム)》で人気を博してるんだ、奴は。『殺す』と言った時点でとっさに反応したのもおかしい。振り返れば振り返るほどに、頭によぎる不自然。彼は畏れない。動かないなんてことがない。どれだけの化物と相対したとしても、きっと彼は――理性を超越した勝利の執着で動き続ける。


「頭が回るだけだったらもっと話は楽だったろ。あいつは馬鹿だ。利口なガキじゃない」「だから人気を呼ぶんだろ。『星』たちは賢いことなんか求めちゃいない」

「あいつ、既に《魔力》を帯び始めてるぞ。どうなってる。……新人だよな?」

「あぁ、星狩りになって一か月のな」


 絶句。アザミは言葉を失った。

 たった一ヶ月。

 その事実が意味する絶望的なまでの異常性は、長年の経験からわかる。

 アザミの背筋を冷たい汗が伝った。

 通常、観客たる星々の加護を集め、《魔力》を身体に宿すまでには、数多の死線を越え、何年にもわたって星を魅せ続ける必要がある。

 

 ――四年だ。

 アザミの身体が《魔力》を持ち始めたのは、星狩りになって四年目の、ある冬のことだった。それを、あの少年はわずか一ヶ月で成し遂げているのだ。

 魔力を持つ人間は、星狩りの中でも千人に一人の逸材だ。

 あの虚木響介を除き、一般の星狩りが《魔力》を持っているなんて話は、ここ栃木で十年は聞いたことがない。同世代に魔力を持つ人間が二人――それだけで、この世代は後世に伝えられるだろう。

 魔力を持つ、それだけで異常だというのに、よりによって、《星飼い》と来た。

 異常を超えて、もはや異次元だ。


「事が上に露呈しても、死なないかもしれないな。……まぁ、自由はなくなるだろうが」「それも避けたいからな。あいつには強くなってもらう必要がある。強くないと、自由は得られないからな」

「お前みたいに?」

「かもな」

 渡辺は短くなったタバコを指先で弄ぶと、重厚なガラスの灰皿へと無造作に押し付けた。

 ジジュッ、と微かな音を立てて赤い火種がひしゃげる。

 立ち昇っていた紫煙がふつりと途絶え、空調の効いた部屋の空気が一段と張り詰めた。灰皿に残された黒い焦げ跡だけが、静かに燻っている。


「で、私をわざわざ同席させた理由ってのは、『推薦』だけかよ? その話なら受けてやるよ」

 渡辺はくっくっくっ、と笑った。

「なんだかんだ甘いよな」

「利用価値がある以上、拒否する理由もねぇよ」


 アザミは自身の右手を持ち上げ、じっと見つめた。初の胸ぐらから手を離した直後から、指先が微かに震えている。

 恐怖からではない。自分よりもずっと年下の、青臭くて、けれど誰よりも巨大なエゴを持つ少年の熱量が、皮膚越しに伝染してしまったような感覚。

 熱い。未だに掴んだ指先が、星の熱に触れたように。


「いい男だった」


 あんな熱に当てられたのは、いつぶりだろうか。アザミが今まで出会ってきたどの男にも、あんな光は欠片もなかった。

 眩しくて、鮮烈で、憧れるようなただひたすらに純粋な光。


「まさか惚れたか? そいつは犯罪だぞ、アザミ」

「誰が惚れるか。ただ、私のお眼鏡にかなったって話をしてるだけだ」

「お気に召したようで何よりだよ」


 それ以上言い返す気にもなれなくて、渡辺のニヤニヤとした視線から逃げるように、アザミは目を逸らした。


「話が終わりなら帰るぞ。まだ今日中にやることがあるんでな」

「お前がやろうとしていることに関係がある話だ」

 

 渡辺は手を組んで告げる。



「端的に言う。最終日の『交流戦』――同盟を組まないか?」




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