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僕はスライムとラブラブなハーレム生活を送れるかもしれない。  作者: 最条真
二章

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26 誰が星を魅せたか


 ――真夏の太陽が、白く輝く砂浜と青い海を容赦なく照らしつけていた。


 コテージの南側に広がる広大なプライベートビーチ。そこに設営された公式規格のビーチバレーコートには、各星団から集まった《星狩り》たちが続々と集結しつつある。

 やはり異様なのは、全員が示し合わせたように水着姿であることだろう。

 なんでわざわざ水着なんだよ――と文句を言いたくなったら、空を見上げると良い。昼間だというのに、目を凝らせば、色濃い星たちが君を迎えてくれるだろうから。

「まぁじで昼間なのに『星』が見えるよ……」

「当然よ。この『交流会』は星たちの中でも人気の《イベント》の一つだもの」

 隣で、予想通りと言うか――水色のビキニ姿の結姫乃が、眩しそうに空を見上げながら言った。


「星はとにかく『娯楽』を好むわ。血生臭い極限の戦いも好きだけれど、こうして若者が水着で肌を晒し、必死に汗を流してバレーをする姿は、極めて効率的な『星へのアピール』――もとい、経験値稼ぎにになるのよ」

「だから恒例行事ってことか……」


「ちなみに初くん。パーカーは羽織らない方がいいわよ。肌の露出が多いほど『人気』が上がるもの」

「……じゃあ全裸になるのが最適解なんじゃねぇの?」

「下品なのはあまり好まれないわ。弁えなさい」

「なんで叱られてるんだ僕が……」

 とか言いつつ、とか言いつつ、渋々羽織っていたパーカーのジッパーを下ろして、それを砂の上に脱ぎ捨てた。真夏の太陽の下、晒された僕の肉体。

「……………………」

 隣で、結姫乃が小さく息を呑む音が聞こえた。視線が、僕の鎖骨から胸筋、そして腹筋へと這うように動いていく。星団の職務内容にもある『トレーニング』の成果は、如実に身体に現れていて――僕の身体は腹筋が綺麗に割れ、肩から腕にかけての筋肉のラインが、強烈な日差しを浴びてくっきりと浮き上がるナイスガイに変貌していた。

 一か月前じゃ考えられないことだが、とても普通じゃ考えられないようなことが次々行ったのだ。もともと細身だった僕は、すっかりとこの一か月で筋肉と仲良しになっていた。

「……意外と、がっしりしてるのね」

「日ごろから鍛えてるからな」

 結姫乃は、すぐに視線を外したが、その声は微かに上ずっていた。水色のビキニに包まれた彼女の胸元が、少しだけ上下しているのを僕は見逃さなかった。お前もお前で立派なものをお持ちだと思う。……男の場合はセクハラになってしまうので、そうやすやすと口に出せないわけだが。……目算ではFカップ――なんてハレンチな思考はいったん捨て、本題に移る。

「そういやミヤはどうした?」

「部屋に置いてきてるわ。万が一にもバレるわけにはいかないからね」

「そりゃそうか」

「そんなことより、よ」

 結姫乃が顎で指示した先には、現在進行形で設営されているコートがあった。

 

「どうやって優勝するか、考えないとね」


 ――事前の説明によれば、この余興のルールは以下の通り。

 形式は完全な二人一組のビーチバレー。僕はバディを決めていないはずなのだが、当然のように結姫乃は僕の隣に立っていた。まあ、拒否するつもりもないけども。あまりにも当然のように僕の隣に来たから、思わず吹き出しそうになった。愛いやつめ。


 さて、このビーチバレーの最大の特徴は、『各プレイヤーにつき、一つだけスキルスロットの解放を許可する』という特別ルールだ。

 ただし、相手プレイヤーへの直接的な攻撃スキルは反則負け。

 あくまで『ボールを落とさないため』にスキルを使えという制限付きの異能戦である。

「他の星団の能力を探る絶好の機会でもあるわ。特に罰ゲームはないけれど……勝った方が『星の加護』は期待できるでしょうね」


 結姫乃は不敵に唇の端を吊り上げた。

 砂という最悪の足場で、互いの能力と基礎体力だけを頼りに、広大なコートをたった二人で守り抜く。たかがビーチバレー。されど、これは立派な勝負だった。

「ま、どうせなら『優勝』しかありえないわな」

「わかってるじゃない、初くん。嫌いじゃないわ、というか好きよ」

「平然とした顔で好意を伝えてくるのはなんなの……」

「まぁ、私だもの」

「妙に納得感があるのが腹が立つ……」

「とにかく私たちはチームと言うことでいいわね。運営に申請してくるわ」

 そう言って、結姫乃はくるりと背を向け、運営のテントが張られた砂浜の奥へと歩き出した。

 真夏の強烈な日差しが、水色のビキニに包まれた彼女の華奢な背中と、スラリと伸びた白い脚を眩しく照らし出している。サラサラと揺れる水色の髪が海風に靡き、砂の上だというのに乱れのないその歩き方は、ただひたすらに綺麗で。

 我ながら、とんでもない美少女に好かれたもんだなぁ、と思った。


 ザザーッ、と寄せては返す波の音に混じって、他星団の連中の喧騒が聞こえてくる。

 白く輝く砂浜に、くっきりと影を落としながら遠ざかる結姫乃の後ろ姿を見送りつつ、僕は容赦なく肌を焦がす太陽の熱と、これから始まる『勝負』の熱に、思わず、笑った。


 優勝以外ありえない。




 結姫乃が運営テントから戻ってくるまでの間、僕は周囲の状況とこの『交流会』の全体像を冷静に分析していた。

 今回集まった星団は、僕たちのところを含めて全部で四つ。


①『渡辺探偵事務所』《小規模星団》:所属人数6人

②『三宮(さんぐう)診療所』《小規模星団》:所属人数?人

③『星見科学研究所』《中規模星団》:所属人数?人

④『劇団スタープロモーション』《中規模星団》:所属人数⁇人(少なくとも、虚木響介は所属)


 ――となっている。こうして数字に表すとうちの弱小っぷりがやばい……が、この交流戦には星団から全員が参加している、と言うわけでもなく、あくまで参加希望者のみが参加しているとのこと。

「じゃあうちにも参加してない人とか存在するんですか?」

 と、渡辺さんに質問してみたところ、


「うちの弱小っぷりを舐めるなよ」


 鼻で笑われた。自虐かよ。

 ともかく、コート内を見渡せば、全部で二十から三十人といったところか。

つまり、二人一組のペアを作れば、おおよそ十から十五チームが出来上がる計算になる。それに対して、広大な砂浜には等間隔で四面のコートが設営されていた。

「お待たせ。エントリー完了よ」

 運営テントから戻ってきた結姫乃の手には、防水仕様のスマートウォッチのような端末が握られていた。一つを僕に渡し、彼女は自身の腕にもう一つを慣れた手つきで装着する。

「これに、私たちの対戦スケジュールと指定コートが表示されるわ。全チーム参加・全四回戦よ」

「四回戦? 十数チームもいるのに、トーナメントってわけでもないのか」

「ええ。ランダムマッチングによる勝ち点制ね。ただ、完全な無作為じゃないわ」

 結姫乃は、砂浜でウォーミングアップを始めている他星団の連中、さらには見知った味方の顔をぐるりと見渡した。

「上空の星たちによる、『蓋然性』の干渉があるもの。星たちが面白いと判断する方向に流れるでしょうね。同じ星団の仲間同士で潰し合うカードも平気で組まれるわ」

「なるほどね。ちなみに勝ち点制って、具体的にどういう仕組みなんだ?」

 トーナメントなら勝てば進み、負ければ終わりの単純明快なルールだが、勝ち点制となると少し勝手が違うだろう。あまり聞かないルールだ。

 僕が首をひねると、結姫乃は薄く息を吐いて解説を始めた。


「文字通り、試合の勝敗や内容に応じてポイントが加算されていく方式よ。勝利で三ポイント、敗北でゼロ。ここまでは普通だけど、四つのコートの中で、一番面白い試合をしたと星によって認定されたチームには、双方二ポイントが加算されるわ」


 結姫乃の言葉を聞いて、僕は即座に試算する。

 全四回戦。

 単に全勝すれば合計十二ポイント。

 だが、『星の特別点』が厄介だ。

 仮に、三勝一敗のチームがいたとしよう。


 通常の勝ち点は九ポイント。しかし、そのチームが四試合すべてで『一番面白い試合』に認定されていた場合、ボーナスとして八ポイントが加算され、合計は十七ポイントになる。つまり、ただ無傷で全勝する(十二ポイント)だけでは、派手に魅せて一敗したチームに総合スコアで負ける可能性がある。

 優勝することを考えるなら二勝以下は論外・最大でも十ポイントなので思考から省く。最低三勝は必須。出来ることなら――当然だが、全勝してしまいたい。

 全勝+一~二回の特別点は欲しいところだ。


「あと、得点が近いチーム同士が次戦で当たりやすくなるから、後半になればなるほど実力者同士の潰し合いになるし――序盤に点を取っていた方が、『特別点』が入るチャンスも多くなると思っていいわ。実力者同士の伯仲した試合の方が、星も点を入れるから」

「じゃあスタートダッシュに失敗した時点で『詰み』ってことか」

「そう考えてもいいわね。それと、試合が終われば他のチームが対戦している間のフリータイムの過ごし方だけど、体力や『星魂』を回復する時間に充てるか、他のチームを観察するかの二択ね」

「あー。……スキルを使い過ぎたら偵察の時間も減るのか」

「そういうこと」

「よくできてるな」

「そうね。……これは余裕があればの話だけど、目の前の敵を叩き伏せつつ、横目で情報をかすめ取れたら尚のことよしね」

「勝ちながら他のチームを見るってことだろ? できるかな……」

「まぁ、できればよ。弱いチームに当たったらの話」

 

 そこで――ピピッ、と。

 僕が手首の端末に目を落としたその時。無機質な電子音とともに、第一回戦の一組目に組み込まれた僕たちの、対戦相手と使用コートの番号が、液晶画面に表示された。


 ――見覚えのある名前。


『五十鈴千代』

『雅安穏』


 ……初戦は、同じ星団の仲間だった。




 指定された第三コートへ向かうと、そこにはすでに二人の姿があった。

 ネットを挟んだ向こう側に立っていたのは、見慣れた顔――同じ『渡辺探偵事務所』の仲間である、五十鈴先輩とミヤビだった。

 

 金色のサイドテールと灰色のツインテールが水着姿で立っていた。


 金髪・五十鈴先輩が動きやすさを重視したスポーティな水着姿で、すでに軽くステップを踏んで砂の感触を確かめている。一方のミヤビは、花柄のビキニに身を包み、僕たちを見据えてニヤリと笑っていた。

「いきなり身内同士の潰し合いとは。星たちも本当に悪趣味だこと」

 結姫乃が呆れたようにため息をつく。

「いーや? あたしはワクワクしてるけどね。結姫乃先輩を叩き潰すチャンスだし」

 ミヤビが言うと、結姫乃も好戦的に笑った。

「ボウリングでもバッティングでも負けた分際でよく吠えるわ。片腹痛いとはこのことね」

「あはは」

「ふふふ」

 二人は不敵に笑いながら、ネット越しに握手を交わしていた。


「二人とも楽しそうだねぇ」

 五十鈴先輩は和やかに笑っている。

「まぁ、楽しそうではありますね……」

「うん。そこはよかったけど……同じ星団で組んでるとやっぱぶつかりやすいのかなぁ。無難な立ち回りは悪手っぽいなぁ」

「あー。……他の星団の人と組むって選択肢もあったわけですね」

「そうだね。知ってる同士の方がやりやすいけど……そうすると星に意地悪されちゃうみたい」

 五十鈴先輩は可愛らしく唇を尖らせて言うと、こちらに向かって手を差し出してきた。

「ま、決まった以上は仕方ないよね。いい試合にしよう!」

「もちろんです」


 ――そうして、強く交わした握手。



 そして、試合が始まる――。


 直前、


「《皮膚の歩行》」

 ミヤビが唱えた。

 直後、ポンッ、という気の抜けた音と共に、小柄だった彼女の身体が膨張を始めた。

「……は?」

 メリメリと関節が鳴り、全身の筋肉が異様に隆起していく。

 灰色のツインテールと可憐な花柄のビキニはそのままに、彼女の身長はあっという間に百八十センチを突破。僕を見下ろす、筋骨隆々の巨女が爆誕した。

 引き伸ばされた花柄の布地は驚異の伸縮性を発揮している。

 ともかく、予想外だった。

 なんかデカくなった。

「知ってるかな月野くん。筋肉はパワーなんだぜ?」

 ミヤビはにやりと笑った。

「さて、こっちも準備をするわよ」

「まさかお前も筋肉になるんじゃ――」

「アレと一緒にしないでくれるかしら」

「アレ呼ばわりとは度胸あるねぇ結姫乃先輩」

「黙りなさいミヤビ。せっかくの一枠をそんな使い方したら後悔するわよ。まぁ、あなたも初回だし、仕方のないことだと思うけど」

 結姫乃は、ミヤビを見ながらニヤリと笑って――


「《雪冬期》」

 結姫乃が短く紡いだその瞬間、真夏の砂浜を支配していた刺すような熱気が、文字通り『凍りついた』。

 彼女の身体から白い冷気が波紋のようにコート全体へ広がり、熱された砂が瞬く間に真っ白な霜で覆われていく。ジリジリと肌を焼いていたはずの太陽の光すら遮断されたかのように、ネットで区切られた空間だけが完全に異常な冬の領域へと作り変えられた。

「……寒ぃ」

 事前に戦略を聞かされていたとはいえ、やっぱり寒くて肩を抱きしめる。息を吐けば、白い吐息が空気に溶けた。体感温度は零度に近い。

 当然、影響を受けるのは僕だけではない。

「ひゃんっ! 何これ寒いっ!?」

 見れば、ネットの向こうで得意げに筋肉を見せつけていたミヤビが、巨大な身体を丸めてブルブルと震え出していた。布面積の少ない水着姿で零度。しかも筋肉が膨張した分、空気に触れる表面積が広がり、より急速に体温を奪われるという地獄の連鎖であった。


「筋肉は熱を逃がしやすいのよ。せいぜい縮こまってなさい」

「ちょっと待ってよ結姫乃先輩! 知らないスキルなんだけど!」

「鍛え直したもの。スキルの一つや二つ増えるわよ」

「知らないっ、寒いっ! 五十鈴せんぱ~い!!」

 ミヤビが五十鈴先輩に泣きつくと、彼女は仕方ないなぁ、と言わんばかりに笑った。

「《環境適応》」

 二本の指を立てた五十鈴先輩が宣言すると。途端にミヤビは活発に動き始めた。

「寒くない! 自由だ!!」

 わはは、と天真爛漫にはしゃぎまわるミヤビに対し、結姫乃は不敵に笑った。

「『使った』わね。そっちは、スキルを全て」

「まぁ、だよねぇ~……」

 五十鈴先輩は何かを悟ったように苦笑いを浮かべる。

「ん? どうしたんです五十鈴先輩?」

 ミヤビが問いかけると、五十鈴先輩は彼女の肩をポンと叩いた。

「じゃ、あとはミヤビちゃんの活躍次第だから、頑張ってね……」

「へ???」

 事態を呑み込めていないミヤビに、現状を知らせるように僕はスキルを宣言する。


「《黒い触手》」

 宣言した直後、僕のうなじの皮膚がドクン、と不気味に脈打った。

 熱を帯びた首筋から這い出るように、漆黒の流体で構成された触手が一つ、空間へとにじみ出る。それはまるで意思を持つ大蛇のように僕の背後で蠢き、氷点下の冷気に晒されても萎縮するどころか、獲物を求めて凶悪な先端を鎌首のように持ち上げていた。

「……ってことだ。こっちのスロットは、まだ完全に『攻撃』に回せるんだよ。しかもこれは、シンプルに肉体を強化するようなものじゃない」

 僕はそうして、地べたに座り込んだ。

「へ? どうしたの月野くん、戦わないの?」

「僕は戦わない。体力温存のためにもな。あとはこいつが勝手にやるから」

 僕の首元に生えた触手に、簡易的な命令を与えたのち、僕の仕事は特にない。


 バレーにおいて触手を使える優位性などは、単純な人体の強化をはるかに凌駕する。


 審判の笛が鳴る。

 さて、プレイボールだ。

 


◇ 

 

「まぁ単純な話、スキルは後出しで使った方が強いのよ」

 完膚なきまでの圧勝を決めた後、結姫乃はミヤビに向かって言い放った。

「一度使用したスキルは、スロットに登録される。少なくとも試合中にスキルの変更はできない。先に見せたら、後出しじゃんけんで対処される、ってことだよね~」

 五十鈴先輩が苦笑しながら言う。

 身体をもとの状態に戻したミヤビは、なんだか納得いかなそうに頬を膨らませていた。

「だって勝ちたかったんだもん……」

「意志が先行し過ぎなのよ、もったいないわ。あなたが所有しているスキルの中に、いくらでも有用なものはあったでしょう。『次』はそうしなさい」

「言われなくてもそうしますぅ……」

 拗ねたミヤビは、すっかり五十鈴先輩の背中に隠れてしまった。

「あらら」

 五十鈴先輩は少し困ったように眉を下げて、ぎゅっと後ろにいるミヤビの手を握った。「五十鈴先輩も、ミヤビを捨て置けばいくらでも戦いようがあったのでは?」

「まぁあるにあるけど、寒くてつらいのは私も同じだったし。素直に楽しめないなって思って」

「楽しみを度外視するような戦法ですみません」

 僕が謝罪すると、気にしないで、と言わんばかりにわたわたと五十鈴先輩は手を振った。

「いや、むしろ、よく本質に気付いたと思うよ? よっぽどの『好条件』がそろわない限り、この戦いはスキルの押し付け合いになる。『押し付け方』がうまいなぁ、って感心しちゃったくらい。触手には寒さが関係ないんだね。……ちょっと期待してたんだけどな」「まぁ、『あれ』は何にでも適応しちゃうので」

「うへ~。とんでもないスキル……。さすが『スピードスター』だね」

 いたずらっぽく、五十鈴先輩が笑って言う。

「照れるんでやめてください」

「にゅふふ、愛いやつめ」

 そういって、五十鈴先輩は無理くり僕の頭を撫でまわしてきた。

 抵抗できない。愛嬌のある人だった。

「……でもぉ、今のやり方って『特別点』が取れないんじゃないの?」

 ミヤビが口にした疑問は、ごもっともなものだった。

 盛り上がりもくそもない。

 一方的に蹂躙して、ハイ終わりじゃ、星が盛り上がるはずもない。

 ただ勝利しただけの三点がもらえるだけ――

「初戦はそれで十分でしょう」

 結姫乃が口を開く。

「所有する得点に応じてマッチングは決められるのよ。初戦は運ゲー、捨ててもいい。特別点を期待するのは次から。同様に、『勝った』チームと熱戦を繰り広げてもらうものでしょう」


 初戦は必ず勝つことを目標にする――その点でも、僕と結姫乃の見解は一致した。

 だって、勝てば勝つほど、強いやつと当たるのだ。

 その分、熱戦を繰り広げて『特別点』がもらえる可能性も上がるだろ?

 だったら初戦は特別点なんて狙わなくていい。

 勝てば勝つほどチャンスが増える仕組みなんだから、四分の一の運ゲーに挑む必要なんてない。勝者には機会があるのだ。


「ぬぁ、る、ほ、どぉ……」 


 説明に理解が追いついたようで、ミヤビは少し遅れて頷いた。

「じゃあ初戦は汚い手を使ってよかったんだ」

「言い方は悪いけど、そうね。『特別点』を狙えるほどの相手じゃないと思ったら、そうするといいわ」

「む……。……むぅ……!」

 何か言いたげなミヤビだったが、ここで何を言っても負け犬の遠吠えにしかならないと悟ったようで、口を噤み――


「お、覚えておけよー!!」


 と言って、明後日の方向にダッシュしていった。

「……三下かよ」

「本当はもっとすごい子なんだけどね」

 五十鈴先輩が困ったように笑った。

「じゃ、私はミヤビちゃんを追うから。健闘を期待してるよ、二人とも!」


 そう言って、五十鈴先輩はミヤビを追って行った。

 そして、二人きり。最短で試合を終わらせた僕たちは、通常より多いフリータイムがある。それに、休憩の必要もない。なぜなら、ほとんど消耗なしに、勝利することができたから。

「幸先よし、ね」

 結姫乃が笑ったから、僕も笑った。

 それから余裕をもって他チームの偵察を初め――


 僕たちは当然のようにそこから二連勝した。

 合計三勝。


 九ポイント。特別点ゼロ。


 別に、僕たちが特別点を狙わなかった、と言うわけではない。これはシンプルに、相手が悪かったというべきだろう。このルールには、一つ、重大な欠点がある。

 

 何故なら――


「おっ、月野クン! 次の相手は君たちか!」


 相手も同じく、三勝。

 九ポイント。特別点六。

 合計十五ポイント。

 

 ――この時点で勝ち目がない。


 確実に特別点を取り続ける、『人気』なチームと『不運』なことにも毎回組み分けが被った僕たちは、一度も特別点を取得することなく――特別点の全てを、そのチームに吸われていた。

「チッ……星も意地が悪いわね」

 結姫乃は、空をにらみつける。

 僕たちの初戦の横暴が、どうやら星の皆さんは気に入らなかったらしい。

「『合理的』に考えて、いい戦法だと僕も思ったんだけどな」

「そういうのはお嫌いなようね。……参考になったわ」

 そして、僕たちは第四試合の三組――正真正銘のラストバトル、最後の敵へと向き直る。


 そこにいたのは、サングラスがやけに似合うオレンジ髪の男と、赤色のツインテール、ワインレッドのビキニが似合う少女だった。

 言うまでもなく虚木響介。

 全勝・かつ、全ての試合で特別点をもぎ取った化け物だった。


「この時点でオレ達の勝利が確定してんのか……」

 

 虚木先輩は、腕のスマートウォッチで得点を確認しながら呟く。

「響介? あんた、ろくでもないこと提案するんじゃないわよ?」

「いや、普通につまんねぇなと思って。こんな勝負、星たちも盛り上がらないだろ? ――なぁ!?」

 彼は空に向かって吠えるように問いかける。

 星たちは明滅する。『そうだ』とでも言わんばかりに。

 それを確認すると、彼は三日月のように弧を描いた笑みを見せる。

「じゃあ、この勝負に勝った方が勝ちで行こうぜ! 敗者は勝者に全ポイントを受け渡すってどうよ!?」

「自分で勝手にルールを作るな……」

 赤髪の彼女が肘で虚木先輩を小突こうとしたところ、彼は華麗にそれを回避する。


「――どう思うよ、星の皆!」


 尋ねた。

 そして、彼の周りが不自然に輝いた。

 ピカピカと、金色のオーラに包まれた彼は、静かに笑った。

「オッケーだってさ」

 彼はオーラを霧散させるように腕を振った。


「どうして自分たちが損をするルールを……」

 僕が問いかけると、虚木先輩は笑った。

「だって楽しみたいじゃん?」

「まぁそれは確かに?」

 どうせなら楽しみたいよなぁ、分かる。

 あ、てか……どうせスキル使われたら負ける気がするし、提案してみるか。

「どうせならスキルも使わないようにしません? シンプルなビーチバレーで決着つけましょうよ」

「おお! いいね、それ」

 虚木先輩は白い歯を見せて笑って、僕に向かって手を差し出してくる。

「握手しようぜ月野クン。それが契約締結の証だ」

 そう言われて、僕は素直に手を差し出し、本日二回目の握手をした。



「……どうして男って勝手に話を進めるのかしら」

「馬鹿だからよ。好きにやらせておきなさい」

「貴方……大人ね」

「褒められて悪い気はしないわね。私は白雪結姫乃。あなたは?」

「緋川遊乃。よろしく……結姫乃」


 そうして、二人の女は握手を交わした。



 ピーッ!

 運営のホイッスルと共に、純度百パーセントのビーチバレーが幕を開けた。


「そぉい!」

 虚木先輩が無駄に華麗な跳躍。

 空中で一回転しながら放ったスパイクが、砲弾のような速度でコートを襲う。

「だぁぁぁぁっ――!?」

 僕は砂浜に顔面からダイブしてそれを拾う。

 スキルなしの誓いは完全に守られているとはいえ、そもそも《星狩り》の基礎身体能力が常軌を逸しているため、とんでもない試合になりそうだ。

「良いトスだな。だが、――喰らえッ!!」

「ぬぁぁぁぁぁあっ!!」

 男たちが無駄に熱血スポーツ漫画のノリで雄叫びを上げる中、女たちはどこか冷めた目でそれを見ていた。

「なんでトスを上げないの……?」

「馬鹿だからよ」

「どうして一球で返す、いや、返せるのかしら……」

「馬鹿だからじゃないかしら……」

「――僕は馬鹿じゃねぇ!」

 そう言って、とんでもない馬鹿力で帰ってきたボールをぎりぎりで拾い、結姫乃にトスを上げた。

「気が利くじゃない」

 そう言って、笑い――とんでもないフィジカルを持つ虚木先輩とは逆方向に、跳躍・結姫乃はボールを打ち付けた。

「緋川ちゃんボール拾ってぇ!!」

「何言ってんのよあんたバカバカバカバカ――!」

 そして、とんでもない勢いで、ボールは砂浜にめり込んだ。

 

 こちらの得点だ。

 緋川と呼ばれた彼女は、半泣きになって虚木先輩をにらんだ。

「あんた、私がスキルありきで《星狩り》やってるってこと忘れてるんじゃないでしょうね!」

「もちろんレディの情報なんて忘れるわけ――」

 そして、唐突で容赦のない肘打ちが、無防備に緋川さんに近づいた虚木先輩の脇腹にクリーンヒットする。

「馬鹿! 私があんな凶悪な球拾えるわけないでしょ! あんたが全部拾いなさい!」

「理不尽。……だけどそこがいい」

「笑うな変態!」

 続いての蹴り――男の弱点を狙った凶悪な一撃が、虚木先輩に着弾する。

「※%?$――!」

 声にならない悲鳴を上げ、虚木先輩がかがみこむ。

「早く立ちなさいよ。あんたがこの勝負に責任を取るんだから」

 傷害を加えた犯人は、腕を組みながら無表情で虚木先輩を見下ろしていた――!


 怖ぇ……!


「あなたもそうならないように気を付けることね」

「ひえっ」

 

 ――そこから試合はもつれにもつれた。

 ビビった男どもが本気を出したのも関係するだろうが、スキルという『ズル』ができない以上、これは純粋なスタミナと反射神経の削り合いになる。

 炎天下の砂浜で、僕たちは文字通り泥まみれ、汗まみれになってボールを追いかけた。 僕らがゼェゼェと息を切らし、ボールに食らいつく必死な姿ではなく――主に女性陣の乱れた姿――に、星たちは次第に盛り上がっていく。


「少しは男も見ろやぁ!」

 怒りのサーブ。

「同じこと考えてたァ!」

 虚木先輩が気合でボールを拾う。


「「……へへ」」


 男同士の謎の友情がはぐくまれつつ――それから、スコアは20対20のデュース。

 互いのスタミナが完全に底をつきかけた、極限のラリーが続くが、決着は不意に訪れる。ラリーの中、虚木先輩がこの試合一番の跳躍を見せた。

「オレの、熱き青春の集大成だァァァッ!」

 吠えるような顔で放たれた渾身のスパイク。

 大振りのフォームは僕の目にはっきりと捉えられていた。


 ――のだけど。


「あっ」


 虚木先輩が間抜けな声を上げる。

 

 すかっ。


 空ぶった。


 ぽとり、とボールが地面に落ちた。


「…………」


 虚木先輩は、落ちたボールを横目で追った。

「…………。…………、…………………………」

 それからしばらく考えた後、虚木先輩は鼻の下を指で擦って、


「はは、いい試合だったな」


 満面の笑みを浮かべたのだが――緋川さんに小突かれた。

「私たちの負けよ、バカ」

「でも、盛り上がっただろ?」

 空を見上げて、虚木先輩は、やっぱり満足げな笑みを浮かべていた。


 敗者から勝者へのポイントの譲渡。

 細かく計算するまでもなく、僕たちの勝利・完璧な単独優勝だった。



 だが、誰か星を一番魅せたかと言うと――やはり、虚木響介だろう。その認識は、《星狩り》の中で共有されるのだった。



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