24 交流戦の悪夢
○【chapter:4】
さて、八月中旬、夏休みも終盤に差し掛かり、課題を最終日まで貯めている愚か者たちが焦燥感を募らせる時期(当然、僕は夏休み最初の一週間で全ての課題を終わらせている)なのだが、《星狩り》には、その時期には特別なイベントが待っている。
――『夏期交流戦』。
複数の『星団』が貸し切りの土地に集結して、お互いのノウハウを教え合い、『最終日』には学びを活かして、『星団vs星団』の戦いが行われるというビックイベントだ。
このイベントが催される理由は、星団間の交流を深めたり知見を共有する他に、『星』たちを熱狂させる、という主目的がある。
野球で言う甲子園、アイドルで言う武道館ライブ。普段では考えられないほどの星が、空から《星狩り》の一挙手一投足を見守っている。
《後見星》がついていないものは、後見星を見つける絶好のチャンスであるし、星が大量に見守っていることから、《星の加護》による経験値ブーストも見込める。
ソシャゲに例えるなら期間限定の『限定ガチャ』を回せる上に、普段の倍のEXPブーストがついているようなもの。
《星狩り》である以上、強さを求める以上、参加しない手がないのが、『夏期交流戦』と言うイベントである。
会場までのバスなどはなく、現地集合。渡辺さんが希望者は車で送って行ってくれるそうだが、僕は訳あって、結姫乃と共に、『白雪家』自家用のリムジンで会場まで送ってもらうことになっていた。
白雪家の自家用リムジンは、高校生の移動手段としてはあまりにも過剰な代物だった。「とんでもない金持ちなんだな……」
「まぁ、名家ではあるわ。父が資産家でね」
革張りの広々としたシート。隣には結姫乃が座っている。
足元を見れば、そこには無駄にふかふかした絨毯が敷き詰められ、防音性の高い車内には、外の喧騒やエンジンの駆動音すらほとんど届かない。
まるで動く高級ホテルのスイートルームである。
「つくづくとんでもねぇ……」
今も、移動しているという実感すらない。
金持ちの車ってすげー。
「結婚したら毎日これを乗り回していいわよ」
「好きすぎるだろお前、僕のことが」
「私の愛は揺るがないわ。当然だけれど大好きよ」
顔色一つ変えずに、結姫乃は淡々と言い切った。
あまりにも淡々とし過ぎているが……一部のテンションが高い日を除けば、これが平常運転である。
「まぁ、会場に着くまで小一時間あることだし、目的の確認をしましょうか。初くん。『ミヤ』は連れてきているわね?」
「おう」
と、僕が後髪をかき上げてうなじを露出させると、そこからにょろっと、黒い触手が出てきて、口を形作った。
「ちゃんといるよ~」
「それはよかったわ。さて、私たちの目的は覚えているかしら?」
「宇都宮有を《星座》に認定させることだろ」
僕が答えると、結姫乃は満足げに頷く。
「そうよ。メリットは主に二つ。初くんが、ミヤと《融和》した力を公の場で扱えるようになることと、『有』が正式に《星狩り》と協力できるようになること。星座に認定されることは、人の隣人として認められることと同義よ。ちょろちょろと隠れる必要もなくなるわ」
「ねぇねぇ結姫乃。質問なんだけど、星座認定って簡単なの?」
「難しいわよ。『人類に友好的であり/人類に有益である』ことを、最低二人の『三ツ星』以上の星狩りに認められて、それから《星座審査会》に臨む権利がもらえるんだもの。そうね、私がいなければ不可能に近かったと思うわよ」
結姫乃は、得意げに腕を組んだ。
「渡辺所長には、すでに話を通してあるわ」
「……オッケーがもらえたのか?」
「『実物を見ないことには判断できない』そうよ。――まぁ、当然よね。でも安心しなさい。他の星狩りとは違って、理不尽に殺されることはないから」
「他の星狩りは理不尽に殺してくるみたいな言い方だな?」
「そういうこともないわけではないわ。《異星体》と言うだけで、目の敵にしてくる人もいるもの。最低でも二百万人。異星体の影響で人が命を落としているわけだしね」
「二百万人……」
途方もない数字だ。
「しかも、これは日本に限った話で、世界規模で見ればもっと多い。最低でも五百人に一人は《異星体》の被害者な訳だから、ミヤの取り扱いには細心の注意を払う必要があるわね」
「人をモノみたいに言わないでくれるかな~?」
宇都宮が唇を尖らせた。
「深刻な話なのよ。現状の実力を鑑みると、事態が露呈した瞬間に殺されかねないわ」
「僕と宇都宮、二人とも《二ツ星》相当の実力なはずなんだが――」
「関係ないわね。単純に、《三ツ星》からは格が違うのよ。それは、根本的な実力の違いというより、『解放されてるシステムの違い』によるもの」
「……システムの違い?」
僕が首をかしげると、以外にも宇都宮がその言葉に反応を示した。
「――《極点》か」
「ええ」
宇都宮の発言に、結姫乃は頷く。
「《極点》って言うのは?」
僕が質問すると、結姫乃は少しだけ声のトーンを落とし、真剣な眼差しで口を開いた。
「通常の星狩りや異星体は、最大四つのスロットに《スキル》をセットして戦うわよね。攻撃、防御、回復……四つの限られた枠の中で、リソースをやり繰りする。それが通常の戦闘。でも、《三ツ星》以上の領域で解放される《極点》は根本的に戦闘の仕組みを変えるものなの」
結姫乃はすっと指を一本立てる。
「極点を一言で表せば、『奥義』よ」
「《星戦》の中で撃てる《超新星》とかと違うのか?」
「あれは言ってしまえば借りものよ。ただ星の力を利用しているだけであって、人間の神髄ではない。《極点》は、星から力を借りるんじゃない。星から力を『勝ち取った』先にある、自分自身の力よ」
星から、力を勝ち取る……?
「《極点》には深度に応じて三つの段階があるわ」
僕の疑問を他所に、結姫乃は説明を続ける。
彼女は三本の指を立てていた。
「極点α、極点β、極点γと言う順よ」
「極点は三種類あるのか?」
「三種類と言うより、一つの事象が、どんどん『深度』を増していく、と言った方が正しいわね。大本は一種類よ。進化の段階によって、呼び名が違っているというだけ」
「大本は一種類なんだな?」
「ええ」
なるほど。
ヒトカゲ→リザード→リザードンってなるのと同じか。
進化して呼び名が変わっているだけ……。
「話をつづけるわ。三段階に分けられる極点だけど、それぞれに別の呼び名がある。
α:【予兆】・β:【侵食】・γ:【終末】と言うようにね」
「具体的にどう違う――ってか、スキルと極点って何が違うんだ?」
「そうね、簡単に相違点を述べるなら――《極点》はスキルスロットには登録されない。外部スロット扱いよ。四つの制限の外にある必殺技ね」
「それって、四つのスキルのほかに別枠でスキルが使えるって認識であってる?」
「まぁ、概ねそうね」
「ズルじゃねぇか」
「えぇ、ズルいわよね」
僕の言葉に、結姫乃は深く頷いた。
「ずいぶん詳しいみたいだが、ちなみにお前は《極点》を――」
「持っていると思う? あなたと戦った時、使わなかったのに?」
「すまん」
なんだかやけに圧を感じた。
分かり切ったことを聞くな、と言う感じだ。
「極点の説明はキリがないから、ひとまず、極点を習得する条件を教えるわね。極点を習得する条件は、《後見星》から【逸話】を譲り受けることよ」
「あん? 逸話を譲り受ける?」
よくわからん。
「とりあえず『極点α』について説明すると、契約する星座の『有名な逸話』を、物理的現象として、局所的に再現するモノ、なのよ」
「逸話の再現って、……具体的には?」
そこで、結姫乃は思案するように顎に手を当てた。
「私が知っていて、分かりやすい逸話だと――。
【極点α:|無限に追尾する無数の猟犬】。
『無数の猟犬が群れで獲物を追い詰める』という星座の【逸話】を、無数の跳弾と遠吠えのような音響で、局所的に再現する、『猟犬座』の極点かしら」
なんかカッコいい名前だな。
「具体的には何が起こるんだ?」
「強いて言うなら。……銃弾の分裂と無限追尾かしら」
「銃弾が分裂すんの?????」
「えぇ。更に追尾もしてくるわよ。『交流戦の悪夢』として名高いわよ、『猟犬座』は」
「なんか交流戦の敵側にいるみたいな物言いだな?」
「そういう意味合いで言ったのだけど」
なんとなくそんな気はしてたけれど。
「……交流戦って、勝った方が得なんだよな?」
「それは当然。というか、《星座》として認定されたいなら、最低限、今年の交流戦は、私たちが『優勝』する必要があるわ」
「実力が必要って話?」
「そういう話でもあるし……なんなら私たちは負けるわけにはいかないのよ。だって、最大級の『ズル』をするんだから」
「ズル……?」
僕が聞き返すと、結姫乃は告げた。
「あなたはミヤと《融和》した状態で交流戦に参加させる。そして、《三ツ星》の猟犬座――虚木響介に、単独で勝利してもらうわ」
「三ツ星……?」
三ツ星って言うと、もう有と同格なんですが……?
「えぇ、それに、彼は三ツ星の中でも格別。郡山のボスを単独で瀕死まで追い詰めた、四ツ星昇格筆頭候補よ」
……氾濫の原因じゃねぇか、おい。
◇
「ぶえっくっしょぉぉい!」
「うわ汚ッ」
「誰かがオレのことを呼んだ気がする……」
「自意識過剰のナルシストめ」
「そこまで言わなくてもよくなぁい!?」
虚木響介は、『夏季交流戦』に向かう車の中で、大げさに体を震わせる。
「はぁ。……勝てるんでしょうね?」
「知らね。つーか、オレは水着でビーチバレーとかスイカ割りとかBBQをしたい派閥なんだが」
「当然、それもやるわよ。『星』たちから『人気』にならないといけないんだから」
「よっしゃ。緋川ちゃんの水着姿見てぇ!」
「はぁ……」
赤色のツインテールの少女、緋川遊乃はため息をつく。
虚木のバディとして手綱を握られることを命じられた彼女だが、全くもって、この猟犬に命令を効かせられる気がしない。
それはいつものことだが、今回ばかりは事態は深刻だ。
今回の『夏期交流戦』で虚木が《四ツ星》へと至った場合――彼は勢いそのままに、『星団』からの独立を果たしかねない。
現状、日本に二十四人しかいない四ツ星――その、二十五人目に彼が数えられてしまえば、わざわざ星団でせこせこと下働きをする理由がなくなる。
『大規模星団』からのヘッドハンティングだって始まるだろう。
虚木は何事にもこだわらない。
こだわりがないことが、彼の強さであり怖さだ。
「……」
緋川は後部座席で静かに頭を抑える。
上からの命令は一つ。
『四ツ星に成る前に篭絡しろ』
手段は問わない、らしい。
「……帰りたい」
「オレの胸の中に?」
「殺す」
虚木のみぞおちを拳で抉りながら緋川が思うことは、何故こいつがうちの星団のエースなのか、と言うことだった。




