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僕はスライムとラブラブなハーレム生活を送れるかもしれない。  作者: 最条真
二章

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23『極上の融解を、いつかあなたに』



「あ、起きたー♡」

 ――太ももの中にいる。

「おはよう。ママには会えたか?」

 太ももと太もも、そしておっぱいとおっぱいの狭間にいる。

 僕はベッドで、二人の美少女に挟まれていた。川の字になって横になっていたところ、中央の僕が覚醒した形だ。そして左右を見回せば、青髪と金髪の美少女にサンドイッチされている。

 朝の柔らかな日差しがカーテンの隙間から差し込み、シーツの中にこもった甘いシャンプーと、彼女たち特有の甘美な体臭が鼻腔をくすぐる。僕の両腕を抱き枕がごとく抱き込む両者は、僕が目を覚ましたことに喜悦し、僕の頬にほぼ同時にキスをしてきた。

 ちゅっ、と淫らな音が耳朶に響く。柔らかな唇の感触と、肌越しに伝わってくる熱い体温。夢から覚めたはずなのに、未だ夢と見まがうような現実がここにあった。

 二人の少女がねだるような、とろけた熱い眼差しで僕を見上げてきて――。

「可愛いな」

 と、僕は心から思ったし、素直に口に出して言った。

 二人はさらに蕩けたような笑みを浮かべ、僕の腕により一層すり寄ってくる――。



 僕は世界有数の幸せ者である。自分のことを好きでいてくれる美少女に囲まれ、挙句、ヤリたい放題している現状を鑑みれば、僕は十分満たされている、と言える。だというのに、僕は何故、これ以上を――上の生活を目指そうとするのだろうか。五ツ星なんて非現実的だし、六ツ星なんて、人類未到達。


 なぜ高みを目指す?


 日常という名のぬるま湯に浸かっていればいいものの――。

 僕は――別に――そもそも、ただの一般人だったはずだ。

 なのに、僕は――



「――ついに『後見星』の力を引き出せるようになったのね」


 

 僕のうなじからは、黒色の触手が生え始めるようになった。

 翌日・渡辺探偵事務所――地下、『戦闘訓練場』にて。

正式に『ママ』に認められた僕の『能力テスト』は早急に行われることになっていた。《融和》によって引き出した力ではなく、この触手は、僕自身の『力』によるものだ。


 渡辺探偵事務所の地下に広がる空間――『戦闘訓練場』は、上の階にある古びた純喫茶の趣きからは想像もつかないほど無機質で広大な、白一色のフィールドだった。

 壁も床も天井も、未知の星間素材が練り込まれた白い何かで覆われており、冷たい蛍光灯の光が、辺りを薄暗く照らし出している。

 体育館ほどの広さを持つここは、星狩りたちが自分の能力をテストする、いわば試験場だ。僕の目の前では結姫乃が、興味深そうに僕の触手を見ている。


「すごいうにょうにょ動いてるわね。……それって自分の意志?」

「いや、ほぼ無意識だな」

「なるほど、初くんの卑猥な欲望によって無意識に動いている、と。ハレンチだわ。時に、その得体のしれない触手に、私のうら若き女体を絡め取られたらどうなってしまうのかしら……?」

「どうもならねぇよ! なんで即座にそういう発想になるんだ!?」

「でも――」

 結姫乃は薄く笑い、挑発するように胸を張った。

「……エッチなことができない触手なんて、触手の名折れだと思わない?」

「風評被害はやめて差し上げろ。というか、お前の触手に対する偏見がひどい。僕がやらないだけで、この触手さんは無限の可能性を秘めているんだからな……?」

「まさか、やらないだけで『できる』と言うの……!?」


 結姫乃はわざとらしく深刻そうな表情を作ると、自分の豊かな胸を隠すように両腕で身を抱き、あからさまに触手から距離を取った。

 ……たぶん、この触手でエッチなことは、できる。


「安心しろって。僕はやんないから」

「やっぱりできはするのね。……まさか、今日家に帰ってからはそれを使ってブイブイ言わせるつもり?」

「脳内ピンクかよ。人の目覚めたての能力を何だと思ってるんだ」

「……エロ触手」

「脳内ピンクがよぉ!」

「失礼な」

「失礼はどっちだ!?」

 僕が声を荒げると、呼応するようにうなじの触手が威嚇するように先端を尖らせた。

「あら、尖った。もしかして今、硬度も増してるのかしら……?」

「お前マジでいい加減にしろよマジでぇ――!」


 白雪結姫乃は、テンションが高いときは意外と下ネタにも奔放であった――。


「ま。実際、めでたいことではあるわね。これであなたが《二ツ星》であることを疑う者はいないでしょう」

 地下でのふざけた――もとい、有意義な能力テストを終えた僕たちは、一階の探偵事務所が併設されている純喫茶の裏手、所員用の共有スペースへと戻ってきていた。

 年季の入った革張りのソファに深く腰を下ろすと、冷え切った地下の空気とは違う、珈琲の焙煎香と埃っぽい紙の匂いが混ざった安心する空気が肺を満たしていく。

「というわけでテストお疲れ様。エロ触手くん」

「その呼び方をやめろよ脳内ピンク」

 結姫乃が共有の冷蔵庫から取り出してきた二つの缶ジュース。そのうちの結露した林檎ジュースの缶が、僕の頬にぴとっと押し当てられた。

 ひんやりとした感触に身をよじりながらそれを受け取ると、隣でプシュッ、と炭酸の弾ける音が鳴る。結姫乃は自分の分の葡萄スカッシュに口をつけ、小さく喉を鳴らした。

「……どう考えても、私はピンクではなくピュアブルーだと思うのだけど」

「髪色だけはな」

「ふふ、きれいな髪でしょう?」

 結姫乃はそう言って、悪戯っぽく微笑みながら自らの髪を指ですくい上げた。

 色素の薄い、まるで冬の湖面か氷の結晶を溶かして糸にしたような、透き通る水色。

 彼女がわずかに首を傾げると、さらりとした絹糸の束が肩口から滑り落ち、ふわりと冷涼な――けれど微かに甘いフローラル系の香りが僕の鼻腔をくすぐった。

「……まあ、認めるよ。綺麗な色だ」

 僕が素直にこぼすと、彼女は満足げに目を細めた。

「いつもそれくらい素直なら助かるんだけどね。一応先輩なんだけれど、私」

「良くも悪くも、先輩って感じしないな」

「失礼しちゃうわね。じゃあ何なのかしら。もしかして都合のいい女とでもいうつもり?」

「『テスト』にもすぐに付き合ってくれるし、実際都合はかなりいいよな……」

「殴るわよ」

「優良物件って話をしてるんだ僕は」

「じゃあ誰の手も付いていないうちに契約することね」

「お前なぁ……」

「冗談ではないわよ、別に」

 ステンドグラス風のランプシェードから漏れる温かなオレンジ色の光が、彼女の綺麗な横顔を艶やかに照らしていた。


 宇都宮も有もいなかったら、たぶん僕はこの女と付き合ってたんだろうな、現在進行形で。強引に迫られて、僕もそんなに悪い気はしなくて、そのまま流れで……。

 性格に多少の難があるとはいえ、美少女だしな。

「今すごく失礼なことを考えられた気がするわ」

「エスパーか?」

「そういうのは雅の特権よ。エスパーもエスパーで大変だとよく聞くけれど、あなたの心なら、私も読んでみたいわね」

「なんで?」

「好きだから」

 何を今更、とでも言わんばかりに、彼女はあきれたような笑みを漏らす。

 ――怜悧な少女の真っ直ぐな言葉は、共有スペースの少し埃っぽい空気に溶け込み、重く、甘い余韻を残した。結姫乃は、僕の動揺を楽しむかのように、スカッシュの缶を弄びながら視線を微かに動かした。

「慣れてるんじゃないの? こんなことを言われるのも」

「まさか。誰かの好意に慣れるのは芸能人かアイドルにでもならないと難しいよ」

「そう。まるきり脈なしというわけでもないのね、安心したわ」

「いや、もう少し絶世の美貌に自信を持てよ。はっきり言うとお前は史上類を見ないレベルの美少女だぞ」

 事実、僕の言葉に誇張は一切ない。

 白雪結姫乃という少女は、その名の通り白雪のように透き通った、色素の薄い白磁の肌を持っている。細く長いまつ毛の下には、髪色と同じ氷結の湖面を思わせる水色の瞳が神秘的な光を湛え、スッと通った鼻筋と、ほんのりと薄紅に色づいた唇は、作り物めいた冷ややかな美しさを際立たせている。

 それに加えて、制服のブラウス越しにもはっきりと主張する豊満な双丘と、すらりと伸びた手足の均整の取れたプロポーション。

 幻想を疑うレベルの美少女だ。宇都宮や有のように、一切手を加えていないのにこれだというのだから、末恐ろしい。

「あなたが私に靡けば容姿に自信が持てたかもね」

「さぞおモテになるでしょうに」

「有象無象からの好意に興味なんてないわ」

「ひでぇ」

「私は私が好きな人が私を好きでいてくれたら、それで十分なのよ。好きな人が私を好きって言ってくれるなら、それだけで幸せなの」

「意外と乙女だな」

「でしょう? 意外と私ってば健気なのよ。尽くすタイプなの。尽くす女なのよ、私。そろそろ嫁に欲しくなったころかしら?」

「唐突な押し売りをやめろ!」

「セールストークは勢いが大事なのよ」

「なんでお前が営業のイロハを知ってるんだよ」

「まぁ、私だもの」

「妙に納得感があるのが腹が立つ……」

「今なら安くしておくわよ」

「自分を安売りすな!」

「あら残念。冗談ではないのだけどね、別に」

「お前はもっと高望みしてもいいと思うんだけどな……」

「初くん以外の男なんてごめんよ。薄汚い男の欲望に晒されるくらいなら高飛びした方がマシね」

「なんで僕に執着するんだ?」

「忘れたとは言わせないわよ」

 そこで初めて、結姫乃は手元のジュース缶から視線を上げ、真っ直ぐに僕を射抜いた。

 先程までの悪戯っぽい小悪魔的な甘さは、完全に消え失せていた。

 色素の薄い水色の瞳が絶対零度の冷気を帯びて細められる。

 ステンドグラスの温かな光さえも凍りつかせるような、ひどく冷たく、それでいて奥底に仄暗い熱――ドロドロとした執着を宿した眼差し。蛇に睨まれた蛙のように、僕の背筋にゾクッと粟が立った。


「……まさか、本当に忘れたの? 夏期講習で、あなたが私に見せたものを。私に敗北を知らしめた、あの鮮烈なまでの無謀さと、――圧倒的な才能の証明を」


 静かな、けれど有無を言わせない圧力を伴った声が、共有スペースの少し埃っぽい空気を震わせる。

 冗談めかした軽口も、営業トークのようなおどけもそこにはない。


 ただ純粋で、ひどく重たく、狂気一歩手前まで煮詰められた――氷を解かすような熱。

「『なんで』なんて、軽々しく言わないでちょうだい。あなたのそういう無自覚なところが、本当に……腹立たしくて、愛おしいのよ」


 氷の刃のような視線で僕を縫い止めながら、結姫乃はわずかに口角を上げる。それから、割れ物に触れるような手つきで、そっと、僕の頬に手を当てた。


「あるいは、まだ私だけなのかもね。あなたの才能に魅せられているのは」

「……僕の才能?」

 女たらしの才能には、最近自覚的になってきたところだが。

「あなたは、何のために強くなるのか、考えたことはある?」

「今の悩みがまさにそれだよ。僕は何のために強くなるのかってな」

 彼女は頬に添えた手を撫でつけ、静かに下ろした。


「私の場合は……ありきたりだけど、『復讐』よ」


 対して温度も感じさせず、淡々と告げた。

「それって……お前の、お兄さんの?」

「そうね」

 膝の上に置かれた白い指先だけが、血の気が失せるほど固く自らのスカートを握りしめていた。

 氷の湖面を思わせる水色の瞳は、今度こそ完全に光を失い、底なしの暗いクレバスを覗き込んでいるかのような虚無を宿している。

 全ての激しい感情を極限まで圧縮し、無理やり凍結させたような、ひどく静かで歪な空虚。

「動機はそうだけど……あまり深く考えないようにしてる。別に私は、『復讐』にこだわって生きるつもりはないから。命を懸ける理由にしっくりくるものが、それしかないのが現状だけれど」

 星狩りの仕事は、当然だが命懸けだ。事実として、命のやり取りをしている。殺しているのだから、いつか殺されたっておかしくない。

 だというのに僕は未だ、『遊び感覚』が抜けていなかった。真剣に遊んでいるから上達しているというだけで、死にたくないから・殺したいから――と言った、切実な理由で能力が開花した経験が一度もない。

 強くなる目標はある。

 ただ、五つ星も六つ星も、雲の上の存在で今考えるのは馬鹿らしいし、宇都宮や有を守るために強くなろうと意気込んでも、残念、彼女たちは僕より強い。

 ゲームのハイスコアを出せるかどうか挑戦しているような感覚。


 ――舐めんなよ。


 血の滲むような喪失を抱え、今にも壊れそうな心に必死で蓋をして戦場(ここ)に立っている人間が、すぐ隣にいる。だというのに、僕は何様なんだ。

 高みの見物気取ってんじゃねぇぞ。


 ゲームじゃない虚構じゃない遊びじゃない。

 

 生きるか死ぬかの世界だ。

 上の世界を目指すな。今の世界を死ぬ気で生きろ。


「なぁ、結姫乃」

「何かしら?」

「僕さ、お前を本気で手伝おうと思う」

「……どういう風の吹き回し?」

 結姫乃が、怪訝そうな顔で聞いてくる。

「もっと本気で生きてみたい」

「……?」

「例え清々しい敗北だとしても、『敗北』を楽しみたくない。お前みたいに、もっと――」


 ――『私は、つまらなかったわよ……!』――。


 思い出すのは、涙交じりに銃口を引いた結姫乃の姿。


 それは、かつての自分の姿でもある。

 大人になるにつれていつの間にかすり減っていた自分の幼稚な部分でもある。

 かといって、これが退化だとも思わない。

 捨て去って改めて初めて、必要だと気付いたのだから、僕は胸を張って過去を取り戻していいはずだ。



「――本気で勝負に執着したい」


 

 どこに出しても恥ずかしくない、自分自身であるために。

 僕は捨て去った影の深さを知り、もう一度、自分の足元に落とし込んでいく。

 彼女の影の濃さに鮮烈に目を焼かれて。


「だから、これからはお前の背中を見て成長して、大変そうなときは支えるような人間になりたいと思う」


 目標が決まった。

 改めて腑に落ちた。


「――僕が絶対にお前のことを勝たせてやる」


 そうした方が面白い。

 人の性根は変わらない。ゲーム気分は抜けきらない。

 薄情で薄っぺらな僕の本質。

 そんな僕が、本気で星狩りと言う『人生』を生きるためには、お前の熱が必要なんだ。

 だから、僕が絶対にお前を死なせないし、何が何でも勝たせてやる。

 遊戯者気取りの僕の仮面を、いつか彼女は熱で溶かしてくれると思う。


 

 僕は彼女に期待する。

 


「……それは、プロポーズか何かかしら?」


 まったくもって違うのだけど。

 嬉しそうに頬を染めた彼女を見て、僕の決断は間違いじゃないな、と確信した。





【chapter3:clear!!】


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