SS③『友達』
○SS3
その日は初めから、戦闘の基本を結姫乃に教えてもらうことになっていた。(舞台は、『あの廃工場』だ)――工場の正門前、落ち合った俺たちは、最初に結姫乃にため息を吐かれることになる。
「――いえ、別に私が戦闘の基本を教えるのは構わない、というかむしろ賛成なのだけど……」
結姫乃は、嘆息しながら俺の横を見た。
そこにはにこにことした表情の有がいた。どうせこれから汚れると言うのに、可愛いブラウスを着て気分が良いようだ。
「……なぜ有がいるのかしら?」
「オレがいちゃ何か悪いかよー!」
ぷんぷん、と可愛げに擬音が付きそうな勢いで、有は腰に手を当てて前傾姿勢になり、結姫乃をじーっと見た。
「いえ、あなたがいて悪いということはないのよ。ただ、私に教えられることが皆無ではないのか、と思って……」
結姫乃は、今日の教導の舞台となる廃工場をちらっと横目で見た。宇都宮『有』は二年はそこでサバイバルゲームを続けた猛者であり、そもそも《三ツ星》。存在としての格が違う――ただの好奇心から期待というのなら、俺はそれに反対だった。
「だってオレ、戦闘のこととか何も知らねーんだもん!」
これは好奇心――ではなく、必然性に駆られての行動だった。聞けば有は、今までのバトルは全て、ロジックではなく感覚で制してきたというのだ。《スキル》や《星の寵愛》に関しても、どこか曖昧。
そう、こいつは、今までセンスだけで勝利を収めてきた、天才なのである。
「戦闘のことを知らない……三ツ星が?」
「あー、結姫乃。これマジだぞ。こいつ、俺が論理で理解したことを、全てセンスで体得してる」
「えぇ……」
結姫乃は、俺の注釈を聞いて、ドン引きと言った様子だった。気持ち悪い、だとかそういうものでは当然なく、理解不能の化け物でも見るように――有のことを見た。
「本当に、『戦闘技術』について知らないのね?」
「おう! つーか、大抵の場合、技術とやらを披露してもらう前に、触手でぶっ飛ばして終わりなんだよ」
そう言って、有はうなじから翡翠色の触手を顕現させた。街中ではともかく、人払いが住んでいる――そもそも私有地だと言う、廃工場の敷地では問題ない。有は触手を自分の身体の前まで持っていき、まるで親愛な友人の様に撫でて見せた。
「こいつが一方的にねじ伏せて終わりって言うか……《四ツ星》と交戦したこともあるにはあるが、ママが助けてくれて終わりだったし」
「……」
結姫乃は初めて見る――俺の黒色とは異なる――翡翠色の輝きに目を奪われていた。
「綺麗だよな」
「えっ⁉」
俺が言うと、まるで嘘を見破られて驚いた子供かの様に、大げさに身体を揺らして、結姫乃がリアクションをした。
「きっ、綺麗だとか……思っていないわ! そもそも私は《星狩り》で、この場に赴いてしまったのも体内に《異物》があるからよ。いえ、初くんには星団に入団してもらうのだし、事前に説明必要性があったわ。でも、少なくとも、私が有の存在を許しているのは、私の内部にある――《スライム》のせいなのよ!!」
大げさに、誇示するように、胸に手を当てて結姫乃は宣言する。いつもの長ったらしい言葉遣いだ。いや、言ってることは分かるし、ロジックは通っているんだが――
「そもそも有と呼んでいる時点で、なぁ?」
「なッ……!」
「なー。オレと結姫乃は仲が良いんだよ」
「あ、っ、あ、ありえないわ! だって私は《星狩り》、有は《異星体》でしょう⁉ 交わることのない生き物なのよ!」
「この前、月野の良さについてみっちり話し合った仲じゃないか」
「そっ、それは……」
結姫乃が押し黙る当たり、それは本当にあった出来事らしい。いや、いつの間に俺を語る会とか開催してるんだよ……。というか、スライムを入れられてもう五日だし、ほとんど融解しているはずじゃ――まぁそれは別にいいけど、結姫乃の頑なな態度は、気になるな。
「――なぁ、結姫乃」
改めて俺がそう呼ぶと、ピクっと肩を震わせる。恐れているのか、兄を想起しているのか、分からない。どちらにせよ、その癖はいつか直してもらうとして――
「ここにいるのは、誰と誰だ?」
「……《星狩り》と《異星体》よ。後は私の後輩」
「違うだろ」
一般的には正解。だが、どこまでも模範的な優等生に、俺は思わずため息をこぼした。
「正解は白雪結姫乃と宇都宮有、そして月野初だ」
「わっ、私の正解じゃない⁉」
「『抽象的な観念から、それらしき具体例を一つ抽出していい気になるな』――教えてくれたのは結姫乃さんだったはずだが、今は違うのか?」
彼女は、俺の発言に目を見開き、それから――そうね、と力なくこぼした。論破される経験がないのだろう、珍しい、しんなりとした態度だった。
「この場にいるのは『お前たち』だ。立場だとか責務だとか、今はそこに囚われるのをナシにしよう。少なくとも俺から見たら、下の名前を気軽に呼び合う女友達に見えたぜ?」
「おっ、女友達……」
「女友達か!」
納得したように、有は手を鳴らした。
「オレとお前の中を定義する単語が分からなかったんだよ! でさ、今分かった! 友達だ、友達!」
廃工場の門の前で、改めて、有は結姫乃に向かって手を差し出す。
有は朗らかに笑い、告げた。
「――なぁ結姫乃、握手しようぜ」
有は結姫乃に歩み寄って、手を差し出してきた。
いつか見た光景――廃工場の死闘を制した時の『僕』に差し出してきた手と、それは同質のものだ。よくよく見れば、その掌には好意と親愛そのものが詰め込まれている。きっと、有は自分が『友人』だと認めた相手には、握手を求めるのだろう。
――あの時の僕は弾いてしまったが。
結姫乃は、おずおずと、差し出された一つの掌に、両の掌で、包み込むように、大げさな握手の準備をした。まだ握られていない。ただ、包んだだけの、前準備の状態。
「いぃ、のかしら。……私は、昔から無駄に真面目で……人に迷惑をかけてばかりで……」
「迷惑だったときは言うさ。その時は直してくれよ。なぁ、握手しようぜ?」
有は首をかしげて、可愛らしく問いかける。
ああ、と思った。
『――「な、ァあ、ぁぁa、aaあ、くしゅ、しよう、ぜ」
スライムは、緑色の手を作り出し、僕に差し出してきた』
僕が廃工場で殺した宇都宮。そいつが最後に求めたのは、友情だったんだ。最後の最後になって、あの時結べなかった友誼をもう一度、結びたくなったんだ……。
目の前で、有と結姫乃は握手を始める。
それを見て、心底よかったな、と思うと同時に――あの日・緑色の掌を、強く握った時の――胸に占める感情が何なのか、ようやく分かった。
……友達が出来て、嬉しかったんだ。
……友達を手にかけて、悲しかったんだ。
あまりにも矛盾した感情だから、あの時の僕にはよく分からなかったのだけど、そういうことなのだ。
傍観者でいることで、改めて僕は、あの握手の意味を思い出せた。
思い出した瞬間に――掌がジンと、熱くなった気がする。
『分かってくれて、ありがとな』
僕の内側に住む宇都宮が発した熱であると、僕は理解する。
……こういう気持ちだったんだな。
握手の意味を理解して、僕は、戦闘の基本を教えられる前から、泣きそうになった。もちろん男だから、こらえたけれど。
……宇都宮と僕は、友達だったんだな。
他者を通じて、初めて理解する気持ち。
ちなみに地の文で僕と俺が入り混じるけど、作者の間違いじゃないぞ!!
感情が高ぶった時に、月野は『僕』に戻ります。俺はあくまで表層的な変化で……本質はあまり変わってない。
これSSの内容じゃなくなぁい!?
と思いつつ、二章に入れる暇もないので、仕方ないのです。
あ、二章は『宇都宮有の《星座審査編》』になる予定なのです。
異星が星座に認定されるための審査を受ける話になる予定!
(予定は急遽変更される可能性がある)
二章は準備中だぞ!!
2~3日の頻度になっても許せよ!!
あと、まだ済んでなかったら評価とブクマ登録頼む!!
これからさらに物語は加速していきます。




