ss②『フィクションの中の主人公』
○SS2
「――なぁ、侵略派の《異星人》が二割もいる理由ってなんでだ?」
いつもの行為の後、シャワーを軽く浴び、上半身にバスタオルを巻いただけの有にそんな無防備に尋ねてみた。
夏期講習からの――数日、それはとても大変だった。
一番の問題は宇都宮『有』だった、やはり。約三日間も離れ離れになっていたのが、本人としてはご立腹だったのだろう。福島のボスとの『対談』は血相を変えて郡山へと全力に帰られたせいでご破談になったというし、今回の夏期講習は、実は有本体が赴いても問題はないものだったのだ。まぁでもそのお陰で『宇都宮』が生まれてくれたので、俺としては『嬉しいなぁ……♡』――だとか、頻繁に頭の中でささやく、可愛い彼女がいると言う状態になってくれたので、至極・嬉しい限りである。それはそれとして、だ。ふと気になったのだ。
「――共生派が八割だって言うなら、そのうち共生派に徒党を組まれて、《侵略派》は全滅させられるんじゃないかって」
「あー。それはそうだろ。共生派は侵略派を全滅させたがってるに決まってる」
有は平然とした顔で、俺が座るベッドの隣にやってきて、ピトっと肩を摺り寄せてきた。そこで肩を抱くと、喜んだ表情をするのがたまらなく可愛い。顎まで撫でてやりたい気分になるが、今は我慢だ。理性的な話。今まで気になっていた話をしたい。
有は口を開く。
「《侵略派》ねー。どこにいるか分かんねぇんだよな」
「どこにいるか分からない?」
思わず俺が聞き返すと、そう、と有は頷いた。
「あいつらの居場所がわかってんなら、共生派の連中と同盟を組んで一網打尽にしたいよ。だけどな、あいつ等は《どこか》に隠れてる」
「どこかって……」
「どこかはどこかだ。誰にも足取りはつかめてない。《五つ星》のママですら、心当たりはないって言うし……」
「《五つ星》ですら分からない場所に隠れてるって言うのか?」
有は顎に手を当てて、少し考えるそぶりをした。
それから、真剣に俺の目を見据えていった。
「オレは《被災地》に直接いたわけじゃない。だから、この情報は確実じゃない。人づてに聞いたものだ」
と、前置きをして。
「《東京大停電》の際に、《六ツ星》相当の異星体が現れたって噂がある」
「……六ツ星?」
「《六ツ星》の、力を持った異星体が、匿っているって俗説だが――」
「六ツ星が存在するのか?」
俺は思わず、文脈を無視して、聞きなれない、規格外の言葉を聞き返した。
聞かされていたからだ。
「お前、いつか、五ツ星が最高の存在だって――」
いや、確かに、結姫乃に微かに存在は匂わされていたかもしれない。
だが、――本当に?
「一般的な話をするなら、五ツ星が最高だ。それは間違いない。……人類の限界点、とも言えるな」
「限界点?」
「2006年から本格的に《異星体》が世界に影響を表してから、二十年。二十年間、人間でありながら《六ツ星》に至った人間はいない」
――なるほど。二十年間にわたり、破られない不動の記録があるわけだ。最高が五ツ星、ってのはそういうことか。人類の『最高』が五ツ星というだけ、という話なのだ。あの時は一般的な話をしていたから、極僅かな『特例』について話す必要がなかった、というだけで。
「……なぁ、本当の『最高』の星は何ツ星だ?」
「七ツ星だ」
「……七ツ星」
途方もない、とてつもなく、文字通り、地球と月の距離くらい、離れた、強大な存在だ。そんな存在が要ると言う事実に、震え、――やはり僕は高揚した。……五ツ星で終わりじゃなくて、よかった。
不思議で、不気味で、気味の悪い話だろう?
上には上がいる。
僕の上には、まだまだ上がある。
……ああ、感情が高ぶったりすると、また俺から僕になるのだけど、それは置いておいて(安定していないのだ)
世界は広い。世界はすごい。
それだけで、ワクワクする自分がいた。
「それで、七ツ星って言うと、どんな存在なんだ?」
興味本位で聞いてみた。
「《天頂星》と呼ばれる、文字通り最高の星――いや、神だ。七ツ星は、おそらく地球創生にかかわった神々の集まりだと言われている」
「地球創生って……」
規模感がすごい。
「あー……ちなみに今言うのもあれだが、この世界はフィクションだぞ」
「あん?」
フィクション。
虚構。
作り物。
事実に基づかない、人為的に構築された架空の物語の総称だ。
そこでは現実の物理法則や蓋然性よりも、作者の意図する「テーマ」や「エンタメ性」が優先される。俺が読む、漫画、アニメ、小説、それら全てはフィクションだ。何故なら、それは現実ではないのだから。 だが、この世界がフィクションだと言われると話が違ってくる。
「……マジで?」
「神々に意図的に作られた、って意味ならそうだ。そもそも不思議だろ。なんで生命が誕生したのか。なんでこんなに人類にとって都合のいい環境が存在しているか」
「人間原理ってやつだろ。……世界が僕らに都合よくできているのは、俺ら生きていくためにするために、誰かがそう調整したからだっていう……一種の俗説――」
「それが本当なんだよ。良く気付いたよな、人間も。『世界が自分たちのために用意された』と気づけたもんだよ。猿の時代からよくそこまで進化したよな」
有が嘘を吐く理由がない。
『嘘じゃないよ』
宇都宮が嘘を吐く理由がない。
――これは、フィクションだ。
「神々が楽しむための、舞台。それが地球で、人間は皆、神様を楽しませる道化だったんだよ」
「道化――……だった?」
過去形に、俺は気づいた。
「最初は馬鹿な奴がいるって、嘲笑おうとしていたんだ。だけど、やっぱり、人間はすごいからさ。失敗するけど、やっぱり最後には勝利するからさ、……魅せられちゃったんだよ」
以前、俺は人類をこう、評したことがある。
『――人類とは、常に不自由と戦い、勝利を続けた常勝の天才である』
その確信が、さらに強まった。
やっぱり天才だったんだ、人類は。
だから星すら魅せて、ただ一方的に見下ろす立場から、今隣にいるように、ここまで星を堕としてきたんだ。
かっこいいぜ、人類の歴史。
僕もいつか、僕も――
「歴史に名を残したいなぁ」
と、こぼしてしまった。
これは僕の悪癖。ああ、そうだ、思ったことをつい口に出してしまうときがあるのだ。直したいと常々思うのだが、口走ってしまうのはもう自分の性なのだろう。隣の有は、静かに笑った。
「大丈夫だよ、月野なら。絶対に歴史に尚を残せる」
そう言いながら、首元に唇を堕としてきた。
それは始まりの『合図』で、僕は嘆息する。
金髪に頭をポンと置く。
「……またか?」
「オレの可愛さに免じて、頼むよ」
俺は嘆息をしながら、やっぱりこいつが可愛いと思ってしまっているので、結局、毒されているのだろう。
星々は、今も俺たちのことを見ているのだろうか。
これから先は、どうか見ないでほしい。
わざわざ自分たちのセックスなんて、見られたくないしな。
この世界はフィクションかもしれない。でも、俺たちにとっては現実で、現実を必死に生きていく姿勢が、星たちの心を動かしてきたんだ。だから、俺は、絶対に。
――星の全てをこの世に堕として見せる。
興味津々で、直接僕に触れに来させてやる。
いつか、必ず、絶対に。
それくらい、楽しくて泥臭くて必死なカッコいい『主人公』に、なってやるよ、僕が。




