表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕はスライムとラブラブなハーレム生活を送れるかもしれない。  作者: 最条真
一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

18/45

16 ――《星戦》を宣言する。

ここまで見て面白さが伝わらなかったら俺の負けで良い。



『美しい最期だった』

『人間は素晴らしい』

『もっと見せてくれ』

 

 無数の星々が、僕の死に喝采を送っている。

 これは寵愛ではなく、加護だ。俗に言う『高評価』だと、宇都宮は言っていた。星が僕の背中を押している。その甲斐あってか、有の細胞がもっと、強く、再生を試みている。

 脳が破壊された僕に対して、有は賢明な救命活動を行っている。

 助けたいという意思が、伝わってくる。

 

 ……精神世界という奴だろうか。

 

 僕は白い部屋にいて、目の前には金髪姿の美少女、有がいた。

「いいのか?」

 僕は尋ねた。

「爆弾だったんじゃないのか、あれは。僕の心を読んで、いざとなれば炸裂させる――そのための、爆弾だったんじゃないのか?」

 それが今、再生活動に使われている。

 それはつまり、爆弾の体を失うということだ。

「オレは分かったんだよ」

 有は、まるで、どこにでもいる少女のように、純真に笑う。

「お前は、オレを愛してくれた。どこまでも、誠実に。真摯に、オレに愛情の限りを尽くしてくれた。分身にだって、そうだ。お前は愛情深く接して――個の概念すら生まれさせた。分かったんだよ、オレは」

 ぎゅっと。

 有は、僕のことを力の限り抱きしめる。

「愛は、誰かを縛り付けるものじゃない。ただ、注ぐものだ。無条件に注ぐことだ! それは、縛りつけることなんかじゃないんだって、オレは、分かったんだよ……!」

 まるで、人の心を手に入れたかのように。

 有は涙ぐんで、僕の身体を大切に、力を籠めずに、それでも愛情が伝わるように、ただ愛の限りを尽くして、抱きしめた。

 僕も抱き返した。

「ありがとな、有」

 僕は彼女の唇にキスをした。

 そうしたかったからで、特に理由はない。

 愛に理由はない。

 きっと、宇都宮にだって、男のあいつにだって、僕はキスをして見せただろう。

 愛に性別はない。

 

 愛しているんだ、お前を。愛してしまったんだ、いつのまにか。愛したからには、全力を注ぐんだ。種族も性別も何もかもが関係ない。

 愛したいから愛する。

 

 ――それが愛なんだろう?

 

「愛してる」

 僕は言った。

「オレも、愛してる……」

 有も同じように返した。

 それから、頭上を見た。

 白い世界に、亀裂が入りかかっている。

 

「そろそろ再生が終わる」

「ああ」

「二度目はないぞ。次死んだら、終わりだ」

「分かってる」

「逃げたっていいんだぞ。文字通り、死んだふりでこの場は凌げる」「いや、戦うよ」

 なんとなくわかっていた、と言わんばかりに、有はへにゃっと笑った。 

「ちなみに、理由は?」

「お前なら分かってると思うけど」

 僕は、自慢げに笑った。

 

 

「――僕は極度の負けず嫌いなんだよ」



 有は、笑った。

「勝てよ」

 もちろんさ。

 そして、僕は現実に回帰する――。



 白雪結姫乃は手加減していたか?

 いや、そんなことはない。全身全霊を以て、確実に敵を殺した。

 殺した。……敵……いや、月野初を。久しぶりの好敵手で、これから後輩になるかもしれなかった男を、殺した。

《異星》と融和していたからだ、それなら、もう《異星体》と同じ対処を取るしかない。白雪結姫乃は泣かない。涙腺は緩みかけたが、もう収まった。平静で、冷静だ。何の問題もないのだ。

 熱しやすく冷めやすい。

 そういうタイプで、もう心は冷え切っていた。

 先ほどまで燃え上がっていた心は、沈静化している。

 自らに《寵愛》を与えた《獄雪の皇子》も、この気質を気に入っているそうだ。ならば、それを続けるほかない。

 星狩りは、星に気に入られなければ、星を魅せなければ、成長はないし、生き残れない。

 このままでは《三ツ星》への昇格なんて、夢のまた夢だ。

 自分は強くならなければいけない。

 握りこぶしを無意識に作った。

 

 ――復讐だ。

 

 白雪結姫乃には《四ツ星》の兄がいた。自身より強く、強大で、尊敬のできる兄がいた。いた。過去形。亡くなったのだ。

 四年周期で起こる大災害。

《東京大停電》の際に……。

 今年も、間違いなく何かが起こる。

 そのために、強くならなければいけない。

 強くならなければ、いけないのだ。

 だから。

 だから、

 だから――

 

「よぉ、結姫乃さん」



 ――目の前の事象に、動揺してはいけない。

 

 


「――どういう、ことかしら」

 

 わざわざ目の前に現れた僕に対し、結姫乃は尋ねた。いや、どうもこうもない。

「フェアじゃないだろ?」

「はぁ……?」

 正直に言おう。とぼとぼと肩を下ろして歩いている最中に、間違いなく、不意の一撃は叩き込むことはできた。奇襲は成功しただろう。もちろん、結姫乃の命を刈り取ることだって……。 

 だが――

 

「趣味じゃないんだよなぁ、奇襲って」

「勝つための立派な戦略でしょう」

「いや、趣味じゃない。やりたくない。だからわざわざ正面から出向いてやったの」

「わざわざまた負けに来るなんて、馬鹿ね」


 銃を構える様子を見て、僕は――手を叩いて笑った。

「あっはっはっはっはっはっはっは!」

「何がおかしいのよ……?」

「いや、ごめんな。楽しくってさ」

「楽しい……?」

 疑問符を浮かべる結姫乃。

 僕はうなじから、再び触手を展開する。

 あの日の廃工場での勝利――続く分身と戦い、勝利。

 どちらが楽しかったか? それは後者だ。

 

「僕はリベンジマッチが燃えるタチなんだよ」


 そして、先ほどは無詠唱で十分な効力を発揮しなかったあの名前を告げ、引き金に指をかける。

「さて、」

 やるぞ。

 

「――《適当な照準》」


 パンパンパンパン――!

 四発。

 着弾地点はバラバラ、当たらなくてもいいけど、できれば当たってくれれば嬉しい。

 宣言することで、星による補正が加わったのが分かった。

 その銃弾は軌道が読みづらく、防ぐのが難しいのに加えて――

「クッ」

 突然のことに、相手は《月凍夜》を唱える余裕もなく、無詠唱での対処を強いられる。捉えたはずの銃弾は氷の装甲を半分壊し、次で完全に壊れ、残りの二発は、捉えることすらままならなかった。

 腹と肩。

 右肩に当たるのは二度目だ。応急処置でどうにかなる問題じゃない。もう利き手は使い物にならない、が――こちらも残すは一発。

 予備弾薬があったらこのまま勝ちきれたかもしれないが――


「《氷葬》」


 相手は氷の槍をどうにか構え、その後、盛大にバックステップを踏み、おもむろに距離を取って来た。

 このまま勝ち切れる相手じゃないな。

 まだ何かあるのか?

 とりあえず、槍は弾けば済む話で――

 

「宣誓」

 短く、凛とした声が響いた。

 

絶音ぜつおんの星霜、銀盤のことわり

 吐息すら硝子ガラスと化す、無垢なる死の静寂しじまよ。

 穢れた色彩を、星へと還すために舞い降りよ」

 

 何か詠唱が始まった。それは分かったが、――氷の槍が近づいてきている。

「――《弾け》!」

 弾くことには成功、だが……。

 

 彼女の周囲の、空気が凍り付いていく。

 

「――これから先の白紙の未来を、私の全てで描いて見せる」

 

 それは、星への誓い。

 背筋に嫌なものが伝う。

 あの詠唱を成功させてはならない。

 直感だ。

 成功されたら、僕が負ける!

 僕は銃弾の、残りの一発を放った。 

 

「――清廉なる冬の支配者よ」


 そこで、胴体に着弾。

 だが、にやりと結姫乃は笑った。

 

 ――まるで星に愛されたかのように、

 致命傷は避けられ、詠唱に支障が出なかったからだ。


「雪の皇子よ、姫に応じよ!

 全てを結び我の元に雪を捧げ、今一度絶冬をここに顕現する。

 不浄なる者を氷柩ひつぎに閉ざせ」


 彼女は夜空を見上げ、その白魚のような指先を、天頂の一点へと突きつける。

 

「――目覚めよ、絶対零度!」

 

 バチィッ、と空気が爆ぜた。

 

 

「――《星戦》を宣言する」



 そして、この世が雪に包まれた。

 

 宣誓が――《星戦》が世界を書き換えた。

 

 天頂から降り注いだのは、純白のスポットライト――否、高密度の冷気の奔流。

 雪が降っていた。夏なのに場違いな冬が訪れた。

 

 夏の中の唯一の冬がここだ。

 

 無数の星々が瞬き、まるで観客席が沸き立つように光量を増す。

 その輝きを受けて、荒涼とした採石場は瞬時に氷に染め上げられていく。彼女を中心に、スケートリンクのように世界を氷が侵食していく。そして吹き荒れる吹雪。足元を侵食する銀世界の絨毯。

 それは単なる天候操作ではない。

《星の寵愛》を全力で行使したのだ、と直感する。


 星の権能によって具現化したのだ。

 彼女だけの絶対領域――氷の姫のための世界が。

 

 肌を刺す殺人的な寒気の中、氷の玉座に座すかのような不遜な彼女は、雪よりも白く、月よりも冷たく微笑んでいた。

 

「――この切り札を使うことになるとはね」


 彼女は三日月のように凶悪な笑みを浮かべる。

 

「光栄に思いなさい。今から私に殺されるのを」

「簡単に僕が負けるとでも?」

「負けさせるのよ。というか、もう《俺》じゃないのね?」

「僕だってよく分かんねぇよ」


 浸食の影響が収まったのか、なんなのか。

 再び僕に戻りつつある。しかし、まぁ、そんなことは些事だ。

 

「《月凍夜・冬》」


 彼女が明らかに使い始めた、高度なスキルを除けばな!

 空中の水分はおろか、窒素、酸素、漂う塵に至るまで、空間を満たす全てが瞬時に結晶化し、キラキラと輝く微細な『ダイヤモンドダスト』へと変貌したのだ。彼女の掌に触れただけで。

 

 領域内でのみ使える高度なスキル⁉

「クソッ」

 僕はとにかく距離を取りながら、

「――《溜めろ》」

 と告げる!

 事前学習させろ!

 こんなのズルだろうが!

 

 相手も僕も銃弾はなし。

 にらみ合い。

 

 ――あと一つ。

 

 スキルには枠がある。戦闘ごとに、最大四つまで設定できる。星のささやきが聞こえる。まだ一つ何かできる。

 なら、

 もう、

 これしかないだろ。

 

「――《刺し殺せ》」

 

 限界まで圧縮された闇が、炸裂音と共に解放された。

 それはもはや触手という生易しいものではない。

 黒い光だ。

 音速を置き去りにする神速の突き。

 一直線。

 凍てつく大気も、煌めくダイヤモンドダストも、全てを無慈悲にねじ伏せ、貫通する。 

 ただ殺すためだけに研ぎ澄まされた漆黒が、結姫乃の心臓を食い破らんと迫った。

 事実、結姫乃に刺さった。

 ……が、掴まれる。

 そして、《月凍夜・冬》が侵食していく。凍っていき、僕まで伝播しようとしていた。僕は即座の判断で手刃で触手を切り落とし、大事は防いだが、切り落とすモーション、その隙を見せたのが問題だった。

「――《超新星(ダイヤモンド・ダスト)》」

 

 明らかな必殺技が放たれると同時に、《星戦》が解除される。

 今までの冷気は消え失せた。

 再び夏が訪れる。

 みんみんみんみん。

 蝉の声が聞こえ始めた。

 暑い。

 熱い。

 

 僕の腹部には、致命的な大穴が開いていた。

「し、ぬ」

 そう思ったが、思っただけで、まだ致命的な事象は訪れなかった。見れば、結姫乃も、肩で息をしていた。

 相応の力を使ったのだ。

「これで、おわり、っ、ね」

「……どぉ、か、な……」

 策と言えたものじゃないが、僕にはまだ考えがあった。

《星戦》。《星の恩寵》を受けたものに許された奥義・バトルフィールドの展開。そして、《ダイヤモンド・ダスト》――あれは《超新星》と呼ばれる必殺技だ……星のささやきが聞こえる。


 僕は、星の恩寵なんて受けちゃいない。

 だけどさ、見ているんじゃないか、

 

 ――宇都宮有のママが。

 

 僕は、にやりと笑う。

 五臓六腑を全力で働かせる。

 これで負けなら負けで良い。

 

「宣誓する」


 血反吐を吐きながら、続ける。

 

「僕は、あんたたちの娘を、生涯、愛することを誓う。病めるときも、健やかなるときも……」


 蹴りが入る。結姫乃のものだ。

 だが、弱弱しい。力を使い果たしたんだろう?

 

「富める時も、貧しき時も、妻として愛し、敬い、慈しむ事を誓う」


 これが、《星戦》として正しい形式なのかも、全く分からない。だが、これに賭けるしかないという確信があった。

 

「絶対に僕が幸せにしてやる! 孫の顔だっていつか見せに行ってやる! だから、頼むよ、――ママ」


 僕は笑う。

 

「――宇都宮有との婚約を宣言し、そして――!」


 パチパチと、喝采の拍手が聞こえたような気がした。

 そして――

 

 

 

「――《星戦》を宣言する」

 



 ……少しだけですよ。

 

 そんなママの言葉が、聞こえたような気がした。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ