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僕はスライムとラブラブなハーレム生活を送れるかもしれない。  作者: 最条真
一章

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15 あの日の真意



 極上の勝負が始まった。

 

 二ツ星との闘いを経て理解したことは、やはり、廃工場での宇都宮の戦いは、めちゃくちゃに手加減されていたということだ。

 普通の一般人が勝てる相手ではなかった、一ツ星は。

 なぜ今僕が結姫乃と戦えているかというと、やはり宇都宮を取り込んだことが大きい。全ての基礎ステータスが上昇している。それに加えて、頭の《爆弾》。どういう理屈か、それは頭脳を強化しているようだ。おそらくは、有の爆弾は脳にも作用している。そのおかげで動体視力なんかが化け物になっているわけだな。プロゲーマーでも今から目指すか――って、軽口叩いてる場合じゃない!

 

「――ッ!」

 今も銃弾を避け、時折織り交ぜられる《氷爆石》には触手のリーチを伸ばして、爆発範囲に至るまで撃ち落とし、《氷葬》については、《弾け》でどうにか対応。

 これが拮抗に見えるか?

 違う。こちらに打つ手がない。

 触手のリーチを伸ばせば伸ばすほど、操作性と機動性が下がる――僕が廃工場で見抜いた欠点は的中していて、結姫乃に触手の攻撃を仕掛けようとすれば、不意の射撃で死にかねないのだ。射撃に対応するために必要な宿主と触手の距離は、5m程度。それ以上――結姫乃が今保っている距離――目算で10mには迂闊に近づけない。

 接近戦に持ち込めば、《月凍夜》が待っている。

 あの掌の冷度は異常だ。おそらく触れたら凍らされる――即死攻撃だ。今思いなおせば――結姫乃の技の構成は考えられている。

 

 遠距離には『氷爆石』(投擲することのできる爆弾)

 中距離には『氷葬』(硬度のある氷の槍が飛来する。最大数は4)

 近距離には『月凍夜』(人体の気温を局所的に下げる・目視でマイナス80度は超えているはずだ)

 

 その根拠は、根拠は、冷気の《広がり方》だ。

 もし液体窒素級(マイナス二百度)なら、周囲の酸素まで液化して滴り落ちるはずだが、奴の手元は空気中の水分が凍って白煙を上げているに留まっている。

 つまりは、ドライアイスと同等レベル。触れれば皮膚が瞬時に張り付き、細胞が壊死するマイナス八十度近辺。

 即死はせずとも、触れた部位は二度と使い物にならなくなる温度だ。 いや、壊死は即死も同義だ。使い物にならない部位が出来たら、今ギリギリでこの距離を維持している現状が――崩壊する。

 殺されてしまいだ。

    

 しかし、攻撃には転じるべきだ。守っていればいつか負ける。確かに今は攻撃を弾けてはいるが、その成功率は99%だと思っていい。確実じゃない。いつか1%を引いた時、僕は負ける。

 だが、あいつの射撃に対応するためには少なくとも目視しなければいけないし、着弾までの距離を確保しないと弾けない。

 

 今の手札《弾け》では、足りない。

 まだ、何かが要る。というか、あいつは現状三つのスキルを使っているわけで――俺もまだスキルを作る余地があるはずだ。

 しかし効果的でなければいけない。これは直感――この戦闘中に使ったスキルは、後から変更できないし、スキルの数には上限がある。

 いや、これは直感ではなく――星の囁き。

 アンフェアな勝負を好まない一部の星が、俺に知見を授けてくれるのだ。まだお前には何かができるぞ、と。

 何故、今俺はいつか負けてしまうような窮地に立たされている?

 攻撃の手段がないからか?

 攻撃時の手段がないからだ――なんて。

 

 昔の単純な僕なら、そう考えていたかもな?

 

 原因を抽象化しろ。今の思考は、具体的な選択の一つに過ぎない。それに飛びつくのは馬鹿の思考で、まだまだ発想の余地がある。

 あんたが教えてくれたことだ、結姫乃さん。

「――決めた」

 現状の防御率を100%にしてしまおう。


「――《溜めろ》」

 

 グググ、と音がした。

 先ほどまで伸ばされていた触手は、シュルシュルと僕の背後へ収縮した。消えたのではない。限界まで引き絞られたバネのように、太く、短く凝縮したのだ。

 触手の密度が増し、ばねのように圧縮されているから、速度も増しているはずだ。その通りだ、と言わんばかりに触手がドクンと脈動する。次の動作に対する爆発的な予備動作――《溜めろ》。

 これはいつか、攻撃にも防御にもなる。

 さて、じゃあ触手の実力を信じてみよう。

 僕は銃を構えながら、屈むようにして走り、接近。

 彼女の対応は当然銃撃。

 だが僕は、《無詠唱》という概念を知っていた。

 口に出さなければ、スキルの威力も精度も下がる。

 しかし、《溜めた》状態で無詠唱の《弾き》を行うとどうなる?

 結果はすぐに分かった。僕に放たれた4発の凶弾、そのすべてを触手は弾いた。同時に《溜め》の状態が解除される。一度限りか、勉強になった。

 さて、僕は近接戦は不利と言った。

 何故近づいたのか?

 近づかないとアンタに銃が当たらないからだよ。

 

 事前に射線を目視されれば、対応されやすくなる。

 弾を視認する距離があれば、余計にな。

 当たり前の話だが、近接すればするほど銃は当たりやすくなる。

 さて、僕が試すのは《月氷夜》が届かない3m程度の距離を保った、近接銃撃戦。

 弾の残量を確認しよう。

 僕はまだ、威嚇射撃の一発しか撃っていない。

 つまり、11+1

 対する相手は

 最初に三発。

 遠距離で一発。

 さっきの四発。

 八発?

 いや、白雪結姫乃が使っていた銃は、あの《特別自習室》で使われていた銃だ。僕はリロードを確認していない。

 つまり、更に二発。

 3+1+4+2。

 つまり十発は使った計算になる。

 シルバーバレットの装弾数は12+1だ。

 だが、相手はもう三発しかない。

 

 三発と十二発の銃弾。

 当たり所さえよければ、今の僕はあの銃撃は三発は耐えられると思う。ヘッドショットはドンマイ。さて、男の見せ所だ。

 

「撃ち合おうぜ」

 僕が笑うと、結姫乃もまた笑った。

「いい度胸ね」

「よく言われるよ」

 ハチの巣にしてやる。

 

 バンバンバンバンバンバンバン!

 

 思い切りのいい七発。最初、結姫乃は装弾数を察して防御に徹していた。この近距離で、右掌を固めている雪で、五発は防がれた。この化け物め。だが――

「くっ――」

 二発は当たった。

 肩と足。

 技と僕は《適当な照準》を試みた。どこに当てるつもりもないが、どこかに当てるつもりではある。適当にやるけど当たれ、と。

 狙いを絞らない、故にどこに来るか分からない銃弾。

 適当な一撃。

 

 ――《適当な照準》。

 

 驚いたことに、これはスキルとして認定されたらしい。そんなつもりは全くなかった上に無詠唱だがら効果は半減。しかし、予想外の成果だ。まさか二発も当たるとはな。肩と足からの出血、間違いなく致命傷ではないが――出血はある。動きは鈍るはずだ――

 

 しかし、彼女は表情一つ変えず、鮮血の吹き出す傷口を凍らせていく。《氷月夜》の対象は右掌だけではないようだ。

 ジューッ! と、熱した鉄板に水を垂らしたような音が響く。

極低温の冷気により、血液は瞬時に凍結し、白く無機質な氷の瘡蓋かさぶたへと変わった。

 自らの肉を細胞ごと壊死させる、激痛を伴ったはずだ。

 だが彼女は機能の低下を恐れた。今この戦いに全力を注ぐつもりだ。 全力で遊ぶ子供の顔をしていた。

 

「今度はこっちの番でしょう?」

「そうですね」

 

 詠唱が間に合う訳がないので、絞る。頭部だけの銃弾だけは絶対に弾く。そのおかげで、頭部に向かって放たれた一発は弾けた。

 だが、やはり、胴体と足の二発は免れない。そもそもさっきの爆撃でダメージを負っているところに、これだ。これは本格的に足が使い物にならなくな――

 

「死になさい」

 右脇腹に、彼女の蹴りが炸裂する。

 肉弾戦だ。そりゃそうだ。……即死の掌を避けることにリソースを割いていた俺は、あまりにも単純なことを忘れていた。人間には足がある。そして当然、それはキックのように、攻撃にも繰り出されるのだ。とんでもない力で弾き飛ばされた。当たり前だが、通常の人間の威力ではない。人体の基礎スペックまで強化されてやがる、これが《星の寵愛》とやらか。僕にはそんなものはないのに、卑怯だな、畜生め。内側にいる宇都宮が、再生を試みているのが分かる。

 そうだ、宇都宮の触手は再生にも用いられる。

 

 だけど、もう、衝撃に耐えられずに倒れている僕に対して、彼女は間近に迫っていて、銃を構える。

 

「銃弾はもう切れたはずじゃ?」

「銃弾の代わりに《氷爆石》を詰めているのよ。……装弾数をごまかすための策だったんだけどね」

「へぇ……それは、戦いが続いてたらキツかったかもなぁ……」

 そこで、僕は結姫乃の表情に気づく。

 

 透き通るような哀切があった。

 それは、愛着のあった熊のぬいぐるみの首がもげてしまったような子供の顔。あるいは、楽しかった舞踏会の終演を告げられた少女の瞳。 引き金を引く指に迷いはない。

 俺の命を絶つつもりだ。

 けれどその表情は、これから親友の命を奪わなければいけないような、痛いほどに切なく、静かに潤んでいるのだ。

 

「なんだよ……勝ったんだから、笑えよ」 

 僕だって、もし勝っていたらそうしたさ。

 勝ったなら、笑う。それが勝者の鉄則だろうに。

「なんで泣くんだよ」

「泣いてなんかいないわ。……嘘も大概にしなさい」

「寂しいのか?」

 僕は笑いながら問いかけた。

 これから死ぬというのに、不思議と清々しい気分だった。

「大丈夫だよ、世界は広い。自分の退屈を満たす特別な相手と、また巡り合えるさ」

「なんなのよ、その態度は……。もっと、悔しがりなさいよ! 負けたのよ! あなたは、私に! なのに、その態度は何なの!」

「あー……」

 昔を思い出す。

 僕も、そうだったな。中学生の時、あの廃工場、初めて宇都宮に勝った時に、素直に敗北を認められたときの虚無感。

 

 

『――僕はお前の顔を悔しさで歪ませたかったんだよ。

 

 耐え難かった。その汚れを知らない掌が、僕の卑劣な勝利を優しく包み込もうとしているのが、許せなかった。ちゃんと責めろよ、憎めよ、復讐を誓えよ、優等生の化けの皮なんて剝いじまえよ!』

 

 

「懐かしいな……」

 くすくすと、僕は笑う。

 だんだんと、僕に戻って来た。不思議なもんだな。

 それだけ宇都宮が全力で再生を試みているってことなんだろうけど、ごめんな、僕の負けだ。

「清々しい敗北ってやつがあるんだよ」

「は、ぁ?」

 心底理解できない、という様子で結姫乃は僕を見た。

「ようやく、僕もあの時の宇都宮に追いついたよ……」

 結姫乃には伝わらない。

 伝える気もない辞世の句。

 

「本気でやった時の敗北って、楽しいんだなぁ……」

 

 僕は、最後に、笑う。

 人間最後は笑顔が似合う。

 悲し気な結姫乃とは対照的に、僕はどこまでも楽し気に。

 

 

「――楽しかったよ、結姫乃さん」

「私は、つまらなかったわよ……!」



 引き金が引かれる。

 頭の中で氷が炸裂する。

 

 死。

 

 ――結局、最後まで、呼び捨てで呼べなかったな。

 

 ごめんな、有。

 ごめんな、宇都宮。

 

 僕は、負けた。

 

 本当に、ごめん。

 

 そして僕は死ぬ。

 真の意味で、地面に倒れ伏す。

 

 結姫乃はそれ以上現場を直視しないように目を背け、僕に背中を向ける。僕は死ぬ……僕は、僕は、僕は…………。

 

 まるで走馬灯のように、有の顔が最後に見えて、

 

 

 ――死――ぁ――ぅ――死?

 

 

 ――感じていた。頭の中にあったはずの爆弾、有の細胞が全力で駆動しているのを。

 

 

 

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