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僕はスライムとラブラブなハーレム生活を送れるかもしれない。  作者: 最条真
一章

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14 極上の勝負、その開始。(★★戦)


 これは本気でマズいことになった。

 数分歩いて、おあつらえ向きな戦場のために作られたような、そんな空き地に連れられて、悟った。

 ホテルから歩いて数分。森を抜けた先に、唐突にその空間は現れた。旧採石場跡――とでも、言うのだろうか。

 かつて山を削り、石を切り出していたその場所は、サッカーコートがすっぽりと入るほどの巨大なすり鉢状の広場になっていた。

 山の一部を巨人がスプーンで抉り取ったような、巨大な空白地帯だった。

 足元には砕かれた石と砂利が一面に敷き詰められ、草木の一本も許さない荒涼とした灰色が広がっている。

 歩くたびに、ジャリ、ジャリ、と乾いた音が虚しく響いた。

 想像してもらうべきは、巨大な砂場だ。

 ただそれは、子供の時に遊んでいたものより数百倍は大きいかもしれない。そんな場所。

「ここはね、戦闘訓練のために用意されたものなのよ」

「今更ですが、ホテルも?」

「ええ、今は各地に三か所、かしら。臨時の拠点として使われているほかに、夏期講習の会場としても、――あとは《星狩り》の素質を見抜き、勧誘することも行われているわ。ま、私が勧誘したのはあなた一人だけどね」

 結姫乃は、まるで自分を誇るように笑った。

「しっかり誇っていいわよ、《異星体》に寄生されるような間抜けさを除けばね」

 くすくす、と笑う。

 この戦場に至るまでにも、当然会話はあり、その内容は簡単に言えば尋問だった。

《異星体》に寄生されている自覚はあるか、とか、何か日常で不自然なことはなかったか、とか、何か変な力に目覚めなかったのか、とか。 

 ――それらの全てを、僕は知らぬ存ぜぬで切り抜けた。

 

 どうにか、粉骨砕身の努力で、なんとか歓談が成立するまでにしたのである。俺ってばすごい。それで、認めなければいけない事実がある。今の僕は俺だ。俺と言う一人称の方が、性に合っている。気質が変わったとか、そんなことはなく、ただ宇都宮のが移ったのだろう。こいつが外に出れば元に戻るのかもしれないが、一人称だとか、くだらないことに気を取られている理由はない。俺である。

 俺は、俺だ。

 俺は自分の中の一人称を統一した。

 

「――さて」

 旧採石場跡の中心まで歩いたところで、

「《氷爆石》」

 彼女が唱えた。

 は?

 と思った。それは厨二病の詠唱そのものだったからだ。

 おいおい、俺は技名を唱えたら何かが起こるだなんて、そんな時期は中学生の頃に卒業しているんだぜ――!

 そう思っていたのだが。

 彼女の掌には、手で握れるほどの氷の塊が生成されていた。

「それを持っていなさい」

 手渡され、俺は両手でそれを抱えた。

 思っていたより、重い。大きさの割には、って話。

 野球ボールと同じくらいの重さかな。

「ってか、なんですか今の、魔法?」

「そう見えるのも無理はないわね。ただの技能(スキル)よ。あなたもそのうち使えるようになる」

「はい? スキル??」

 なんだよ急に、現実をぶち壊してくるな。

 スキルを使えるとか、マジでゲームの住人じゃんか。

 ワクワクし――ん?


 ……氷爆石っつったな。 

 

 スタスタと、彼女はいつの間にか俺から距離を取っていた。10メートルは離れている。語彙での分析をしてみようか。

 氷+爆発+石。

 あれ、これってもしかして――

 

(はじめ)くんに寄生している《異星体》に告ぐわ」


 彼女は胸を張り、堂々と宣言する。

「今から《十秒後》に、それを爆発させる。宿主もろとも死んでもらうわね」

 そして、氷が脈動を始めたのが分かる。これ爆弾じゃねぇか!

 しかも時限式かって考えている間に彼女は懐から銃を取り出している。

「今、身体の主導権はしっかり初くんにあるようね。いいかしら、じっとしていなさい。大丈夫、安心しなさい。よほどのことがない限り、《異星体》は身体から出てくるはずよ」

 

 七。

 

「よほどのことがあったら死ぬじゃないですか!」

「死んだら蘇らせるわ」

「はぁ⁉」


 五。

 

『どうする月野。俺が――』

 いや。

 俺がお前と別陣営だと思われてるんだよな?

 

 三。

 

 ……後お前は人を乗っ取れるとも言った。あいつを殺さずに穏便に済ませる方法はあるな? 

『いや、俺が出ていけばいい話で――』

 あいつはすでに銃を構えている。

 

 二――極限の状況下、思考が圧縮される。

 

 俺から出た瞬間、お前は銃の餌食だ。俺の身体にいる方が安全だ。言ってたろ。

 

『人に対しては普通の銃弾程度の、物理的な破壊力しかないわ。当たり所が悪ければ、頭がスイカみたいに弾ける程度のね』


 ってな。

 当たり所が良ければ、三発は耐えられるだろう。人体ならな。

『違う、俺が犠牲になればいいだけの話だ! 本体は別にいる! 宇都宮はまた別に作れるんだよ! 俺なんかにこだわる理由がないだろ!』


 一――

 

 俺はお前がいい。

『は……』



 ――始めよう。

 


 俺はゼロに達する前に、手元の石を結姫乃に向かって全力で投げた。相手に届くことはなく、彼女の予告通り、ゼロで爆発した。俺と彼女の間に、決定的に埋められない溝、

 

 ――クレーターを作って。

 

「……どういうことかしら、初くん。あなた、肉体の主導権は」

「ああ」

 俺は笑いながら、うなじから触手を顕現。そして、スライムは物体を格納できるので、――念のため、持ってきた《それ》を取り出し、手に持ち、相手に迎えて構えた。

 

「――完全に俺の意思だ」

 

 そして、俺はシルバーバレットを構える。装弾数は12+1。しっかりとリロード済みだ。残念なことに予備弾薬を持ち合わせる資源の潤沢さはないが。まぁ、仕方ないことだ。

「……あなた、何故、触手を……」

 俺のうなじから現れた翡翠色――いや、違うな。

 黒色だ。

 宿主の資質に応じて、触手の色も変わるのだろうか?

 光沢すら存在しない、闇を切り取ったような黒そのものが、俺のうなじから生えている。

 試したことはなかったが、こうなるのか。

「あなた……どうなってるの、それは。星から力を借り受けているわけじゃない。星そのものの生体反応……? いえ、それも少し違う……まさか、《融和》しているとでも……?」

「あー、この状態で何なんだろうな?」

『んー、僕もわからん」

「なんか一人称変わってね?」

『あ、混ざったからかなー」

「なるほどな」

 その様子を、結姫乃は茫然と、何か信じられないものを見る眼で見ていた。

「独り言じゃ、ない……? 星自身と、対話を? あなた、自分が何をしているかわかっているの⁉」

 結姫乃は柄にもなく、ヒステリックに叫んだ。

 

「――それは《星飼い》にしかできないことよ!」

「? 《星狩り》じゃなくて? んだそれ」

『僕もよく知らん』

「こいつもよく知らないってさ。教えてくれるとありがたいんだけど――」


 ――発砲。

 結姫乃は僕に向けて続けざまに弾丸を三発、放った。

 デジャブ。

 どこかで見たことがある口径。

 僕のうなじから生えた触手は、僕の意思ではなく、宇都宮自身の意思で動き、音速の弾丸を弾いた。その弾丸は、《異星体》の弱点であるはずだが、何故しのげたのか。僕には見えた。

 

 一発目、触手の先端で弾く。先端は焼き焦げる。

 二発目、触手の中程で弾く。中程は焼き焦げる。

 三発目、触手の根元で弾く。根元は焼き焦げる。

 

 あの時はよく見えなかった。

 だが今の僕には見えた。シルバーバレットによる攻撃は、明らかに致命傷だ。触手なんかは、すぐ焼き焦げる。だが、部位ごとに対処個所を分けることによって――三発までなら対応できる。

 

 そして、焼かれた箇所が再生を始める。

 

「なによ……それ……」

 結姫乃は驚きながらも、――目を閉じる。それから目を見開いた時には先ほどまでの怯えは一切なく、覚悟を決めた戦士の目をしていた。「とにかく、よくわかったわ。あなたは私の敵なのね」

「敵っていうか……俺は全然結姫乃さんの敵であるつもりはないっていうか、だって今のただの自衛だぜ?」

 急に銃をぶっ放してきたのは、そっちだ。

 自分の正当性を主張したつもりだったのだが、結姫乃は強く首を横に振る。

「いえ、敵よ。人は星を飼ってはいけない。人は星に飼いならされるものなのよ」

「は? なにそれ。ペット可の賃貸かそうじゃないかって話?」

 怒りを表すように、また一発放たれる。

 だが、当然なのだが、触手によってその弾は弾かれた。

「チッ。何なのかしら、それ。……データベースにない……」

「意外とデータキャラなのか?」

「煽るのも大概にしなさい」

 絶対零度がこちらに伝わるほど、氷の視線に咎められる。

 凍り付くと思った。

 心が。

 本能が、実力を理解する。

 

 あいつ――

 白雪結姫乃は――

 

 

 ――二つ星(★★)だ。

 

 

 

「《氷葬》」

 言葉が、世界を凍らせる引き金だった。

 夜気に満ちた湿度が、断末魔のような音を立てて強制的に凝固する

 

 パキ、パキパキパキッ――!

 

 彼女の背後の虚空に、無数の氷柱が出現した。いや、よく見れば。あれはやりだ。青白い氷の槍。空中に浮遊している槍の数は四本。

 星明かりを反射して宝石のように煌めくその切っ先は、すべて俺の肉体に狙いを定めて浮遊している。

「さっきから技名を律儀に言うのは何なんだよ!」

 質問には答えがない。

 槍が僕めがけて刺突を試みる。

 さっきと同じように、宇都宮任せに弾こうとした。

 だが――

 

「重いッ――!」


 触手の感触が自身にも伝わってくる。

 銃弾と比べてこの氷の槍の密度は高い。確かに《異星体特攻》ではないかもしれない、触手が焼き焦げることもない、だが執拗に二、三発叩き、それで三つ目を撃ち落としたところだった。

 槍の数は四つ――

 撃ち落とせなかった一発が、肩をかすめた。

「ガッ」

 だが、大した痛みではない。支障はない。大したことはない。これを大したことだというのなら、僕はこの先やっていけない!

 

 ――この世界で生き残るんだ。宇都宮(こいつ)と一緒に。

 

 ああ、ごめんな。

 引き金が引くのが遅れて。

 

 僕は構えた銃で――躊躇はあったが――結姫乃を撃った。

 一発。

 二発以上は怖かった。 

 もしかしたら、殺してしまうかもしれないから――

 

 なんて。

 掌の表面を凍らせた結姫乃を見るまで、僕はこいつのことを舐めていた。

 ガギィッ! 

 硬質な音が響いた。

 氷の礫が派手に飛び散り、白雪の手が衝撃で大きく跳ね上がる。

「……っ、痛いじゃない」

 不快そうに手を振る彼女の掌から、ひしゃげた銀の弾丸がポロリとこぼれ落ちた。

 防がれた。

 だが、代償として氷の装甲は粉々に砕け散り、その下の白い肌は赤く腫れ上がっている。完全には殺しきれなかったのだ。殺すつもりはなかったとはいえ、あいつは氷の装甲をまとい、銃弾なら防ぐことが出来る。

 だが――


 なぜ今詠唱がなかった?

 

 今確認した彼女の《スキル》(詳細な名称は不明)は、二つ。

『氷爆石』(時限制の氷の爆弾)・『氷槍』(氷の槍を射出する)二択。今、三択目――氷の装甲をまとう――が出たわけだが、詠唱がなかったのだ。詠唱が必要なものと、不必要なものがあるのか?

 クソ、分からん。

 情報量で完全に敗北してる。

 この世界が何なのか、分からない――

 

「《氷爆石》」

 彼女が再び唱え、掌に氷の塊を生成する。

 だから、詠唱するときとしない時の差を教えろって!


 それから、彼女は僕に向かって全力で投げた。

 

 銃弾と似たような速度だ。彼女はプロの投手を目指した方がいい。

 それから、いつものように弾こうとして、爆発した。

 

 轟音と共に世界が白一色に塗り潰された。

 熱風ではない。

 凍てつく冷風。

 石に込められていた冷気が一気に解放され、粉砕された無数の氷塊が、散弾のように撒き散らされたのだ。

 いくつか刺さった、胴体、足、肩――これだけで済んだのは運が良い。鋭利な氷の刃が身体に沈み込み、全身に無数の痛みを刻み込んでくる。痛い、が、死んでいない。僕の手に銃がある限り、奴は迂闊に距離を詰められな――

 

「《月凍夜》」

 詠唱と同時。

 その右掌には、先ほどの薄氷とは比較にならない、禍々しいほどの冷気が渦巻いていた。硝煙を上げるように、冷気がうなりをあげている。冷気から生まれた煙が掌から生まれているのである。

 空気が軋む音がする。

 彼女の指先に触れた酸素が、瞬時に白い煙となって凍りつき、まるで青白い炎のように揺らめいているのだ。

「次は詠唱アリかよ……」

 察する。

 詠唱のありなしで、スキルの威力が異なっている。

 銃弾を防いだ時の《月凍夜》には、あそこまでの冷気がなかった。詠唱は、威力を高めるための代償行為なのだ。

 

 ……先ほどから、僕は無意識に触手を使っていた。

 宇都宮に任せっきりだった。

 だが、もしかしたら?

 

 詠唱があった方が強いのか?

 

 銃弾は三発。

 だが同時に、身をかがめて、鬼のような勢いで結姫乃も接近戦を仕掛けてくる。それを目視できる時点で僕はただの人間ではないのだが、それは置いておいて、――試してみることにした。

 

「――《弾け》」

 明確に言葉にした瞬間、背中の感覚が変わった。

 ただの反応ではなく、明確な意思を持った能力の解放。

 シュバッ! 

 と、空気を切り裂く破裂音と共に、漆黒の触手が爆発的に膨れ上がった。

 速い。

 迫りくる三発の銃弾を、鞭のようにしなる黒閃が、粉々に叩き落とす。しかも、損傷が少ない。先端を中心として弾いた、おかげで、先端しか焼き焦げていない。硬度も違うのだ。

 だがら、追撃の余裕もある。

《弾け》という命令を忠実に実行するかのように、触手はそのまま結姫乃の懐へと向かった。無差別に暴れ回る黒い暴風。

 接近戦を仕掛けようとしていた彼女が、舌打ちをして強引にバックステップで回避するほどの威力だ。

「なるほど、ねぇぇッ……!」

 完璧に理解したわけじゃないが、へぇ、この世界にはしっかりとした仕組みがあるんだ。

 中々、面白いじゃないか。

 

「なぁ、結姫乃さん」

 僕は手を挙げて、友人に気軽に挨拶をするように声をかけた。

「……何かしら」

「《極上の勝負》をしよう」


 僕は言った。

 彼女は茫然としていた。

 

「何を、言っているの? あなた、今から殺されるのよ?」

「さて、どうかな。少なくとも俺は結姫乃さんを殺さないけど」

「はぁ? 何故よ、おかしいじゃない。私はあなたを殺す気で、」

「――医者の息子なんだよ、俺」

 意趣返し。

 遮ってやった。

 俺は自分自身を指さしながら、笑う。

「俺は人を殺さない。何故ならあの人に誇れるような自分でありたいから」

「意味が分からない……」

 理解不能、あり得ない、度し難い、そんな鋭い目つきで、結姫乃は俺のことを見た。

「だとしたら、星と《融和》している現状をどう考えている訳⁉」

「なんか悪いことなのか?」

「《星座》ならともかく、《異星》との融和は、違法よ。《星飼い》の人間は、異星体と同じ処理をしていいことになっている」

 さっきからよく分かんない単語出てくんなー。

「そこらへんよく分からないんだけどさ、後で教えてくれるか?」

「後でって……」

「落ち着けよ。こんなのいつもの遊戯と変わらないだろ」

 結姫乃ははっとした表情になる。

「いつもの、遊戯……」

 それから、何かに気が付いたかのように、先ほどまでの使命感や警戒心、敵対心と言った色が彼女の顔から消え、まるで挑戦者のように、本気でゲームに没頭するような子供のような顔つきに変化する。

 

「――上等じゃない」

 

 結姫乃は、笑う。

「もし万が一私に勝てたら、結姫乃と呼び捨てにしても構わないわ」

「おぉ、結構なチップだな」

「だって私はあなたを殺しに行くんだもの。それくらいがちょうどいいでしょう」

「殺す? 調子に乗ってるなぁ」

「どっちのセリフよ。殺さないなんて大口をたたいて。どうせ私が勝つわよ?」 

「勝率が五分の相手に、よくそんな口が利けたものですねぇ」

 結姫乃は笑い、僕も笑った。

 

 彼女は俺に銃を構えていたし、俺も彼女に銃を構えていた。

 

(はじめ)くん」

「おう」

 

 お互いに、次に何を言うかはわかっていた。


 

「「――《極上の勝負》をしましょう」」



 そして、示し合わせたかのように笑って、

 互いに引き金を引いた。

 

 

 

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