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僕はスライムとラブラブなハーレム生活を送れるかもしれない。  作者: 最条真
一章

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12 合体


「話を整理させてくれないか」

 僕が申し出ると、宇都宮は頷いた。

「まず……この世界における多様性とは、国が強引に推奨し、意図されて作られた価値観であるわけだよな?」

 宇都宮は頷く。……マジか。陰謀論なんて微塵も信じていなかったが、マジか。国が、意図的に、僕たちの価値観を作っていたという訳だ。宇都宮曰く、だが彼女が嘘を吐く理由がない。

 たぶん、真実だ。

「そしてその理由は、本来《異物》とされているものを、有象無象の中に埋没させ、隠蔽させるため……」

「そうだ。具体的に本物の《異星体》が地球に初めてやって来たのは、2006年。20年前の話だな」

「そんな最近なのかよ、《異星体》がこの場所に来たのって……」

「まぁ、な。みんな地球がある程度の文明水準に達するまで待ってたんだよ。……ようやくその時が来たって訳」

 ある程度の文明水準か、……なるほどな。


 ……人類の歴史は、数十万年に及ぶ不自由との戦いだった。 

 始まりは、石器時代。

 鋭い爪や牙を持たず、寒さに凍える弱い猿だった人類は、石を砕いて石器を作り、火を生み出すことで獣を追い払い、寒さを凌いだ。

 

 

 ――人類とは、常に不自由と戦い、勝利を続けた常勝の天才である。

 

 自然界の脅威を、相違工夫でねじ伏せたのが最初の勝利だ。

 

 次に来るのが、農耕と鉄器の時代。

 人々は安定を手に入れる。農耕の開始によって、食料の安定した供給が成されるようになったからだ。獣を狩り、肉を得るために流動的に動く必要性がなくなった。

 人は定住を選び、更に鉄という資源を有効に使用し始めた。

 鉄の真価は、破壊よりも創造にあった。石より遥かに硬く、熱して叩けば自由な形に加工できるこの金属は、人類の生活基盤を補強した

強靭な(すき)(くわ)は、それまで耕作不可能だった固い荒れ地を豊かな農地へと変え、斧やノコギリは原生林を切り拓き、都市を築く資材を生み出した。

 鍋や釜といった生活用具から、建築を支える釘に至るまで。鉄とは、人間が自然環境そのものを克服し、自らの手で世界を《作り替える》ための、最初の万能ツールだったのだ。

 

 自然の摂理を破壊し、文化を創り出したのが次の勝利。

 

 勝利に枚挙に暇がない。この話題だけで論文が書けるほど、人類はありとあらゆる不条理に勝利してきた。 

 だが、勝利にも質がある。

 完勝・快勝・辛勝・圧勝。

 様々な勝利があっただろう。間違いなく全勝ではないが、今の僕たちがいる以上間違いないのは、人類はやはり常勝の天才であるという真実だ。人類は様々な勝利をしてきた。

 しかし、勝利も、圧勝をも遥かに超える、《勝利》という抽象的観念を超越する、圧倒的な革命があった。

 

 2006年。

 ADSLや光ファイバーといったブロードバンド回線が爆発的に普及し、安定した通信速度と常時接続が当たり前になった年。

 YouTubeがGoogleに買収され、Twitterが産声を上げ、Facebookが一般開放された時代。

 人類はここで初めて、肉体を捨てた。

 神経網を拡張した。腕や足ではなく、ネットに神経を接続できるようになった。ネットは、やはり、革命と言ってもいい。 

 世界中とリアルタイムに接続できる。

 個人の思考、感情、視覚情報が、瞬時に地球の裏側まで共有され、消費されるコンテンツとなる。

 それはもはや、インターネットという巨大な神経網によって一つに接続され、地球が一つの《脳》として機能し始めた瞬間だ。


《彼ら》が待っていたのは、70億の端末が常に繋がり、膨大な電気信号が行き交う、この完成された『惑星規模の神経系』だった。

 

 これはもはや勝利ではなく、人類という種の快挙。

 種としての進化であり――それを狙って《異星体》は飛来した。

 

「――要は、ネットが普及するまで待ってたんだろ」

「ああ」 

 宇都宮は、薄く笑った。

「つまらない時代にやってきても、面白くもなんともないだろ。人間には、頑張って、土壌を整えてもらっていたわけだ。そして、宇宙人とも呼ばれる《異星体》のスタンスは、大きく二つに分かれる」

 僕もわかる気がする。

 

「――《侵略》か、《共生》か、だ」


 だろうな。宇宙人を題材にする作品も、大体そういうスタンスに分かれがちだ。侵略か共生か、その二択。

「その比率は?」

「2:8ってところだ。二割が侵略を主張し、八割が共生を主張している」

「おお……」

 それは意外だった。てっきり、地球は宇宙人によって支配されるものだと思っていたからだ。意外にも、穏健派が多い。それは意外なことなのだが、僕の中の幻想が壊れてしまった。もっと宇宙人って活発に攻めてくるものだと思っていたのに。

「八割の《異星体》は人間と仲良くしたいと思ってるんだ。だが、二割の馬鹿がやらかした。……東日本大震災に続く、三つの大事件、わかるか?」

 僕は聞かれて、答えた。

「2014年の『横浜重力消失事案』、2018年の『九州全域昏睡病』、そして、2022年の『東京大停電』……」


 横浜の人間は空に攫われ、

 九州全域の人々は原因不明の昏睡病を患い、

 東京は人類のインフラである、電気を失った。


 ――東日本大震災に並ぶ大事件と言えば、この三つだ。

 

 僕が具体的な事件名を告げると、宇都宮は頭を抱えて言った。

「東日本大震災を含めて、全部《異星体》の仕業だ……」

「マジでぇ……? なんか一応論理的な説明が――」

「それは《異星体》を把握している上層部の努力の賜物だな。《そういうこと》にしたんだよ。《異星体》の存在が露見したら、とんでもないことになるのは分かるだろ。最悪、人類と《異星体》の戦争まで始まりかねない。――第三次世界大戦とかな」

 第三次ならぬ、大惨事か。

 人類と《異星体》が本気で戦争を始めたらどうなるんだろうか。いや、間違いなく人類が負けるだろう。《異星体》はとんでもない。まだ、まともに関わったのがこいつだけだが、絶対に人類が負ける――


「――戦争が本気で始まったら、人間が勝つぞ」


 宇都宮がそう言って、僕はぽかーんと口を広げた。

 え?

 こういうのってあれじゃない?

 宇宙人が地球を一方的に侵略してきて、それで負ける奴じゃないの?

「地球に降りてきた《異星体》の他に、《空》に滞空を続けている奴もいる。まだ降りてきていない、観戦者を気取っている奴ら。そいつらが、人間に力を与えてるんだよ」

「……何故?」

「恩を売るためだな。正当な《星座》として認められて、人類の歴史に正統に名を刻み、正式にこの地に降り立つ前準備」

「なるほどな……?」

「《異星体》との戦争が始まったら、空の連中は容赦しないだろう。人類に惜しみなくリソースを注いで戦争を勝利に導き、《星座》として地球に君臨する。だから、万一にも戦争が始まったら、《異星体》が負ける……」

「微妙なバランスがあるわけか」

 宇都宮は頷いた。

「そうだ。そして、人間にとって有益なものは《星座》として認められ、有害なものは《異星》と認定され、駆逐される」

 なるほどな。

《星座》として認められる、というのは中々面白いニュアンスだ。

 正しい席に座る。

 正座。

 収まるべきところに収まっているのが、星座と言う存在なのだろう。「ちなみに《星座》と《異星》の比率は?」

 宇都宮は、苦々しそうな顔をしながら言った。

「1:9……」

「わぁお」

 人類って、もしかしたら心が狭いのかもしれない。

 ナチスのホロコーストやら黒人差別やら、すぐに人類は何かを差別して、排斥したがるんだから、全く困ったやつらだ。

「いや、俺もこの比率に理解はできるんだよ。分かるだろ。……《異星体》は四年周期で大事件を起こしている。そりゃあ、嫌われるに決まってるわな」

「なるほどな……」

 四年周期。

 最後は2022年の『東京大停電』……。

 ん?

 今は2026年だ。


「――今年か?」


 尋ねると、宇都宮は頷く。

「ほぼ確実に何かが起こる」

 確信に満ちた言葉だった。

「うわ、マジかー。……死にたくねー」

「安心しろ」

 宇都宮は僕の目を見ながら、告げた。

「お前だけは絶対に守る。何があってもな」

 そう言われて、流石の僕もはにかむしかない。

「普通そう言うのって、男側が言わないか?」

「現状俺の方が強いからな、守られるのは仕方ないんじゃね?」

 と軽い調子で宇都宮が笑った。

 

「……どうすれば強くなれるんだよ」

 

 失言。ああ、クソ、まただ。

 感情が高ぶると、理性を無視して、勝手に言葉が出る悪癖がある。

 いやでもだって、強くなりたい。

 守られるのなんて御免だ。

 僕は仮面ライダーになりたかったんだから。

 守る側になりたい。

 人を救う側になりたい。

 ふと、頭によぎったのは――医師である父のこと――家にいることは少ないし、母も『たまには家庭を顧みてほしい』というし、妹に至っては無関心に近い。だけど、僕は、父さんを尊敬している。

 あの人は人を助けてるんだ。

 偉い……偉いよな。

 

 僕だって、人を助けたい。

 弱いままじゃ、誰も助けられない。

 

「なぁ、白雪結姫乃が《特別自習室》にいたのはなんでだと思う?」

「……快適な空間だからだろ?」

「自分の部屋でもいいはずだ」

「それはそうだが――」


 その瞬間、スマホの通知が鳴った。

 それは、結姫乃からのメッセージ。

 

『誰にも言わず、一人で、これから会えないかしら? 巡回なんて形だけよ。余裕で避けられる。あと、この件は宇都宮有くんには内密に。私の元に来たら、何かが変わるかもしれない』


 と。

 何故、今日?

 極上の勝負をしようと言ったのは明日のはずで――

 

「《スカウト》が目的だったんだ」

 いつの間にか近づいていた宇都宮が、隣で、囁くように言った。

「《星狩り》は万年人手不足、それを補うために、才能のある若者にはとにかく声をかける」

 まだ脳が現実に追い付いていない。

「スカウト、って……」

「おそらく《星狩り》への勧誘だ。ほぼ間違いない」

「なんで僕が……」

「お前、あの白雪結姫乃と対等にやり合ってたんだぞ?」

 確かに。

 結局、互いに勝率は五分で落ち着いた。

 確かに。

 白雪結姫乃は出会い方が違えば好敵手になりうる存在だった。

 確かに。

 あの日々は楽しかった。

「だから、スカウトが来たのか……」

 ロジックが通っている。

「……あそこに、《特待生》がいた理由は、見込みがある奴を《星狩り》に勧誘するためだったのか……」

《特別自習室》は、Sクラスの生徒、もしくは一定以上の成果を出したAクラスの生徒にしか解放されない部屋だ。確かに、スカウトの場としては適切だろう。


『安心しなさい。私とは別口で、宮古さんという同じクラスの女子生徒も誘われているわ』


「宮古ォ!?」

 思わず叫んだ。

 二つのお団子が特徴な茶髪女子。赤色の瞳。小柄。

 関西弁。女。そして、僕を三番手に貶めた、強敵であり、僕がいつか絶対に倒さなければいけない人間。

『行く』

 僕はすぐに返事をした。

 何も考えていなかった。

 

『よかったわ。じゃあ、今から《特別自習室》に来なさい』


 返信はすぐに来た。

 僕は行こうと思う。

 宇都宮を見た。別に心配そうな顔はしていなかった。行くなら行け、という感じだった。だが、行動に続きがある。宇都宮は左腕を翡翠色の触手に変形させると、先端を球状に変形させ、その部分をポロっと切り落とした。

「安全のために、これを飲み込んでから行け」

 と、翡翠色の球体を差し出された。

「……これは?」

「俺の一部だ。これがお前の中にあれば、廃工場で見せたような触手を扱えるはずだ」

「それはすごいな」

「あと、情報が俺にも伝達される。俺の一部だからな、それは。耳にも目にもなる」

「それで触手も使えるようになると。超高性能だな」

「ああ」

 頷く宇都宮だが、少し変な汗をかいていた。

「俺の全力、九割近くの力をそれに注ぎ込んだ」

「な、……やりすぎだろ!」

 僕が叫ぶと、力なく宇都宮は首を横に振る。

「必要なことだ。何が起こるか分からない。自衛手段は持っていて損はないだろ」

「そりゃそうだが……」

 宇都宮は僕を見て、儚く笑った。

「俺はお前を愛してる。だから、これくらいなんてことないさ」

 それは。

 ……とんでもなく、嬉しいことではあったが。

 一つの疑問が湧く。

「この球体じゃなくてさ、お前自身が僕の中に入ってサポートするのは可能なのか?」

 尋ねると、それは盲点だったと言わんばかりに目を見開く。

 こいつは、人の中に侵入して乗っ取れると言っていた。だとしたら、侵入して乗っ取らないという選択もできるのではないか?

「……やったことはないぞ」

「でもお前をこの部屋に置いておくより安心だ」

「俺のことを心配してくれてるのか?」

 あまりにも当然すぎる問いかけに、僕は笑った。

 

「あたり前だろ」

 

 心底嬉しそうな顔をした後で、宇都宮は本質的な翡翠色の姿に変身していき、流動的に僕の口から体内に侵入した。

 この日、本当の意味で僕と宇都宮は一つになった。

 

 俗に言う、合体、というやつだった。

 僕は一ツ星相当の力を手に入れた。

 

『――よし、行こうぜ! 月野』


 ……頭の中に、少しうるさい相方を飼うことになるのが、少しネックではあるのだけれど。



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