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婚約破棄された悪役令嬢、なぜか追放後の田舎で英雄扱いされています  作者: 雨天


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第13話 正しさ

 王都では、その日のうちに会議が開かれた。


 非公開。

 記録官付き。

 ――つまり、“後で否定できない”場だ。


 長い机の中央に、調査団が持ち帰った資料が積まれている。

 その一番上に置かれたのは、私の手帳の写本だった。


「……状況は理解した」


 王太子エドワードが、低く言った。


「だが、この件は慎重に扱う必要がある。

 辺境での勝手な魔術行使を、前例として認めるわけにはいかない」


「前例ではありません」


 即座に声が返る。


 魔術師団代表――クラウスだった。


「既存の式です。

 すべて、過去に検討・試験されたもの。

 記録も残っています」


 政務局の官僚が、書類をめくる。


「……確かに。

 設計者は、すべてリリアーヌ・ヴァルフォード」


 空気が、微妙に歪んだ。


 名前を出すだけで、議論が止まる。

 それ自体が、異常だ。


「……では、なぜ彼女は追放された」


 宗務局の男が、慎重に口を開いた。


「聖女候補セシリアの安全を脅かした疑いが――」


「疑い、だな」


 クラウスが、淡々と遮る。


「“疑い”のまま、確定した記録はない」


 視線が、セシリアに向いた。


 白い衣を纏った彼女は、静かに立っている。

 いつも通りの、清廉な姿。


「……私は、民を守ろうとしただけです」


 彼女は、穏やかに言った。


「彼女の魔術は、危険でした。

 結果が良かったとしても、

 万が一があれば、多くの命が失われた」


「では」


 クラウスが、机に一枚の紙を置いた。


「この記録について、説明していただけますか」


 それは、私の手帳の一部だった。


 《疫病対策結界・辺境配布版》

 設計責任者:リリアーヌ・ヴァルフォード

 宗務局承認:保留

 理由:聖女候補の浄化儀式と方針が競合するため


 沈黙。


 セシリアの瞳が、わずかに揺れた。


「……それは」


「あなたの判断ですね」


 クラウスは、事実だけを述べる。


「浄化儀式を優先し、

 彼女の結界案を止めた」


「私は……」


 セシリアは、言葉を探した。


「当時、最善だと――」


「その結果」


 政務局官僚が、続けた。


「辺境三村で、死者四十七名。

 浄化儀式の実施は、物資不足で遅延」


 空気が、重く沈んだ。


「……だが、それは」


 セシリアが、必死に言う。


「私一人の責任ではありません。

 当時の判断は、組織全体で――」


「違う」


 王太子が、初めて明確に言った。


 視線が、セシリアに固定される。


「記録には、

 “聖女候補の判断を尊重する”とある」


 彼は、書類を閉じた。


「つまり、責任の所在は明確だ」


 セシリアの顔色が、初めて変わった。


「……私は、正しいことをしてきました」


 声が、わずかに震える。


「王都の秩序を守り、

 混乱を防ぎ、

 民を安心させるために――」


「その“安心”の裏で、誰が死んだ?」


 その問いは、誰の口から出たのか分からない。

 だが、答えられなかった。


 沈黙は、告発より重い。


「……結論を出そう」


 王太子が、立ち上がる。


「リリアーヌ・ヴァルフォードの件については、

 追放処分を再検討する」


 セシリアが、顔を上げる。


「……殿下」


「同時に」


 彼は、言葉を続けた。


「聖女候補セシリア・アーヴェルの判断について、

 内部監査を行う」


 その瞬間、

 “聖女候補”という言葉が、

 ただの肩書きに変わった。


「――以上だ」


 会議は、終了した。


     ◆


 数日後。


 ローヴェ村に、一通の書状が届いた。


 王都印。

 正式なものだ。


 私は、封を切る。


 《通知》

 追放者リリアーヌ・ヴァルフォードに対する処分は、

 当面凍結する。

 また、辺境防衛における功績を鑑み、

 現地での活動を黙認する。


 村人たちが、息を呑む。


「……黙認、だって」


「つまり……」


「ええ」


 私は、静かに頷いた。


「王都は、私を否定できなくなりました」


 だが、完全な勝利ではない。

 それでいい。


 その夜。


 私は、結界杭の点検をしながら、空を見上げた。


 星が、はっきりと見える。


(正義は、責任を取らない)


(でも、

 記録は必ず、責任を連れてくる)


 王都で、

 聖女は今、沈黙している。


 そして私は――

 もう、追放された“だけ”の存在ではない。

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