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婚約破棄された悪役令嬢、なぜか追放後の田舎で英雄扱いされています  作者: 雨天


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第12話 記録

 調査団が到着したのは、三日後だった。


 雨上がりの朝。

 空気は澄み、土の匂いが強い。

 皮肉なほど、穏やかな日だった。


 馬車は四台。

 政務局、魔術師団、王都騎士団、そして――宗務局。


「……揃いましたね」


 私は、村の広場に設けられた仮設の机を見つめた。

 即席の“審問場”だ。


 村人たちは、周囲を取り囲むように立っている。

 逃げ場はない。

 だが、逃げる者もいない。


「これより、王命に基づく調査を開始する」


 中央に立った男が、形式的に宣言した。

 政務局監査官。

 名を、ベルナールという。


 ――以前来た使者と、同じ家名。


 私は一歩前に出た。


「調査対象、リリアーヌ・ヴァルフォードです」


 その声に、ざわめきが走る。

 追放者が、堂々と名乗ること自体が異例だ。


「……では、確認する」


 ベルナールは、書類を読み上げる。


「あなたは、王命に反し、

 無許可で複数の魔術を行使した。

 事実ですか」


「事実です」


 即答。

 騎士団の一部が、眉をひそめた。


「その結果、魔物を撃退したとも報告されている」


「事実です」


「だが、それは結果論だ」


 ベルナールは、言い切った。


「秩序は、例外を認めない」


 私は、そこで一度だけ、深く息を吸った。


「では、こちらから確認させてください」


 許可を求める言い方ではない。

 質問をする前提の声だ。


「この調査は、“私の処罰”を目的としていますか」


 ざわめき。


「……最終的な判断は、王都が下す」


「では、目的は“事実確認”ですね」


 ベルナールは、答えなかった。

 だが否定もしない。


 それで十分だ。


「では、記録を提出します」


 私は、手帳を机の上に置いた。


 革装丁。

 角は擦り切れ、雨染みもある。

 だが中身は、びっしりと書き込まれている。


「……何だ、それは」


「私の業務記録です」


 魔術師団の一人が、前に出た。


「業務?

 君は追放されている」


「ええ。

 ですが、これは“追放前”から続いています」


 私は、ページを開く。


「疫病対策結界、辺境配布分。

 設計:私。

 承認:第三研究班。

 署名は――」


 私は、視線を上げた。


「クラウス・ハインリヒ」


 空気が、変わった。


 魔術師団側の数名が、顔を強張らせる。

 クラウスの名は、軽くない。


「冬季魔物忌避札、簡易型。

 設計:私。

 理由:予算不足による量産不可」


 私は、淡々と読み上げる。


「採用見送り。

 理由:“辺境は優先度が低い”」


 村人たちが、ざわついた。


「河川氾濫防止符。

 試験成功。

 正式採用されず」


 私は、ページをめくる。


「理由:

 “担当者不在時の事故責任が曖昧”」


 ベルナールが、低く言った。


「……何が言いたい」


「簡単です」


 私は、はっきり答えた。


「私が行使した魔術は、

 すべて“王都が一度は検討し、

 しかし責任を取らずに切り捨てたもの”です」


 沈黙。


 それは、否定しづらい沈黙だった。


「私は、危険な魔術を“新しく作った”わけではありません」


 私は、村を指す。


「危険だと知りながら、

 “使わなかった”ものを、

 “使った”だけです」


 宗務局の男が、口を開く。


「……それは、聖女候補の判断と関係が?」


「大いにあります」


 私は、頷いた。


「彼女は、秩序を守ります。

 だから、結果が出る前に“止める”」


 私は、静かに言った。


「私は、結果が出るまで“やる”」


 村人の誰かが、息を呑んだ。


「では、質問です」


 私は、調査団を見渡す。


「この村で、

 私の魔術による被害者はいますか」


 沈黙。


「怪我人は?」


 沈黙。


「死人は?」


 沈黙。


 私は、最後の問いを投げた。


「――王都の“想定”以外に、

 何が壊れましたか」


 ベルナールは、額に汗を滲ませた。


「……秩序だ」


「いいえ」


 私は、首を振った。


「壊れたのは、“想定”です」


 私は、一歩前に出た。


「王都は、辺境を救う想定をしていなかった。

 だから、想定外の成果を

 “危険”と呼んでいる」


 調査団の中で、明らかに視線が割れ始めていた。


 魔術師団は、記録を否定できない。

 宗務局は、聖女の正義と民の現実の板挟み。

 政務局は――数字を見ている。


「……結論は、持ち帰る」


 ベルナールが、そう言った。


 それはつまり、

 ここで断罪できないという宣言だった。


「ただし」


 彼は、私を見た。


「あなたは、危険な存在だ」


 私は、微笑んだ。


「ええ。

 “都合の悪い”存在です」


 その言葉に、

 誰も反論しなかった。


     ◆


 調査団が去った後。


 村人たちが、私を見る。


「……勝ったのか」


「いいえ」


 私は、正直に答えた。


「“負けさせなかった”だけです」


 だが、それで十分だった。


 王都は、もう一度考え直す。

 私を消すか。

 利用するか。

 それとも――。


 私は、手帳を閉じた。


(次は、

 “誰が責任を取るか”の話になる)


 そしてそれは、

 セシリアにとって、最も苦手な問いだ。

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