浮気をする旦那〔王太子〕など、こちらから願い下げ!
私は元々公爵家の人間だった。
政略結婚で王太子に嫁いだのだけれど、私の旦那となった王太子は一言でいえば「クズ」だった。
「フォルカー様、朝までどちらにいかれていたのですか?」
「うるさい! 私の行動に一々口出しをするな!!」
朝帰りがあまりに多いから、窘めるために問いかければ逆ギレをしてくる始末。
フォルカー・ハイエーク様は私の旦那でこの国の王太子である。
けれど、彼はとにかく酒癖と女癖が悪い。
酒に酔って適当な令嬢に声をかけて、寝室に連れ込む姿を何度見ただろう。
私という妻がありながら、だ。陛下も王妃様もフォルカー様の行動を容認している。
その理由の一つが、私が中々妊娠できないでいることだった。
(でも、妊娠しろと命じられたところで、フォルカー様がそもそも私をあまり抱かないのだから……)
初夜は共にしたし、その後も何度か夜を一緒に過ごした。
けれど、妊娠できる数を抱かれたのかといえば、私は首を傾げてしまう。
それなのに、妊娠できないのを私のせいにして、フォルカー様が遊び歩くのを黙認するのは違うのではないか。
私はそう思うけれど、王宮の人々はそうではない。
「アドリアナ様だわ。また一人で歩かれて……ご懐妊はいつになるのかしら」
「石女でしょう。妊娠なんて夢のまた夢よ」
「でも、ご懐妊していただかなければ困るわ。跡継ぎの問題がありますもの」
用事があって王宮の中を歩くたびにこそこそと影で言われる蔑みの言葉。
すでに慣れてしまったそれらにすました顔をして通り過ぎる。
「いくら元公爵令嬢だったとはいえ、爵位だけではどうにもならないことがありますなぁ」
「フォルカー殿下もアドリアナ様にはほとほと愛想が尽きたと仰っている」
「なんでも、抱き心地も最悪だとか」
(うるさいわね)
下卑た噂話をする男性たちの言葉が耳障りだ。
というか、夜の営みについて外野が口を出さないでいただきたい。
抱き心地なんてどうすればよくなるのかわからないし。
確かに私は胸もお尻も大きくないかもしれない。
でも、スレンダーで美しい体形はしているはずなのに。
「はぁ……」
ため息が止まらない。
こんな日々、いつまで続くのだろう。死ぬまでだったら、嫌だなぁ。
王太子妃なんて、なるんじゃなかった。私に拒否権はなかったけれど。
▽▲▽▲▽
ある日、庭園のガゼボで本を読みながら過ごしていた私の元に、大股で近づいてきたのは、最近私を避けている様子だったフォルカー様だった。
「喜べ、アドリアナ! お前の役目は終わった!!」
「……は?」
突拍子もない言葉に私が間の抜けた声を出すと、フォルカー様は横に連れてきていたお腹の大きな令嬢の方を得意げに抱いた。
ノーラ男爵令嬢。クロウパ男爵家の末の娘だ。
どうしてフォルカー様はお腹の大きなノーラ様の肩を抱いて、自慢げにしているのか。
ノーラ様は人の旦那様の隣で幸せそうに笑っているのか。
ぐるりと脳内を最悪の予想が過ぎって、私は眩暈を堪えるように額に手を当てた。
「……フォルカー様、先ほどの言葉の意味を教えていただけますか……?」
「言葉の通りだ! お前は用済みだ! なぜなら、ノーラが私の子を孕んだからな!!」
「っ」
想像していた通りの『最悪』がお出しされた。
こみ上げてくる吐き気を堪えて、私はフォルカー様を見る。
「睨んでも無駄だ! 私の子を孕めないお前の落ち度だからな!!」
「アドリアナ様、いままでお勤めご苦労様でした」
私を罵倒するフォルカー様と、にこにこと笑顔で私を蔑むノーラ様。
ああ、確かにお似合いの夫婦だ。
私は心がすっと冷えるのを自覚しながら、テーブルに本を置いて立ち上がった。
「ノーラ様を側室に迎えるということですか?」
「本来ならノーラを正妃にしてやりたいが、お前の父を敵に回すのは少々面倒だからな。よかったな、公爵家の生まれで」
吐き捨てるように告げられた言葉に、握り締めた拳が震える。
けれど、私はドレスの裾をつまんで、綺麗なカーテシーをした。
「畏まりました。妻の役割は本日で終わり、と。これからはパートナーとして勤めさせていただきます」
私は腐っても王太子妃だ。
王太子妃教育だって受けているが、ノーラ様はそんなことはしていない。正妃の座は揺るがない。
ならば、国の為、家の為、この屈辱に耐えて正妃として勤めあげるのが、私にできる唯一の仕返しだ。
そう考えての私の言葉に、フォルカー様の表情が歪む。
ノーラ様もまた、憎々しげに私を睨んでいる。
少しだけ落ち着いた気持ちで「失礼します」と口にして、私はその場を去った。
本、まだ読みかけだったのにな。
▽▲▽▲▽
ノーラ様がフォルカー様の子を懐妊したと公に発表されてから一週間がたった。
彼女は側室として男爵令嬢とはあるまじき立場に落ち着いている。
私への風当たりはより強くなったけれど、気にしないつもりで変わらぬ毎日を過ごしていた。
そんなある日。
私は夜分遅くに、寝付けなくてふと風にあたりたくなりバルコニーに出た。
夜だから暗い。けれど。王宮の庭園はまだまだ貴重な魔法石を使った魔法ランプで所々が照らされていて、明るかった。
バルコニーに出てすぐに気づいた。庭園に人影があることに。
私の部屋に面している庭園は王族だけが入れる特別な場所だ。
誰がいるのだろう、と目を細めた私の視線の先には、ノーラ様と見慣れぬ騎士がいた。
(……嫌な予感がするわ)
見つからないようにそっと足音を殺してバルコニーから自室に戻った私は、ネグリジェのまま暗い室内を横切って、庭園を目指した。
人影は遠目でもわかるほど、親しげに寄り添うようにしていた。
女の直感、とでもいうのだろうか。
何か秘密がある、と私の脳内が囁いているのだ。
そっと足音がしないように気を付けて、一階のテラスにでた私は、柱の影に隠れながら、気づかれないように細心の注意を払って二人の声が聞こえる場所まで移動した。
ノーラ様と見慣れない騎士――まとっている鎧の種類からして、王宮仕えの騎士だろう――は寄り添うように体を密着させている。
(これだけでも十分な浮気現場だけれど)
人を呼べば大騒ぎになるだろう。
けれど、もっとなにかあるはずだと私の心が囁くから。じっと私は聞き耳を立てた。
「悔しいわ。セドリックの子供を、あんなぼんくらの子供といわなくちゃいけないなんて」
「我慢してくれ、ノーラ。私たちの愛の結晶の未来の為だ」
「……そうね。あの女は子を孕めないようだし、この子が将来の王様。そしたら、すぐにあんな男を蹴落として、貴方を呼ぶわ。セドリック」
(どういう意味、この会話は)
熱に浮かされた様子のノーラ様の言葉と、騎士の言葉をまとめると、ノーラ様のお腹の子供はフォルカー様の子ではないということになる。
浮気、不倫、それらの文字がぐるりと脳内を巡って。
(托卵だわ)
別の男の子を、フォルカー様の子だと言い張る。実際、肉体関係もあるのだろう。
だから、フォルカー様は疑わなかった。
あるいは、どちらの子供なのかはノーラ様すら明確にわかっていないのかもしれない。
爛れた関係だ。でも――これは。
(使える)
口元が吊り上がる。勝った、と思った。
蔑まれ続けた私が、弓を引く機会を得た。
その後、二人の甘い会話は気になったけれど、ほどほどの所で切り上げて、私は自室に戻った。
その場にいたことがバレないうちに。
私は部屋に戻ってベッドに入って、頭の中で計画を立てた。
ノーラ様の子供が、本当にフォルカー様の子供ではないとしたら。絶好の復讐のチャンスだ。
フォルカー様は金髪に緑の瞳、ノーラ様は桃色の髪に同色の瞳、あの騎士は銀髪に青い目だった。
ならば、生まれてくる子供が銀髪か青い目のどちらかを持っていれば、ノーラ様の浮気は証明できる。
あえて、待とうと決めた。
子供が生まれる、その日まで。
私は賭けにでることにしたから。
生まれてくる子供の色彩次第で、彼らを断罪するチャンスが巡ってくるはずだと。
私がノーラ様の浮気現場を目撃してから半年。ノーラ様が産気づいた。
バタバタと朝から騒がしい王宮の自室で私は祈り続けた。
どうか、生まれてくる子供が銀髪に青い目でありますように、と。
そして――私の願いは、果たされた。
念願の赤子が生まれたのに、王宮は酷く静かだった。
その静けさが、私に勝利の確信をもたらした。
私は前もって取り付けていた陛下と王妃様への謁見に向かっていた。
手にしているのは、ノーラ様が浮気をしていた数々の証拠。
まだ見ぬ赤子だけに全てを賭けるほど、私は愚かではない。
王宮の中で信頼できる人間を使って集めたこれらの証拠は最後のダメ押しになるだろう。
足取りが軽い。こんなに気分がいいのは久しぶりだ。
私は笑みを零さないように注意しながら、謁見の間の扉を開けた。
「誤解です! 父上! あの子は確かに私の子なのです!!」
「そうです! 私は確かにフォルカー様の子を身籠っていました!!」
私が謁見の約束を取り付けていたはずの広間で、大声でみっともなく喚いているのはフォルカー様とノーラ様だ。
恐らく、赤子の色彩が両親のどちらにも似ていないことを詰められているのだろう。
私が入ってきたことにすら気づかない様子で言葉を重ねている二人の姿は哀れだが、私にはもうどうでもいいことだ。
「陛下、王妃様、アドリアナが参りました」
広間の中央まで進み出て綺麗なカーテシーをすると、陛下が「おお」と声を上げた。
「こちらに参れ、アドリアナ」
「どうしてお前がここに……!」
「大切な話があると聞いているのです。貴方はそろそろ口を噤みなさい」
陛下に招き寄せられて、もう少し前に出る。
あまり近づきたくないのはフォルカー様とノーラ様がいるからだ。
フォルカー様の言葉を抑え込んだ王妃様に感謝しつつ、私はにこりと微笑んでまずは祝福を述べた。
「この度は、元気なお子が生まれましたこと、お祝い申し上げます」
「そのことだが、アドリアナ」
「陛下、それについて、こちらをご覧いただけないでしょうか」
「うん?」
陛下の言葉を遮るなど、本来あってはならない。
でも、私は急く気持ちを抑えることができなかった。
手にしていた書類を陛下の傍に控えている宰相に預ける。
宰相はさらりと私の書類に目を通して眼を見開くと、陛下へと奏上した。
「これは……! なんと……!!」
「父上?」
私の奏上した書類に目を通した陛下が青ざめた顔で口を開く。
「お前はなんと愚かなのだ! フォルカー!!」
「っ?!」
一喝されてびくりと肩を竦めたフォルカー様が私を睨む。私は優雅に微笑み返した。
「ノーラ」
「はい、陛下」
「其方が生んだ子供、真に王家の血を引く者か?」
「もちろんです!」
出産したばかりだからなのか、少々顔色の悪いノーラ様がそれでも強気で陛下の言葉に返す。
馬鹿な子、少しでも罪を認めれば――ああ、でも、王家をたばかったのだから、死罪は避けられないけど、ちょっとは楽な処刑方法になるかもしれなかったのに。
内心の高笑いを隠して、私は微笑み続ける。綺麗な笑顔だけは得意だから。
「では! これはなんだ!!」
陛下は怒鳴り声をあげて、書類をぶちまけた。
予備はあるけれど、あまり雑に扱わないでほしいな、とどうでもいいことを考える。
その書類の証拠、集めるのに苦労したのだから。
「な、に……?」
「……え?」
床に散らばった書類を見つめたフィルカー様が唖然とした声を出した。
それは隣に佇むノーラ様も同じ。
陛下がぶちまけた書類には、ノーラ様がセドリックという名の騎士と親しくしている、端的に言えば浮気をしている現場の魔道具で撮った魔道写真がたくさん収められていた。
「ど、どういうことだ! ノーラ!」
「こ、これは! 言い寄られていて! 断れなくて!」
ノーラ様に詰め寄るフォルカー様に、けれどまだ言い訳を連ねる姿は滑稽だ。
私は笑いだしたいのを堪えて、にこりと微笑み、止めを刺した。
「私は確かにこの耳で聞きました。ノーラ様の『セドリック、貴方の子よ』という言葉を」
「嘘を言わないで!!」
「証拠はこちらに」
ヒステリックな声を上げるノーラ様に対し、私は持ち込んだ一つの魔道具のスイッチを入れた。
人の声を録音する魔道具は、まだ一般的に出回っている品ではない。
父である公爵が運営している研究所で、半年ほど前に開発された品だ。
けれど、陛下と王妃様はその存在を知っている。
だから、私はこの魔道具でノーラ様の肉声を録音した。
録音するまで結構かかったけれど、これがゆるぎない証拠になる。
『セドリック、貴方の子供よ。安心して、いずれちゃんと貴方をこの子の父として迎えるわ』
魔道具の再生はたしかにノーラ様の声で間違いない。
青ざめたフォルカー様がふらりとよろけて膝をつく。ノーラ様が真っ青な表情で立ち尽くしている。
ああ、全く! 愉快でたまらないわ!
「陛下、私が集めた全ての証拠を献上いたします。代わりに、一つ願いを聞いていただけないでしょうか」
「なんなりと申してみよ」
「私は、この国を出ます」
はっきりと言い切った私の言葉に、フォルカー様が目を見開く。
けれど、陛下は驚いた様子はなく、王妃様だって僅かに視線を伏せただけだった。
「王太子とは離婚いたします。王太子妃の座も返上いたします。これまでの待遇は到底容認できるものではありません」
強気の言葉はずっと口にしたかった台詞だった。
この状況で私を手離すのは国にとって愚策だ。
けれど、この現状で私を手元に置けないことくらい、陛下だってわかっているはずだ。
「……そうだな。お主にした王太子の仕打ちを考えれば、それはやむを得ぬ。いいだろう、国を出よ。餞別はそれなりに持たせてやろう」
「ありがとうございます、陛下」
「ま、まってくれ!!」
陛下の慈悲の言葉にお辞儀をした私に、フォルカー様が裏がった声を出す。
今更縋るように伸ばされた手をとってやる義理は欠片もない。
「さようなら、旦那様」
冷たい眼差しでフォルカー様を一瞥して、私はその場を辞したのだった。
▽▲▽▲▽
無事に国を出た私は、隣国へと渡った。
公爵令嬢として生まれて、王太子妃教育を受け続けてきたから、礼儀作法はわかるけれど、それ以外はさっぱりだ。
そんな私の為に、父が前もって隣国の有力な商人に話をつけてくれていた。
現在、私はその商人の元で平民に紛れて生きていく方法を教わりながら、店の仕事を手伝っている。
一通りの作法を教わってお店にたつようになって、そろそろ半年が過ぎようとしていた。
「やあ、アドリアナ。今日も綺麗だね」
「お久しぶりです。ミカエル様。今日はどういったご用事ですか?」
「そうだなぁ。今日は香水を貰おうかな」
「はい、畏まりました」
貴族御用達の高級店舗に最近足しげく通ってくださるのは、ミカエル様とおっしゃる貴族の紳士の方。
私より二、三歳年上に見えるミカエル様は、一週間に二日ほどの頻度でお店にいらっしゃって、あれこれと買い物をしてくださる。
「こちらなどいかがでしょうか。私の祖国のものなのですが、リベーベの花で作った香水です。甘すぎず、男性にも人気なんです」
男性用の香水をいくつかテーブルに並べて、私は一つ一つの説明をした。
最後に持ち出した祖国の香水の説明に、ミカエル様は興味をそそられたようだ。
「ほう。君は好きなのか?」
「え? はい。好ましく思う香りです」
「では、それを貰おう」
にこりと爽やかに笑う表情はなんだか楽しげだ。
私は変に跳ねた心臓に首を傾げつつ、商談が決まったと察した従業員が近づいてきたので、香水を渡す。
私はまだラッピングはヘタクソだから。
「そういえば、最近隣国で盛大な催しがあったらしい」
「どういうものですか?」
商品を包んでいる間に、なんでもない雑談をするのも慣れてきた。
ミカエル様の言葉に少しの興味をそそられて尋ねると、ミカエル様は肩を竦めた。
「とある令嬢の処刑が行われたのだとか。王家を唆した国家転覆罪だそうだ」
「それは……」
「すまない。血生臭い話題だった」
ノーラ様のことだ。気づいたけれど、言及しない方がいい。
右手で軽く口元を抑えた私の行動を別の意味にとったらしく、ミカエル様が謝罪を口にする。
ミカエル様は優しい方だ。誠実で真面目で、どこかの王太子とは大違い。
こんな方が旦那様だったらよかったのになぁとは思うけれど、この国での身分がない私がそんなことを願っても仕方ない。
私はにこりと笑ってラッピングが終わった香水をミカエル様に渡した。
「ミカエル様、どうぞ」
「ああ、ありがとう。……なぁ、一つ尋ねたいんだが」
「はい。なんでしょうか?」
ミカエル様の燃えるような赤い瞳が私を射抜いている。
ゆっくりと細められた瞳に、心臓がどきどきと煩い。
「君は、好いた人はいるか?」
探りを入れられている。すぐに気づいた。
でも、私は嘘を吐く人が嫌いだから。素直に自分の経歴を口にした。
「私は一度結婚していて、傷ものです。だれかを好いても、好意を口には出せません」
処女ではない。その事実が重く圧し掛かる。
男を知っている女を、男性は好まない。
それは祖国でもこの国でも同じ事。だから、貴族の令嬢は貞淑さが求められる。
少しだけ切なくて、視線を伏せた私の前で、ミカエル様が肩を揺らした。
「はは、君はそんなことを気にするのか?」
可笑しそうに笑う姿に、少しだけ傷つく。
女性にとっての大事を軽く扱われるのは嫌だった。
「そんなこと、ではありませんよ」
「そんなことだろう。他人の子を身籠って『貴方の子です』という女に比べれば、大抵のことは」
笑い飛ばす言葉に、目を見開いた。それは、私の事情を全て知っていると言わんばかりの言葉だったから。
「また来る。よろしく頼む」
「は、はい」
動揺が口に出た。颯爽と立ち去る姿を見送って、私はまた甘く傷みだした胸を抑えるのだった。
そんなやり取りをしてから、さらに三か月後。
私は、ミカエル様から求婚を受けた。
「君が気になって仕方ない。綺麗な所作や優しい心遣いが、私の心を射止めてしまった」
少し照れくさそうに笑うミカエル様に、心臓が爆発しそうだった。
私はどくどくと煩い心臓を抑えて、でも、と口にする。
「私では貴方に釣り合いません。ミカエル様は――この国の王太子でらっしゃいますから」
「知っていたのか」
「そこまで鈍くはありませんよ」
ふんわりと微笑んだ私の頬に、ミカエル様の手が添えられる。
赤い瞳が熱を宿して私を見ている。初めて向けられる、情熱的な瞳。私に愛を伝える、優しい眼差し。
「君が好きだ。しがらみなど、俺がどうとでもしてやる。だから、どうか」
俺と一緒になってくれないか。
熱烈な愛の告白に、私に心臓が跳ねる。
痛みを主張するほど激しく高鳴る心臓に、私は泣きそうになりながら唇を噛みしめる。
「大丈夫だ。君のことは全てから俺が守る。だからどうか、この国の未来の王妃になってくれ」
「……はい」
ここまで強い愛の言葉を、私は知らない。
こんなにも激しい愛情を注がれたことがない。
だから、気づいたら。私は首を縦に振っていて。
心底嬉しそうなミカエル様の胸の中で、涙をこぼしながら抱きしめられていた。
読んでいただき、ありがとうございます!
『浮気をする旦那〔王太子〕など、こちらから願い下げ!』のほうは楽しんでいただけたでしょうか?
面白い! 続きが読みたい!! と思っていただけた方は、ぜひとも
ブックマーク、評価、リアクションを頂けると、大変励みになります!