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第9話 注目される男と注目する女達

「時に、厳島」


 短剣と小盾を構えながらダンジョンを進んでいく一刀。平家は2mほど後ろについて歩いていたが突然一刀に話しかけ、全員を驚かせる。


(平家先生、本当にすごすぎないか!? あのレベルの男子にあんなに気軽に声をかけられる!?)


(流石現役S級冒険者……!)


(私も厳島君に気軽の声をかけられるように強くならなきゃ……! そして、『時に厳島君。お尻さわっていい?』なんて言ってもいいかしら、きゃー!)



 いいわけがない。だが、乙女の妄想は止まらず、誰もが夢見心地のまま歩き、平家と一刀による妄想の餌に心の中で舌なめずりをする。


「な、なんですか? 平家先生」


「お前のその戦い方はどうやって身につけたんだ?」



(知りたーい!)


(厳島君のことならなんでも知りたいけれど、確かに男なのにあんなに強いのは気になる……去年同クラだった『あの子』はダンジョンに入ることも出来なかったし、そもそも身体も魔力も小さすぎてハムちゃんって呼ばれてたもんなあ)


(わたしも厳島君の身につけられたい)

 


 つけられるはずがない。だが、そんな女子達の願望などには気付く事もなく、一刀は平家の質問に答えていく。


「ああ、ウチは本当に田舎で、ダンジョンの間引きしようにもばあちゃんばっかりで難しくなって……だから、俺が10歳の頃には一緒にダンジョンに潜ってて、中学生になった頃位からは、ばあちゃん達もしんどいって言って俺が一人で間引きをするようになりました」


「ほう……?」



((((((((は?))))))))



 ダンジョンは放置すると無限にモンスターが現れ続ける。ダンジョン内の魔力によって魔石が生まれ、その魔石が核となりモンスターが形成されるということは一刀が生まれた頃にはもうすでに定説になっていた。


 そして、ダンジョン内で増え続けると今度はモンスターたちが餌場を求め、ダンジョンを出て大移動を始める。これを〈大発生・スタンピード〉と呼び、人々は災害扱いをし、テレビでも大発生が起きるとすぐに速報が入るようになっている。


 その大発生が起きないようにする方法は実に単純。

 モンスターの数を増やしすぎないこと。ダンジョンそのものの核を破壊しダンジョンを出入りできる『穴』を塞ぐ方法もあるが、今となっては、魔石は田舎でも使われる重要なエネルギー資源。


 一刀はダンジョンの魔石を確保するために、1人でダンジョンに潜り、モンスターを一人で倒していたと言う。


 本来、女性冒険者であっても一人で潜ることは世界中でもたった数人を除いてあり得ない。


 それを男が、しかも、中学生になったばかりの男子がやっていたと聞き、平家は片目を見開き、後ろで聞いていた女子達は叫びそうになるのを必死で両手でふさぎ耐える。



「一人でダンジョンに潜って、モンスターを倒していたとはな……それでそういう戦い方なのか」


「はい……だから、俺はチームプレイがうまく出来るかどうか。これから一生懸命練習していこうとは思うんですが、どういうやり方がいいのか。まだわからないんです」



(しょ、しょんぼり一刀くん、かわいぃいいいいい!)


(守りたい、その小さくなっちゃった背中)


(一刀君に似合うフォーメーション、明日までに仕上げてみせる!)



 肩を落とす一刀に母性本能が目覚める一部の女子生徒と、自分のチームに入った場合のフォーメーションとラブストーリーを妄想する女子生徒たち。



「剣術や体捌きは誰に教わった?」


「しずるばあちゃ……あ、俺の地元ですごく強い人がいて、その人に叩きこまれました」


「しずる……成程な、道理で。厳島、早川先生に私も会わせてもらいたいのだが……ああ、この話はまた後にしよう。……来るぞ。お前のやり方ちゃーんと後ろの連中に見せてやれ」


「……はい! 行きます!」



 何故平家が自分の戦いの師匠の名字を知っているのか。

 一刀は気になったが、今は違うことに集中しなければならない。前方からやってくる小鬼の軍勢。先程の大騒ぎが聞こえていたのか、バラバラと現れるのではなく、しっかり集団を形成し、武器で音を立て一刀を威嚇してくる。


 一刀は8の字に短剣を振り回し、ぴたりと自分のイメージ通りの位置に止められたことを確かめると、大きく3回深呼吸。



 すぅううううううううううう……ふぅううううううううう……。


(あの空気になりたい)


 すぅうううう、はぁあああああ……。


(あの一刀君の吐いた二酸化炭素の缶詰の販売はいつですか)


 すぅううううはぁあああ……。


(空気!!!!)



 女子達が雑念を無限に湧き上がらせる一方で、一刀は無心へと近づいていく。


 丹田に力が集まり凝縮されたのを感じ一刀は小さく息を吐く。


「ふっ……!」




 そこからは圧倒的だった。




 軽快に動き回り、小鬼達の矢は全て躱し、近接攻撃は小盾で流れるように美しく全て捌き、逆の手に持った短剣で一匹につき一撃で力強く首を狩っていく姿がドローンの中と2年9組の女子たちの脳内に記録されていく。


「うおりゃああああ! ……っふう、てな感じで田舎では一人でダンジョンの間引きをやってて……って、あれ? やっぱり都会のやり方はも、もっとスマートだったりする……あの、先生……オ、オレ、何かやっちゃいました……?」


 平家がにやりと笑いながら一刀の発言に応える。


「厳島……お前、これから大変だからな。頑張れよ、私は応援する、いろいろな」


 何かやってしまったのかと頭を抱えうずくまる一刀。平家がそんな一刀を見て笑い、ちらりと後ろを振り返る。


 そこには、目を皿にして、じいいいいっと一刀を見続け、目をかっぴろげたまま妄想に入り始めた女子たちが。


(厳島君! あなたは何故厳島君なの!?)


(一刀くん……デートでダンジョンなんて……何に襲われるかわからないよおお!)


(やっぱり結婚式は和風よね)



 そして、じーっと見続ける魔動ドローンに収められた映像により、動き出す教師や冒険者協会の大人たち。


 転校してきた男子に興味を持つ学園に在籍する9人の男子たち。


 男子の転校生に警戒を強める生徒会と風紀委員会。


 こちらも女獣への警戒を強める叔母と従姉妹たち。


 そして、田舎では……


「一刀はちゃんと嫁をたくさん連れて帰れるかの?」


「儂らが育てたんじゃ……両の指じゃ足りん位連れて帰ってこんとな」


「なんにしても元気に過ごして欲しいのう」


「大丈夫よぉ、一刀には週末は毎日配信するように言うとるから。今週末になれば見られるよぉ、ねえ? 一葉さん?」


「ああ、楽しみに待とうじゃないか。わしらの孫が何人嫁を見せてくれるか」



 一刀には上京するまで買い与えなかったスマホを取り出し、一刀のばあちゃん達は顔を見合わせて笑い、週末にはと約束した一刀のダンジョン配信を見られる日を指折り数えた。

お読みくださりありがとうございます。

また、評価やブックマーク登録してくれた方ありがとうございます。


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