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第8話 勘違いする男と勘違いする女達

「いやはや、まさか……餓鬼を一人で倒してしまうなんてな……規格外の男だ」


 一刀の影から出てきた平家は親指で眼帯周りを掻きながら、右目が潰れ仰向けに倒れて動かなくなった餓鬼を見つめる。一刀は既に短剣を引き抜き、持っていた布で丁寧に拭う。


「い、厳島くん! よ、よかったら私やるよ。餓鬼戦で何も役に立てなかったし」

「あ、ああ……大丈夫。あの……俺、田舎ではよくばあちゃん達の農具とかも全部磨いてたから」

「そう……」


 一刀に拒否され落ち込む環奈。

 だが、一方で一刀もそれを見て落ち込む。


(あれ? 農具の手入れが出来る男はモテるってばあちゃん達に言われてめっちゃやってたからデキる男アピールしてみたのに、反応が悪い。や、やっぱ農具の手入れできるなんてダサかったんか?)


 互いに落ち込む二人を見て笑う平家。

 だが、一刀が背を向けた瞬間、眼帯をズラし、隠していた白い瞳を一刀に向ける。次の瞬間、平家の視界には、一刀の身体の中、魔力の流れが脈のような光の線となり映し出される。


(やはり、魔力自体はほとんど感じられない。先程の雷の魔力も僅かに残っているだけだな……だが、やはり……あの雷の魔力は……)


 平家は視線を一刀から隣で肩を落としている環奈に向ける。環奈の身体中を巡る強力な金色の光に思わず目を細める平家。


(量は全く違うが色や形はそっくりといっても過言ではない。いや、量もさっきあの時は、神原の持っている魔力量を超えていた)


 平家は先程までの記憶を振り返る。


 いつもと違う事ばかりのダンジョン研修ではあった。

 だが、さっきの一刀の異常な魔力の原因となりそうなもので一番思い当たるものは……。


『神原さん! 神原さん! 大丈夫!?』

『だいじょぶ、じゃない、かも……』



(身体的接触? それとも……精神的な何か……。それに、これは……アイツの持つ特性か、それとも男に共通するのか……いずれにせよ『アレ』に相談してみるか)


 平家が思考を巡らせている内に、背後にある魔動ドローン付近からうめき声が上がり、平家は眼帯を戻す。そして、後ろの死屍累々たる女子たちの倒れ伏すさまを見てため息を吐く。


「さて……なんとか耐えきった神原たちは置いといて……。……ふむ。時に厳島、お前の女性の好みを聞いてみていいか?」


「「「「ええ!?」」」」



 ぴく。


 その時、全女子が動いた。


「まあ、ヒント程度のものだ。厳島、やっぱりだらしない女は嫌いだよなあ」


「えーと、まあ、そうですね」



ぴくく。


その時、全女子が揺れた。



「元気な女は好きか?」


「そ、そうですね。好きですね」



 一刀が言い終わる前に、全女子は動いていた。


 ざざざっと魔動ドローン付近で倒れていたはずの女子たちが一斉に起きあがり、一刀は何事かと身体を縮こまらせる。


 倒れる=だらしない、元気ないと判断した女子たちは、力の入らない足に必死に魔力を流し込み立ち上がる。だが、立ち上がるだけで精いっぱい。

 一刀を見れば、先程の雄姿を思い出し再び気絶してしまうと視線は一刀から外したまま。


 それを見て勘違いしたのは一刀。


(ああ~、なんかみんな怒ってる? 田舎もんの男ごときが都会の女性を前に好みを語るないうことかなー!? まさか元気がいいって言って立ったわけでもなさそうやし、だって、みんななんもしゃべらんもん!)


 しゃべらないのではなくしゃべれない。今、言葉に出せるのは一刀への求愛の言葉か、欲望塗れの発言しか出て来ず、口を噤む。

 鬼気迫る様子を浮かべ並び立つ女子達。一刀はその気迫に震えていた。その姿に先程の雷神がごとき姿が一切重ならず、平家はくすりと笑った。


(そういえば、厳島は田舎から嫁探しに来たというのが入学の理由だったな……恩を売っておくのも悪くはないか)


「おい、厳島。折角女子達が起き上がったんだ。お前が田舎でどんな風にダンジョンで戦っていたか、どういうやり方で小鬼を倒すのか。もう一度みんなにちゃんと見せてやれ。お前が出来る男だってところをな」


 平家の言葉に心の中で土下座する一刀。


(ありがとうございます! 平家先生! 俺の挽回の場をくれて! みんな、見ててくれ。今度は眠くならないような戦い方を見せる!)


 そして、平家の言葉で心の中で土下座する女子達。


(ありがとうございます! 平家先生! 私達に挽回の場をくれて! 厳島くん見ててね! 今度こそ厳島君の輝きに耐えてみせる!)


 それぞれの勘違いが続く中、一刀は磨き直した短剣を8の字に振り、再び前へと進んだ。


お読みくださりありがとうございます。

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