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第6話 格好つける男と格好つけられる女

「神原さん! 神原さん!」


「厳島さん! それ以上はいけません! 神原さんが(幸せ過ぎて)死んでしまいます!」



 一刀がとてもいい笑顔で気絶している環奈を抱きかかえ強く彼女の身体を掴んで揺さぶり名前を呼び続けていると、玖須美が慌てて一刀を止める。一刀が環奈の身体を強く掴み名前を呼ぶごとに噴き出す鼻血によって一面は血の海。


「卯ノ花~、神原の治療をしてやってくれ」

「ひゃ、ひゃい!」


 平家に呼ばれ慌てて飛び出したのは、白いふわふわなローブを着たヒーラーの女の子、卯ノ花羽衣うのはな・うい。薄い茶色の髪を揺らしながら一生懸命てててと走ってくる様はハムスターのごとし。その光景に一刀は目を細める。


(はあ~、こんなに小さくてかわいい子もいたのか~。癒される~)


 だが、一刀の近くまで来ると、ぴたりと止まってしまい、じいっと一刀を見つめたまま。


「ど、どうしたの?」


「す、すみません……あの……神原さんをそっとおろして離れてもらえませんか? ほんとうにすみません」


(ぐはあ! や、やっぱりオレ、警戒されとる……?)



 羽衣のその言葉にメンタル大ダメージを受けながらも表情には出さず、にこりと微笑みながら環奈をそっと置き、離れていく一刀。その一刀を確認するとそろりそろりと環奈に近づき、治癒魔法を行使する。ふわりと白みがかったモスグリーンの光が環奈を包み込む。すると、環奈のとてもいい笑みが穏やかな表情に変わっていき、鼻血も止まり、血色がよくなっていく。


「すげえ……これが回復魔法……」


 一刀の呟きにびくりと反応する羽衣。それに気付いた一刀は慌てて口を塞ぎ、出来るだけ離れようと静かに忍び足でさらに離れていく。


「さて……神原が気絶してしまった事だし、神原チームの戦闘はこれ以上難しいな」



 平家からその言葉が出された瞬間、他のチームの女子たちの『わたしいけますよ』の空気がどんどんと膨れ上がっていく。


「そんな……! 先生、まだアタシ達やれますけど!」


「そ、そうです! もっとアピ、じゃない。もっと戦いたいですわ!」」


「たたた……そーそー、まだやらせてくださいよ。なんなら一刀くんと一緒に」



 杏理も玖須美もまだやれることを告げ平家に詰め寄るが、剣崎の余計な一言によって空気が変わる。3人の無言の見つめ合い、その上、他の女子たちの重々しいウォーミングアップによってなんともいえない重圧の掛け合いが始まり出してしまう。

 その圧に一刀は後ずさりをするが、そんな一刀の首に腕を回す平家。


「なら、厳島。お前、一人でやってみるか」


「え?」


「「「「「「「えええええええええええええええええええ!?」」」」」」」



 ダンジョン内に女子たちの甲高い絶叫が鳴り響こうとしたが、すかさず平家が〈消音・サイレント〉の魔法を行使し、音を消してしまう。

 それによって冷静さを取り戻す女子たちだが、それでも、平家への反対は止まらない。


「だ、男子を一人で戦わせるなんて正気ですか?」


「怪我されたらどうするんですか? あと、汚されたらどうするんですか?」


「私が、厳島君の代わりに!」


「そもそも男子は魔法が……!」



 壁のように迫る女子たち。だが、平家は再び〈消音〉の魔法を、その上、〈縛影・シャドウバインド〉を行使し、女子たちの動きを止める。


「だそうだが、どうする厳島? 私は入試のダンジョン研修を見て、お前ならと思っている。確かに男でダンジョンに潜るヤツはほとんどいない。男は守られるべき存在である。戦いなんてもっての外だと。ちゃんと戦うやつなんて今はもう見られないだろうな。大体がアイドル気取り、もしくは強い承認欲求を満たす為で配信パフォーマンスの為に潜り、戦うのは女任せ。ああ、女をモンスターと戦わせるのが好きな3年もいたな。というわけで本気で戦う男なんていないに等しい。……であれば、お前はその唯一無二の存在になれるわけだが?」



 眼帯のない方の目で挑発的な視線を送る平家に、一刀は身を震わせる。


 恐怖からではない。


 いわばそれは闘争本能。


 一刀の中に眠る何かが、平家のとてつもない圧によって目覚めさせられようとしていた。一刀は短剣を握りしめ、笑う。そして、八の字に振り回し、小鬼の血を振り払うと、平家を真っ直ぐに見据える。


「……ありがとうございます。オレ、やります」


 次の瞬間、半分以上の女子生徒は顔を背けた。

 その様を見て、一刀は再び顔を赤くする。


(うわああああああああ! 格好つけすぎたか!?)


 笑顔のまま固まった一刀。一方、顔を背けた女子の顔は漏れなく真っ赤になっていた。


(((((((((うわあああああああああ! 恰好よすぎるんだが!?)))))))




 後に美術部所属、仙道瀬那はこの時の一刀を絵画にし、コンクール優勝を果たす。タイトルは『神』。その時の絵と制作中の鬼気迫る仙道の様子は美術部の伝説となるのだが、それはまた別の話。


お読みくださりありがとうございます。

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こんばんは。 仙道さんの絵、多分観賞しに来た女性が「これがリアルヘラクレスか…」と、感嘆と賞賛を漏らしながらうっとりしてそう(笑)
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