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第57話 賭ける男とかける女達・後編

 睨みつける一刀を見て笑う近藤。

 どんなに一刀が凄んでも表情を崩さない近藤に一刀は何も出来ないままただただ顔を強張らせ睨み続ける。沼ダンジョンであることを今思い出したかのようにじっとりと湿り始めた一刀の服が身体に張り付く。

 だが、視線は外さない。外せば何もかもが負けてしまう。一刀はそう考えじっと近藤を見る。近藤の舌が再びぺろりと唇を舐めた時だった。



「……! 一刀! 足元!」「イツクシマ! 下!」



 杏理と段原が叫んだのは同時。その声に反応し、下を見た一刀の瞳に映ったのは、転がる死骸の中でまだ息の残っていた青蛇が飛び出していく姿。多くの仲間の死を目撃し自身の死を覚悟しているが故か、能代のヘイトに当てられた時以上に目を血走らせ、口が裂ける程に大きな口を開き飛びかかる。その先にいたのは、一刀ではなく近藤。


 近藤に対して今の一刀は怒りしかない。

 だが、人を慈しむ事、女性を守ることを叩きこまれた一刀は反射的に黒剣を強く握り、剣の軌道に巻き込まないよう横っ飛びしながら全力の一撃を叩き込もうと身体を捻じる。

 青蛇の勢いは激しく一刀の剣が間に合ってもギリギリ。可能であれば近藤に少しでも後ろに下がって間合いをとってもらいたかった。一刀にあわよくば近藤を巻き込んで痛い目に遭えばという考えはない。故に叫ぶ。近藤という女性を守るために。



「先生っ!」



 青蛇の斜め後ろから飛び込んでいた一刀の視界に映る近藤が口を開く。



「ノープロブレェム」


 

 微笑みを崩さずそう告げた近藤がぱちりと指を鳴らすと、身体中から青紫の魔力が溢れ、その魔力は霧と化し近藤の背後で巨大な蛙の姿に変わっていく。

 魔力の霧であるにも関わらず圧倒的な魔力を放つその存在に、Hチームのメンバーたちは息を呑む。



「タ~ング」



 近藤の一言で霧の蛙は大きく口を広げ、近藤の足に巻き付くように舌を伸ばし、そして、襲い掛かる青蛇を捕らえそのまま舌らしきものの中に取り込む。



「くっ……!」



 それに一番驚いたのは最も近く、そして、攻撃を仕掛けようとしていた一刀だった。止まることが出来ず、近藤の生み出した霧蛙の舌に思い切り黒剣を振り下ろしてしまう。だが、その刃はいとも簡単にはじき返され大きく吹っ飛ばされる。身体を一回転させ着地しようとするがあまりにも勢いがついていた為に、体勢を崩し地面に倒れそうになっていた所を飛び込んできたAチームや魔凛・魔愛、段原に受け止められる。



「あらぁ、ごめんなさいね。厳島クン。先生、急にヘビが飛んできちゃったから、慌てて先生のオリジナル出しちゃった」



 見下ろす近藤がぺろりと舌を出して笑うと、霧蛙は青蛇を魔力の舌の中に取り込み、押し潰した。ゴキゴキという生々しい音が響き変わり果てた姿になった青蛇は近藤の魔力にとってか一瞬で溶かされていき消え去ってしまう。

 霧蛙の圧倒的な魔力、発動速度の速さにHチームもAチームも言葉を失う。一刀もまたその強大さに暫く何も言えずにいた。だが、それでもどうしても聞きたいことがあるのだと震える足で立ち上がる。



「なん、で……?」



 もし、今戦えば一刀は直ぐに負けてしまうだろう。それほどまでに近藤との差は大きいと一刀は感じていた。だからこそ、聞かずにはいられなかった。



「なんで! そんな力があるのに! みんなを助けなかったんですか!?」



 霧蛙の力があれば、助けなど呼ぶ必要もなく、一刀も環奈も来ることはなかった。

そうなれば、Hチームと分かり合える機会を失っていたかもしれない。

それでも、聞かずにはいられなかった。体中がぶるぶると震えた。恐怖と怒りと悔しさでぐちゃぐちゃだった。

 そんな一刀をなおも近藤はじっと見つめ、ただ笑うだけ。



「言ったでしょ? パニックになっちゃったの。ごめんなさいね」



 詭弁。

 一刀にはそうとしか聞こえない。

 だが、何も出来ない。

 一応の理屈は通る。

 大人と子供であれば、大人の判断のほうが正しいと言われるだろう。


 そして、今目の前にいる彼女の方が圧倒的に強い以上、一刀に言えることはもうなかった。



「さあ、帰りましょ。ゴォーホーム。みんな無事で本当に良かったわぁ」



 あまったるい匂いを残し、近藤が先頭を行く。

 魔凛に促されながら、AチームやHチームのメンバーたちが近藤の後に続く。一刀は最後だった。魔凛と魔愛のおかげで誰も振り返ることなく近藤の後を追い、弱弱しく駆け出した。一刀は、ぼやける視界に映る遠い近藤の背中を追い続けた。


 早く泣き止めと己をしかりつけながら、前へと進み続けた。

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