第51話 強くて弱い男と弱くて強い女達
「おーい、厳島」
自分の言葉一言一言に女性達の人生を変えてしまう可能性があると言われ考え込んでいた一刀は、ウラ花に声をかけられハッと顔をあげる。
一刀は思い出していた。田舎ではほとんどみんな年上だった。一刀は男だったが誰より弱かった。そして、『ばあちゃん』達は経験豊富で実力もあり頼れる存在であり、一刀に付き従うどころか一刀を導いてくれていた。
だが、都会に来て一刀は多くの人と出会い始めていた。
一刀が田舎で出会った事のない人たちと新しい関係性を紡いでいた。
それは、良い関係も悪い関係もあり、複雑な関係も。そして、絶えず変化し続けており、一刀にとっては目が回るような環境だった。
一刀は……自分の目標に集中し、なんとか『自分』を保っていた。
だが、直面してしまう。自分の責任というものを。
自分の身体が冷たい刃となるような錯覚に襲われる。
目の前のウラ花になんと言うべきか。何を言えば正しいのか。何を言うと間違ってしまうのか。唇が震え、ぱりぱりと乾いていく。呼吸が少しずつ乱れていくのが分かる。
一刀がなんとかうめき声をのようなものをあげた時、目の前の女が口を開く。
「まだ若いたーこのアンタに全部背負えって言ってるわけじゃない。むしろ、逆だよ」
「ぎゃ、逆?」
ウラ花が後ろ手を組んで身体を右に傾けじっと零れるように一言だけ呟いた一刀の顔を覗き込む。その表情は真剣そのもので悲しそうな、同情を感じているようだった。ふとウラ花の視線が一刀の背後に動き一刀も振り返る。
そこには、一刀を心配そうに見つめる環奈と追いついてきたAチームの面々、魔凛・魔愛姉妹、そして、助けられたHチームがいた。
(ああ、そうか……さっきの目は……)
一刀はそこで気付く。先ほどのウラ花の目は一刀を心から心配する目。
決して一刀を恐れている、そんな様子は微塵もない真っ直ぐな目だった、と。
「厳島一刀クン。この子達は、アンタに比べればダンジョンの経験もソロの実力も劣っているかもしれない。でもね」
ウラ花が一刀の耳元で囁き、一刀は身体を震わせる。
「アンタの力になりたいってみんな思ってる。だからさ、」
やさしい気配が一刀の背中を支えてくれていた。
あたたかい声が一刀の心を支えてくれた。
「一人で戦おうとすんなよ、たーこ」
荒っぽい言葉だった。だけど。
なによりやさしい言葉。
田舎にはいなかった。ばあちゃん達にはなれなかった。
弱い存在。
一刀は田舎で自分の弱さをずっと感じていた。
自分だけ弱くて悔しくて仕方がなかった。
その心をずっと隠していた。
自分からずっと。
自分だけ違う存在なんだと思いたくなかった。
だから、ひたすらダンジョンに潜り続け、強さを求めた。
それでもばあちゃん達は強く強く……一刀はただただ無我夢中で走り続け、そして、疲れ果てていた。
そんな時、都会に行くことになった。
そして、出会った。
自分と同じ年の女の子達。
自分と同じ、弱い存在。
ばあちゃん達のように、強く賢く優しい存在ではなく、驚き泣き苦しみ努力し喜び笑う少女たち。
一刀は不安……と同時に安心を感じていた。
『一人』じゃないことに。
弱くて悩み妬み僻むような人間であり、そして、努力し傷つきそれでも立ち上がる強い人間。
彼女達が一刀と同じように戦っている。
そして、
「ああ、そうそう。言っておくけどな。女のメンタルはお前よりずっとタフで強かだぞ。『コイツ』……ウイも含めてな。だから……うっ……」
そして、
「ぁの……ぃっ……しょに、がんばらせて? がんばるから……いっしょに……考えて……いっしょに、たたかおう」
彼女達はかっこいい。
一刀は、上を向く。
強い彼女達のかっこいい姿がはっきり見えるように。
暫くの間、弱い涙腺と戦い続けた。
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