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第49話 わからない男とわかる女達

「おーい? 聞こえてるかなあ? ダリアを能代に助けにいかせろっての、たーこ」


「の、能代さあん! だ、段原さん、を」


「おっけえええええ~!」



 様子のおかしい卯ノ花の囁きを耳元で受け様子のとてもおかしい一刀が叫び終わるよりも先に能代は動き出していた。大きく息を吸い込む為に身体を反らすとグラマラスな能代の胸の部分が強調され、一刀は思わず横を向く、のだが、左には卯ノ花、右には片桐が耳元で囁いている為、ぶんぶんと顔を振った挙句上を向こうとするのだが、それを卯ノ花が小さなモミジのような手で押さえる。



「余所見るな。ちゃーんとウチのチームを見せてやるから」



 そう耳元でささやかれ、一刀が視線を能代に戻すと能代は赤紫の魔力を身体全体から頭の方へとへと移動させ、大声で叫ぶ。



「ヘイト~!」



 次の瞬間、能代の額辺りから赤紫の魔力が段原に向かって一直線に伸びていく。


 そして、その魔力が段原とその数十センチ手前の青蛇達に当たると、青蛇達は一斉に振り返り、7,8メートル離れた能代に対して威嚇音を放つ。段原に背を向けた青蛇達と、睨みつけたままの青蛇達の間に出来た隙間に段原は身体を滑り込ませ、一刀たちの方へ駆けだす。

 一刀たちから見て右に膨らむように駆け出した段原。それとは別に能代に向かっていくのは能代に魔力を当てられた青蛇達。



「い、今のは……?」


「あれが能代の特技。どうせやるつもりだったから違いを実感してもらいましょうか。さ、神原に蝋山近くの青蛇にヘイトを頼め、さあさあ、いそげたーこ」



 能代の魔力を見て、驚く一刀だったが、すかさず卯ノ花に囁かれ、びくりを身体を震わせるとすぐに環奈へと指示を出す。



「か、神原さん! 蝋山さんの青蛇達にヘイトを!」


「わ、かった!」



 卯ノ花と片桐を抱きかかえていることに納得がいっていない様子の環奈だったが、それでも生来の真面目さ故かすぐに蝋山の方に大盾を向け魔力を練る。能代よりも黄色がかった魔力が環奈の身体から薄い膜のように現れる。



「ヘイト!」



 環奈が叫んだと同時に環奈の魔力が大盾から扇のように広がり、蝋山の前にいる青蛇達にぶつけられる。すると、蝋山に向かっていた青蛇の群れでも後方に控えていた青蛇達がくるりと振り返り、環奈に牙を見せ向かっていく。

 それに対し環奈は、今度は雷の魔力を大盾に纏わせ深く腰を落とし迎撃態勢に入る。



「あれが本来のヘイト。魔物が嫌がる魔力を発して、魔物をおびき寄せる前衛必須の技術ね。魔力が波紋のように広がってその魔力の波を受けたものが反応する。だけど、能代は違う。そういうヘイトの使い方も出来るけどあの子は抜群に魔力操作がうまい。だから、ヘイトを当てる相手をピンポイントで限定できるの」


「なるほど、だから段原さんの真正面の魔物だけが……」


「そう、そして能代の凄さはこれだけじゃない。もうまとわりついている青蛇がいないから冷静さを取り戻してる。大丈夫そうね」



 卯ノ花のにやりと笑う横顔を見た一刀が再び能代に視線を向けると、今度は能代が赤茶の魔力を斧に纏わせていた。そして、片膝をついたまま大きく斧を振りかぶると思い切り全力で空を切った。



「プレッシャ~!」



 三日月のような形をした威圧の魔力は、ヘイトにより狙いを能代に変えた青蛇達と、それ以外の段原を追い始めた青蛇達に向かって真っすぐに飛んでいく。その魔力が能代を狙う青蛇達と段原に当たる、と思った時、段原がハードルを飛ぶように能代の放った魔力の刃を躱す。

 そして、漏れなく当たった青蛇達は威圧の魔力に押され、動きを鈍くする。


 だが、その鈍くなった動きに一刀は違和感を持つ。



「なんか、右の青蛇達の方が遅い?」


「そ、今度は魔力の濃度を調整したの。斧の振りはじめの方が威圧の魔力が濃いからそれに当てられた右の青蛇達は一番動きが鈍くなる。そして、先に飛び出してる真ん中は当てられても先頭は変わらない。そして、左は僅かに威圧を喰らって真ん中よりも少し遅れて段原を追ってる。これによって、青蛇達は……」


「細長い列に……」



 先ほどまで段原を囲むように広がっていた青蛇達が今は『く』の字のような形になって、能代や一刀たちの方へと向かって来ていた。そして、追撃するように能代の魔力が当てられていき、どんどんと直線の形になっていく。



「こういうことが能代は出来るの。そして、感覚を強化出来るダリアは、その能代がコントロールした魔力を敏感に読み取ってどんな状況でも躱すことが出来る。その上、感覚が強化されてるっていうのはこういうことも出来るのよ」



 そういえば、と一刀はあたりを見回す。段原が能代の魔力を飛び越えたあたりから段原の存在を忘れていた。だが、いないわけではない。ちゃんと見回せば段原は居た。青蛇の先頭にいつの間にか張り付くように並走している段原が。



「あの子の感覚強化で一番すごいのは、殺気を含む感情の濃さや向きを察知して、意識が届かないであろう所に潜り込めること。能代のヘイトコントロールとダリアの気配を殺す技術、これが嚙み合えば……」



 卯ノ花が言い終わる前に、青蛇の断末魔が聞こえてくる。先頭から3番目あたりの青蛇が段原に左目を刺され絶命した。他の青蛇がそれに気付き『敵』を認識する、前に能代の嫌悪の魔力が届き、再び矛先を能代に向ける。そして、段原はその魔力に合わせて気配を隠し、次の獲物を狙う。能代の意識を引き寄せられた青蛇達は意識が居の段原によって次々と殺されていく。



「ま、これで大丈夫でしょ」


「す、すごい……あ、でも、じゃあ、次は蝋山さんの方を」


「たーこ、蝋山はもう大丈夫よ」



 一刀が蝋山の方を見ると卯ノ花の言葉通り、環奈の助けもあってか、大量の青蛇達を既に倒し終わっていた。多少怪我はあるが、涼し気な顔で笑っている蝋山を見て、一刀は目を見開く。



「みんな……強い……でも、じゃあ、なんでオレと一緒の時は」



 一刀が表情を暗くさせるのを見て、片桐はなんと声をかけるべきかオロオロし始める。そんな二人を見て、大きなため息を吐いた卯ノ花はまた一刀の耳に手を当て囁く。



「落ち込んでじゃねーよ、たーこ。こんなに噛み合う事は稀だし、あんたたち二人がいなければ助からなかったわよ。ただ……」



 横目で見てくる一刀をじっと見て卯ノ花は続ける。



「この前、特にひどかったのはあんたが『男』だからってのはやっぱあると思う」

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