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第45話 考える男と考えられる女達

「はあ~~~」


「ちょっと! いっちゃん! ため息つかないでよ! アタシのモチベがガタ落ち注意報なんだけど!」


「わたしのモチベが崩壊警報」


「わわわ! ごめんて!」



 ダンジョン研修でやってきた【青蛇の沼】で青蛇の死体に囲まれながら一刀がため息を吐くと魔凛・魔愛姉妹が両隣に来てジト目で見つめてきたので、一刀は慌てて両手を合わせる。

 その様子を見て、腕を組みながら歩いて来たのは杏理。


「ていうか、そんな事でモチベ落ちる人たちお邪魔なんで帰って欲しいんですけど~?」


「はあ~? クラスの他の女に寝取られて苛立ちをモンスターにぶつけるネトラレディに言われたくないんですけど~?」


「ね、寝取られてないですっ! これは学園側が決めたことで!」


「学園にも寝取られたのか、NTRJKは」



 相変わらずのやりとりだなあと一刀はゆっくり静かに距離をとる。


 杏理と魔凜が揉めて環奈が割って入ろうとすると魔愛がかき混ぜるのが最近の流れとなっている。

 そして、その流れから離れ、さらりと黄金色の髪を手で梳いて玖須美は遠く見つめながら呟く。


「ふふふ、お好きに仰ってくださいな。そう、これは試練。一刀さまとわたくしの間に流れる天の川なのです!」



 大きな川が流れるように玖須美以外のチームメンバーと玖須美の間で若干の距離が生まれる。一刀の背中に隠れるように移動した魔凜が近くにいた杏理をちょんちょんと指でつつき尋ねる。


「ね、ねえ……あんちゃんあんちゃん、あの子のテンション何?」


「一刀に対する異常な熱と、チームで引き離されたショックで一番おかしくなっちゃって……ていうか誰があんちゃんよ! なんかその呼び方やなんだけど!?」


「脳破壊されるとああなるのね、あなたも気を付けて」


「脳破壊なんてされませんし、まず寝取られていませんからね!」



 いつもの流れ。そして、さっきと同じように一刀が距離を取ることはなく、額を押さえ、肩を落とす。


「ううん……」


「一刀さまが苦しんでいらっしゃる……! 一刀さま、わたくしたちと離れるのがお辛くて……?」


「あ、いや、そうじゃなくて」



 他のことを考えているせいかスッパリと玖須美の発言を切り捨てる一刀。

 そのテンポの良さに思わずシンクロして吹き出す魔凛と杏理。


「「ぷぷー!」」



 ぎろりと久須美が睨みつけると、楽しそうに一刀の後ろに下がっていく。すると、睨んでいた玖須美の視線が一刀の方に向き、一刀が慌てて両手を小さくぶんぶんと振ってフォローをいれる。


「えっと……あの、違うんだよ。その、Hチームとみんなとの違いはなんだろうなって」



 今日のダンジョン攻略の目的は、一刀のお願いでチームプレイを見直す為。

 なので、土曜日にダンジョン配信をおこない、今日、日曜日は配信無しでダンジョンに潜っている。連日となるので来れる人だけと一刀は伝えたのだがもれなく全員が参加していた。


 そして、相変わらずもめている割には、ダンジョン攻略としては噛み合い続け恐ろしい速度で進んでいた。途中で異常な量の青蛇の群れに襲われたが、一蹴。

 ダメージはあったが、それ以上の攻撃力で圧倒した。のだが、そのあと全員が一刀にポーションを塗って欲しいと言い出し一刀が真っ赤な顔でポーション治療を行った為に、多少無駄な時間を使ってしまったがそれでも有り余るほどの余裕があった。


「ん~、みんないい子だし仲が良いんだけど、ちょっと噛み合ってない感はあるかもね」


「個人成績は結構いいセン言ってた気がするけどねー」


「はい! はい! 指揮系統に問題があるのではないかと思いますわ! やはりここは一刀様のリーダーシップにかかっているのではないかと! もしくは、わたくしがお手伝いを」


「いや、大丈夫。ありがとう」


「「ぷぷー!」」



 噴き出した魔凛と杏理をぷんぷんと音が聞こえるのではないかというくらい頬を膨らませた玖須美が追いかける。一刀はそんな3人を見ながら頭を悩ませる。


(こんなによくケンカするのにこのチームは恐ろしい程噛み合ってるんだよなあ。やっぱり判断力の問題、かな……)


 前衛で、敵の攻撃を一身に受ける環奈、縦横無尽に動き回り混乱させる一刀、その隙を突いて双刀で圧倒的な攻撃を仕掛ける杏理、前に後ろに動き回り細剣と魔法でバランスをとる魔凛、圧倒的な火力を誇る魔法で一気に殲滅する玖須美、取りこぼした敵を一匹一匹確実に葬る魔愛、誰もが個人として高い能力を持っている。


 その上、それぞれの判断能力が高く、指示出しをする環奈や魔凛が難しい場合でもどうすべきかを即座に理解し、動き出せる。


 一方、Hチームは自発的に動くメンバーは一刀からすれば理解しがたい動きをし、残りのメンバーは指示待ちになってしまっている感があった。


「いっくん、まなお悩み相談室に電話してみなよ」



 気付けば目の前で一刀を見上げる魔愛がいた。


「え? あ、じゃあ、相談なんだけど」


「電話してみなよ」



 じっと見つめてくる魔愛の圧に負け、電話をかけるフリをする一刀。


「ぷ、ぷるるるる」


「はあはあ、ねえ、君、今、どんなぱんつ……」


「なんでえ!?」



 魔愛のボケに対し、思い切りツッコんでしまう一刀。そんな一刀に対しにやりと笑う魔愛。


 横を見れば、何故か環奈も電話を持つアクションをして照れていた。どうやら順番待ちをしていたようだった。


 見なかったことにしようと魔愛に視線を戻すと魔愛が変わらず笑っている。が、先ほどのいたずらっ子っぽい笑みではなく穏やかな笑顔。


「いっくん、リラックスリラックス。みんなちがってみんないい、だよ。それに……あの田舎のおばあちゃん達とかわたしたちは異常だと思っていい。天才過ぎる……ああ、ここのどすけべJK達もそれなりに」


「ち、ちがうもん! ど、どすけべJKじゃないもん! っていうか、自分で天才って言う!? 普通!」



 環奈が顔を真っ赤にして反論しているのを見て苦笑いを浮かべる一刀。だが、魔愛のいう事も最もだとチームメンバーを見回し、田舎のばあちゃんたちを思い出す。


(そうだよなあ、ばあちゃん達はめっちゃ強い上にめっちゃ賢いし、魔凛ねえちゃん、魔愛ちゃんも昔は田舎にいたし、おばちゃんにも鍛えられてるからレベルが高い。3人も守護女子に選ばれるだけあって強い)


 Hチームにその洗練された戦闘力は感じられない。

 だが、一刀の中で何かずっとひっかかるものがあった。何か重大なことを見落としてしまっている。それは出来ない自分へのいら立ちのような感情だった。魔愛の一言で何かをつかみかけている。それを引き上げようとしたその時だった。


「あーもう! うるさいなあ! このメンヘラ女! 一刀に無視されたら落ち込む癖に! おもおも女!」


「メ、メンヘラ……!」



 いつの間にか玖須美に魔凛と杏理が追いかけられている図から、魔凛と杏理が喧嘩をし玖須美が仲裁に入っている形になっていた3人に一刀は視線を向ける。

 両手を地面について落ち込んでいる魔凛に対し玖須美が声を掛ける前に魔凛が涙目で杏理を睨みつける。


「メンヘラなところも含めてかわいいでしょうがあ! 悪いところもいいところにネガポジチェンジ出来ないような視野の狭い人間はいっちゃんにふさわしくないと思いまーす! いっちゃんの素晴らしいところは褒め上手なところなんだから!」



 魔凛が四つん這いのまま一刀を見ると、他の4人もそれ分かると頷きながら一刀を見る。

 全員の視線が集まり、一刀は頬を掻く。


「それは……まあ、ばあちゃん達に鍛えられたから。褒め上手にならんとモテんって……」


「へえ~、じゃ、じゃあ、一刀。アタシのこと褒められる?」



 杏理がインナーカラーの入った髪の毛をいじりながら一刀の方へと歩き出すと一刀は……


「え? 勿論。赤城さんは、口調がざっくばらんだから凄い速さで仲良くなれるよね。魔凛ねえちゃんって結構人を見る人だけど、その魔凛ねえちゃんがここまで近くなれる人ってやっぱりすごいよ。あと、妹が多いせいか視野が広いし、判断も早い。危機察知能力なのかな。誰が一番ダメージ受けてるかとかもすぐに分かって教えてくれるのは凄いよね。もちろんかわいいんだけど、さりげない気配りとか誰も前に出られそうにない時に率先して前に出てくれるところとかは本当に尊敬してる。あと……」


「一刀くん、そこまでにしようか~」


「一刀様、これ以上やると死人が出ます」


「え?」



 まるでとらえられた宇宙人のように両脇を環奈と玖須美に抱えられる一刀。

 はっと気づくと杏理が顔を真っ赤にし口をパクパクさせ震え、鼻血を一筋流していた。


「~~~~~~~~~~~~~~!」


「はい、発情女警察です~。この子逮捕します~」


「犯罪を未然に塞ぐのがいい警察。はい、あっちで治療しようね」



 杏理の両脇を抱えて引きずっていく魔凛と魔愛。


「ほんと、一刀くんはいいところを見つける天才だねえ」


「いいところ……」



 一刀は環奈の言葉を聞きながら口元に手を当てる。


「そう、そうだよな、いいところを……。なんか……なんか、見えた気がするんだよな。なんだろう……なんかひらめきそうだったんだけど……」


 Hチームメンバーのいいところはある。うまくかみ合わない方に意識がいっていたが、よくよく思いだせばそれぞれに輝く場面があって、それに何より……。

深い思考の海に潜り何かを掴みかけたその時だった。


「きゃあああああああああ!」



 青蛇の沼ダンジョンに女性の声が響き渡る。


 それは一刀たちのチームではなく、もっとダンジョンの手前入り口側の方。一刀はその声に聞き覚えがあった。


「!! 女の子の悲鳴!?」


「結構近かったね」


「今の声……神原さん!」


「うん!」



 環奈は一刀に呼ばれ、一刀の手を両手で握る。そこから魔力が流れ出し、一刀の中に入っていくとバチリと大きな音を立てて身体中を奔る。【強魔】によって環奈の雷の力を得た一刀が駆け出そうとすると、それに同じように雷を纏った環奈が並ぶ。


「私も行くよ! 一緒に!」


「おい、どすけべ生徒会役員。どさくさに紛れていっちゃんのあんなとこやそんなとこ触るんじゃないよ!」


「しませんから! どすけべ、じゃ、ない、し……!」


「い、行くよ! 神原さん!」



 どすけべの否定が鈍った環奈の手を取り、一刀が駆け出す。


 ここに来るまでに一刀たちのチームによる圧倒的な攻撃力で全滅させてきた為にモンスターはほとんどおらず、悲鳴の聞こえた所までほど会敵せずに辿り着く。


 だが、そこにはさっきまでモンスターが出なかったのが嘘だったかのように大量の青蛇が一つのチームを囲んでいた。


「あれは……卯ノ花さんと片桐さん? いや、Hチームのみんな!?」



 叫ぶ環奈の横で、一刀の視界も捉えていた。先ほどまで思い浮かべていた彼女達が青ざめながら戦っている様子を。


お読みくださりありがとうございます。

また、評価やブックマーク登録してくれた方ありがとうございます。


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