第44話 わかる男とまだ分からない女達
中間テスト前のダンジョン研修。【青蛇の沼】入口前で、一刀は新しいチームの顔合わせをしていた。一刀が加わるのはHチームで、非常に個性豊かな面々だということは環奈から聞いていた。
「え~~~っと、まずは~~~…………自己紹介からしよっか~~~」
欠伸が出そうなほど穏やかでのんびりした声と調子に一刀は思わずつんのめりそうになりなった身体をまっすぐ伸ばし笑顔で答える。
「そ、そうだね! じゃあ、俺から、厳島一刀です。前衛で短剣と盾を使っていたんだけど、最近長剣を使うようになりました」
一刀の自己紹介に反応は様々。俯くもの、両手を広げ笑顔で迎える者、にたりと笑みを浮かべる者、聞いているのか聞いていないのか分からない者と一刀は独特の空気に顔を引きつらせる。
(守護女子の3人は、なんというかテキパキしとる印象だったけど……この子達はなんというか、のんびり? びっくり? とにかくやっぱり違うんやなあ……)
ずっしりと右手に重みを感じて一刀が視線を下に向けると白メッシュの入った黒髪ロングの女子がはあはあと荒い息をしながら黒の長剣を撫でている。
「ふひ……この長剣……ステキな魔力を感じるぅう……! いいねいいね……ああ、わたしは蝋山ろくろだよ。よ、よろしくねえ……厳島くぅん……ふひ!」
じとっとした目で見上げてくるろくろに何と答えるべきか言いあぐねていると、そのろくの背を叩くものが。浅黒い肌のその手をそのまま自分の紫がかった髪を掻き上げ、にかっと一刀に笑いかける。
「ロクロ! コワいって! ワタシは、段原ダリアー! ヨロシクね! イット!」
一刀が元気に手をぶんぶんと振るダリアに対し、手を挙げて応えるとそのダリアの後ろからぴょこりと黒髪おかっぱの少女、そして、その更に後ろから薄い茶色のショートボブを垂らしながらこっちを見る少女が。
「ぁあ~、あの、あたし、片桐かたりです……で」
「あの、私、卯ノ花羽衣です……はい、で……あの、の、ののちゃん。ののちゃ……また、自己しょぅかぃ……ぃってなぃ」
かたりの後ろに隠れたまま羽衣は、一人ぼーっと立っている似た髪色のふんわりとしたセミロングの髪をゆらゆら揺らしている少女に呼びかける。
「あ~~~……能代ののですぅ~、え~~~と、よろしくね~~~」
のののゆったりした口調では埒が明かないと判断した一刀はののに向かってうんと頷くと、チームメンバーに対して向き直る。その瞬間、かたりや羽衣がびくりと反応し、一刀は思わず一歩下がって背筋を伸ばし、出来るだけやさしい声色で話しかける。
「え~っと、どうしようか。と、とりあえず、みんなの出来ることを確認していいかな」
「え~っとね~、ちょっと、待ってね~す~~~は~~~す~~~は~~~。で~~~」
「あ、あの……」
一刀のルーティーンである3度の深呼吸とは違い、かなりゆっくりとしたののの深呼吸に一刀がなんと声を掛けるべきか戸惑っていると、ろくろが黒の長剣に頬ずりをしながら話しかけてくる。
「ふぐひ、の、能代は、緊張すればするほど、声がのんびりになっちゃうんだ……! じ、実に面白いよねえ、ねえぇええ? ああ、わたしは槍を使うよ。斧を振るう能代と共に前衛でみんなを、ま、守っているんだ」
「ダリアはネ! 狩人! 罠解除とかするカラ! ヨロシク!」
「あたしは、呪術師なので基本はデバフ系の黒魔法を使います。近接戦闘はからっきしダメでゴミですみません、よろしくおねがいします」
「私は、治癒魔法が得意ですが攻撃がほぼ出来ないのでお荷物ですみませんよろしくおねがいします」
「あたしはねえ~~~、あ、さっきろくろちゃんが言ってくれたんだっけ~~~?」
ろくろが話し始めると、雪崩れ込むように全員が自分の役割を話し出す。口を挟む隙間がなく一刀はどこから何を言うべきか戸惑い、頬を掻く。
「え、えーと」
「トリアエズ行こうヨ! ジッセンで分かるヨ! みんなの事は!」
ダリアが一刀の背中を押し、ダンジョンへ向かうように促す。熱を持ったダリアの手にドキドキしてしまった一刀はその押しの強さに負け、ダンジョンへと進みだす。
「う、う~ん、分かったけど、慎重に行こうね! ね!?」
「オー! アハハハハ!」
そして、始まったダンジョン研修だったが……一刀は初めての状況に頭を抱えていた。
「ろ、蝋山さん! 好き勝手動かないで! 能代さんモンスター! モンスター右から来てるから! 段原さん! 一人で遠くに行かないで! 卯ノ花さんと片桐さんも! そんな離れてると魔法の効果が下がっちゃうからもっと前進して!」
Hチームのダンジョン研修の実力は、これまでの研修内で見ていたので知ってはいた。だが、実際にチームに加わるとここまで大変なのかと一刀は顔面蒼白なまま戦い続けている。
ろくろは妖しい笑いを浮かべながら独り前に出て槍を振るって戦い、ののは前衛として相手のターゲットになってはいるが、喋り方同様判断がのんびりしており、左右からの攻撃に対応できていない。狩人であり、チームの目となっているはずのダリアは罠や敵を発見するとそちらに向かって突撃をしてしまうし、羽衣とかたりは怯え切ってかなり後方から支援してくるため魔法効果が十分ではない。
一刀はここで初めて実感する。
自分がなんとチームメンバーに恵まれていたのかと。
環奈も玖須美も杏理もそれぞれ個性はあるが、共通してダンジョンでのチームプレイに関しては自己判断も出来る上にフォローもうまい。だが、Hチームは各々の判断が曖昧で、フォローもうまく出来ておらず、かなり低級なモンスターでも苦戦する始末。
一刀ひとりで戦った方が早い。
守護女子達は勿論のこと、一刀自身もそう思ってしまう程にHチームの戦闘はひどく、一刀は前に後ろに走り回り、なんとかモンスターを倒しきる。
「はあはあはあ……!」
(ど、どうしたら……? こんなん初めてや……!)
怪我は全くないが、どっとくる疲労に一刀は膝に手を置き息を切らす。頬を伝う汗を拭いながら必死に考えるがいい答えは出ない。
「あ、あの……い、厳島、くん」
声をかけられ顔を上げると、魔導書で身を隠しながら立っているかたり。勿論、魔導書程度の大きさでは顔下半分と首辺りまでしか隠れず、しかも、顔付近に置いている為に、背丈に比べ大きな胸が強調され一刀は思わず上げた顔をそらす。
「あ、ああ……片桐、さん? 何かな……?」
「あ、あの……ごめんね。Hチーム、本当に駄目チームで……神原さん達と全然違うよね……?」
「いや! その……ち、違うのは普通でしょ。だって、ポジションも役割分担も違うんだし」
一刀が一生懸命笑顔を作ってかたりに向かって答えると、かたりが顔を全部魔導書で隠すのだが肘で胸を挟んでしまいより胸が強調され一刀は後ずさりして、顔を120度回しそっぽを向く。
「って、あれ……?」
首を傾げる一刀の視線の先に居たのはダリアだった。だが、ダンジョンに入る前の明るさはなく、膝を抱えて俯いており、その横でののが背中をさすっている。
「ご、ゴメン、ダリア、また、ウマく出来なかった……」
「も~~~、ダリアちゃん、そんなに落ち込まないで~~~」
先ほどまでの猪突猛進な様子が消え失せたその様子に一刀が驚いていると、かたりが顔を隠したまま一刀に話しかけてくる。
「ダ、ダリアちゃんは、固有魔法として【感覚強化】持ちなんですけど、それを使うとなんか、ハイになっちゃうみたいで……普段はあんな感じで凄く大人しい子なんです……」
「ああ……」
かたりの言葉に一刀は納得したように頷く。一刀の記憶ではダリアはかなり物静かな女の子という印象だったので、今日のダリアの様子に一刀はかなり戸惑っていた。
「それで普段は使わないんですけど、や、やっぱり厳島君の負担になりたくなくて頑張ろうとしたみたいなんですけど、ちょ、ちょっとうまくいかなかったみたいで……ろ、ろくろちゃんも普段真面目なんですけどちょっと今日は様子が……」
「や、やめて、やめたまえよ! 片桐さん! わたしはいつも、こ、こんな感じじゃないか……いひーひー」
かたりの声が聞こえたろくろは悲鳴にも似た声をあげながら槍を振り回す。あからさまに不自然な笑いで暴れるろくろを見て、かたりの言葉が真実なんだろうと一刀はやさしい目でろくろに対し分かっているよと応える。そのろくろの傍らで羽衣がおろおろとしながらもろくろに対して疲労回復の魔法を掛け続けているのだが、一刀と目が合うとあわあわと逃げ出し、何かに躓き転んでしまう。
「えーと……」
「あ、あの、やっぱり困ってますよね。す、すみません……神原さん達と違って、私達、ダメで馬鹿でブスだから……」
「いや! みんなはかわいいよ! あ、ダメじゃないし馬鹿でもないと思う、よ」
「「「「あ、は、はいぃ………」」」」
「す~~~は~~~、す~~~は~~~、す~~~は~~~」
一刀の叫びに、顔を真っ赤にさせる5人。そして、ののは真っ赤な顔のまま、ゆっくりと一生懸命に深呼吸を続ける。だが、そんな5人の様子に気付く事無く一刀は頭を悩ませる。
(さて……こ、これからどうしようかな……)
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