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第43話 受け入れきれない男と受け入れる女達

「ちょちょちょ! ちょっと平家せんせー! どういうこと!? なんでアタシ達が一刀と別のチームに!?」


「落ち着け、赤城」



 身を乗り出して迫ってくる杏理を平家が制す。


 週明けの放課後、一刀とその守護女子たちは平家に呼び出され職員室に来ていた。

そこで伝えられたのは、ダンジョン研修科目での中間テストを一刀たちは別々のチームに加わり行うというものだった。それに納得できず杏理は平家に向かっていったのだが、他の守護女子二人も同じ気持ちで不満をあらわにする。


「平家先生、わたくし達は一刀さまの守護女子ですわ。それにクラス内でダンジョン研修において成績は優秀と自負しております。なのに、一刀さまとわたくし達を引き離すなんてどういうことなのですか?」


「引き離すって……あのな、この中間テストだけの話だと言っただろうが。まあ、その中間テストの準備のために今週はそのチームで潜ってもらうことになるだろうが。……厳島を含め、お前らの成績が優秀なのはよく分かってるよ。……だが、守護女子だけと交流するのも問題なのではないかと言われてな」



 平家は苦々しい顔で眼帯付近を親指でカリカリと掻きながらため息を吐く。杏理や玖須美がそれでもなお食い下がろうとしたところで環奈が前に進み出る。


「守護女子だけと交流するのは問題と言われても、元々守護女子というのは男子が多数の女子に怯えないように、学校側から定められ引き受けた女子、もしくは、男子生徒から指名のあった女子が他の女子から守るという意味合いだったはずです。問題があるようには思えません。それに誰がそんなことを言いだしたんでしょうか。せめて、そのあたりを教えていただかないと納得できません」


「……そうだな。ちゃんと話しておこう。2年8組の近藤先生が言い出したことだ」


「「「!!!」」」


「8くみの……近藤先生……? あの、英語の?」



 平家の告げた『近藤先生』を一刀は職員室を見回し探すが見当たらない。


 近藤は、赤茶色でパーマがかった髪をして、眼鏡を掛けた英語担当の教師だった。


 基本的に女子生徒には厳しく、男子生徒である一刀には甘いというのが一刀の印象であった。男女比1:99の世界で授業で男子が贔屓されるというのは普通のことなのだが、一刀と話す時のしっとりした英語の発音とねばつくような視線が苦手だと一刀は思っていた。


 守護女子たちも同じことを考えているのか顔を顰め、平家を見ている。


「はあ……近藤先生がな。自分のクラスと同じような事になって欲しくないから、男子……厳島を他の生徒とも交流させた方がいいんじゃないか、と。嫁探しに来たのなら猶更だろうと」



 一刀は、他の男子と違い女子が近づいても嫌がらないというのは、中馬からの誹謗中傷を払拭する為に一刀の話を広げた時に、かなり知られており教師陣の耳にも届いていた。女子を怖がらないのであれば、不和を無くすためにもクラスでの交流を広げた方がいいのではないかという近藤の意見は、今までの学園のやり方に異を唱えるものではあるが、間違いではないという話になった。


「自分のクラスと同じようなことって……アレだって近藤せんせーもかかわってんじゃないの?」


「赤城。思ってても口に出すな、そういうことは」



 平家が小さな声で杏理を窘める様子を見て、一刀も思わず同じように小さな声で話しかける。


「そういえば、8組は……」


「ああ、前に男子生徒がいたんだ。だが、守護女子達が男子生徒を守り切れずに傷つけたという噂が流れ、クラス内の空気が相当悪くなり荒れてな……結局その男子は学園に来なくなってな」


「噂って……実際にそうだったかは男子生徒に話を聞けば」


「『話したくない』の一点張りでな。強引に問い詰めるわけにもいかず、守護女子達の否定の意見も聞く耳持ってもらえなくて最終的に守護女子達は2人転校、1人は登校拒否になったというわけだ」



 一刀も仁虎と初めて会った時に8組の話を聞き、状況は知っていた。だが、その経緯や詳細は知らず、初めて知る事実に顔を顰める。守護女子達もまたその時のことを思い出してか沈痛な表情を浮かべている。


「近藤先生が男子生徒の意見ばかり聞いて、守護女子の方たちの意見は無視し続けたと言われていましたね」


「本人は勿論否定している。双方の話をしっかりと聞き、真摯に対応したとな。その上で、この件については自分の能力不足だったと涙ながらに言っていたよ。嘘みたいなくらいに涙を流しながら、な」



 平家はカリカリと眼帯周りを荒々しく掻きながら吐き捨てるように告げる。


「まあ、そういうわけで不満もあるだろうが、厳島なら大丈夫だと思っている。それに、お前達も自分自身の為にもっと成長しておくべきだと思うが?」


「「「???」」」



 三人が揃って首を傾げ、


「厳島の嫁は、優秀な方がいいだろうが、かといって守護女子である必要はない。であれば、厳島が誰を選ぶかだ。これから組む女子達を厳島がいいな、と思う事も十分あり得るわけだ」


「「「!!!」」」



 揃ってぴんと背すじを伸ばした。


「能力は1つのアピールポイントに過ぎないが、どうもお前たちは厳島に対し過保護になりすぎて、うまくコンビネーションが取れていないようだ。そのあたりを見直す為にも一度離れてみて、厳島の為を思うなら何をすべきか、何が出来るか考えてみるべきだと思うが?」


「いや、平家先生……そんな俺の為にすべきこととかできることとか……そういうのは……」



 自分が負担になりたくない一刀は平家の言葉を遮ろうとするが、その一刀を遮るように平家は声を張る。


「そうか、そうだな。では、こういうのはどうだ。お前たちは別々のチームに付いて中間テストを受ける一番成績優秀なチームだったヤツは他のヤツらに何か一つやってほしいことをやってもらえる、というのは?」


「ちょっと! 先生が賭け事推奨していいんですか!?」



 平家の発言に一刀が慌てて止めようとするが、平家は構わずにやりと笑う。


 どこかでゴゴゴという地響きが一刀の耳には聞こえた気がした。


「遊びだよ。遊び。勉学のモチベーションを上げる程度の遊びは必要だよ。それに、出来ない事は拒否すればいい。なんでもいいはよくないからな。さあ、どうだ? 厳島はまだ乗り気じゃないようだが、お前達は……?」



 ゴゴゴと空気が揺れ、一刀は身体を震わせ振り返る。そこには笑顔のままで魔力を高めている女3人。


「……はあ、仕方ありませんわね。一刀さまにわたくしの重要性を知って頂く機会としましょうか……!」


「おっけぇ……アタシの実力見せつけてやんよ……!」


「お、お願いは別にいいけど、クラス一位は譲りたくないかな。お願いは別にいいんだけどね!!」


「み、みんな……はあ~、ま、そっか……他のクラスの子とも仲良くなった方がいいし、俺もこれを機にがんば……」


「「「頑張らなくていいから」」」



 気合を入れなおす一刀だったが、一蹴。3人の圧に屈し、小さくなってすみっこに静かに移動。平家の方に視線を動かすとにやにやと笑いながら眼帯を掻いている。


「なんなんよ、もおおおおおおお!」



 一刀の絶叫が響き渡った月曜。そして、ダンジョン研修の日を迎える。



「あ、ということで、厳島一刀です。よろしくお願いします……」


「あぁ~………………よろしくぅ~」


「ひひ……よろしくです」


「Hチームへヨーコソ! ヨロシクネ!! ハハハハハ!」


「ょろしくぉねがぃします……」


「ょろしくぉねがぃします……」



 守護女子達以上に個性豊かなHチームが一刀を出迎えた。

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