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第28話 貰う男とあげる女

「く、くそ! なんで……こんな……早すぎだろお……! もっとアイツらの身も心もボロボロにして見せるはずが……!」


 呻くように呟きながらサウザンドマジシャン、中馬は全身に輝く電流を奔らせている一刀を睨みつける。

 仮面をつけワンソードマンと化した一刀もまた自分の身体中を奔りここまで最速で自分を連れてきてくれた金色の魔力が宿る手をじっと見る。


(ありがとう……神原さん……)




 環奈への感謝を心の中で呟くと、一刀はここに来るまでのことを思い出した。




「待て。厳島、ここから【粘魔の巣】に走って向かうには時間がかかる」


 忍と玖須美を追い詰め、甲高い笑い声をあげる中馬を見て駆け出そうとした一刀は平家に止められる。立ち止まりはした一刀だが、その表情は怒りに満ち溢れ、平家を睨みつける。


「だからって、タクシー呼んでくるのを待ってなんて……」


「ふむ……そうだ!」



 平家に噛みつこうとする一刀から少し離れた所で、雷夏がだぼついた袖でぽんを手を打つ。


「カンバラちゃん、イツクシマくんにちゅーしなよ」


「ぶふうっ……ら、来迎先生、何を……わ、私が一刀くんに、ちゅ、ちゅ、ちゅー?」



 いきなり飛び出したトンデモ発言に噴き出す環奈。顔を真っ赤にして雷夏の方を見ると、目を血走らせながら妖しい笑みを浮かべる雷夏が打っていた手を広げる。


「言っただろう? 【強魔】の力だよ。カンバラちゃん、キミの固有魔法なら適切なはず。通常、魔素の薄いダンジョン外だと厳しいが、体内で増幅させれば可能かもしれない。前回の抱きしめた時の魔力量から察するに、まあ、せめてほっぺにちゅーくらいすれば、かなりの魔力を移せると思うんだが……」

「でででででもですね、そそそのわわわたしのファーストキスでででして、じゃなくて、それはいいいいいいんですが、わわわわたしが良くても、一刀くんが……」



 動揺を抑えきれない環奈が一刀の方を見ると……一刀は真剣な眼差しで環奈を真っ直ぐに見つめていた。


「神原さん、頼む。俺に、力を貸してください……!」



 どこまでも真剣な目。


 助けたいという強い意志。


 それは環奈が嫉妬を覚える程の……だが、それと同時に一刀が『そういう男』であることがたまらなく愛おしくなり、環奈は映像の中の玖須美と中馬を見つめ、自分の両頬を強く叩く。


 パアン! と澄んだ音が鳴り響くと、今度は一刀が目を丸くさせ、環奈の真剣な眼差しに身を引き締める。


「ごめん……一刀くん、それでも、ちょっとだけ、ちょっとだけ怖いから、順序を踏ませてもらっていいかな。すぐにするから」



 環奈はそう告げると、手を差し出す。その小さくてかわいらしい、それでいて、強い意志に満ちた手を見て一刀は微笑み、その手を握る。ばちりと音を立てて金色の魔力が一刀の右手から全身に広がっていく。手を放すと、今度は環奈が一刀を正面から抱きしめる。


 環奈の顔が少しはみ出す高さにある胸に顔を埋め力強く抱きしめる。女性特有のやわらかさとバチリバチリと鳴り響く電流が全身に奔っていくのを感じる。そして、手は回したまま少しだけ身体を離すと一刀の上半身を折り曲げるように引き寄せ、ぎゅっと抱きしめたまま囁く。


「一刀くん……私、あの人許せない……」


「うん」


「私の【迅雷】は強い憤怒の雷。雷を飛ばすことも出来るし、全身に魔力を纏えば特に速度重視の身体強化が出来るの。この魔力を一刀くんにあげる。だから、」


「うん」


「お願い。あんな人に負けないで。そして、」


「うん」


「東雲先輩と九十九里さんと、一刀くん。みんな笑って帰ってきて」



 ふわりと香る石鹸のような香り。ポニーテールがくるりと一刀とは逆の方を向いた時に吹いた風。そして、しっかりと頬に感じる彼女の唇。自分の思いを、言葉を紡いだ唇が一刀の頬に当てられ、一刀の脳に焼き焦げるような雷が奔った気がした。


 環奈は一刀の身体中から自分の持っている雷の魔力で満たされていくのを確認すると、唇をきゅっと噛み、一刀から離れくるりと身体を回し、一刀の背中を押してあげる。


「がんばれ、一刀くん!」


「ああ!」



 そして、一刀は雷の如く迅さで駆け抜け、【粘魔の巣】に辿り着き、スライム達をものともせずに最奥へと辿り着いた。




〈あれ? ワンソードマン、だよね?〉

〈ワンソードマンがめっちゃ怒ってる……サウザンドマジシャンだっけ? ヤバくね?〉

〈オイオイオイ、死ぬわあいつ〉



 コメント欄の流れが変わり始め、自分達の優位性が失われ始めたサウザンドマジシャン側の女子達に動揺が走る。だが、その空気を敏感に感じ取った中馬は地面を思い切り踏みつけ、金切り声を上げる。


「おいぃいいい! ワンソードマン! 邪魔すんじゃねえよ! その女どもはな、オレを裏切ったんだ! だから、ショケイするんだよぉおお!」


「あんたの理屈は知らん。ていうか、分からん。だから、俺はあんたをぶっ飛ばすだけだ」



 拳を真っ直ぐに突き出す一刀を見て、にやりと笑う中馬。


「はっはっは! オレ様を? ぶっとばす? たった一人で? この人数をぶっ飛ばす? 面白い事言うなあ! いいか、この指輪を見ろ!」



 中馬は自身の両手の指全てに嵌まった銀色の髑髏がついた指輪を見せつける。


「これはな、こいつ等女どもがオレ様に一生を捧げる奴隷となった証の指輪だ! あの二人の指輪も足にでもつけてやろうと思っていたが……まあ、そんなこたあ今はどうでもいい! オレには10の力がある。1000の魔法がある! なあ、お前ら!」


 中馬がその指輪を見せつけるように広げると、中馬の後ろにいた女子達は、嘲笑、決意、苦しみ、屈辱、それぞれの表情を浮かべながら魔力を練り始める。


 その様子を見ながら一刀は表情を変えず、ただ中馬だけを睨み続ける。


「言ったろ」



 その瞬間。バチリと音を立てた一刀の身体が金色の光を放つ。思わず一瞬目を閉じた中馬。気付けば、目の前から一刀はいなくなり、


「ぶっ飛ばすのはお前だよ」



 沢山のうめき声のドミノとバチバチという音が聞こえたのは背後から。慌てて振り向くと、剣崎を含めた女子達10人が全身を痺れさせ倒れ込んでいた。


「てめ、一瞬でどうやって……!」



 一刀が指を二本チョキのような形で立てるとその指の間で小さな雷がヂヂヂと行き来する。


「人間スタンガンってところかな。この人たちは誰がどこまで悪いか俺には分からん。だから、ちょっと大人しくしてもらった。だけど、」



 二本の指を織り込み、拳を作る一刀。その力一杯握られた拳はバチバチと大きな音を立て大気を震わせる。

 すぐ傍で鳴り響く雷鳴に身体を震わせる中馬。


「あんたは別だ。あんたは、『俺達の』力でぶっとばす……!」



 その言葉に呼応するかのように一際大きな雷鳴がダンジョン内に鳴り響くと、中馬は腰を抜かし地面にへたり込む。目をひんむき、息を荒くし、一刀を睨み続ける中馬を見下ろす一刀。


〈え? もう終わり〉

〈色んな意味で早すぎて草〉

〈ワンソードマンが強すぎる件〉



 コメント欄もワンソードマンの勝利を確信した流れになった時だった。


「ふっざけんな……!」



 甲高い声を震わせ、溢したのは中馬。


「ふざけんなふざけんなふざけんなふざけんな! あああああああああああ! ああああああああああああああ! クソゲーじゃねえか! こんなの! なんだよ、その力、チートじゃねえか! 雷ってあのクソポニーテールの力だろ! 卑怯もんが! 人から借りた力で嬉しいのかよ!」


 癇癪を起し始め、喚き散らす中馬を忍や玖須美が呆れたように見ていると、一刀が口を開く。


「俺は人から力を借りることが出来るのも、その人の持つ力だってばあちゃんに教わった。だから、俺は嬉しいし、恥ずかしくない。これは、俺達の力だ」


「……あああああああああああああ! マジでうぜええええええええええ!」



 中馬が血管を浮かび上がらせるほどの絶叫を上げた時、異変が起きる。


「厳島!」



 その声に反応した一刀は自分を狙う細長い何かに気付き、バチリと雷の魔力を使い、飛びのく。轟音と砂埃を立て一刀のいた地面に突き刺さっていたのは細長い指だった。


 緑色に変色し関節がいくつも繋がり伸びた中馬の指だった。

 十本すべての指が異形と化し一刀に襲い掛かると腹から全身に緑色が広がっていき、身体中の血管が浮かび上がる。

 ふーふーと息は荒く身体をブルブルと震わせる化け物が真っ赤な目で一刀を睨みつけていた。


「そんな……まるで、モンスターじゃない……」



 忍が信じられないものを見るような目で変わり果てた中馬を見つめる。だが、中馬はただただ一刀をだけを見つめていた。殺意を漲らせ、血のような赤い目で一刀だけを。


「ごろずぅううううううううううう!」



 一刀は動じない。

 ダンジョンでは何が起こるか分からない。


 その事をずっと学んできた。


 何かが起きた時はどうすべきか、教えられてきた。


『一刀、深呼吸だ』


 抜いた短剣を8の字に振り、三度深呼吸。


 すぅううううううう……はぁああああああああああ……


 すぅうううううう、はぁああああああ


 すぅうう……


「ふっ……!」



 短剣にバチリと力が宿る。環奈が一刀にくれた力が。

 バケモノと化した中馬を見つめ、一刀は深く腰を落とし、飛び掛かる。


「さあ、来い……! もう! 終わらせよう!」

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