第26話 うつせる男とうつる男
白魔眼。平家がとある事件で手に入れた魔力を帯びた眼であり、見た人物の身体の中にある魔力の流れを見ることが出来る【魔視】の力を持つ。
通常、ダンジョン以外では魔法の威力は極端に下がりそれが魔素の影響であると言われているが、平家の眼帯は魔力を溜めておくことのできる性質を持っている上にダンジョン外の空気に出来るだけ触れさせないことで【魔視】を可能にさせていた。
その白い眼で一刀の身体をじっと見つめていた平家だったが、1人納得がいったように目を閉じ再び眼帯で眼を隠した。
「やはりな……今度は、九十九里の、か……」
「あ、あの! 平家先生、一刀、くんの……力……? それって、どういうことですか?」
平家の眼に気を取られていた一刀に代わって、隣の環奈が心配そうに尋ねてくる。
日曜日の学園に話があると先生に呼び出されれば不安も大きい。
ましてや、責任感の強い環奈にとって自分の不注意で一刀にこれ以上迷惑をかけたくないという強い思いが一刀を庇うように前に足を進ませる。
「それについては私より専門家の話を聞いた方は良いだろう。来迎先生」
「はいはーい。やあ、イツクシマ君、覚えてくれているかなあ、特別魔法学の来迎雷夏だよう」
「お、覚えていますよ。勿論」
紫のツインテールを揺らし、薬品エーテルの匂いを漂わせながら近づいてくる雷夏に思わず身をすくませる。
今週の平日やたらと絡まれ、心当たりのない一刀はかなり疲弊させられた原因を忘れる事など出来なかった。
それを思い出し浮かべた苦笑いの一刀を見て、けらけらと笑い雷夏は一刀にさらに迫っていく。
「うーん、すまないねい。こう、からかい甲斐のある人間を見るとつい。あー、いやいや、それより早く本題に入ろうかあ。イツクシマ君、キミの力について、昨日のダンジョン配信を見る限りもう気付きかけているんじゃないかい?」
悪戯っ子のような目の奥に本気の研究者の探求心を見た一刀は姿勢を直し、まっすぐ雷夏の目を見て口を開く。
「……昨日、九十九里さんを助けた時に、自分の中に魔力が流れ込んでくるのを感じたんです。いや、昨日だけじゃない。先週東雲先輩からも、その前のダンジョン研修では神原さんからも魔力を貰って、それがなんか急激に膨れて、力が湧いて来たんです」
そう告げながら、自分の右手に視線を移しぎゅっと拳を作る一刀。
それぞれの時、繊細な手が感じたものは違っていた。最初はバチバチと手を刺激する雷、次は凍える冷たさを帯び、昨日は溶けた銅のような熱い魔力が感じられた。
「ふむ。正解だねい。イツクシマ君、キミの持っているその『他人の魔力を保存し、増幅させる力』。それをワタシは【強魔】と一旦名付けている」
「他人の魔力を保存して、増幅させる力……!」
「その、ごーまってのが一刀の力?!」
その力の意味をかみしめる環奈と、目を輝かせる杏理。
声をあげた二人を見ながら、平家が頷く。
「もしかしたら男性の持つ特徴なのかもしれんが、いかんせん今は、厳島でしか確認出来ていないからな」
「え、待って、やば。すごくない!? 他人の魔力を保存しまくれるんなら、魔法使いたい放題じゃん!」
興奮冷めやらぬ杏理が一刀に目を向けると、一刀は苦笑いを浮かべる。
純粋に喜ぶ様子を見せない一刀に杏理が首を傾げていると、ぴっと指を立てた雷夏がいつの間にか3人の間に立っていた。
「まあまあ、アカギちゃん。そうは問屋がオロシガネってねい。魔力を注ぐには条件があると思われるんだねい」
「条件……って、なんですか? 来迎先生」
昨日のダンジョンを終えてから何度も魔法を使おうとして使えなかった一刀も環奈の質問の答えを聞こうと身を乗り出す。自分も知りたいと迫って来た杏理も見て、雷夏はにまーっといやらしい笑みを浮かべ、甘ったるい声で告げる。
「まー、分かりやすく言うと? 愛だね。イツクシマ君がその子に心を開きウェルカムモードになって、相手の子がラブリーすきすきちゅっちゅモードになれば、ハートがどくどく注がれるってワケだねい」
「「「ぶふうう!」」」
吹き出す三人と呆れたようにため息をつく平家。
「おい、雷か……来迎先生、生徒を揶揄うのはやめろ。飽くまで一例だ。要は、恋愛に限らず信用や友情、とにかく気持ちが繫がることで魔力譲渡が発生するのではないかと我々は考えている」
「はあ……な、なるほど……」
平家が説明を付け加えると、顔を真っ赤にした三人は手で顔を仰ぎながら何度も頷く。
どう答えたものかと視線を彷徨わせた一刀が環奈と視線が合うと、環奈はさらに顔を真っ赤にさせ、仰いでいた手を顔の前に出し、ぶんぶんと振り始める。
「あ! あのの! その! いいいいいっとうくん、その! ららら来迎先生がいった事だけど、そそそそそその!」
「だ、大丈夫! か、勘違いはしなから! うん!」
「そ、そう……あ、あははー……そう、だよねー……」
一刀の答えが望んでないものだった環奈は、パニックになりうまく自分の思いを伝えられず落ち込み、環奈の百面相に一刀は戸惑い首を傾げた。その様子をじっと見ていた杏理はふと浮かんだ疑問を平家に投げかける。
「……でも、さっき平家せんせー、急いでるって言ってたけど、なんで?」
「……昨日の配信で確信を得た連中がワンソードマンの素性を調べようと冒険者協会にかなり強引に問い詰めてきたらしくてな。厳島やお前たちに危険が及ぶ前にと考え、呼ばせてもらった。家に行くことも考えたんだが、もしつけられていたら厄介だからな」
平家の言葉で一刀たちは今日の扱いに得心がいった。昨日平家から連絡があり、学校へ向かうことになったのだが、それぞれの家に朝からタクシーがやってきていた。平家からの依頼でと答え、学園まで送迎された。
田舎から『マチ』にいく時に何度か乗ったのんびりしたタクシー運転手でなく、穏やかな話をしながらも隙のない運転手だったのはそういうことだったのかと一刀は何度も頷く。
「そこで、いくつか緊急用の魔道具をお前たちに渡しておく。何かあれば、これ、を……?」
平家がバッグから魔道具を取り出そうとした時、スマホが鳴り始め、慌てて杏理が取り出し、頭を下げる。
「あ、す、すみません! 友達からです。ちょ、ちょっとすみません! ……なに? どした? ……ええ!? ちょ、ちょっと、神原さん! ダンジョン配信で、えっと? な、なんだっけ? さ、サウザンドマジシャン? ってので検索してくれない?! 早く!」
「う、うん! ってうわ、着信が……じゃなくて、サウザンドマジシャン……ええ! な、なにこれ……?」
環奈のスマホには、たくさんの仮面の女性を引き連れた小柄な仮面の男が二人の倒れ込んだ女性を見て笑っていた。
その一人の仮面に一刀は心当たりがあり、声をあげる。
昨日間近で見たばかりの仮面に驚きを隠せない一刀。
平家は、再び眼帯の下の白い瞳を画面に向け呟く。
「……この男の魔力、3年の中馬、か……!」
『世直し系配信者ぁああ! サウザンドマジシャン様の世直しだぁああ! 今回は、浮気女に制裁制裁制っ裁っっ! よぉおおく見てろぉおお! 女ども、そして! ワンソードマンンンンン!!』
サウザンドマジシャンと名乗る中馬が画面の向こうでいやらしい笑みを浮かべているのを見て、一刀は身体の奥に僅かに残った赤銅の魔力がじくりを刺すような感覚に襲われた。
お読みくださりありがとうございます。
また、評価やブックマーク登録してくれた方ありがとうございます。
少しでも面白い、続きが気になると思って頂けたなら有難いです……。
よければ、☆評価や感想で応援していただけると執筆に励む力になりなお有難いです……。
今まで好きだった話によければ『いいね』頂けると今後の参考になりますのでよろしくお願いします!
また、作者お気に入り登録も是非!