第25話 おとす男達とおちる女達
「ほ、本当に皆ついてくるの?」
「勿論! よろしくね、いっ、じゃなくてワンソードマン!」
「ねえ、ワンくん、この人いきなりポロリしかけたんだけど、やめといた方がいいんじゃない?」
「今のはセーフでしょ? いちいち細かい女でめんどくさいなあ、ね、ワンソードマン」
「マナがワンくんなら、あたしはワンちゃん呼び……! はあはあ……悪くない……ワンちゃん、そろそろダンジョンおさんぽ行こうか、ふふふ」
仮面を付けたダンジョン配信者ワンソードマンに扮した一刀。その一刀をぐるりと囲みながらにらみ合う仮面を付けた女達。
一刀の守護女子3人と従姉妹2人が一刀のダンジョン配信について来ていた。
事のはじまりは金曜日の放課後。クラスメイト達の大活躍により守られた平日を終え、クラスメイトたちにお礼を言い硬直させ、帰ろうとした一刀が環奈たちに話しかけられる。
「ね、ねえ、一刀くん。この週末もダンジョンに潜るの?」
「あ、うん。ただなあ……」
ダンジョン配信は定期でやっていこうと考えていた一刀だったが脳裏によぎるのは前回の配信でのコメント。
『女は?』
女性が映っていることを望む、というより女性を映せという怒りが見えたコメントが思い出され一刀は身体をぶるりと震わせる。
そのコメントは一刀の『ばあちゃんたち』のものであり、一刀が身体を震わせているのは本能的にばあちゃんを感じているのだが気が付くことは無い。
その為、一刀の中では連れていく女性の当てもなく困りはて、肩を落とした。
ため息を吐き憂鬱そうな一刀を見て環奈は勝手に女の、正確には一刀の従姉妹達の影を感じ始め、闇に染まった微笑を浮かべる。
「そっか……一刀くん、私、一緒に行くね」
「え?」
「だって、一刀くん大変でしょ? でも、私がいたら安心だと思うの? どうかなあ? そう思わないかなあ?」
「お、お、思います」
とんでもない圧で迫る環奈にたじたじの一刀は思わず敬語で頷く。
だが、闇の環奈は止まらない。矢継ぎ早に言葉を続ける。
「うん、じゃあ、一緒に行くね。連絡先教えて、連絡するから」
「「ちょおっと待ったー! アタシ(わたくし)も!!」」
闇の環奈の両肩から飛び出してきた杏理と玖須美。二人とも連絡先を交換し、家に帰った一刀は、帰宅早々従妹の魔愛に迫られる。
「いっくん、明日もダンジョン配信するんだよね、魔愛もいくから」
「え? でも、魔愛ちゃんは他のチームが……そ、それに、明日はクラスメイト達が一緒に潜ってくれるって」
「………………………………………は?」
環奈と同じく深い闇に染まる魔愛を見て、デジャヴを感じる一刀。だが、すぐさま魔愛が迫り、慌てて飛びのく。瞬きを一切しない目でじっと一刀を見つめてくる。
「いっくん。なんでわたしたちを誘わないで、あの子達誘っているの? いっくん、わたしたちを舐めてるの?」
「ナメてない! というより、と、友達が一緒に行くって言ってくれただけで別に魔愛ちゃんを誘うつもりがなかったとかじゃ」
「じゃあ、いいね。わたしたちもついていってもいいよね? だって、あの子達がいいんならわたしたちがダメな理由ないよね? ね? ね? ね? ね? ね? ね?」
無表情で迫る魔愛。玄関のドアに追いやられ一旦態勢を立て直そうと一刀が外に出ようとすると、
「いっちゃん……聞こえてたよ……おねえさんを捨てるのね……この●●●●!」
「玄関の前でそんなこと言わんで!」
というひと悶着があり、土曜日は結局6人で潜ることになった。勿論、男バレ対策に全員仮面をつけての配信である。
「ど、どうも~ワンソードマンです~。今回は、皆さんからも危ないという意見も頂いたのでメンバーを揃えてきました~」
〈キタ! ワンソードマン!〉
〈よかった。これで安心〉
〈配信してる以上襲えないだろうしな〉
通常男が女を連れて配信をすると荒れる事が多いが、一刀が適切な距離感を心がけていた事と、女性陣がある意味一刀そっちのけでにらみ合っているためにそちらを楽しむ視聴者が多く比較的平和なコメント欄となっていた。その上、
「あははははは! あたしが一番強いぃいいいいいい!」
「んなわけないでしょっ! アタシが一番役に立ってるってのぉおお!」
「邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔ぁあああああああ!」
「私がいちばんだもん……私がぁあああ! いちばぁあんんんんん!」
〈ほとんど見向きもされないモンスターが可哀そう〉
〈醜い競い合いすぎるwww〉
〈ゴリラ園やん〉
互いに相手よりも功績を挙げようとする女性陣の暴れっぷりに爽快感を感じる視聴者が多数で盛り上がっていた。
だが、1人動きの悪いメンバーがいることに一刀は気付いていた。
(九十九里さん、大丈夫かな)
時折考え込むような表情になっていたのは玖須美。4人の暴走と一刀のフォローのお陰でなんとかなっていたが、ダンジョンのモンスター達にも頭が回るものはいる。
玖須美を一番弱いと判断した赤小鬼が、物陰から奇襲をしかける。
「……!! きゃあ!!」
赤小鬼の持っている鉈が態勢を崩した玖須美の持っているロッドが弾き飛ばされ悲鳴をあげる。
態勢を崩した上に武器を飛ばされた玖須美は、なんとか立て直そうと身体を捻るが、気付けば両側からも赤小鬼が迫っており、逃げ道を塞がれる。
他の小鬼と違い、女性の流す血に興奮する性質の赤小鬼は、その血を噴きださせる道具である鉈をいとおしそうに舐めて、一斉に玖須美に跳び掛かる。
絶体絶命の危機に思わず目を閉じ覚悟を決めた玖須美。だが、玖須美が痛みを感じることは無く、聞こえたのは二つの金属音と鈍い音。
「……? あ……」
目を開くとそこには一刀が。
小盾と短剣で両側の鉈を止め、真ん中の鉈が振り降ろされるより先に、赤小鬼の持ち手に背中をぶつけた一刀が顔を歪めていた。
「よかっ……た……間に合って……く、ぬ、ぬあああああ!」
力まかせに両側の赤小鬼を吹き飛ばした後、身体を思いきり捻り、後ろ回し蹴りを放つ一刀。
背中の痛みもあってか動きが鈍かったために、赤小鬼には避けられてしまうが、距離が取れたことを確認し回転した勢いを利用し玖須美を抱きかかえ三体から更に距離をとる。
「いっ、さま……ご、ごめ……」
自分の不注意で一刀を傷つけてしまったことに全身を震わせる玖須美。そんな玖須美を落ち着かせるように一刀は抱きしめたまま、赤小鬼達を睨みつける。
一刀の胸元を震える両手でぎゅっとつかみ顔をうずめる玖須美から一刀はあたたかいものが流れ込んでくるのを感じていた。
(また、あの感覚……でも、あの時のはじけるような怒りともあの時の冷たい殺意とも違う硬くてやさしい……!)
一刀に流れ込んだ何かは身体中を巡り脳にもたどり着く。すると一刀は理解する。言語化が出来るわけではなく、本能で使い方を理解し、その力を操る。
右手で玖須美を抱きしめたまま、左手に赤銅色の力を集め、糸のように伸ばしていく。
「ギ!? ギギギ!?」
その瞬間、持ち手から針のようなものが生え赤小鬼達は思わず鉈を手放す。
鉈が地面に落ちる音より早く風が吹き抜ける。
その風は闇。
殺意を漲らせた魔凛たちが赤小鬼に迫る。
「わるいこおにはいねえがぁあああ!?」
「きずつけたお前は百回しねえええええええええええ!!」
一刀が自分を対象にした個人撮影設定にしておいてよかったなと思うレベルでミンチにしていく杏理たち。
念のためにと見た魔動ドローンはしっかりと一刀の方を向いていた。そして、その横には勢いよく流れていくコメント欄が。
〈男が身体を張って女を助けた!?〉
〈たいちょおおおおお! 奇跡の男を発見しました!〉
〈抱かれてぇえええええええ!〉
「うわ……すご……全然読めん……あ、そういえば、くじゅっ……だ、だいじょう、ぶぅうううううううううう!?」
一刀の腕の中で大人しい玖須美を見るとダンジョン用に着ていた高級そうなローブを真っ赤に染めた玖須美が。
「ぶ、ぶー……鼻血ぶーしてしまいましたわ。あは、あははは……一刀さま……わたくしは……あなたが……がくう!」
一刀の頬に伸ばしかけた手が力なく落ち、気絶する玖須美。
両手を玖須美の鼻血で真っ赤に染めた一刀、己の鼻血で上半身を真っ赤に染めた玖須美、赤小鬼の紫の返り血を全身に浴びた魔凛達。血だらけになったところでその日の配信は終了となったが大いに盛り上がり、その日の同接日本3位を記録したのだった。
そして、その翌日。
「……日曜日にすまないな。厳島。それに赤城、神原」
「いえ、でも、急になんですか? 平家先生、私達を呼ぶなんて……それに、九十九里さんは?」
平家に呼び出された環奈は、当然セットだと思っていた玖須美がいないことに気づききょろきょろとあたりを見渡す。
杏理は昨日暴れすぎたせいかと不安そうな目で平家を見るが、一刀は予想が付いており平家の後ろでニマニマと笑う雷夏に視線を送る。
「九十九里はどうしても外せない用事があるらしくてな。出来れば全員に伝えたかったが、ちょっと急がねばならん理由がこちらにも出来てな」
平家はかりかりと眼帯周りを掻き数秒両目を閉じると、眼帯を外し、白く輝く瞳を一刀に向ける。
「厳島、お前の『力』について話をしよう」
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