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第22話 分からない男と分からせたい女達

『……中馬先輩に気を付けてね★ 結構目を付けられちゃってるみたいよ、あの人器がちっさいから』


 2年4組の男子、二宮仁虎の守護女子、多聞天が去り際に残した言葉。

 目を付けられたという言葉に警戒せねばと気を引き締めた一刀だったが、それ以上に殺気立っていたのが2年9組のクラスメイト達。


「一刀くん……気を付けてね。女はみんな狼なのよ……」



 ばあちゃん達が歌う70年代の曲とは真逆の価値観を伝えながら一刀の肩を掴む微笑を浮かべた環奈。

 ソフトタッチなのだが圧が強いという矛盾に身体を震わせる一刀。

 その環奈の後ろで口に手を上品に当てながらずっと笑っている玖須美も恐ろしく、更に身体を大きく震わせる。


「それで……多聞さん、なんて?」


「あ、あー……イロイロ気を付けてねって」



 ちらと玖須美を見て、誤魔化す一刀。


 以前聞いた話では玖須美は中馬先輩との結婚を考えているという事。であれば、ここで悪く言うのも憚られると思った一刀は嘘とも本当ともいえる言葉で濁すのが最善と判断する。

 そんな一刀の答えに、うんうんとポニーテールを揺らす環奈。


「そうだね、一刀君は気を付けた方がいいよ。イロイロ」


「そうですわね、それは本当にその通りですわ」


「ええ!? そんなに!?」



 ただ誤魔化しただけの言葉にとても納得されてしまい驚く一刀だったが、そんな様子を見た二人は苦笑い。

 教室全体からも『何を言っているんだ、コイツ?』という空気が漂っていることを感じ、一刀は視線を彷徨わせる。


「……あのね、一刀君? キミ、ワンソードマンって知ってるよね?」


「え、えええええ!? ななななんで?」



 思った方向とは違う質問に動揺を隠しきれない一刀が再び揺れ始めると、今度は環奈が肩を強く掴み身体を倒し顔を寄せ合う。


「しー! 動揺しすぎ……! えっと、今朝私達が従姉妹さんたちと揉めてたの見てたよね?」


「あ、あー、あれってそういうことだったんだ……え!? いや、なんでわかったの?」


「バレバレだから……! で、あんな大騒ぎになったんだから、今、ワンソードマンって大注目の人物だから気を付けなきゃダメだよ」



 一刀の姿を目に焼き付けていた女子たちであれば特定する事など造作もないのだが、そんなことは考えもつかない一刀は環奈たちの観察眼に感心し何度も頷く。ワンソードマンの騒動も、黒騎士の登場や空間移動によるものだろうと思い、そこまで気に留めずにいる一刀を見て、環奈は苦笑いを浮かべる。


 そんな二人の様子を見て玖須美は咳払い。


「こほん、お二人ちょっと近すぎでは?」


「あ、あわわわ! ご、ごめんね! 一刀くん」


「あいやいやいや、こ、こちらこそ!」



 二人して顔を赤くして自分たちの席に戻っていく様子を見て玖須美は微笑み、自分も席へと戻っていく。そして、各々のお弁当箱を取り出し、昼食の準備を始める。


「そういえばさ」


「あ、はい、なんですか?」


「九十九里さんは、中馬先輩が……っていうのは、何か理由があるの?」


「ああ、そ、そうですわね。一刀様はご存じないかもしれませんが、その、端的にいいますと、せ、精子バンクよりも、その、致した方が、男の子が生まれやすい。また、女の子であったとしても魔力の強い子が生まれるのです。なので、家柄の良いところは基本的に男性と結婚をなんとかさせたいと考えるのです。中馬先輩は、他の男性と違い、女性を何人でも娶るつもりのようなので……まあ、性格はちょっと難がありますが……」



 少し頬を赤らめて事情を語る玖須美よりも顔を真っ赤にさせ汗を垂れ流す一刀。

 横に居た環奈も気まずそうに笑っており、それが一刀の動揺を加速させる。


「あ、な、なるほど! ……なるほど。ご、ごめんね! 話しにくいことを!」


「いえ、なので、一刀さまもご自身の価値をよくご理解くださいね」



 少し寂しそうに笑う玖須美に胸の痛みを覚える。だが、今の一刀にはその痛みを取り除く答えを見つけることが出来ない。


 玖須美には玖須美の、そして、家の事情もある。そして、一刀は一刀で、同情で好きと言うのは失礼だとばあちゃん達に叩きこまれている。


 俯きじっと自分の弁当を見つめる一刀。


 だが、


「…………ん?」


 自分と同じくらい一刀の持っている弁当を見つめる視線に気づく。


「えっと、二人、俺の作ったお弁当、なんか変かな?」


「や、やはり! 一刀様がつくったお弁当ですのね? この前のちょおっとお下品なお弁当に比べて、輝いてみせますわね」


「あ、あのね、一刀くん。今日は食べ過ぎないから、一個だけ交換してくれないかな?」



 身体を乗り出し、弁当を求めてくる二人に思わずうなずいた一刀は、お弁当の蓋に自分で作った海苔の入った卵焼きを2個乗せて差し出す。すると、お弁当丸々一個を突き出してくる二人。


「多いなあ!」



 二人のその行動をギャグだと受け取った一刀が手をビシッと出しながらツッコむ。

 だが、二人は、やれやれとため息をつきながら首を振る。


「一刀くん、本当に自分の価値を考えた方がいいよ」


「全くですわ。まあ、でも、多すぎても困るでしょうから。こちらの蟹をどうぞ。そして……神原さん、今日は……」


「そうだね……みんなー、みんなで分けよっかー?」



 二人が意味深に頷き合うと、教室全体に呼びかける。すると、無言で、更に早歩きで群がるクラスメイト。

 そして、一刀の2つの卵焼きを30等分にし、一粒受け取ると無言で去っていき、無言で口に入れ、噛み続ける。


 そして、十分後、一刀のお弁当の蓋に一個ずつおかずが乗せられていく。無言で。時には一刀に対し拝む者も出る始末。


(わ、わからん! 何がなんだか! 誰か教えてー!!!!)


「た、ただいま……って、一刀どうしたの?!」



 杏理が帰ってきた頃には、昼休みまでに食べ終えようと再びほっぺたをパンパンにした一刀が困惑しながら笑っていた。

お読みくださりありがとうございます。

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