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第20話 急ぐ男と急げない女達

「はっ……はっ……はっ……」


「んっ……はあっ……い、一刀……も、もうアタシッ……」


「あ、赤城さん。もうちょっと、もうちょっとだから、がんばろう!」



 一刀の必死な目に、環奈は真っ赤にした顔で頷くと肩で息をしながら動き出す。


「はあっ……一刀、さま……わたくし、も……」


「はあはあ……いっとう、くん、私も……いるんだからね……」


「……分かってる……! みんな、いっしょだ…………遅刻する時は!」



 一刀とその守護女子三人は、息を切らしながら、遠くに見える学園を目指し走り続けていた。

 学園二日目から遅刻をしたくない一刀と、登校守護に向かった女子が男子を遅刻させれば守護女子を外されてしまうかもしれないと考える女子達は必死で走り続けた。


 何故こうなってしまったのか。


 それは数十分前に遡る―


 週末、ワンソードマンとしてダンジョンソロ配信をしたことで、冒険者協会の竜胆リリスにしっかりとしたお説教を受けた一刀だったが、その日はそれだけでは済まず、帰ってからも叔母にこってり絞られ、ダンジョン配信をすると告げておいたはずの従姉妹たちにもソロだとは思わなかったと散々怒られた上に、罰として、耳掃除や肩もみ、マッサージをさせられた。


 肩もみなどは田舎でもしていたしそれほど疲れる事ではなかったが、女子大生である魔凛と中3の魔愛、二人とも発育がいい上にかなりの薄着。うら若き健全な男子である一刀には刺激が強すぎて、精神的な疲労がとんでもなかった。


 故に月曜目覚めた時にはかなりの倦怠感があった。とはいえ、田舎ではばあちゃんと一緒に早朝に起きて手伝いをしていた一刀。自然と目は覚め、身体は仕事を求め、朝から料理を作り始める。今日はいつもの朝食よりも多めに作る。お弁当に詰める具材も一緒に作ってしまおうという魂胆だった。


(あの二人に任せたら、また恥ずかしい悪戯されるに決まっとるからな。まあ、みんなの分を作ってあげたら大丈夫やろ)


 一刀の予想通り、叔母である真実まみは諸手を挙げて喜び、魔凛はあまりの嬉しさに長くて真っ赤な髪をくしゃりと顔の下半分に集め上目遣いで照れていたし、魔愛は青い髪をいじり興味のない振りをしながらも何度もお弁当をチラチラ見ては口元を緩ませていた。


 平和な一幕、のはずだった。


 だが、一刀の与り知らぬところで歯車が狂い出していた。


 一刀の手料理を食べ、みんなご機嫌で早めの準備を終えた時だった。


「あ、いっとくん。今日はわたし、送ってあげられないの。ごめんね。だけど、ちゃんと手配はしておいたからね」


「てはい?」



 真実の一言で魔凛と魔愛の様子が変わったことに気付かない一刀の首を傾げるタイミングを見越していたかのようにチャイムが鳴る。カメラの映像を見ると、環奈たち守護女子がマンションのエントランスに来ていた。


「あ、なるほど」


「いっとくん、本当に都会の怖さを知らないっていうのわたしにもよーく分かったから。今日からは電車通学もしてみなさい。ねえ、ま……あれ? あの子達は?」



 真実が振り返ると、従姉妹たちがいない。一刀がまさかと思い、画面をもう一度見ると従姉妹と守護女子達が背後から何かを出しながら睨み合っていた。


「あーら、ただのイトコのおねーさん達、オハヨーゴザイマス。一刀を迎えに来たんで、おねーさん達はとっとと学校にでも行ってくださーい」


「えええ? 魔愛より年上なのに弱そうな、ただの同級生3人で送迎って、いっくん本当に大丈夫かなあ?」


「ただのイトコさま、心配ご無用ですわ。むしろ、おうちよりわたくし達のそばにいた方が安心かと思います……!」


「あんしんんん? どーせ、アンタ達、男性専用車両に守護女子は乗れて、朝なんて学生しかしなくて空いてるからとかで、いっちゃんに『ピー』なことして、『ピー』させて、『ピー』なカンケイとか言って『ピー』するんでしょうがぁああ!」


「も、もう本当に朝っぱらから何言ってるんですかあ! 本当に一刀くんの教育に悪いからやめてください!」


「「うるさい! 全部わかったドすけべ女が!」」


「~~~~~! ち、ちがいますケドオオ!?」



 と、そんな一悶着があり、一刀が割って入って暫く『話し合い』があり、なんとかその場は収まった。だが、それでも一刀を守護女子達が連れていくのを渋った二人によって大分時間を食った上に、それ以降顔を真っ赤にさせた3人の集中力はガタガタで電車の乗り間違いなどもしてしまう。


 特に、魔凛の発する言葉に対して免疫がなかったのは杏理で、ずっと落ち着かない様子でちらちら一刀の様子は見、守護しているものの、手が届く範囲に来ると顔を更に赤らめ飛びのいてしまう。


 なので、息切れも激しく、走るのもいちはやく苦しそうな表情に変わっていった。


「あ、あの……アタシ、もう、無理だから……先に」


「そんな……赤城さん……!」


「って、一刀様、なに、を……」



 手に膝をつき立ち止まった杏理を励まそうとする環奈と玖須美。その二人の横をすり抜け、一刀が杏理の元へ。


「一刀、ご、ごめんね……アタシ、アンタの守護女子なの、に……って、きゃあああああ!」



 学園への一本道で響く悲鳴。その悲鳴の元である杏理は、両手で顔を隠し抱きかかえられていた、一刀に。


「いいいいいいいっと、にゃにゃにゃにゃにゃにを!?」



 所謂お姫様だっこの状態になった杏理。そして、お姫様抱っこをする一刀。杏理も顔を真っ赤にしていたが、一刀も耳が赤く杏理の方は見ないようにしていた。


「ご、ごめん! でも、俺のせいで遅刻したら申し訳ないから、ちょっとの間許してね!」



 そう告げるなり、駆け出す一刀。それを慌てて追う環奈と玖須美。


 一刀は、田舎でもばあちゃんたちをおんぶしてあげたりしていた、というよりおんぶしながらダンジョンに潜らされたこともあるので、女の子一人抱えて走るのはわけない。だが、おんぶの方が走りやすいのは間違いない。なのに、何故一刀はお姫様抱っこをしたのか。それは格好つけたかったからではない。


(だけど、おんぶは無理や! だ、だって、胸が……!)



 一刀は、健全な男子高校生だった。そして、登校している生徒達から注目を浴びながらも一刀たちはなんとか学園へと辿り着く。


「よ、よかった! 間に合ったよ! あ、かぎ、さん……」


「う、う、うにゃあ~、もう、むりぃい~」



 両手で口元を隠し、瞳を潤ませた杏理はそう漏らすと、顔を真っ赤にして意識を手離してしまう。そして、そんな杏理を保健室に連れていくため、再度道を急ぐ羽目になる一刀たちであった。


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