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第15話 焦らせる男と焦る女達

 冒険者ギルド品川事務所の受付嬢、及川織姫は焦っていた。


 織姫は、数時間前にやってきた黒いマスクをつけ、たった一人でやってきた冒険者が男であったとは夢にも思わなかった。


 どうせ女が『ワンソードマン』とかギャグみたいな名前を付けて、男のフリをしてやってきたのだろうと。


 田舎で中級になれたからって調子に乗っているお上りさんが男装でソロで潜って女どもを騒がせてやろうなんて考えているのだろう。ならば、一度痛い目にあって、都会というものを学べばいい、と思って『危なくなったら逃げてくださいね。いきなり入り口で引き返しても誰も笑わないですから』と言って、手続きを済ませ見送った。


 休憩に入り、SNSを見ると、トレンドに男冒険者というワードが上がっていた。どこのチームにキャリーされているのかと興味津々でタップ。するとさっきまで会話をしていた見覚えのあるマスクがソロでダンジョンアタックしている写真とともに呟きが表示される。


〈品川中級ダンジョンに男性が一人で潜ってます! 誰か助けてあげて!〉



 その瞬間、ぶわりと織姫の体中から汗が噴き出る。


 もし、あのワンソードマンが本当に男であったら?


 自分の浅はかな判断で貴重な男がダンジョンで死ぬことになれば、自分への追及は免れない。

 いや、それ以上に、男を一人殺してしまう罪悪感は織姫にとって自分の死よりも恐ろしく、苦しい事だった。


 気付いた時には、走り出していた。


 それを見た織姫と交代したばかりの受付嬢が慌てて織姫にしがみつく。


「ちょ、ちょっと先輩! どうしたんですか!? 血相変えて!」


「男が! 男がぁあああ!」


「誰か! 先輩がなんかヤバいです! 助けてー!」


「誰か、お願い! 誰か助けてー!!!」



 品川事務所で織姫の絶叫が響きわたる。

 だが、その絶叫は、ダンジョンには届くことは無い。



〈あれ、男ってマ?〉

〈いやいや、風魔法で声を変える魔法って一時流行ってたから、アレ使って男のフリして、実は女でしたーばぁあかっていう炎上パターンでしょ〉

〈いや、喉見てみ?〉

〈は?〉

〈は?〉


 しっかり出た喉仏と口元、その上のマスクのスクリーンショットが物凄い速さで拡散されていく中、一刀は物凄い速さで黒狼を切り裂き前進を続ける。

 いくら対策をとっていてもソロである以上は視野も限られる為、保護色で身を隠したモンスター達の奇襲を全て避けられるわけではなく、一刀が怪我をするたびにコメント欄は阿鼻叫喚。


「いてっ……!」


〈ぎゃああああああああああああああああああ!〉

〈やめろや、クソ狼! 56すぞ!〉

〈ちょっとマジでちょっとマジで! 誰か止めろ!〉

〈血が! 傷が! 舐めてさしあげたい!〉

〈いやいや、絶対男装だって。男装、だよね? 男装であれ!〉

〈狼4ね4ね4ね4ね4ね4ね4ね〉

〈ワンソードマン! 負けないで!〉


 そして、ワンソードマンの中身に確信を持っている彼女たちはそれ以上に地獄絵図。


「ぎゃああああああああああ! い、一刀様ぁあああああ!」


「おおおおおおお落ち着いて、九十九里さん! あ、あの! 運転手さん! 急げませんか?」


「トロトロしてアイツ死んだら、アンタ殺す……!」


「あああああああああああ赤城さんも、落ち着いてぇええええええ!」




「いっちゃああああああああああああああん!」


「いっくぅううううううううううううううん!」


「ちょっと! 二人! どこ行くのぉおお!?」



 外は大騒ぎだが、ソロで田舎のダンジョンに潜っていた一刀にとって怪我は日常茶飯事。

 なので、もし当時一刀がダンジョン配信をおこなっていれば、次々と視聴者が気絶する事件が起きていただろう。

 今も、気絶する女性はいたが、一刀は十分に安全マージンをとって行動しているため、被害は二つの意味で最小でおさえられていた。


 怪我をすれば立ち止まり、ポーションバッグからポーションを取り出し、傷が治るギリギリの量を塗り回復させ、呼吸を整えてから動き出す、を繰り返していた一刀。

 ふと自分がダンジョン配信をしていたことを思い出し、周囲を確認、ポーションバッグに差していたモンスター忌避剤の入った液体を周囲に振りかけセーフティーゾーンを作ると、魔動ドローンを見る。


「えーと、すみません。初めての配信で慣れていないもので、すっかり配信していることを忘れて、戦いに集中していました。えーと、コメントを、見て……うわああ!」


 コメントという言葉を出した瞬間恐ろしい速度で流れていく。自分のコメントが読まれるだけでもこの上なき僥倖と視聴者の女性達が恐ろしい速さで文章を打ち込んでいく。

 そのコメント量は異常なレベル。配信という文化すら本でしか知らない一刀はその勢いに圧倒され目を白黒させる。


(すご……! 配信者の人たちはこんな速さのコメントを見て、答えとるんか。黒狼よりよっぽど早いぞ!)



 そんなことはない。だが、モンスターよりも遅くとも文字として見て認識することは難しい。

 一刀は必死になって目で追うが、あまりにも彼にとって理解不能なものが多く、混乱し始める。


「あ、あのー。住所とか電話番号っぽいのがあるんですが、詐欺かなんかですかね? も、もし、本物なら悪用されたらマズいんで辞めといた方がいいとおもいまーす、は、はは。えと……全部は読めないですね。すみません」



 恐ろしい速さで流れていくコメントすべてに答えることは出来ないと諦めた一刀は目についた答えられるコメントに答えていこうとディスプレイに視線を向ける。


〈本当に男なの?〉


「えーと、本当に男なのというコメントに答えます。男ですー。ほら、喉仏。作りものじゃないですよ。なんかそういうのもありますよね」



 従姉である魔凛の趣味はコスプレ。男装する時はこれを付けるのだと首に巻いてつける喉仏付の人工皮膚を見せてもらったことがある。股間につけるタイプのものを見せようとした時は、本気で怒ったが、にやにやと魔凜は笑うばかりで一刀は肩を落としたことがあった。


〈なんでソロなの? 危ないよ!〉


「なんでソロなの? というコメントなんですが大丈夫ですよ。俺はソロで中級取得してますから。このタイプの森林型ダンジョンもウチの田舎では多かったので慣れてるんです」



 森林型ダンジョンは洞窟型や塔型・城型と違い、入口が限定されておらず、森の外に出れば、ダンジョンを出て『穴』に戻ることが出来る。そのため一刀にとっては比較的脱出のしやすいダンジョンだったということもあり、一刀は森林型ダンジョンを好んで潜っていた。


〈え? 中級? マジで?〉


「あ、中級が疑われるコメントが。えーと、中級です。ギルドカードは魔力認証なんで個人情報は見えないと思うんで、お見せしますね。ほら」



 近づいて来た一刀が胸元からギルドカードを取り出し、魔動ドローンのレンズに向ける。


(み、見えてるかな? 近すぎかな)


〈見えたぁあああああああ!〉

〈鎖骨!〉

〈胸元えろっ!〉

〈いや、指のごつごつヤバ〉

〈唇がぷるぷる、10代〉



「ふ……一刀様の上半身はモロに見てしまいましたが、チラリズムというのも乙なものですわね」


「何言ってるの、九十九里さん!? って、あ、は、鼻血が……」


「はい、環奈。ティッシュ。絶対さっきのスクショが出回るでしょ。一刀のヤツ、無

防備すぎる……! ていうか、中級だったんだ。しかも、ソロ」


「「「一刀くん(さま)、本当に何者?」」」




「コイツ殺せばいっくんのところにいけるコイツ殺せば……」


「いっちゃん待っててね……すぐコロすから」


「今日の二人なんなの!? 怖すぎるんですけどぉおおお!」




「だずげでぇえええええ! おどごぉおおお!」


「先輩! 落ち着いて! 状況把握出来ましたから! 今、『三つ子』が向かってますから!」




 先ほどの一刀なりの反省も活かし、ギルドカードを見せ時間を確認した一刀はのんびりしすぎないように再びダンジョン攻略を再開すべく動き出す。

 その一刀を止めようと環奈たち、魔凛・魔愛姉妹も先を急ぐ。

 大騒ぎの品川事務所でも救助部隊が緊急出動。


 だが、それよりも早く黒狼の森の異変に気づき、原因である一刀を捉えた巨大な黒い影が動き出していた。

お読みくださりありがとうございます。

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