第14話 驚かせる男と驚かされる女達
なんの変哲もない週末。女性達は、テレビの中の数少ない男性タレントや創作物の男性に思いを馳せ過ごしていた、はずだった。
だが、その週末は、とある噂がSNSで物凄い速さで拡散されていった。
〈男がいる〉
〈お前の妄想の中にな〉
〈違う。リアル、っていうか、ダンジョン配信してる〉
〈は?〉
〈どこの局の企画? キャリーしてるのはどこの女たち? 出演者は誰? 綺羅人様?〉
〈違う。企画じゃない。普通に配信してる〉
〈は?〉
〈どこだ!? どこの角がお前をこんな風に!〉
〈頭打ってねえよ。ガチだから見てみ〉
〈どこのチームにキャリーしてもらってる? そのチーム、炎上覚悟でよくやるね〉
〈いや、ソロ〉
〈は?〉
〈くそう! どこの何色の組織がお前をそんなふうに!〉
〈黒の組織他何かしらのやべー組織にアポトキシ●的な薬を飲まされたわけでも洗脳されたわけでもねーから! ああもう! とにかく見ろって! URL送るから!〉
〈なんて名前の配信者?〉
〈ワンソードマン〉
〈は?〉
〈は?〉
〈だって、ほんとうなんだもん!〉
そんな噂がどんどんと広がっていることを知らずに、厳島一刀扮する配信者『ワンソードマン』がダンジョン【黒狼の森】を進んでいく。
【黒狼の森】。品川区稲荷堂の近くに発生した『穴』から侵入可能な東京ドーム20個分の広さを持つ森林型ダンジョン。
闇の魔力属性が強く、生えている木々も幹から葉まで真っ黒な杉に近い植物が鬱蒼を茂っている。鉄のような硬さを持つその木は魔石にも使える実を成らせ、冒険者たちはその実を刈り取っていく。
だが、ダンジョンはモンスターが発生するもの。黒狼と呼ばれる真っ黒で硬い毛を持つ狼が多く、その他にも黒蜘蛛、黒狐等どれもが保護色の為か、魔石の影響か真っ黒な姿をしており冒険者が奇襲を喰らう危険なダンジョン。罠はないが非常に進行速度を落とさざるを得ないダンジョンとして知られている。
そんな冒険者チーム泣かせのダンジョンを一刀は躊躇いなく進んでいく。
「疾っ! ふう……疾っ!」
疾走しながら一刀は気合を入れながら持っていた短剣を振り回し、樹を切り裂く。ギィンという音が反響していくがそれも気にせず一刀はそのまま進んでいく。
〈は?〉
〈は?〉
〈は?〉
魔動ドローンの横、魔晶ディスプレイにうつるコメントに目もくれず、一刀は突き進んでいく。
「し……! 居たか!」
音を鳴らしながら疾走する一刀の短剣から鈍い感触が伝わる。
その瞬間、一刀はバックステップで距離をとり、その感触がした方向みると、木の影から頬に傷を作った黒狼が現れる。
狼が大きく口を開け咆哮をあげようとするよりも早く一刀は視認出来た黒狼の傷に向かって持ち替えた別の短剣を突き刺す。
真横から逆側に貫いた短剣の先が見え、相手が動かなくなったのを確認すると、再び刃こぼれの多い短剣に持ち替え木を切り音を鳴らしていく。
〈は?〉
〈は?〉
〈は?〉
そして、途中で円を描くように駆けだすと、ポーションバッグから一本液体を取り出すと木にかけていく。そのまま螺旋状に少しずつ中心に近づいていき目的地にたどり着くと漸く足を止め、魔動ドローンの方へと振り返る。
「えーと、だ、大分進んだのでここを拠点にして今日は狩りをしていきたいと思います」
〈は?〉
〈は?〉
〈は?〉
「うわわわわ! すみません! 何かよくないことをしてしまいましたかね?!」
恐ろしい速度で休むことなくダンジョン攻略を進め向かってくるモンスターを一瞬で仕留め続けたワンソードマンへの『は?』のコメント波状攻撃に一刀は驚き、謝る。いつもより重い頭に一刀はちょっとよろめく。
(おっと、やっぱり仮面を付けるとちょっとバランスが変わるな……)
一刀は自分の顔に付けた顔上半分を覆うマスクを直しながら、首をこきこきと鳴らす。黒に赤い魔術式の文字が入ったマスクは、ダンジョン配信をすると従姉妹に伝えたら渡されたものだった。
『いーい、いっくん? 貴重な男がネットに顔出したらどうなる? 住所とか色々特定されて大変なことになるよ』
『で、でも、俺は嫁探しにこっちに来たのに顔を出さんと意味が……』
『はあ~、いっちゃん馬鹿だね~。そのうち、レベルの高い冒険者が見つけてアプローチしてくるよ。そんで、そういう冒険者と連絡を取って一緒にデ……冒険して、顔を見せてもいいなと思ったら顔を見せあってオッケーならプロポーズすればいいんだよ』
『魔愛、魔凛ねえちゃん、ほんとにそんなんでいけるの? 絶対?』
『『絶対!!』』
と言われ、渡されたもの。
実際、ダンジョン配信を素顔でやった男性も過去にいた。
力のある女性冒険者に連れられてダンジョンを攻略していたが、ダンジョンを出た後、住所を特定され事件に巻き込まれたことがあった。その上、女性冒険者たちの方も、男性が希望していたのだが危険に曝すとは何事かとアンチコメントを大量に送られ、長期休業に追い込まれた。
なので、従姉妹たちの判断自体は間違いではなかった。
一刀の身体の動きを目に焼き付けた女子たちがいるという予測までは出来なかっただけで。
『ねえ、神原さん。ダンジョン配信見た? あれって……』
『そうだね……赤城さん。あ、九十九里さんからも電話きた』
『ていうか、LIMEでばんばんに流れてるから2年9組多分みんな見てるよ』
『ん? あ、赤城さん! 一刀君の潜ってるここって……!』
そして、もう1つ。従姉妹も守護女子たちも予想外だったこと。
それは、男子一人で研修ではないダンジョンに潜るとは思ってなかったこと。
「ねえ! 姉さん! どういうこと!? いっくん何を考えてるの?」
「分かるわけないでしょ! ああもうこいつ等うっとおしい! さっさと倒していっちゃんのところにいかないと!」
従姉妹は、低級ダンジョンに守護女子たちと潜るのだろうとおもっていた。
守護女子たちは、誰か知り合いと組んで潜るのだろうとおもっていた。
だが、一刀はソロで潜った。しかも、低級ではなく中級ダンジョンに。
『は?』
『は?』
『は?』
「は?」
「は?」
〈は?〉
〈は?〉
〈は?〉
「す、すみません! もう休憩終わりますね! え、えーと、今が魔石10個くらいなので、100は行きたいですね」
いつも通り一刀は知らない。ソロで中級ダンジョンに潜る男などいないことを。100個集めることが田舎の普通でも都会の普通は中級に潜る適切レベルの冒険者4人で100であることを。
そして、どんどん増え続けているディスプレイの数は同時視聴者数で、その時間の日本トップ10にぐんぐんと迫っていることを。
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