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駄菓子屋のうたたねさん

作者: 扇鈴千鶴

 商店街の外れ、赤いポストが目の前にある一角に昔ながらの駄菓子屋がある。

 以前は高齢のおばあちゃんがやっていたが、いつの間にか若い女性が1人で店番をするようになっていた。


『うたたねさん』


 彼女はそう呼ばれる有名人で、店先でうたた寝をしながら店番をしている。そんなんで万引きとかされないのかと心配になるが、噂話があってこの駄菓子屋で万引きをすると、その後不幸が降りかかりなにもかも上手く行かなくなるらしい。

 酷い目に合った人も実際にいるらしく、まことしやかに語り継がれている。


 俺はこの街に住む水上豊。どこにでもいる、年上の女性にドキドキする高校1年生。


「うたたねさん」


 駄菓子屋のうたたねさんに声をかけて、小さなカゴに入れた色々な駄菓子を彼女に差し出す。


 妙にうまいヨーグルト味のクリーム、3つ入りのミニドーナッツ、10円のフーセンガム、紐付き飴、お米で出来た人参の形に入ったパフなど、毎日200円位の駄菓子を買う。


「んあ……あ、お客さん」


 よだれを垂らしていたのを手で拭き、つけたままの眼鏡をかけ直す。ティーシャツとジーンズというあっさりとした服装でも年上というだけで、俺には色っぽく見える。うーん、と言いながら伸びをする可愛らしさを見せながら、俺の差し出すカゴを受け取る。


「いつも来てくれてありがとうね、高校生くん」


 口元にえくぼを作りふわりと笑う顔にどきりとしながら、財布を出す。


「10円、30円、50円……と、合計で200円になります」


「はい」


「ん、ちょうど。ありがとうございます」


 爪を彩る赤が、大人の女性という雰囲気を出している。チャラっと揺れた胸元のアクセサリーには、宝石が輝いていて、つい目線がその大きな胸にいってしまうのを制御する。


「ねえ、今ひま? 今日も、寄っていく?」


 眼鏡越しから見つめてくる瞳は、澄んでいて白眼が青みがかって綺麗だ。


「はい……」


 高鳴る心臓の音を気にしないようにしながら、冷静を装って駄菓子屋の住宅部分へと足を運ぶ。


────


────────


 住宅部分の平屋の狭い畳敷きの布団の中、俺とうたたねさんは肌を合わせる。チャラっと胸の上で、アクセサリーが光る。宝石の輝く指輪が、決して彼女は自分のものではないと弾きながら。


「うーん、ストレス解消!」


 身体を重ねた後、俺にチュッとキスを落として、うたたねさんはゴロンと布団に横になる。


「女性でも、溜まるんですか?」


「うん、30になると性欲強まるみたいでね、毎日したいくらい」


 ふふっと彼女は眼鏡をくいっと上げて、顔を綻ばせて優しく俺の髪を撫でる。


「若い子はいいね、性欲いっぱいで」


「うたたねさんのおかげで、自分では抜かなくなりましたけどね」


「そう? よかったね」


 顔は童顔なのに、眼鏡と大きな胸、意外にしっかりとした声がギャップ萌えする。


 彼女には好きな人がいる。一度だけ見た事がある。俺がいつものように駄菓子を買った時、駄菓子屋の店先で中年の男がふらりと入ってきた。


『久しぶり』


『……なによそれ。ずっと放って置いたくせに。こんな指輪で私を縛りつけて』


『ごめん』


『ばか』


 2人は抱き合い、場違いな俺はその時は早々と駄菓子屋を後にした。


 後日、身体を重ねた後のピロートークで、うたたねさんに聞いた。


『浮気性の男。でも、愛してる人。彼はたくさんの女性の愛がないと、生きていけない人なの。だから、悔しいから私も浮気するの』


 くたびれた中年男といった出で立ちだったが、その渋い声や精悍な横顔からは大人の男の雰囲気が漂っていて、まだ高校生の俺には備わっていない魅力があった。


『高校生の君には、わからない話かもね』


『子供扱い、しないで下さい』


『ごめん、ごめん。女の子みたいに可愛い顔してるから、つい男の子って感じしなくて。そうだよね、高校生でも立派な男だよね』


 そういって、頭を撫でたうたたねさんはやっぱり俺を子供扱いしていたが、仕方ないのかも知れない。


「なに物思いにふけてるの?」


 うたたねさんの声で現実に戻される。


「別に、なにも。それより」


 俺はうたたねさんの身体に覆い被さる。


「続き、したい」


 彼女の顔を見上げれば、眼鏡の中の瞳に情欲の炎が宿るのを見た。


「うん、しよっか」


 いたずらっぽく笑う、うたたねさん。


 すぐに上がる欲望の熱は、2人を夢中に溺れさせていく。


 今はまだただの高校生だけど、大人になったらあの中年男から、うたたねさんを奪ってしまいたい。それまでは、ただの子供とのおふざけなお遊戯ごっこでもいい。うたたねさんが望むなら、浮気ごっこを演じよう。


「うたたねさん、好きです」


「ふふ、私も君が好きだよ」


 いつか必ず、その『好き』を本気の『好き』に変えてやろう。


 俺はうたたねさんの身体を愛撫する。彼女の欲望を満たすために。





 完

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