表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

逆ジュラシックワールド

作者: 日之本オタ

ずいぶん前に思いついたネタを小説化してみました。

基本的にコメディなので、さらっと読み流してください。

 ワシの意識はゆっくりと戻ってきた。

 ただし、まだ朦朧(もうろう)としており、目を開ける気力さえなかった。

 とろとろと夢うつつのまま、漠然(ばくぜん)と考えていた。


『あれ、ワシはまだ生きておるのか。

 老人ホーム併設の診療所で誤嚥性(ごえんせい)肺炎と診断され、高熱にうなされながらだんだんと意識を失ったから、死んだものと思っておったが』


 そこまで考えたとき、急に閉じている(まぶた)に光を感じ、周囲の音も聞こえてきた。

 周りに複数の者がいる気配があり、なんとなく理解した。


『そうか、診療室のベッドでまだ治療を受けているのか』


 ようやく気だるさに打ち勝ち、ワシはなんとか目を開けで周囲を見回した。

 目に飛び込んできたのは、驚愕の情景だった。

 体長15mほどのティラノサウルスのような恐竜が2匹、ワシを取り囲んでいた。

 連中は恐ろしい顔をしていた。さらにそのうち一匹は口を開けており、口の中には鋭い歯がずらっと並んでいた。


『食われる!』


 恐怖のあまり、悲鳴を上げながら上体を起こして逃げようとした。

 しかし、腰のあたりでベッドに固定されており、その場から逃れることはできなかった。

 あわあわと言葉にならない声を上げたが、恐竜たちは困ったような顔を見合わせ、何やらうなり声を交わし始めた。

 まるで会話しているようだった。

 襲われる様子がないことから、少し落ち着きを取り戻してきて、周りを観察する余裕が出てきた。


「もしかして、こいつら、知性があるのか?

 なんだか会話してるみたいだ」


 そうつぶやいていると、一匹の恐竜がなにやら帽子のような装置を差し出した。

 これを頭にかぶれというジェスチャーをしている。

 やはり、こいつらには知性があるようだ。


 とにかくそれを頭にかぶってみると、頭の中に直接言葉が響いてきた。

 

「おい、私の言ってることが分かるギャー?」


「そうそう、お前、知能があるのガオ?」


 さすがにびっくりしたが、すぐに理解できた。これは翻訳装置であり、周りの恐竜たちは高い知能を持っているのだ。


「あっ、はい。理解できます」


 そう応えると、翻訳装置からうなり声のような音が鳴り、それが言葉として恐竜たちに通じたようだった。


「それはよかったガオ。

 翻訳機を哺乳類に使うのは初めてだし、小さく作り直したからちゃんと動くか心配だったガオ」


「お前、名前はあるのギャー?」


「あっ、はい。石破晋三といいます」


「そうなのギャー。

 なあ石破よ、体におかしなところはないギャー?」


 そういわれて、しばらく少し手足を動かしたが、どこも異常はないようだ。

 いや、何か変だった。

 80歳を超えていたワシは、慢性的な腰痛とリウマチによる関節痛をかかえていたのだが、そんな痛みが全然ないのだ。

 それだけではない。老眼と白内障でかすんでいた目もはっきりと見えている。


「あれ、なんか若返ったみたいだ。

 これは異世界転生なのか」


「異世界転生?

 なんギャそれ?」


「そうそう、お前の言っている意味はよくわからんガオ、ここはかつてお前たちが生きていた世界だガオ」


「えっ、どういうことです?

 それにあななたちは一体何者です?」


「まあ混乱するのは無理もないガオ。

 今はお前が死んでから約8千万年後の世界だガオ」


「ええーっ」


 あっけにとられるワシに、恐竜たちは丁寧に説明してくれた。

 約8千万年前に大量絶滅が発生し、人類を始めとするかなりの生物が絶滅してしまったとのことである。

 それは、8千万年前の地層を境に、生物の化石が完全に入れ替わっていることから推測されているのだ。

 その8千万年前の地層には不自然な量の三重水素(トリチウム)が含まれていることから、地上で大規模な核融合反応が多くの場所で発生し、それにより大型の生物が絶滅したものと考えられている。おそらく多数の水爆の爆発があったのだろう。

 また、当時放射線量も高かったことから、生き残った鳥類の一種が急速に進化し、恐竜族が繁栄していった。

 その恐竜のうち一種は知能を発達させ、今はティラノ族が科学文明を築いているのである。


 そこまで聞き、あっけにとられながらも最も大きな疑問を口にした。


「そっ、そうすると、ワシはなぜ今ここにいるんだ?」


「お前は我々がクローン再生でよみがえらせたんだギャー」


「クローン再生?」


「そうそう、8千万年前にお前が生きていた頃、お前の血を吸った蚊が樹液に埋もれ、琥珀(こはく)になったガオ」

 

「ぞうなんギャー。

 それで、その蚊の体内からお前の遺伝子を取り出し、再生したんだギャー」


「ええっ、それってあのジュラシックパークのパクリじゃないか」


「なんのことギャー?

 そんな映画は我々の誰も見たことも聞いたこともないんだギャー」


 まるでディズニーがライオンキングでのパクリ疑惑を否定したときのような反応だった。

 なんで映画の話だと分かったのかは置いといて、ワシはもう一つの疑問を口にした。


「なんか若返ったような気がするんだけど・・」


「そうかもしれないガオ。

 お前が蚊に血を吸われた時点の年齢に再生したガオ」


「そうギャ。

 DNAのテロメアの長さでだいたいの年齢がわかるんギャ」


 どうやら、ワシが二十歳の頃に血を吸った蚊が琥珀になったらしい。それで今のワシはその年齢で再生されたわけである。

 そうすると、さらに新たな疑問が浮かんだ。


「そんなら、なんでワシには、それ以降の歳をとって死ぬまでの記憶があるんだ?」


 その言葉に、恐竜たちは顔を見合わせて笑った。


「ギャギャギャ、DNAには記憶が含まれている訳がないギャー」


「えっ、そうすると再生されたワシの脳になんで過去の記憶が入ってるんだ?」


「もしかして、お前、脳には記憶が入ってると思ってるのギャ?ー」


「そうそう、思ったよりお前らの知識レベルは低いガオ」


 恐竜たちの説明によると、脳は記憶を格納する器官ではなく、記憶領域への通信器官であるとのことだ。記憶の本体は魂とセットになって、肉体以外のどこか別の所に格納されている。言ってみれば、iOSにおけるiCloudみたいなもので、物理的にどこにあるかは無関係に、必要に応じていつでもアクセスできるもののようだ。肉体とは別のものであるため、記憶と魂は肉体の死後も残り続けている。

 DNAは個々の記憶に対するアクセスIDのようなものであるため、生前のDNAを持つ今のワシは、かつての自身の記憶クラウドとつながり、最後にアップデートされた時点の記憶を取り戻しているのである。


「えっ、ちょっと待てよ。

 そうだとすると、一卵性双生児の兄弟は同じ記憶を持つことになってしまうぞ」


「ギャギャギャ、やっぱりお前たちの知識は低レベルだギャー。

 DNAは塩基配列だけではなく折りたたみ方も特性に含まれるんだギャー。

 一卵性といえど、折りたたみ方が異なり、別の特性を持つから別の記憶領域にアクセスすることになるんだギャー」


「そうそう、それに、お前らのDNAは32億塩基もあるんだガオ。一卵性が分化するときにコピーミスを起こす部分もあるガオ。

 特にサブテロメアは簡単にコピーミスが起こるんガオ」


 ということらしい。

 要するに、ワシは死ぬ直前までの記憶を持ったまま、若い肉体で再生されたということだ。これは異世界(?)転生と言えなくもないだろう。

 とにかく自身に関する一通りの疑問は解決したが、まだまだわからないことだらけだった。


「なあ、なんでワシをクローン再生したんだ?

 科学的探究心からか?」


「まあ、それもあるギャー。

 たしかに古代生物学にとって、大きな価値になるギャー。

 でも我々は一企業の社員だから、お前を使ってどう利益を得るかが重要なんだギャー」


「そうそう、いろいろな利用価値を検討中ガオ。

 まあ最有力な案としては、お前を目玉としたテーマパークを検討中だガオ」


「お前を再生した琥珀は、我々が修羅山脈と呼んでいるところから発掘されたギャら、シュラシックパークと名付けようかと思ってるギャー」


「ワ・・ワシは見世物になるのか!」


 そんなのはいやなので、必死に抵抗しようと試みるも、縛られたまま体長15mの恐竜にかなうはずもない。そのままあっさりと(おり)のようなものに閉じ込められてしまった。


「処遇が決まったら知らせにくるギャー」


 そう言い残し、恐竜たちはワシを残して立ち去った。


 ワシはしばらく呆然としていた。

 これからどうすればいいのだろう。

 これからは恐竜たちの好奇の目にさらされ続ける一生を送るのだろうか。

 しかし、逃げ出したところで、この世界の状況がまったく分からず、生きていけるとは思えない。

 そもそも、こんな状況で逃げることは不可能である。


 絶望的な気分で悶々(もんもん)としていると、物音が聞こえた。

 顔を上げてみると、体長8mほどの少し小さな恐竜がこちらを見ていた。

 なんだか安達祐実に似ている気がする。


「ねえ、あなたお話ができるのグォ?」


「君は誰だ、何しに来た」


「私はここの所長の娘でレックスというグォ。

 パパが昔の生き物を再生したって言ってたから。見に来たグォ」


「そうか、それならワシのことだな」


「ねえねえ、あなたのいた世界のお話してグォ」


 どうやら子供らしい好奇心から、ワシのことを見に来たらしい。

 どうせすることもないので、ワシはレックスに元の世界の話をしてやった。

 レックスは目をきらきらさせながらワシの話を聞いていた。

 ワシもそれなりに楽しかったし、そもそも老人は子供に話をするのが好きなのだ。

 小一時間ほど話をした後、レックスはどこかへ帰っていった。


 一人取り残されたワシは檻の中で退屈していた。

 レックスと話をしていた時間が楽しかったなとぼんやり思い返していると、いきなり声をかけられた。


「おい、めしだギャー」


 最初にいた恐竜の一人のようだった。

 そいつが檻の上のふたを開けて、中になにかを落としてきた。

 それは10キロぐらいありそうな生肉の(かたまり)だった。


「な・・なま肉・・」


 ワシが唖然としていると、その恐竜は不審そうに言った。


「なんだ、気に食わないのギャ?

 贅沢な奴だな、生きているものの方がいいのギャー?」


「いや、そうじゃなくて、火を通さないと食べられないよ」


「なんだと?まあ、そういうもの好きもいるみたいだけど、お前もそうなのギャ」


 そういいつつ、そいつは肉を一旦取り出し、しばらくどこかに行った後、焼けた肉を持ってきた。


「ほらよ」


 なんか、こげこげだったが、生よりはましだった。

 胃が空っぽだったワシは、思わずかぶりついた。

 なにも調味料はかかっていなかったが、空腹が最高の調味料だ。

 その恐竜は、あきれた顔をしていた。


 それから数日は同じような日の繰り返しだった。

 レックスがやってきてはワシの話に目を輝かせた。

 また、レックスはワシにこの世界についていろいろと教えてくれた。

 この世界の恐竜たちは、ワシのいた世界よりもかなり高い文明をもっているようだ。子供の話なので、その文明の詳細は分からないが、それでも高度な科学技術を持っていることは容易に推られた。

 レックスとの会話は楽しかった。まだ幼いレックスは好奇心の塊であり、ワシの話をかぶりつくように聞き入っていた。さすがは大きな口の恐竜だけある。

 とにかく、ワシとレックスはとても仲良くなっていった。


 そうしたある日、レックスがまたこっそりやってきた。


「ねえ、あなたの行き先が決まったグォ」


「えっ、なんだって?」


「うん、あなたを見世物小屋に売却するんだってパパが言ってたグォ」


「見世物小屋?

 なんでそんな昭和な・・」


「あのね、最初はテーマパークを作るつもりだったけど、お金がかかりすぎるので、見世物小屋に売ることにしたそうグォ」


 それはいやだ。見世物小屋での生活の悲惨さは、「少女椿」を読んだワシはよく知っているのだ。

 ワシは絶望先生のように叫んだ。


「絶望したー」


 ワシの様子を見ていたレックスは、おずおずと話しかけてきた。


「ねえ、逃がしてあげようグォ?」


「えっ、逃がしてくれるのか?

 いや、でも、ここを逃げてもワシには行く所もないし、どうしようもない」


「私がかくまってあげるグォ」


「きみが?」


「うん、こっそりここから出して、あなたの住めそうな場所を一緒に探してあげる」


 ワシは考えた。

 子供の言うことだ、そんなに期待できる話ではない。

 しかし万が一にでも、良い所に行きつけば(もうけ)けものだ。

 それに、もしつかまったところで、たぶん予定通り見世物小屋に売られるだけで、元々だ。

 それなら、その前に少しでもこの世界を見ておくためと割り切って脱出するのも悪くないかもしれない。

 ワシは覚悟を決めた。


「それじゃあ逃がしてくれ」


「うん、わかったグォ」


 こうしてレックスは、ワシに奇妙な衣装を着せてじっとしているように伝え、ぬいぐるみのように抱いてその施設を抜け出した。

 施設から出てみると、まわりはかなりの都会になっていた。

 恐竜文明と言うと、岩に穴をあけたような建物を想像していたが、全然違っていた。

 デザインは異なるものの、元の世界の高層ビルのような建築物が空にそびえて並んでいた。

 まあ、高度な文明を持っているのであるから、あたりまえである。


 道には車のような奇妙な乗り物が走っており、歩道には多くの恐竜たちが歩いていた。

 恐竜たちは皆ほぼ同じような姿をしており、文明を持っている恐竜は単一種のようである。

 すれ違う恐竜たちはちらちらワシを見ていたが、『かわったオモチャ』という以上の疑念を持つ者はいないようである。


 レックスはワシを連れてあちこち歩きまわってくれたおかげて、この世界をいろいろ見てまわることができた。

 元の世界でワシは一度ヨーロッパに行ったことがあったが、そのときは、いかにも外国と言った街並みに異文化を感じ、飽きもせず見て回ったものである。

 しかし、この世界はその時以上の異文化である。すべてのものが珍しく、感動的な光景であった。

 ワシは呆けたように周りを見入っていたが、突然レックスがつぶやいた。


「これからどうしよっグォ・・」


 レックスはまだ子供である。計画性は何もないまま行動してしまったようである。


「おうちに帰ったら、パパにおこられて、あんたを取り上げられるし・・。

 疲れてきたし、お腹もすいてきたグォ」


「そうだね」


 この世界の様子に気を取られていたワシは、うわの空で答えていた。

 その時、突然頭に水滴が落ちてきた。


「雨か?」


 空を見たが、みごとな快晴である。


「今の、何だろうね」


 そう言いながらレックスを見上げると、レックスは口の周りによだれをたらしながら、ワシを見つめていた。


「な、なんなんだ、その物欲しそうな目は・・」


 その瞬間、ワシの意識は()んだ。



 ワシの意識はゆっくりと戻ってきた。

 ただし、まだ朦朧(もうろう)としており、目を開ける気力さえなかった。

 とろとろと夢うつつのまま、漠然(ばくぜん)と考えていた。


『あれ、なんだか以前もこんなことがあったような・・』


 そこまで考えたとき、急に閉じている(まぶた)に光を感じ、周囲の音も聞こえてきた。

 突然思考がはっきりとしてきて、思い出した。


「そうだ、レックスの口が迫ってきて、ワシは意識を失ったんだ」


 そう言いながら、がばっと身を起こすと、ベッドのまわりには例の恐竜が2匹、ワシを取り囲んでいた。


「やあ、気がついたギャー?」


 結局あの施設に連れ戻されたのだと思ったワシはがっかりしていた。


「ああ、ワシはつかまったんだな。

 今まで気を失っていたのか」


「何を言ってるんだギャー、お前を今クローン再生したところだギャー」


「そうそう、できたてのホヤホヤだガオ」


 状況を理解できないワシに、連中は説明してくれた。


「前のお前はレックスに食べられたんだんだギャー」


「そうそう、今のお前は、もう一度クローン再生した個体だガオ」


「そうだったのか・・」


 唖然とするワシに連中は続けた。


「レックスが言うには、お前は今まで食べたものの中で一番おいしかったそうギャー」


「そうそう、だからお前を大量生産することにしたんだガオ」


 そう言いながらそいつが指さすガラス窓の向こうは、工場のようなところになっており、ベルトコンベアにワシがずらっと並んで流れていた。


 どうやら連中は、ワシの最も有効な利用法を見つけたようである。


今回はイラストなしです。

並行して制作していた「平和な世界のニホンちゃん」アニメの作画で燃え尽きましたので。

ちなみにそのアニメは下記で公開しています。よろしければ見てやってください。

https://www.youtube.com/watch?v=NbwkHKrA-vw


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ