性根の腐ったやつ
事故で死んだ男が気が付くと、真っ白な死後の世界で女神としか思えない女性の前に立っていた。
これはまさか、と思っているとその女神が口を開く。
「あなたは今から別の世界に転生します。そこはいままであなたがいた世界とは違いスキルや魔法が存在する、そうですね、ちょうどあなたが思い描くゲームのような世界といえば伝わりやすいでしょうか?」
女神の言葉に男は内心小躍りした。これは少し前に小説やアニメで流行った展開そのままではないだろうか。
俺もようやく、本当にようやく! 主人公になることが出来るのだ。
自分を理解してくれない家族や、役にも立たない勉強の成績だけで自分のことを判断してくる人間たちを見返すことができる。
俺は幸せになれるんだ!
「魂がその世界とは違うあなたにはスキルがありません。しかし安心してください。私が特別なあなたに授けましょう」
その言葉に男は思わずニヤリと笑う。この展開はやはりそうだ。俺は主人公なのだ。
そうして男は女神から「切断」というスキルを授けられた。これはその名の通り、どんなに鈍く小さな刃物であったとしても相手の硬度や大きさを無視してあらゆるものを切ることができるスキルだった。
つまりこのスキルがある限り、どんなに強大で硬い相手がいても男は切り殺すことができるということである。
女神からの説明を聞き終えた男は女神に礼も言わずに転生していった。
そんな男のことを女神は謎めいた笑みを浮かべて見送っていた。
それから二十年ほどが経ったある日。男は数多くの冒険者たちに囲まれていた。
男の足元にはすでに彼によって斬られた冒険者の骸がが数多く転がっている。
「クソ、クソッ、クソクソクソォッ! なんでっ! 俺は主人公だぞ! なんで俺が!! なんで幸せになれないんだよっ!!!」
叫びながら両手に持った剣を滅茶苦茶に振り回す。その刃が少しでも触れればどんなものでも真っ二つに切り裂かれていく。
しかし男は重装備の戦士たちに囲まれてなかなか動くことができず、しかも遠くから魔法使いたちが魔法を放ち続けているのだ。
男の命が尽きるのも時間の問題だった。
死後の世界からその様子を見ていた見ていた女神は手を叩いて笑う。
「なんでもかんでも人のせいにするような性根の腐ったようなやつが、みんなに嫌われて一人で寂しく死ぬのは何度見ても楽しいなあ」
笑いすぎて出た涙を拭きながら、その性根のせいで部下の天使も仲間の神からも敬遠されている女神は一人でそう呟いた。
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