表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/7

私の救いは聖騎士様

 私ライラック・レイリーは転生者。


 前世はまってプレイした乙女ゲームの中へのね。

 ゲームとか漫画とか、世の創作物の中には色んなタイプのキャラがいる。

 主役、悪役、脇役、あとは名前も顔もないモブ。

 脇役にも色々あって、当て馬だったりお節介キャラだったり死ぬキャラだったりとある。


 それから、相手がハイスペックと見ればやたらとモーションをかける尻軽キャラも。


 そういうキャラは得てして物語の人気キャラ達に同じような黄色い声を上げて群がっていく。


 どうしてそんなにいつも欲望に忠実に興奮できるんだろう、それもイケメンなら見境なく。彼女達の思考回路は一体どうなっているんだろうってプレイしながら、或いは創作物を眺めながらよく疑問に思ったものだった。


 多分、それが良くなかったのかもしれない。お盛んですことーとどこかで嘲り下に見ていた部分があるのは否定しない。


「え、うそ……私って、ライラック・レイリーって、あのビッチキャラ!?」


 と、ある日自分はイケメンなら誰にでも簡単に恋して言い寄っていくゲーム中の伯爵令嬢だって悟って思い切り打ちひしがれたっけ。


 ライラックって脇役は、主人公と逆ハーレムする三人のイケメンキャラ全員に言い寄っていく役回りで、その手の女性脇役のうちの一人。


 三人の誰にも相手にされない上にゲーム本編には全く絡んでこない。拒絶されて「ああん! あの子のどこがいいのっ」て高飛車に仲間令嬢と背景でハンカチを噛み締める典型的な脇役よ。

 因みにライラックと同等の脇役尻軽令嬢はあと二人いて、私を含めいつも主人公の引き立て役トリオとして作中では扱われている。


 そして、私は転生したからこそ、前世では理解不能だったビッチキャラの言動を理解した。


 ライラックが上述の三人を見ると無駄にテンションが上がるのは、メインキャラの彼らは必ず女性に群がられるって設定だったせい。


 ライラックはだからこそ彼らに魅了されなければならないの。つまり、見えない力が私ライラック・レイリーを動かしていたの。


 ――狂ったようにメインキャラに魅了されると言う、この世界の強制力に。


 そんなの冗談じゃないってわけで、前世の自分が覚醒してからはだから三人にはなるべく近寄らないようにしていた。


 幸いにも彼らを避けるって行動は禁止されているわけじゃないようで、十六歳で前世覚醒して以来の二年、伯爵令嬢として出席しないとならない集まりのうち、彼ら三人の誰かがいるような集まりのおよそ八割を回避できていた。


 不思議にも、美形でも三人以外には強制魅了は発動しないようだった。そこは救いね。


 でも例の三人と会って強制魅了が発動した後だと、鎮まるまでは他の男にも無駄にはあはあしちゃうから要注意。警戒しまくったわ。


 だがしかーし、人間いくら気を付けていても不意に元凶に会ってしまう時がある。


 三人のうちの一人、王太子アントンとバッタリ会っちゃったの。


 彼が絶対来ないと思っていた大聖堂裏手にあるちょっとした花壇前ベンチでね。ひっそりとあってほとんど存在を知られていないベンチなのに、どうやら出先からの帰りに立ち寄ってたまたま見つけたみたい。一人静かに休めるとでも思ったんだろう。


 私も休憩に来たんだけど、彼の顔を見た瞬間内心じゃうわまずいって感じながらも私の意に反して目はハートよ。


 猛烈に、思い出しても羞恥しか感じないレベルでアプローチした。幸いアントンは煩わしそうにして去って行ったけど。


 だけど治まらなかったのは私の性的興奮。呼吸が乱れて体が熱くなって大変ったらない。ここで誰か女癖の悪い男性に遭遇したら間違いなく食べられちゃうわ。


 それだけは避けたいと、人目に付かない場所に隠れてやりすごさなくちゃって考えて移動したのが大聖堂の中だった。


 まだ礼拝時間じゃないから表口は閉まっていたけど、よくここには慈善活動の打ち合わせなんかで訪れていて裏口を知っていた私はそこから駆け込むようにして入ったの。

 告解部屋まで行ってそこで興奮が治まるまで緊急避難ってね。


 部屋までの途中、廊下で誰にも会わないよう念じていたんだけど、生憎とそこで一人の聖騎士と鉢合わせた。


 とてもとても美形な若い聖騎士と最悪にもぶつかってしまったの。


「はぅんっ……!」


 この時は体のどこかに触れられるだけでも敏感肌じゃないけど刺激を受けてやばい状態の私は恥ずかしい声を上げた。


「あ、悪いなご令嬢、もしやどこか痛くしたか?」

「……っ、いえ、大丈夫です」


 と言いつつ私ってばへたり込んだ。力が入らない。

 ギョッとしたのは相手だ。慌ててしゃがみ込む。


「大丈夫じゃないだろう、どこか怪我を……んん?」


 突然彼が顔を近付けてきたからびっくりよ。じーっと見つめてこられて魅了の余韻のせいでドキドキする。


「あのっ、すみませんっ、これはそのっ」

「――ああ、これは呪いだな。そうだろう?」

「へ?」

「それも酷く根の深い。初めて見る厄介さだ」


 次第に眉間を寄せて険しい顔になり私を見つめる聖騎士は、何かを検分するように私の手を握ってきた。もう言葉もないわ。こんな神聖な場所に予想外にも不埒な男、しかも聖騎士がいたのって本気で焦った。


「は、放して下さい」


 その間にも焦りだけが募っていく。こんな美青年から迫られたら抗えないかもしれないもの。


「急激に状態が悪化している。仕方がない、少しそのままでいてくれ。すぐに浄化するから」

「じょう……か?」


 問いの答えをもらう前に既に彼は魔法を発動させていた。

 薄れるように変な気分が落ち着いていくのを感じた。

 程なくして彼はそっと手を離す。

 私はすっかり平素の自分を取り戻していた。


「嘘みたい……」

「楽になったろう?」

「あ、はい」


 自分の事なのに、まさに体験しているのに、ものの数分もしないで落ち着くなんて心底信じられなかった。今までは暫く、長いと数時間は誰にも会わない場所で我慢しなくちゃならなかったのに。


「あのっ今の何ですか? どうやったんですか!?」


 対処方法があるなら教えてほしい一心で話を聞けば、聖騎士の彼には私が何らかの強い呪いに掛かっていると感じるんだそうで、今し方の私を放っておけなかったから浄化したんだそう。彼にこれはまずいと感じさせる、それくらいに私の呪いは強くて質の悪いものみたい。


「俺が浄化魔法を使えて幸いだったな」

「浄化魔法……」


 そう、浄化。


 それでこの発情が消えるんだと判明した。


 他にない画期的鎮静方法の発見よ。

 二年も変わらずで解決を諦めかけていたけど、神様はちゃーんとか弱き乙女を見守ってくれているんだわって感謝した。

 なら、私が次に取るべき行動は一つ。


「あのっ、聖騎士様どうかお願いです。そのお力で私をお救い下さい!」

「救う、とは……?」


 浄化は済んだのにまだ何か必要なのかと彼は怪訝にした。私は精一杯憐れを装って……と言うか本当に憐れな体質だけど、早口で縋るようにして現状を訴えた。


 先のような状態は過去に何度もあり、気を付けなければ操がいくつあっても足りないと。幸いそんな時の相手はメイン男性キャラの誰かだったから袖にされて事なきを得たけどね。でもいつか最悪が重なって操を失うかもしれない。傷モノだなんて噂が広まれば結婚に影響が出るのは必至。上流社会は体面をとても重んじる面倒な人種の集まりだから。

 ぶっちゃけね、もうこの世界に脇役として転生しちゃったのは仕方ないから、それならそれで真っ当に伯爵令嬢として好きな殿方と幸せな結婚をしたいって願望はあるのよね。

 だから不利で不本意な噂は立てたくないわけ。


「長い時は何時間と耐えないとならないのですっ! それも聖騎士様の浄化魔法があればもう逃げ隠れせずに済みます。ですからどうかこれから先、必要な際には私の浄化をして頂けませんか? 勿論報酬、いいえ大聖堂への寄付はさせて頂きますので!」


 清貧を重んじる聖騎士には寄付って言った方が聞こえはいい。私の懇願を受けて彼はそんな馬鹿げた話があるのかと驚いていたようだった。そこは同感よ。自分でもそんなアホなってよく思うもの。


「お願いします! 決して呼びつけたりなんてしません。私の方からこちらに出向きますからどうかっ!」

「ご令嬢何を!?」


 彼の前の床に両膝を突いて、淑女のプライドを捨て去って土下座した。まあ淑女のプライドなんて元からないけどもね。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ