レッサースノードラゴン
「MP回復したぞ!」
「お、終わったか」
ゴクゴクとMPポーションを飲み干したアカネは、座って休憩している俺たちに話しかける。
こういう時、リソースを気にして戦わないといけないから魔術師って大変だよな。
俺は絶対にできる自信がない。技を打つのに必要なポイントを考えながらやるのとかは本当に苦手だ。
え?お前のプレイスタイルも似たようなものだろって?
いやいや、俺のはHPだから。MPみたいな使用するステータスじゃなくて、体力だし。無くなったら死ぬだけだし。
ん?お前体力として使ってないじゃないかって?
・・・うるせー!(完敗)
と、とにかく俺はそういうリソースを気にしながら戦闘をするのは苦手なのだ。これは確定事項だ。うん。
「そういえば他のメンバーは呼ばなくていいのか?」
俺は頭の中の存在に論破されかけたので、焦って話題を変える。
「ん?あぁ、ここのボスはパーティ単位でしか挑戦できないんだ。だから基本的にいけそうと思ったパーティがいく感じだな」
「そうだな!私たちも力試しでたまにここのボスに挑んだりするからな!」
なるほど?フィールドボスなのに大人数で挑戦できないのか。
てっきりレイドボスみたいな感じなのかと思っていたのだが、解釈違いだったようだ。
レイドボスじゃないのに今まで一度も勝てていないのか。結構化け物だな。
まだ第2フィールドなのにトッププレイヤーがそこで躓いているのって普通に考えておかしくね?
とにかく強いというのはなんとかくわかったのだが、結局は百聞は一見にしかず。
とりあえず見てみないと分からないだろう。
「そんなに強いのか。楽しみだな」
「そうだろ?今回はやばくなったらジンも参加していいからな。というか聞き忘れてたが別にデスペナ食らってもいいのか?」
バルドがあちゃーみたいな顔をしながらそんなことを聞いてくる。
普通に死ぬ確率が高い旅に人を連れてくるなよ。しかもそれを死ぬ直前に言われてもどうしようもないだろ。
バカなのか?お馬鹿さんなのか?
まあ別にいいけど。というかここで断っても拠点に帰れないじゃねーか。二択に見せかけた実質一択だろ。
「別にいいけど。そういうことは早めに言ってくれよ」
バルドはツンデレだけじゃなくて、お馬鹿さんの属性もあるのか。本当にショタの見た目ならよかったのに。
ムキムキマッチョが『ヤッベ、家にカバン忘れたわ』とか言っても困惑するだけだろ。
・・・いや、それはそれで面白いか。そういう奴がクラスにいたら絶対に面白いな。
割とバルドも理にかなってたりするのか?
「ん?なんだ?俺のことをジロジロ見て」
「いや、別になんでも」
おっと、目に出ていたようだ。
彼は今後はツンデレ兼お馬鹿さんとして付き合っていくことにしよう。
「おーい、いつまで座ってるんだ。行くぞ!」
「「はいはい」」
と、そんなしょうもない会話(?)をしているとアカネが早く戦いたいようで、俺たちを急かしてくる。
それを聞いた俺たちは重い腰をあげて、ボス部屋への扉に向かう。
「じゃあ、開けるぞ」
バルドが扉に手をかけた途端、先ほどまでの気だるげな雰囲気が緊迫した雰囲気に変わる。
おぉ、カッケー。
内心そんなことを思いながら、俺もその張り詰められた空気に乗せられて緊張する。
「おう!今回こそは倒すぞ!」
アカネがそう叫んだ途端、バルドが扉を押し開ける。
すると、視界が一気に切り替わる。
先ほどまでは雪山の頂上の白銀の世界。だが、今回飛ばされた場所は打って変わって闘技場のような場所。
このゲーム実はボス戦は闘技場にこだわっていたりするのだろうか?
とはいえ、巨大ゴーレム戦の時と比べると闘技場の範囲が広い。
さらには、雪もチリチリと降っている。
まあボスがスノードラゴンだもんな。雪が降ってなかったら謎でしかないわな。
「グルア?」
そして中央で寝ていたスノードラゴンが侵入者に気づいて目を覚ます。
「行くぞ」
バルドがそう呟き、即座に移動を始める。
「よし、やるか!トカゲ!」
そして、それに反応したアカネも魔法陣を展開しながら大声を出す。
「グル?・・・グルアァァ!」
そしてその声で完全に目を覚ましたレッサースノウドラゴンが魔力が集まっているアカネに咆哮を浴びせる。
「【多重詠唱】【ファイアーランス】」
が、その咆哮などびくともせずアカネは大量の火の槍を召喚する。
あのー?俺は何をすればいいんですか?
完全に出遅れてしまった俺はその場で立ち尽くすのみ。
とりあえずアカネの近くにいたらまずいのはなんとなく分かったので、俺は闘技場の端の方に移動する。
「が、頑張れー」
そして小声で応援を行う。
結局ここでも俺はイモイモすることになるのか。最近味方も敵もインフレしすぎてやばい。
と、そんなしょぼんとしながら、ちらりとドラゴンの方を見るとちょうどアカネが放った火の槍がレッサースノードラゴンに当たろうとしているところだった。
「グルア!」
レッサースノードラゴンはその強靭な肉体と爪を使って、自身を燃やし尽くさんと迫る槍を無理やり弾いた。
そして、お返しとばかりに周囲に雪玉を展開してアカネに放つ。
「っ!【ファイアーシールド】」
が、それはアカネが展開した盾に当たると、一気に溶けて水に変わる。
「相変わらずお前は化け物みたいに強いな!これでこそ戦いだ!」
アカネは久しぶりのちゃんとした戦いに心躍らせ口角が吊り上がる。
・・・バトルジャンキーだ。怖い。
「グルル」
とはいえ、その雪玉はあくまで牽制。アカネが盾を展開している隙にドラゴンはブレスの準備に取り掛かっていた。
「それはいただけないな」
が、ふいに現れたバルドが喉元を斬りつけることで、ブレスをキャンセルする。
「かってーな。かすり傷程度しか与えてないじゃないか」
バルドはドラゴンの硬い鱗がない喉元を切ったはずだった。
だが、与えたのは若干血が滲み出るほどの傷。この程度では何度攻撃しても倒すことができない。
「グルア!?」
そして、ターゲットはアカネではなくバルドに移る。
ちょうど喉の下にいるバルドを叩き潰すべく、ドラゴンは尻尾を振り払う。
「うおっ!あぶね」
先端は音速を超えるのではないかと思われるほどの薙ぎ払いをバルドは間一髪のところで避ける。
「くそっ、最初のラッシュでダメージ全然与えられなかったか」
「あぁ、すまない。想像よりも硬かった」
バルドはその素早さでアカネの横に移動すると、切先をドラゴンに向けながら警戒を緩めずに構えを取る。
「グルルル」
そして、避けられたのを確認したドラゴンもまた簡単には倒せないと判断したのか身を低くしながら、警戒の体制を取る。
最初の猛攻は引き分け。
これからが本当の戦い。
勝つのはバルド達なのか、それとも不敗を貫くドラゴンなのか。
戦いはより高次元な、より深いものへともつれ込んでいく。




