研究室
あの後、現実世界でご飯を食べてある程度やることを終わらせて、またULOに戻ってきていた。
最近は本当にULOにハマりっぱなしだ。マサキに勧められた時は精々1ヶ月くらいで辞めるかと思っていたが、全然そんなことはなさそうだ。
「よし、ただいま戻ったぞ」
バルド達は俺が戻ってきた時、ちょうどログアウトしたようで拠点内には残っていなかった。
「あれ、もう戻ってきたんすか?」
シーフが不思議そうな顔で俺のことを見つめる。
「なんだよ、戻ってきたらいけなかったか?」
「い、いや。そんなことないっすよ」
「そうか?ならいいが」
「そ、そんなことよりダンジョンの素材を見せて欲しいって言ってたっすよ」
シーフは目を泳がながら話題を変える。
なんか怪しいな?
もしかして俺がいない間に何かあったのかもしれない。
とは言っても、シーフが口を割らないならもっと詰めてもどうせ口を割らないから情報は入手できないだろう。
「分かった。生産職の人たちはどこにいるんだ?」
「えーっと、あっちの部屋っす。新素材にめちゃくちゃワクワクしてたっすよ」
「ありがとう、行ってくるわ」
「はい、いってらっしゃいっす」
俺は渋々生産職の人たちがいる部屋に向かう。
生産職はミルさん以外に会ったことがないから、どんな人がいるのか楽しみだ。
皆が皆ミルさんみたいにオタクとか研究者気質だったら困るな。
ミルさんみたいに話を聞かされたらどうしようと若干不安に思いながら、俺は部屋をノックする。
「はーい」
すると中から透き通った女性の声が聞こえてくる。
「ジンです。素材を見せにきました」
「あ、ジンくんか。どうぞ入って」
俺が扉を開けると、中に広がっていたのは大量の薬剤や研究素材が無造作に置かれているテーブル達と、それぞれの研究や制作に熱中している生産職の人達。
そしてほのかに香る薬剤特有の独特な香り。
いいな、まさに研究所といった感じの雰囲気だ。
ここは店とかがないからミルさんとは違って、機能性重視にしているのもそう思わせる要因の一つだ。
こういう雰囲気は好きだな。それぞれが自由に動いているからか、ストレスをそこまで感じない。
「ジンくん、ようこそ攻略隊の生産部屋へ。ここでは日々色々な研究や制作をしているよ」
と、俺が研究室に好感を抱いていると、先ほど挨拶してくれた女性が話しかけてくれる。
彼女は白髪ロングだが髪の先端が若干跳ねており、目は薄い紫色をしている。さらに、出るところは出ていて、しっかりとくびれもあってスタイルが抜群。
しかもそれで白衣を着ているのだから、好きな人はとことん好きだろう。
実際マサキはこういうのが好きなので、彼女を見たらまず間違いなく固まるだろう。
そこで連絡先を聞けるほどの男ではないのだ。
・・・まあ、それは俺もそうなのだが。
だから2人とも彼女いない歴=年齢なのだ。
「あ、こんにちは。攻略隊に昨日から?配属されたジンです。よろしくお願いします」
「うん、君のことは聞いてるよ。で、早速で悪いんだけど新素材とやらを見せてくれるかな?」
「あ、はい。それがこれです。洞窟の奥深くで見つけました」
有無を言わさない圧を感じた俺は、素直に従って【魔水晶】を女性に見せる。
アルベリオンの分以外にも余剰にとっておいてよかった。
これで本当に何も持って帰ってきてなかったら話になってなかった。
「へぇ、これが・・・」
彼女は俺が取り出した魔水晶の欠片を手に持ってまじまじと見つめる。
「あ、自己紹介がまだだったね。私はルカ。一応攻略隊の研究員をしているものだよ」
「え、あ、はい。よろしくお願いします」
てっきり魔水晶の素材の美しさとか強さとかを語り始めるのかと思って身構えてしまったが故に、返事が遅れる。
本当にミルさんに数時間オタク話を聞かされる身にもなってほしい。
軽くトラウマものだぞ。
興味がほぼない話を聞くのが一番辛い。
学校の授業に似ている。国語が嫌いな人は国語の先生のありがたい話を聞いていても、苦行でしかないのだ。
「それはそうと、この水晶すごいな。この光は一見ただの光に見えるが、実はこの光はマナの光。おそらくこの光を濃縮して魔術師に当てているだけでその魔術師はMPが回復し始めるはずだ。さらに、この強度おそらく盾に使っても相当な硬度を誇るだろう。いや、まだ私たちの技術力では加工できない可能性はあるか。ふむ、ならば彼に頼んで・・・」
あ。
結局彼女、ルナさんもミルさんと同じ気質だったようだ。
完全に自分の世界に入ってしまった。
俺は案内役のはずのルナさんがぶつぶつ言っているので、完全に手持ち無沙汰になる。
「お、新入りか?」
そんな時に声をかけてくれたのが、先ほどまで魔物の素材を分解したり改造したりしていた男性の研究員。
「いえ、僕はどちらかというと攻略側です。渡したい素材があるからここに来たんですが、ルナさんがこんな感じで・・・」
「あぁ、大変だな」
彼は哀れみの目を向けてくる。
「それはそうと、魔物の素材とかはあるか?持ってるなら見てみたいのだが」
「あ、はい。ありますよ。・・・虫は大丈夫ですか?」
俺は素材があるのですぐに取り出そうとしたが、ふとハウスセンチビートルの見た目を思い出して思いとどまる。
「あぁ、大丈夫だ。ぜひ見せてくれ」
彼は虫は大丈夫だそうだ。
俺は満を辞して、ハウスセンチビートルの素材である足を渡す。
「おぉ!ゲジゲジの仲間の足か。一つ一つの体毛が死してなおこんなにも綺麗に残ってるのは芸術的以外の何者でもないな。しかもこの関節の微細な動き方、これだけの微細な動きを表現するのにどれだけ運営は試行錯誤したんだ?しかもこれ振動を吸収する機能もついてる。素材としても優秀だし、見た目も最高。どうやって使おうか。やっぱり装備か、いや標本としても・・・」
「えぇ・・・?」
俺はただ困惑するのみだった。
後書き
マサキ「え?白衣着た美女!?ジンだけそんなの見てずるいぞ!俺にも見せろ」
ジン「えぇ・・・?」
エナ「ハウスセンチビートルって言うんだ!それじゃあ、いっただきまーす!ん!独特の食感と辛味に毒の弱めの苦味が混じって美味しい!」
ジン「えぇ・・・?」




