ハウスセンチビートル
大量の血吸いコウモリに血を吸われた俺は、貧血のような眩暈を感じていた。
「頭いてー」
HPが回復すれば頭痛も眩暈も治っていくと思っていたのだが、全然そんなことはなかった。
今後はあのコウモリと戦うなら早期に倒した方が良さそうだな。
ステータスを確認すると【状態異常:貧血】がついていた。
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状態異常:貧血
効果:頭痛と眩暈を引き起こす。HPが回復しても治らないため注意が必要。
残り時間:3時間
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うわ、あと3時間もこの頭痛に悩まされないといけないのか。きついな。
それにしても、最近痛覚設定貫通してくるやつ多くねえか?もしかして本当に痛覚設定貫通攻撃みたいなものもあるのだろうか?
HP回復のポーションしか買っていないため、この状態異常は時間経過で治すしかない。
最近はHP回復力も増えてきたし、今後はHP回復じゃなくて状態異常を治すポーションを買うべきかもな。
そんなことを考えながら、俺は先に進んでいく。
「キシャアァァ!」
しばらく進んでいると、目の前に敵が現れる。
でかい。
足がたくさん生えていて、全長も10mを軽く超えている。
細い体に、長い足、それとコオロギみたいな顔。見た目はゲジゲジといったところか。
今なお足をうごうごと波打たせている。普通にキモい。虫がある程度得意な俺でも生理的嫌悪を覚えるのだ。虫が苦手な人が見たら泡を吹いて倒れるだろう。
「キシャアァ」
巨大ゲジは今まで洞窟で見たことがない生物が入ってきたことに驚いているのか、警戒しながらこちらを見ている。
その隙に俺は巨大ゲジの詳細を確認する。
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モンスター名:ハウスセンチピード
HP:750/750
説明:洞窟に生息するゲジのような魔物。その大きさからは思いつかないほど繊細な動きで他の魔物や生物を狩って生息している。洞窟の中では最強の一角に入る魔物。
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相変わらず名前がただ英訳しただけで安直なのは置いておいて、相当強いな。HPも今まであってきた魔物と比べるとえげつないくらいに高い。
昔の俺ならなすすべもなく瞬殺されていただろう。
が、今の俺にはそこまで強いようには思えない。なんせHPが6000近くもあるのだ。
とはいえ、油断は禁物。
俺は油断せず、いつでも攻撃を受けれる構えをとる。
それと同時に巨大ゲジが壁や天井を細かに使いながら突進してくる。
速い。
先ほどまで空いていた15mほどの距離を一瞬で縮めると、その前方に突き出た巨大な牙を俺に突き刺す。
「うおっ!」
巨大ゲジは俺に牙を突き刺したあと、せっかく獲物が動かなくなったのにすぐに食べようとはしなかった。
なんだ?なんでかぶり付かない?
そんな疑問も束の間、俺の体の中に異物が混入してくる感覚がする。
うえっ、気持ち悪い。牙が突き刺された感覚があるだけでも相当気持ち悪いのに、その牙から変な液体のような何かが入ってきてさらに気持ち悪くなった。
俺はそのあまりにも気持ち悪い感覚に思わず鳥肌が立つ。
「キシャ」
そんな気持ち悪さを感じていると、貧血の目眩に加えてさらに眩暈がひどくなる。それに加えて幻覚までも見えてきた。
なるほど、毒か。現実世界のゲジは人間には無害な毒しか使わないが、ここまで大きくなると人間にも有効な毒を使えるのだろう。
それにしても、俺の毒耐性は何をしているのだろうか。いつもこいつの恩恵を感じる前から毒にかかっている気がするが。
幻覚も酷くなってきており、先ほどまで洞窟だった場所もぐにゃりと歪んでからはお花畑にしか見えなくなってきた。
それに加えて、ハウスセンチビートルの牙に挟まれているはずなのに、父親に抱き抱えられているような安心感に襲われる。
知覚に直接作用する毒。今までの毒はただダメージを与えてくれるものばかりだったので新鮮だ。
ちなみに、父親のように見える人間の顔は何かに塗りつぶされている。
流石に記憶から抽出した父親を見せるのはVRMMOとはいえ無理だったか。
・・・いや、記憶を見られるようになったら怖すぎるか。もはや何も隠すことができなくなる。人には見られたくない記憶の一つや二つはあるのだ。
「はっはっは、食べちゃうぞ〜(キシャ)」
もう何が何やら認識できなくなってきた俺は、父親?の口元に抱っこされたまま近づいていく。
「がぶっ!」
そして、幻覚の世界で父親に甘噛みされる。
まあ、こんな幸せな幻覚を見ながら死ねるなら怖くなくていいんじゃないか?あのままゲジにかぶり付かれて死ぬのはちょっときついしな。
あ、つまりこれは虫嫌いの人に絶妙に配慮した運営の策ってことか?それなら噛みついてくるところから改善しろよな。
「うおっ(キシャッ)!?」
と、そんな運営の姑息な戦略に気付いたところでハウスセンチビートルのHPがなくなったのか、幻覚世界で父親が驚いた顔をする。
それと同時に世界が歪み始め、一部がお花畑、一部が暗い洞窟の中、と非常に歪な世界が俺の目の前に飛び込んできた。
「ザ、許さな、ザザッ、いから・・・な(キシャアァ)」
俺がふと下を見ると、先ほどまではあんなに笑顔だった(多分)父親が声を完全に冷え切らせて、怨嗟の声を上げながら消えていくところだった。
俺が理不尽ですまないな。南無。
《スキル【毒耐性】がレベル10になりました》
《上位スキルに進化させます》
《スキル【毒耐性】がスキル【上位毒耐性Lv1】に進化しました》
そのあと、現実世界と幻覚世界がごっちゃになりながらもアナウンスを聞く。
スキルの進化?
今、聞き逃していはいけないことを聞いた気がするな。
俺は慌ててステータスを確認する。
が、幻覚によって歪んでしまってよくわからない絵や、文字が描かれている光る板になっていた。
まじかよ。全然わからないじゃねーか。
俺はステータスが確認できないのはゲームとしてどうなのか?と疑問を抱えながら、一旦幻覚が解けるまでその場で寝転がってぼーっとするのであった。
あ、空に星が浮かんでる。きれーだなー。
後書き
ジン、末期の薬物中毒者みたいになる。




